事務所ブログ

2011年12月 8日 木曜日

建物明渡強制執行の実際―賃料を払わない賃借人を借家から退去させるまで(1)

パートナー弁護士 福本 朝子

賃貸人は、長期にわたって賃料不払いを続ける賃借人には早急に建物から出て行ってもらい、新しい賃借人を見つけて賃料収入を確保したいと願います。
そこで、賃借人に建物の明渡しをさせるには、賃料支払債務の不履行に基づき賃貸借契約を解除することが大前提となりますが、後日の法的手続きに備えて内容証明郵便をもって通知をするなど証拠を残すことが望ましいです。

契約がひとたび解除されますと占有者は何ら権原なく建物に居住する「不法占有者」となりますから、直ちに建物を明け渡す義務があります。しかしながら、不法占有者から任意の明渡しを受けることは容易なことではありません。不法占有者は長らく賃料を支払えなかったわけですから、新たな引っ越し先を見つけることも引越代金を捻出することも困難な状況にあるのが通常です。往々にして、何の見通しも立たないまま長く居座ろうと開きなおってしまうのです。

そこで、建物の所有者は不法占有者を何とか追い出せないものかと、建物の外にあるライフラインを使えないようにしてしまおうか、外出中に玄関の鍵を交換して建物から閉め出そうか、など色々と知恵を絞ります。 しかし、私人が司法手続きによらず自己の権利を実現するいわゆる「自力救済」は原則として禁止されており、上記の行為は国民の住居の平穏を侵害する違法な行為として厳しく非難され、反対に不法占有者から損害賠償請求されかねません。従って、不法占有者を適法に追い出すためには、1.建物を管轄する地方裁判所に対し建物明渡請求訴訟を提起し勝訴判決を得る2.判決を債務名義として裁判所に建物明渡執行を申し立てる等の司法手続きによるしかないのです。相当の手間と時間を要することとなります。

次に、建物明渡執行までの手続き(明渡執行においては、建物の明渡を求める権利を有する建物所有者を「債権者」、建物明渡の義務を負う不法占有者を「債務者」と言います。)をおおまかにご説明致します。

1、建物明渡請求事件の判決正本等債務名義に執行文の付与を受けます。
2、必要書類一式を添えて裁判所に強制執行を申し立てます。
3、債権者と執行官が事前打合せをし「明渡催告期日」を決定します。
4、「明渡催告期日」には、執行官が現地に赴き、債務者に対し建物を強制執行実施日の前日までに明渡すよう催告するとともに、強制執行の実施に備えて債務者以外の占有者の存否、建物内部の状況等を確認します。債権者は、執行官室に備え付けの登録運送会社一覧表に基づいて業者1社を選定したうえで、当日現地に同行させて執行費用(トラック運賃・作業員日当・遺留品運搬費用・倉庫保管費用等)の見積りをさせます。債務者が不在で玄関が施錠されている場合に備えて解錠技術者も同行します。
なお、業者選定にあたって費用以外に注目すべき点は、任意の明渡があって強制執行の必要がなくなった場合のキャンセル料の発生時期です。強制執行実施日以前に任意の明渡があれば直ちにキャンセルしなければなりませんので、現地の確認を怠ることは出来ません。

なお、運送会社に支払う費用は建物1平方メートルあたり1万円が相場だという話もあり、移動距離が短いことを考えますと通常の引っ越しよりもかなり割高です。執行官には、保管費用を抑えるため遺留品の保管期間をなるべく短くして頂くよう交渉するなど、費用の減額に向けた努力も必要です。

この段階までは、執行官は、債務者に任意の明渡しを促すため、債務者の事情に最大限配慮した極めて丁寧で穏やかな対応をします。まず、債務者が荷造りをして任意に明渡しが出来るよう十分な猶予を与え、強制執行実施日を債務者の意見を聞いた上で決定します。債権者は、執行官と一緒であっても、債務者の許可なく建物内に立ち入ることはできませんし、債務者不在で解錠技術者をしても鍵が開かない場合に、鍵を壊してまでして建物内に立ち入ることも許されません。

強制執行申立から明渡催告日まで最短で2,3週間、そして、催告日から明渡の強制執行実施日まで最低1か月の猶予を設けるのが通常ですので、判決を得てから明渡完了まで最低1か月半はかかってしまうことになります。ですから、万が一にも強制執行が何らかの事情で完了されなかったということがないように、あらゆる場面を想定した抜かりのない事前準備が必要となります。

例えば、建物内に動物がいることが分かった時の対応について

強制執行実施日に、債務者不在で建物内に凶暴な大型犬が残されていたり、債務者が頑としてペットを外に連れ出さないなど、執行手続きが妨害される可能性が考えられます。残置されたペットについては、執行官がその場で値段をつけて債権者に買取らせますので、その後のペットの対応を検討しておく必要があります。
私が経験したケースでは、地域の動物愛護センターに事前に引取りを依頼しておく他(なお、愛護センターには、正式に登録している動物保護団体が複数あり、病気、高齢、凶暴など問題のあるペットでない限り ほとんどの場合ペットの引き取り先がみつかるとのことです。)、現地からセンターまでのペットタクシーを手配し強制執行開始時に待機してもらいました。ペットは幸いにも建物内におらず、ぺットタクシーも動物愛護センターも利用しなくてすみました。

次回は、強制執行実施日当日の手続きについてご説明致します。

投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office

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