事務所ブログ

2012年5月 2日 水曜日

東北復興支援ボランティアに参加して

アソシエイト弁護士 今井 智一

当事務所では、公益的活動も積極的に行っております。その一環として、平成23年11月及び平成24年4月に岩手県大槌町にて復興支援ボランティアに参加してまいりました。その際の体験記が東京弁護士会内の会派である法曹親和会の機関誌「親和」(平成23年度版)に掲載されましたので、引用いたします。

「3.11」―遠野ひまわりネットに参加しての雑感―

1.「3.11」
数字の列というのは、それだけでは何の意味も持たないことが多い。しかし、それが特定の日付や、その日付にまつわる記憶と結びついたときには、人の心を何らかの形で揺さぶったりする場合がある。
「3.11」という数字の列は、昨年3月11日までは何の意味も持たない数列であった。ところが、あの3月11日以降、我々日本人にとっては特定の日付を指す数列、そして思い出すのも苦しい記憶と結びつく数列となってしまった。「3.11」という数字は、テレビに繰り返し映し出された巨大な津波の姿を人に思い起こさせると共に、心苦しい、思い出したくないという感情を想起させる数字となった。

2.被災者のために
しかし、3.11の直後から、心苦しい、思い出したくないというネガティブな感情から抜け出し、被災地に生きる人々の手足となって尽くそうと被災地入りした、数えきれないほど多くのボランティアがいた。聞くところによると、ゴールデンウィーク辺りには、岩手県にボランティアに向かう人々で、毎日7, 8台の深夜バスの座席が埋まっていたという。そうした数多くのボランティアを束ねて組織化してきた代表的な団体が、NPO法人『遠野まごころネット』(「まごころネット」・http://tonomagokoro.net/)である。
このまごころネットと、東京弁護士会の会派である期成会及び法曹親和会震災復興プロジェクトチームが連携した結果生まれたのが、『遠野ひまわりネット』プロジェクト(「ひまわりネット」)である。8月末の本格始動から現在まで、毎週末2, 3名の弁護士が、岩手県遠野市を起点として大槌町を中心とした被災地でボランティア活動を行ってきた。
毎週欠かさず、東京から遠く離れた岩手県の被災地に複数の弁護士が赴くというのは、かなりの困難を伴う。しかし、そうした困難を乗り越えて、現在に至るまでプロジェクトが継続しているのは、参加している弁護士一人一人の「被災者のために」という想いが結実したためであろう。
かくいう私にも、震災の直後から「被災者のために」という想いがあった。3月には、福島県双葉町の住民の方々が避難されていた東京武道館での法律相談に2回参加したりもして、「被災者のために」という私の想いは多少満たされてもいた。それでも、あの津波の直接の被害を蒙った被災地に行き、微力ながらも被災者の力になりたいという想いは、ずっと心の中に残り続けていた。
そうした想いは、平成23年11月26日, 27日にかけてひまわりネットに参加をし、岩手県大槌町でのボランティア活動に従事したことで現実化した。

3.大槌町にて
ひまわりネットの活動には、3つの大きな特徴がある。第1に、相談ブースなどの場所に待機して相談者が来るのを待つスタイルではなく、他のボランティアスタッフと仮設住宅を一軒一軒回って話を聞く、アウトリーチのスタイルであること、第2に、法律相談のみならず、被災者との雑談や荷物運び、イベントの会場設営、トイレ掃除といった一般的なボランティア活動も、ボランティアスタッフに交じって行うこと、第3に、被災者と話をする際には、最初は弁護士であることを明かさず、ボランティアスタッフとして一般的な話をし、心を開いて頂いたうえで法律相談のニーズが無いか尋ねることである。足を使い、知恵だけでなく汗も出すことによって、被災者との距離が非常に近いものとなり、被災者に寄り添うことができる。東北の方はシャイな性格の方が多いことから、このような活動のスタイルが特に有効であると聞いた。
では、上記のような活動スタイルで大槌町の仮設住宅を回った2日間の間に、具体的にどのような質問を受けたのか。質問の一部をご紹介したい。
「震災発生の5年ほど前までに両親が亡くなり、兄弟間で遺産分割を行った。遺産分割にあたって家系図等の書類を司法書士に作成してもらったが、震災で司法書士も行方不明となり、書類も権利証も全て流されてしまった。書類をすぐに作り直した方がいいだろうか。また、権利証が流されたので不安だが、大丈夫だろうか。」
「叔母は無事だったが、義理の叔父にあたる叔母の夫が津波で流されてしまった。自分にも相続権があるのか。また、叔母が死亡したときには自分には相続権が発生するのか。震災後、叔母の生活の面倒を見ているので、万が一の場合には一定程度の財産を貰えればと思っている。ちなみに、叔母夫妻には子供はおらず、叔母の両親、叔母の兄弟の一人である私の親はみな死亡しているのだが。」
「震災の直前に、父が農協との間で割賦契約を結び、4万円程のトイレ用温水洗浄機付き便座を購入して自宅に設置した。しかし、ほとんど使用しないうちに津波で流されてしまい、ローンだけが残った。また、父は今年8月に亡くなった。支払いをしたくないが、どうすればいいのか。」
どれも難しい質問ではない。しかし、被災者にとっては切実な問題であった。「今まで、弁護士先生に相談してもいいような質問か分からなかったから黙っていたけど、質問して胸の閊えがとれたような気がする。」という言葉も聞いた。被災者は、積極的に「教えてくれ」と質問してきたわけではなかったが、それでも心の奥底には、疑問を解消したい、胸の閊えを取りたいという想いがあったのである。
「弁護士先生は毎週来てくれているから相談しやすいし、今までは話しにくい存在だったのに身近に感じるよ」と語ってくれた被災者の男性がいたが、その言葉の中に、被災者の胸の閊えを一つ一つ掘り起し、取り除くべく努力を重ねてきた、これまでのひまわりネット参加者の方々の努力と時間が凝集されていると言えるだろう。

4.これからのこと
ひまわりネットの活動は、この原稿を書いている平成24年1月の時点でもなお継続しており、毎週末、複数の弁護士が遠野を拠点として被災地に入っている。そして、この活動は、少なくとも3月末まで続く予定である。
また、まごころネットの活動も、今後しばらくの間継続すると思われる。まごころネットのボランティアスタッフは、以前は体育館の畳一畳のスペースに寝起きし、現在はプレハブ小屋で寝起きしているが、多くのボランティアスタッフが全国から駆け付ける状況が変わらない限り、そうした生活は今後も続くことになるだろう。
「3.11」という数字が持つネガティブな意味や、数字が想起させる忌まわしい記憶は、これからも私たちの記憶から消えることはないし、ましてや、被災者の記憶から消えることなど考えられない。しかし、大槌で被災者と顔を合わせ、その言葉を聞いた現在では、被災者と向き合い、被災者のために力を尽くしたいと考えるボランティアの活動が続いていくことによって、被災者の心の中の「3.11」の意味が少しずつ変わっていくのではないかと考えているし、また、期待してもいる。

投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office

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