事務所ブログ

2012年6月12日 火曜日

中小企業の海外展開における日本弁護士の役割

パートナー弁護士 土森 俊秀

当事務所では、公益的活動も積極的に行っており、私もその一環として、日本弁護士連合会の中小企業法律支援センターの事務局次長(国際支援部会担当)を務めるとともに、本年1月に発足した、中小企業の海外展開業務の法的支援に関するワーキンググループの副座長(弁護士紹介事業プロジェクトチーム担当)を務めています。

このワーキンググループが進めてきた、中小企業海外展開支援弁護士紹介制度が、先月5月16日に、日本弁護士連合会と日本貿易振興機構(JETRO)及び東京商工会議所との覚書締結により開始いたしました。本制度の詳細につきましては、以下のウェブサイトをご参照下さい。

(日本弁護士連合会ウェブサイト)
http://www.nichibenren.or.jp/news/year/2012/120601.html
(JETROウェブサイト)
http://www.jetro.go.jp/news/releases/20120516127-news


本制度を開始するにあたっては、中小企業の海外展開業務を支援するために日本の弁護士に何ができるのか、何が求められているのか、ということにつき、多くの中小企業支援団体にヒアリングをさせていただき、それを踏まえてどのような制度とするかをワーキンググループ内で検討いたしました。

その結果、本制度で担当弁護士が取り扱う対象業務の範囲は、原則として総処理時間が10時間以内(初回30分の無料部分を含まない)で、かつ、海外の現地弁護士等の関与を要さず、日本国内で対応可能なもので、概要、以下の3つの類型にあたるもの、となりました。

(3つの類型)
1. 海外展開に伴う、現地でのトラブルや法的リスクの予防法についてのアドバイス
2. 海外企業との取引等のための契約書の作成又は相手方から提示された契約書の点検
3. 海外展開に関して生じたトラブルについて、初期段階における課題整理、トラブル解決のための一般的なアドバイス、及び現地弁護士との正確な意思疎通等のサポート

以下は、個人的な私見となりますが、このうち、本制度の意義として、特に上記2.3.の類型での役割が大きいと考えています。

上記1.のいわゆる予防法務的なアドバイスについては、JETROや中小企業基盤整備機構、東京商工会議所等のほか、海外展開資金を融資する金融機関の情報提供・サポート体制等もあります。しかし、上記2.の契約書の作成・点検については、他の機関から一般的なアドバイスを受けることはできても、実際に英文契約書のひな形を自分の企業の取引に合う形に修正していくことは、慣れた人でないと困難ですし、自分で加えた修正が本当に取引で通用するものなのかやや不安な気持ちが残るのではないかと思われます。また、そもそも相手方から英文契約書を提示された場合には、それを正確に理解した上で、英文で対案を提示する必要があります(英文で対案を提示することができなくて、仕方なくそのままサインする、ということは避けなければなりません。)。現地の法律が絡む場合には最終的には海外の弁護士の意見を聞く必要がある場合もありますが、国際取引に長けた日本の弁護士であれば、どのような点でトラブルが発生しやすいか、事前に契約書においてどの点を明確にしておく必要があるのか等、リスクを軽減するためのノウハウを有しておりますので、ここは弁護士に相談いただくのがよいと考えております(上記2.の契約書の作成・点検の中で、ビジネス全体におけるリスクもチェックし、上記1.の予防法務的なアドバイスも行う、というのが実際ではないかと思います。)。

なお、特に海外取引においては、トラブルを未然に防ぐ、つまり予防法務が決定的に重要です。もしトラブルが法的紛争に発展し、海外で訴訟等になった場合には、現地の弁護士費用や翻訳コスト等で数千万円以上の費用がかかることも珍しくなく、結局、泣き寝入りせざるを得ないことが往々にしてあります。トラブル防止のためにも、上記1.の予防法務的アドバイス、2.の契約書の作成・点検業務は、中小企業の法的支援として重要であると考えております(なお、以前執筆いたしました、下記の記事もご参照いただければ幸いです。)。
http://www.nichibenren.or.jp/ja/sme/hs0017.html

また、上記3.は、不幸にして海外展開でトラブルとなった場合についての法的支援ですが、仮に海外で訴訟となり対応が必要な場合には、これはもう現地の弁護士に依頼しなければなりません。しかし、現地の弁護士に依頼する場合、何が問題となっているのか事実を正しく把握し、課題を整理した上で的確に当方の意思を伝えなければ、対応が後手に回ってトラブルが拡大してしまったり、現地弁護士の方で余計な作業が発生してしまって高額なフィーが発生してしまったりということもありますので、初期段階における課題整理、トラブル解決のための一般的なアドバイス、及び現地弁護士との正確な意思疎通等のサポートは非常に重要です。大企業であれば、自社の法務部で対応可能であっても、かけられる人材に制限のある中小企業の場合は、日本の弁護士が間に入ってサポートする方がよい場合が多くあると思います(なお、大企業の場合でも、海外の弁護士に依頼する際に、日本の弁護士を通すことで案件をグリップすることがよくあります。)。

本制度は、基本的には、これまで国際取引の経験豊富な弁護士へのアクセスがなかった、海外展開を始めて間もないあるいはこれから始めるという中小企業が対象として想定されています。そのため、国際取引を扱う弁護士への依頼が初めての方でも利用しやすいように、本制度を利用した場合には、10時間(初回30分の無料部分を除く)までは30分毎に10,500円(消費税込)という統一した報酬体系を採用しています。なお、有料ではありますが、あくまでも公益的活動の範疇に入るものになりますので、日弁連としてサポートできる範囲はあくまでも、海外展開におけるトラブル防止・対応のためのミニマムの範囲(原則として総処理時間が10時間以内で、かつ、海外の現地弁護士等の関与を要さず、日本国内で対応可能なもの)ということになります。

以上、日弁連の中小企業海外展開支援弁護士紹介制度について述べてきましたが、既に海外展開を行っているような企業の場合には、顧問関係等の形で国際取引を扱う弁護士と普段から接し、ちょっとしたことでもご相談(ないし現在行っている事業に関する雑談等)いただけると、取引に伴う、気づいていなかった大きなリスクを回避することができたりもします。是非国際取引においても弁護士を活用していただければと思います。


投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office

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