事務所ブログ

2012年8月22日 水曜日

店舗の営業を譲り受けた会社が、譲渡会社が使用していた屋号をそのまま使用して営業を行った場合の責任

パートナー弁護士 福本 朝子

【背景】
店舗Aと継続的な取引関係にあるB社が、売掛金を延滞している店舗Aに支払いを催促したところ、C社から店舗Aの事業を譲り受けたD社が、「元の営業者C社の下で発生した売掛金債務を支払う義務はない。」と、支払いを拒絶しました。仮に、店舗Aの現在の営業者が、元の営業者と同じ商号を使用していれば、会社法22条1項に基づき、商号続用者である現在の営業者に元の営業者の下で発生した債務の支払いを請求できる可能性がありますが、商号は「C社」と「D社」で異なっていました。

B社が店舗Aの営業が譲渡されたことにいち早く気付くことができれば、事業譲渡の対価から売掛金を回収できたかもしれません。しかし、店の屋号は「A」のままで、主要な従業員・営業態様・店内のレイアウト・外観等には、事業譲渡の前後で全く変化が見られなかったのですから、B社は営業者が変わっていることなど知る由もありませんでした。

B社が営業譲渡に気付いたときには、C社は廃業状態で資産はなくなっていましたが、他方、D社による店舗Aの経営は順調そうです。

【Q1】
C社の下で生じた債務を、D社に負担させることは出来ないでしょうか?

【A1】
以下の3つの根拠に基づけば、現営業者であるD社に元の営業者C社と連帯して債務を負担させることができるかもしれません。

(1)会社法22条1項の類推適用
会社法22条1項では、事業の譲受会社が、譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には、その譲受会社も、譲渡会社の事業によって生じた債務を弁済する責任を負うと定めています。

商号を続用している場合には、債権者が営業主の交替を容易に知り得ず、または、その事実を知っていたとしても、譲受会社が当然債務を引き受けたと債権者は考えるものなので、そうした債権者の外観への信頼を保護するためです。

では、屋号が続用されている場合はどうでしょうか。

営業の外形にほとんど変化がなく、屋号が営業主体を表示する名称として重要な機能を営んでいる場合、あるいは、屋号が譲渡会社の商号の重要な構成部分を内容とする場合には、債権者は同一営業主体による事業が継続しているものと信じたり、事業主体の変更があったけれども当該事業によって生じた債務については譲受会社が承継すると信じたりするものですから、その点、営業譲受人が商号を続用する場合と何ら変わるところはなく、同条同項の類推適用を認めるのが判例です。

判例上は、単なる屋号続用だけでは足りず、商号続用と同視できる事情の存在が求められています。

(2)法人格否認の法理
譲受会社が、譲渡会社の営業財産をそのまま流用し、譲渡会社の営業目的、所有者等の人的構成、営業場所、得意先、主要な従業員、営業用資産・什器備品等が同一である場合、形式的には別の法人格であっても、譲受会社は、譲渡会社の強制執行免脱、財産隠匿を目的として設立されたもので、会社制度を濫用するものですから、譲受会社は、譲渡会社とは別法人格であることを、債権者に対し主張できません。

(3)詐害行為取消権
譲渡会社が、債務超過の状態にあり債権者を害することを知りながら、その債務を免れる目的で、その積極財産のみ譲渡会社に譲渡した場合、譲受会社に対し、事業譲渡の取消及びその価格賠償を求めることができます。

【Q2】
本件の事例の場合はどうでしょうか。

【A2】
C社は、その弁済能力が危機的状況に陥って、営業上の債務をC社に残したまま、積極財産である店舗Aの事業のみD社に譲渡し、店舗Aの事業を従前の屋号でD社に継続させています。C社の代表者とD社の代表者に人的つながりがあることも判明し、C社はD社と共謀し、事業譲渡を形式的に利用又は濫用して、債権者との協議もないまま一方的で詐害的な再建を試みたことは明らかです。
C社からD社への店舗Aの事業譲渡は、(2)の要件も(3)の要件も満たすわけですが、その場合は、屋号続用に商号続用と同視できる事情が認められ(1)の要件も満たすことがほとんどです。

法人格否認の法理の適用があるケースは、詐害行為取消権の適用のあるケースの一場合であり、屋号続用で会社法22条1項の類推適用がある場合は、法人格否認の法理や詐害行為取消権の適用のあるケースの一場合と言ってよいかもしれません。
訴訟になった場合は、会社法22条1項による責任を主位的請求原因として立てますので、同条の適用が認められれば、予備的請求原因である法人格否認の法理や詐害行為取消権は判断されません。

ところで、(1)乃至(3)が当然に適用される場合であっても、C社とD社が債務免脱の目的をもって、共謀して事業譲渡を行っているわけですから、D社が任意に請求に応じることは望むべくもありません。
D社から支払を受けるためには、D社に対し、売掛金の支払を求める訴訟等を提起せざるを得ないのが通常です。
D社に対する訴訟で判決が出るまでの間に、債務免脱を目的とした事業譲渡が更に行われてしまう可能性もあり、かかる場合は、次の譲受会社に対し別途売掛金請求訴訟を行わなければならなくなります。従って、D社に対する債権を保全するため、提訴前にD社の資産を仮差押えすることが必要になってきます。


投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office

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