代表弁護士ブログ

2013年4月10日 水曜日

信託法の改正と財産管理の新しい形【第1回】

  平成18年12月15日に信託法の大改正が行われ、平成19年9月30日から施行されています。改正信託法では、委託者が自ら受託者として信託財産の管理処分を行う自己信託を始めとして様々な新しい制度が設けられています。これによって従前は行えなかった事業信託が可能となったり、後継ぎ遺贈型の受益者連続信託が認められるなど、信託法の活用の範囲が大きく広がっています。近時では、祖父母から孫への教育資金の贈与に関連し、信託法の活用が言われています。そこで、信託とは何かについて概要を説明するとともに、新しい信託法をどのように活用できるのかについて解説していきたいと思います。

第1 信託の基本構造
1 信託とは

 信託とは、委託者が受託者に対して信託財産の管理・運用・処分を委託し、受託者が信託財産の管理・運用・処分の結果得られた収益を受益者に分配する仕組みです。信託には、委託者、受託者、受益者、信託財産等の概念が用いられます。
 信託の設定は信託行為という委託者から受託者への委託によって行われます。信託行為によって信託財産の管理処分権限は受託者に移転しますので、以後信託財産の所有者は受託者となります。不動産が信託財産の場合、信託の登記を行うとともに、委託者から受託者への所有権移転登記を行い、信託財産が受託者の財産であることが登記上も明らかとなります。受託者は、委託者からの指示に基づき信託財産の管理・運用・処分を行い、信託財産から得られた利益を受益者に分配します。
 このように信託行為によって信託財産の所有権は受託者に移転しますが、その経済的利益については、受益者に帰属するものですので、税務上は、信託の設定によって委託者から受益者に経済的利益の移転があったものとして、原則として受益者に対して贈与税等が課税されることになります(受益者等課税信託)。

2 信託の設定方法
 信託法においては、信託の設定方法として3つの場合が定められています。第1は、信託契約によるもので、最も典型的な信託の設定方法です(信託法3条1号)。信託契約は、委託者と受託者との合意によって行われ、通常の場合信託契約書がされます。信託契約書においては、委託者、受託者、受益者の氏名、信託財産、信託期間、信託財産の運用方法などが定められることになります。上記に定めた信託登記においては、これらの内容が登記されることになります。
 第2の方法は、遺言によって信託を設定する方法です(信託法3条2号)。委託者は遺言書の中で、受託者及び受益者の氏名、信託財産、その管理運用方法などを定めます。遺言による信託は遺言信託と言われ、遺言の一種ですので、遺言者(委託者)の死亡によって効力が発生します。遺言は、要式行為とされ、例えば自筆証書遺言の場合、遺言者が全文を自筆で作成し、作成日付を付し、署名押印することが必要とされていますが、遺言信託は遺言の一種ですので、これらの様式性が要求され、様式を欠く遺言(例えば自筆証書遺言において作成日付を欠く場合)については無効とされます。また、遺言信託は遺言者が死亡するまでは、遺言者が何度でも書き直すことができ、遺言者が生存中は、これを取消すことも自由です。
 第3の方法は、自己信託と呼ばれる方法で(信託法3条3号)、委託者が自ら信託財産の管理処分を行うことを公正証書等で明らかにする方法によって設定します。自己信託では、委託者は自ら信託財産の管理・運用・処分を行いますので、委託者=受託者の関係に立ちます。但し、信託財産は委託者の財産から独立した財産ですので、当該財産が信託財産であることを対外的にも明確にする必要があることから、公正証書等一定の方式により書面によって行う必要があります。

3 信託の機能
 信託財産は、委託者の財産から独立した財産となりますので、委託者が破産した場合にも、委託者の破産財団には組み込まれませんし、委託者が死亡した場合にも、相続財産とはなりません。また、委託者の債権者は、信託財産に対する差し押さえやその他の強制執行を行うことはできません。同様に、信託財産は、受託者の固有財産とも区別された財産ですので、受託者の債権者は信託財産に対して差し押さえをしたり、強制執行を行うことはできず、受託者が破産した場合も、信託財産は受託者の破産財団を構成するものではありません。このように信託財産を委託者の債権者からも受託者の債権者からも隔離する機能のことを信託の倒産隔離機能といいます。
 信託の第2の機能としては、委託者の意思を凍結する機能があります。信託財産は、委託者の指図(信託行為の定め)に従い委託者が運用・管理・処分を行いますので、特別の定めがある場合を除き、委託者が死亡した後も、信託契約は継続し、委託者の定めた目的に従って財産の運用・管理・処分が継続されることになります。このように、委託者が自分の死亡後も自分の意思に従った財産の運用・管理・処分ができることを、信託の意思凍結機能といいます。
 第3に、委託者は、信託の設定により、信託財産から得られる収益を受領する権利(収益受益権)と元本の帰属者(元本受益権)を別々に定めることができます。例えば、委託者は信託行為の中で、信託財産の運用によって得られる収益については、自分の子供たちに帰属させるとともに、元本については、自分の兄弟に帰属させるということも可能です。このように信託財産の収益受益権と元本受益権を分割して処分することができることを信託の権利内容分割機能といいます。
 第4に、複数の信託行為による信託財産を一括してまとめて運用することが可能となります。例えば、100人の委託者がそれぞれ100万円ずつ信託した財産をまとめて運用する場合には、1億円の財産の運用が可能となりますので、より高額の財産(例えば高層ビル等都心の高額不動産)への投資を行うことが可能となったり、高額の投資をまとめて行うことで、投資の際の交渉力を増すことができ、より有利な条件での投資を可能とすることが考えられます。このように複数の信託財産をまとめて運用することができる機能を信託の集団的管理機能といいます。

4 詐害信託とその防止方法
 上記の通り、信託には倒産隔離機能があり、信託財産は、委託者の財産から分離されることになりますので、支払い能力に窮した債務者が所有する財産を隠匿する方法として信託が用いられる可能性があります。委託者の債権者の立場からすれば、債務者が信託行為によって財産を減少させ、自己の債権の引き当てとなる財産が減少することになりますので、濫用的な信託の設定行為については、これに対する対抗策が必要となります。このような財産隠匿行為については、民法上は詐害行為取消権があり、債権者は裁判所に訴訟を提起して、財産の処分行為を取消し、債務者の財産を回復させることができます。同様に破産法上も、詐害的な財産処分については、破産管財人が否認権を行使し、当該財産処分行為を取消し、処分された財産を破産財団に組み入れることが可能となっています。
 そこで、信託法においても、委託者がその債権者を害することを知って信託をした場合には、受託者が債権者を害することを知っていたか否かに拘わらず、裁判所に対し当該信託行為を取消すよう請求することができるとされています(信託法11条1項)。
 例えば資金繰りに窮した債務者が財産に対して信託を設定し、会社財産を受託者に移転させたうえで事業を継続し収益を得る一方で、旧来の会社を破産させ、債権者に損害を与えるような場合については、詐害的信託行為の取消しを行うことで、当該財産を債権者の債権の引き当てとなる債務者の財産に取り戻すことが可能となります。
 但し、信託法による詐害信託の取消については、信託の受益者が、信託の設定時において、委託者の債権者を害することを知らなかった場合は、取消ができないとされていますので、委託者としては善意の受益者を介在させることを財産の隠匿を図る余地があります。近時、詐害的会社分割によって財産を隠匿する行為が裁判上もよく問題とされていますが、詐害信託についても同様の判断基準を適用することが考えられます。

投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office

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