代表弁護士ブログ

2013年4月17日 水曜日

信託法の改正と財産管理の新しい形【第2回】

第2 限定責任信託と事業信託
1 信託財産責任負担債務

 信託の設定によって委託者から受託者に移転するのは、信託財産であり、委託者が負担している債務については、受託者に移転しない(受託者が責任を負わない)のが原則です。しかしながら、信託法において定められた信託財産責任負担債務については、受託者が支払い義務を負うことになります。信託財産責任負担債務としてどのようなものがあるかについては、信託法21条1項に定めがあります。そのうち、21条1項3号では、「信託前に生じた委託者に対する債権であって、当該債権に係る債務を信託財産責任負担債務とする旨の信託行為に定めのあるもの」を信託財産責任負担債務と定めています。
 すなわち、信託前に生じた債権であっても、受託者がその内容を了承し、債務引受がなされた債務については、受託者が引き継ぐことになります。債務引き受けの方法としては、免責的債務引受け(委託者は債務の責任を免れ、受託者のみが債務者となる場合)と、重畳的債務引受け(委託者も受託者も連帯して債務を負担する場合)の両方があります。そのうち、重畳的債務引受けは受託者の合意のみによって成立することができますが、免責的債務引受けについては、債権者の利害に大きな影響を与えることから、債権者の同意を得ることが必要となります。
 なお、信託債権を有する者が同意した場合には、委託者に責任を免れさせる(免責的債務引受け)に加えて、履行の責任を信託財産の範囲に限定することもできます(信託法21条2項4号)。すなわち、免責的債務引受けがなされた場合には、委託者が責任を免れる一方で、受託者は自己の固有財産も含めて責任を負うことになりますが、債権者の同意がある場合には、受託者も信託財産の範囲内でのみ責任を負うと定めることが出来ることになります。従って、信託財産がなくなってしまった場合には、受託者はそれ以上責任を負わない点で債務の範囲が限定され、受託者にとって有利となります。

2 限定責任信託
 限定責任信託とは、信託行為により、その信託財産責任負担債務について受託者が信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う旨を定め、その旨の登記を行う信託です。信託財産責任負担債務の債権者は、信託財産からのみ支払いを受けることができるとされていますので、受託者の固有財産に対する差押えその他の強制執行などはできないとされています(217条1項)。従って、信託財産責任負担債務の債権者は、信託財産が債務超過となった場合には、債務の支払が受けられないことになり、損害を被る可能性があります。そこで、信託法では、限定責任信託については、限定責任信託である旨の登記を要求し(232条以下)、その名称中に限定責任信託という文字を用いることを強制し(218条1項)、受託者が取引をする際には、限定責任信託であることを取引の相手方に明示することを要求しています(219条)。
 限定責任信託は、信託法の改正によって新しく認められた制度ですが、責任の範囲を限定することができるということでは、委託者にとっても受託者にとっても非常に有効な制度と言えます。すなわち、会社法における株式会社は、有限責任とされ、会社の債務について株主は責任を負わないのが原則ですが、このような有限責任の制度によって投資家は投資の範囲を超えて損失を被ることがないことが明らかとなり、安心して投資を行うことができます(株主有限責任)。株主有限責任の制度は、投資家とは別の法人格を作ることで投資家の責任を限定する制度であり、資本主義社会の根幹ともいえる制度ですが、信託法でも、委託者も受託者も信託財産の範囲を超えて責任を負わないとなれば、責任の範囲が明確となり、信託の活用の幅が大きく広がると考えられます。特に、後述の事業信託においては、有限責任の原則は必須となります(限定責任信託の制度を活用することで、事業信託が可能となります)。

3 事業信託
 株式会社が、その一事業部門を本体から切り離して信託譲渡し、受託者が事業を継続するということが考えられます。会社が、ある特定の事業に関する資産と負債を切り離すという点では、会社分割の制度に類似しています。上述のとおり、信託財産については積極財産であることが原則ですが、委託者と受託者が同意した場合には、特定の債務について受託者が債務引き受けを行うことが可能となっています。また、債権者が同意する場合には、委託者の責任を免除するだけでなく(免責的債務引き受け)、責任の範囲を信託財産の範囲に限定することもできますので、受託者についても固有財産からの弁済義務を負わないことができることになりました。同様に、上記の限定責任信託を活用する場合には、その後に生じる債務についても、信託財産の範囲内でのみ責任を負うと定めることも可能となりました。信託財産は、法人格を有してはいませんが、資産と負債を委託者の財産からも、受託者の財産からも切り離すことが出来ることで、一種の法人格類似の状態を創出したことになります。このような信託を事業信託と言います。
 事業信託は新しい信託法の下で認められた制度を活用することで創出が可能なものであり、利用件数はそれほどないと思われます。しかし、下記の通り、資金調達の場面などにおいては、有効な制度であり、活用を検討することも関あげられます。
 例えば、ある会社(パチンコのチェーン店X社)が新しい店舗を3店舗出店するにあたり、60億円の資金が必要とします(1店舗当たり20億円)。X社自らが債務者として銀行などからの借入を行うことも考えられますが、X社が倒産した場合、貸主は弁済を受けられなくなってしまう可能性が高いと思われます。もちろん、通常資金の借入を行う場合には、担保の提供を要求されることが通常ですが、X社において既に他の債権者に会社資産を全て担保提供済みであり、十分な担保となる資産がないこともあります。パチンコの台は購入価格に比較し、処分価格が極めて安いことから、十分な担保とならない場合が多く、リースなどが用いられている場合はそもそも担保提供ができません。また仮に担保となる不動産があり、これに対して抵当権等の担保を取得したとしても、X社が会社更生の申立を行った場合には、貸主の有する担保権は、更生担保権となりますので、更生計画によって減額されてしまうことが十分に考えられます。
 そのそも、上記のような場合に、最も価値のある事業資産は、パチンコ店の運営によって入ってくる日々の売上であるとも考えられます。貸主の側からすれば、万一仮にX社が倒産したとしても、X社が倒産後も事業を継続し、日々の入金の中から返済を継続してくれるのが最も好ましいと考えられます。また、貸主は、X社が今後出店する3店舗の事業価値に着目して融資を行うものであり、X社のその他の事業価値(多くの場合他の債権者が担保権を設定している)について担保価値を認めているわけではないとも考えられます。
 以上からすれば、X社が3店舗を特定の受託者に信託譲渡し、X社が取得した信託受益権を貸主への担保として貸主に譲渡するという方法が最も適切ではないかと考えられます。信託の設定により新しく開店される3店舗は信託譲渡されていますので、仮にX社が倒産しても信託の倒産隔離機能により、3店舗の財産はX社の破産財団に取り込まれることなく、3店舗の事業を継続することができます。3店舗の事業が継続している限り貸主は、確実に資金が回収できると思われます(場合によっては、貸主が指定した振込口座の預金通帳を管理することで、日々の入金を自ら管理することも考えられます)。事業の継続中の収益をX社に分配する必要がある場合には、受託者とX社との間で、事業の運営管理委託契約を締結し、管理費をX社に毎月支払うということもあり得ます。そして、60億円の支払が完了した段階で、貸主が信託受益権をX社に移転するか、信託契約を終了させることで、以後の収益はX社に帰属するようにすることも可能です。
 このように事業信託を有効に活用する場合には、新しい形態のファイナンスも可能となる可能性がありますので、今後の新規事業について十分に検討に値するのではないかと思われます。

投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office

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