事務所ブログ

2016年1月26日 火曜日

法務航海日誌〈4〉-秘密の花園 - NDA

弁護士 山原 英治

2016年1月26日
東京 晴れ 南南東 3.2m/s

秘密の花園 - NDA

年明け直後の前回、守秘義務契約(Non-Disclosure Agreement: NDA)について検討していくとしてから時間が経ってしまいました。この間弁護士会の仕事で香港に行ったり、あるいは倒産した船主さんの管財人代理となることになったりで、このままでは本航海は「低速航海」です。

低速航海」というのは海事関係では特別な意味を持っています。最近は中国経済の減速、これに伴う鉄鉱石等の輸入激減によって特にばら積み船(バルカー)中心に船の需要が大きく低下してきています(1月24日日経報道によると、鉄鉱石や石炭を運ぶばら積み船の運賃市況を示すバルチック海運指数(1985年=1000)は22日に354まで下落。これは歴史的な低水準です!)。その調整のために低速航海の手法が使われるのです。ゆっくり航海する船が多ければ他船の利用機会も増える...はずなのですが、それだけでは運送量の低下を吸収しきれず、老朽船(結構若い船も、最近は。船は何歳から年取ってるって言われるか知ってますか?)を解撤、要するにスクラップ(!)にして船舶数自体を減少させる手法まで使われています。この法務航海日誌も読んでいる人がいるようですから(最近何度か声かけられました)、低速航海まだともかくスクラップにならないようにしないといけません。

さて「秘密の花園」(The Secret Garden)は、イギリス、ヨークシャーの伯父さんの家に引き取られた孤独な少女メアリーが、ある日、屋敷の庭の一角に伯父さんがカギをかけて秘密にしていた場所を見つけたという話です。メアリーは入り口とカギを見つけてそこに入ります。実は、そこは亡くなった伯母さんが大事にしていた所。メアリーはその後、そこで不思議な体験をするというお話です。我々も情報提供者との間で守秘義務契約を締結して先方から機密情報取得のカギを入手します。前回お話しした通り守秘義務契約締結は迅速に行わなければならないという意味で企業法務にとって非常に重要です。で、漸くカギを渡されてDDルームに入るときなどはまさに情報提供者の「秘密の花園」に立ち入るようなもの。「あれあれ、こんなものまであるんだぁ」と感動したり、ビックリしたり、逆に一般には開示されていない異様な債務の存在を示唆する資料があったりと、「これは困ったな」と立ち入ったことに後悔したりすることも無いではありません(守秘義務契約交渉で揉めるので、よっぽどすごい機密情報があるかと思ったら、情報開示者のデータ整理ができていなくて、まだ何もDDルームに無かったりすることもあり)。

しかし、守秘義務契約を締結してひとたびカギを手渡されれば、1年とか2年、下手をすると5年やら10年以上、長期にわたって情報取得者を縛ります。「おいおい、こんな『機密情報』で縛るのかぁ」と後悔しても後の祭り、約束してしまったから仕方ありません。だから、縛られる『機密情報』とは何か、その定義のチェックがまずは肝心、ということになります。

お手持ちの守秘義務契約をいくつかご覧いただくと、大概『機密情報』(Confidential Information)の定義は第1条か、早い条数に置かれているはずです。例えば英文では次のようなものです(this Agreementとは本守秘義務契約自体のこと):

"For purpose of this Agreement, "Confidential Information" shall mean all confidential or proprietary information of the disclosing party which provides to the receiving party, regardless in the manner in which the information is provided..." 

さて、「いきなりすごい定義だな」と感じる方はいい反応です。そうですね、この定義規定によると情報提供者(the disclosing party)が情報受領者(the receiving party)に開示する全ての機密もしくは専属する情報は「いかなる開示の態様によらず」、この「機密情報」に該当する、と宣言しているのですから。

実務上は「all confidential or proprietary information」の後に「in relation to this Project」(この何々プロジェクトに関する)が挿入されて(Projectの定義は別途明確にされる)、一定の限定が付されることが普通なので、私自身の実務経験では上記の例文ようにここまで広い「機密情報」の定義はちょっと珍しいようにも感じます。しかし、実務上よく見かけるのは、更にこの「...in the manner in which the information is provided.」の後に、こう書いている場合です:

" ... provided, in tangible or intangible form whatsoever, including but not limited to letter, fax, e-mail, oral..."

このwhatsoever(なんでもかんでも)とか including but not limited to (これを含み、且つ制限せず)などという英文契約書のいわゆるキラー単語・フレーズはまずは是非避けたいところですが、まずはこのoral (「口頭」)での開示が含まれてしまう点に注意しましょう。会議で話した内容もうっかり機密情報だ、の扱いになりかねず情報受領者側にとっては予想もしない守秘義務の拘束を受けるリスクが生じてしまうからです。そこで素直な法務部員はこうするかもしれません。

対応その1:情報開示者側に開示態様の制限を求める→「oral」の削除を求める...。

さあ、そう簡単に応じてくれるでしょうか?直接窓口の営業担当者はこう言うんじゃないですか?

営業担当者:「先方は口頭で開示したものでも機密情報が含まれるんだから『oral』の削除はだめだと言っている」

さあ困りました。このoralを削除できないとなると、電子メールなど他の態様のように目で見てその範囲が確認できるものにしないといけません

対応その2: (特に)「oral」で開示されたものについては「All Confidential Information in  oral form shall be designated as confidential at the time of disclosure and confirmed in writing by the disclosing party immediately after the disclosure.」とする。

つまり口頭で開示した情報が機密情報である場合にはその際に機密であることを開示者は通知しなければならず、且つこの機密情報であることを開示後書面で速やかに確認しなければならない(しなければ機密情報扱いにはならない)、とすることです。

私の実務経験では、oralベースで開示された情報について機密情報だからと言って情報開示後に逐一書面で確認する開示者は皆無ではありますので、この「対応その2」が実現できれば口頭開示情報に関して守秘義務負担を懸念するケースはまず無いところです。

さて、では「対応その2」も情報開示者に受け入れられなかった場合はどうするか。

それへの対応、今日は「秘密の花園」の中です。読者、カギを探してみてください。
         航海継続


投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office

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