事務所ブログ

2016年2月10日 水曜日

法務航海日誌〈6〉-「コーカス」って何かの動物?

弁護士 山原 英治

2016年2月10日
東京 晴れ 北北西 6m/s

「コーカス」って何かの動物?

今朝あたりからニューハンプシャー州での米国大統領予備選の結果が聞こえてきました。アイオワ州での第一戦では共和党は過激な発言で知られるトランプ氏をテッド・クルーズ氏が破り、民主党はヒラリー・クリントン氏がわずかに「民主社会主義者」サンダース氏を振り切りましたが、ニューハンプシャー州ではトランプ氏、サンダース氏が大勝したとのことで、今後の展開が益々注目されます。

ところで予備選では普段聞かない英単語が耳に入ってくるのですが、数日前BBCで「イギリス人とアメリカ人 - この予備選英語、分かるかな?」というプログラムが面白くて、電車の中でクスクス笑えました。報道では「コーカス」という単語をよく聞くのですが、果たしてこれは何かな? 

   ロンドンの通行人:「う~ん、分からないなあ...」
   NYの通行人達:「う~ん、ママが良く使ってた言葉。
              ママ、政治好きだから」
              「分からないなあ~、何かの動物?」


(僕はナマケモノ)

一人の女性(NY)が「それは予備選の時の党員集会caucusのこと」、で正解。博学の池上さんがTVで「元々は原住民の集まりのこと」と説明してたので、その種の単語が転用されているということでしょうか。「Super PAC」のことをロンドンの人が「パックマンのこと!?」と答えているのも面白いです
(この他「Super Tuesday」「Ticket」などへの珍回答も面白い:https://www.youtube.com/watch?v=OqumAexsCgc)。

私も仕事をしていて、法律用語や海事用語についてクライアントから意味を聞かれることがあります。先日は「『瑕疵』担保責任とは言うけど『欠陥』担保責任とは聞かないようだ。瑕疵と欠陥は同じだ、という説明も聞くのだが」というご質問をいただきました。民法570条の隠れた瑕疵に関する売主の瑕疵担保責任として有名な「瑕疵(かし)」の概念ですが、よく考えると奥が深い。瑕疵担保責任の効果としては修繕して直すこと(瑕疵修補責任)やお金で償うこと(損害賠償義務)が売主の義務として発生することは明確ですが、そもそも瑕疵=欠陥か、似ているが違うのか...一般の解説には「瑕疵というのは欠陥だ」というものもあって、確かに分かりづらいですね(もし物的な欠陥だけでなく、法律的瑕疵、つまり他の権利によって制限されている、などを含むという立場を取れば、「欠陥」という一般的な言葉がイメージする物的キズや性能未達、よりも「瑕疵」の概念の方が広くなってきますので両者はイコールではありませんね)。

BIMCO Bunker Non-Lien Clauseの問題点:

法律上の瑕疵が民法570条の「瑕疵」に該当するかどうか、最近海事法務の観点から少々考えました。燃料供給業者は船舶に対してバンカーオイルを供給しますが、その際、法律が自動的に本船上に船舶先取特権を発生させます(商法842条6号。なお船主自身ではなく定期傭船者がバンカーの供給を受けた場合、他人の財物である本船上に船舶先取特権が発生するかどうかは議論がある)。近頃は2014年秋に世界的燃料供給トレーダーだったOW Bunkerが倒産し、船主は船舶先取特権による本船差押さえリスクに神経質になっています。この観点からBIMCO(ボルチック国際海運協議会。傭船契約等書式の標準化に尽力)はいわゆる「Bunker Non-Lien Clause」、つまり船主を保護するために船社(オペレーター:船主から本船を定期傭船、つまり借用して運用する立場)に対して船舶先取特権など「lien」と言われる担保権を本船上に発生させてはいけない、という特殊な条項の挿入を定期傭船契約に飲ませることを示唆しています:



しかし、バンカー・サプライチェーンは多層階に成立しており、法定担保物権である船舶先取特権は燃料供給によって当事者の合意とは関係なく発生しうるものです。これは法的な制度であり自明でありますから、そもそも船社(オペレーター)側が燃料供給者側に対して「そのような権利が発生することは「瑕疵」である」と主張したり、あるいは「知らなかった(つまり「隠れている」)」と主張してバンカー売主の瑕疵担保責任を主張することには違和感を持ちます。他方で燃料供給者側も定期傭船者に対して易々と上記のBIMCO Bunker Non-Lien Clauseに対応する「non-lien」を燃料供給の際に請け負うとは思えません。そういった実務感覚に照らすと、翻って船社(オペレーター)が定期傭船者としてこの特殊な条項を定期傭船契約上受諾することは船社(オペレーター)にとって船主との関係でリスクがありますので、安易には受諾できないということになります。

... 大統領予備選の話だと思ってたら、なんだかまた筆者の好きな分野に勝手に引っ張っちゃって! 第一、「瑕疵」と「欠陥」の違いは結局どうなってんだ、というところですが、おめでとうございます。「瑕疵は分かりづらい!」という声に応えて今度の民法改正では「瑕疵」という用語は廃止され「種類又は品質に関して契約の内容に適合しない目的物」(改正後民法566条)となります。然り。「瑕疵」は分かりづらい、というクライアントの上記ご質問は全く率直な、正しい感想であります。
        
航海継続


投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office

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