事務所ブログ

2016年2月16日 火曜日

法務航海日誌〈7〉-スカリア米国連邦最高裁判事の死去

弁護士 山原 英治

2016年2月16日
東京 晴れ 南南東 4.5m/s

スカリア米国連邦最高裁判事の死去

前回米国大統領予備選の話を書いたところで更に米国Newsとして飛び込んできたのがアントニン・スカリア米連邦最高裁判事の死去です。休暇先での平穏な死去とのことですが、何しろ現在リベラル派判事が4人、保守派判事がスカリア判事を含む5人でしたから、スカリア判事の残した「一票」は極めて大きな意味があります。ご存知の通り米社会内には銃規制や中絶の可否など重要な諸論点で厳しい対立があります。連邦最高裁判事は終身、一旦任命されれば長期間重要な論点を支配し続けます。今後、リベラルを体現するオバマ大統領の最高裁判事指名と保守を体現する(共和党が多数派を占める)米議会承認との間で熾烈な綱引きは必至。大統領選への影響も必至。両派間の「合意」が成るのか。「合意」など無効だ、などと一部の主張も出るやもしれず、今後予断を許さない状況です(もう「次の大統領が決まるまで空席にしろ!」という意見も出てますが、宿題山積の中でそれでいいの? という疑問はあり)。


(NY Times front pageより。米最高裁前のスカリア判事への哀悼の花束)

東京地裁によるカリフォルニア州合意管轄「無効」判決

ところで合意といえば我々の仕事では契約書での当事者の合意が法的に有効で執行力あること(要するに裁判所が契約書で決めたとおり強制力を認めてくれること)が最も重要なわけです。やれ売り買いした品物をいつまでに引き渡せ、支払金額はいくら、いついつ支払う、支払わない場合には損害賠償金いくら、などなどと、交渉で決めたことを契約書に落とし込むわけです。ほとんどの場合契約書に書かれた約束は守られるわけですが、ときにはこの約束が破られることがある。

買主「おいおい、トイ・プードルを買ったのに、ネコが送られてきたぞ!」
売主「いや、あんたが『これ、買う!絶対買う!!』って指さししたのはこれ。トイ・プードル風のネコなのっ!!」

... まさかトイ・プードル似の猫はあんまりいないと思いますが、契約当事者間で絶対紛議が生じないという保証はないですね。特に国際関係の取引では文化的な違いもあり紛争になりやすいですから、万が一のために予め裁判(あるいは仲裁)で解決することを合意しておけば安心です(合意裁判管轄)。

ところが、本日の報道によると、アップル社と「部品下請け」の島野製作所との間で契約上の紛争で、東京地裁が中間判決で両者間のカリフォルニア州での裁判合意を「無効」と判じたとのことで、関係者間に衝撃が走っています(「国際裁判管轄、企業間合意に初の無効 アップル訴訟を国内審理へ」:http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160216-00000059-san-soci)。通常、日本の裁判所は両当事者の合意管轄について尊重する態度をとってきたためです。国際的な取引で合意裁判管轄(正確に言うとシンガポール仲裁規定でした)が無効と裁判所に判断されたケースは私の経験では東南アジアの某国裁判所であり(私が起案したものではないです。念のため)、それは「公序良俗」に反するという理由でした。「公序良俗」なら日本でも裁判所がそう判断する余地があります(契約書の法的執行力に関する法律意見書でもその点は「留保」の対象です)。が、報道によると:

千葉裁判長は「裁判管轄の合意は、国際事件であれ国内事件であれ、一定の法律関係に基づいた訴えに関して結ばれたものでない限り無効だ。それは片方の当事者が不測の損害を受けることを防ぐためだ」と指摘。「両社の合意は『契約内容との関係の有無などにかかわらず、あらゆる紛争はカリフォルニア州の裁判所が管轄する』としか定められていない」とし、合意は広範すぎるため無効と判断した。

とのことですから、この東京地裁の担当千葉判事の判断は「公序良俗」違反を理由にしたものではないようです(なお島野製作所の主張する「優越的地位の濫用」論でもないようです)。

まだ出たばかりなのでこの簡単な記事からの推測にとどまりますが、「公序良俗」ではないとしたら、こういうことではないでしょうか。通常標準的な合意管轄規定は例えば次のようなものです(専属合意管轄の場合):
 
The parties, and each party of them, hereby consent to and confer exclusive jurisdiction upon any court in the State of California over and action of proceedings arising of or relating to this Agreement.

通常は上記下線部分のように、「この契約書に関する紛議はカリフォルニア州の裁判所が管轄を有する」と「あくまでのこの契約に関する紛議」に限定しています。ところが今問題となっている契約書では「両当事者の一切の紛議は(この契約に関係するかどうかに関わらず)カリフォルニア州の裁判所に管轄を認める」と書いているのではないでしょうか? 契約交渉の現場では、商売上有利な側が最初に提示してくる契約書の起案でたまに見かけますが、これは標準的な規定からはかなり「行っちゃっている」規定振りであり、日本の裁判官が「それはあまりにも射程が広すぎる」と判断するリスクが実はあったということでしょう。

なんでもかんでも契約で合意すればいい、交渉相手方に飲ませればいい、というわけではないということです。なお上記の報道は合意を「無効」と報道していますが、正確にはその合意自体は有効だけれど、この両社間の具体的な紛議、請求権に関してはその合意の「射程外」だった、という意味かもしれません。またそのうち詳しい情報が入ってくると思いますので注目しましょう。
        
航海継続


投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office

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