事務所ブログ

2016年9月15日 木曜日

企業法務弁護士によるM&Aと法務デューデリジェンス 

デューデリジェンスの重要性
M&Aを検討する際には買収の対象となる会社がどのような会社であるかを理解しておくことが重要です。対象会社の状況について専門家により確認することをデューデリジェンスといいます。

確認の対象としては主に、ビジネス面、会計面、法務面の3つがあげられます。ビジネス面については、どのような事業を行い、どのような顧客がいるのか、ビジネスを取り巻く環境や将来性はどうか、事業計画は適切かなどを検討します。ビジネスについては、通常買主がよく分かっていると思われますので、専門家による監査を必要としないのが通常です。

会計デューデリは、会計面での監査で、通常公認会計士や税理士が行うことになります。主に貸借対照表と損益計算書の内容が関係する各帳票と一致しているかどうかを確認する作業になります。また、減価償却が適正になされているか、役員との金銭の出納は明確に区別されているか、税務署から否認される取引はないかなども確認されることになります。

法務デューデリ
法務デューデリは、法律面からみて問題が存しないかどうかを確認する作業で、主に弁護士が行うことになります。以下、法務デューデリがどのようにして行われ、どのような点が問題となるかを確認していきたいと思います。

株式関係
M&Aの手法としては株式譲渡による場合と事業譲渡による場合がありますが、大多数のケースは株式譲渡の方法が用いられると思われます。M&Aは支配権の移転を目的とするものであり、株式譲渡は取引の相手先の同意を要しないなど手続き的に極めて簡易で、税務上も有利な点が多いためです。従って、買主はM&Aによって株式の対価を支払うわけですので、その株式が有効に発行されており、譲渡人が間違いなく真正な株主であるかどうかを確認することは極めて重要となります。

遺産分割その他手続き上の問題点の存在
株券が発行されている株式については、株券の交付を受けることで株式を善意取得するということもあり得ますが、通常の場合、もし譲渡人が真正な株主でない場合、株式の譲渡を受けた後においても、将来真正な株式の所有者から、自分が真正な株式の所有者であると主張される可能性がないわけではありません。例えばAさんから株式の譲渡を受けたところ、Aさんはもともとその株式を父親であるBさんから相続したものであり、Aさんは遺産分割によって自分が適切に取得したものと考えていたとしても、Aさんの兄弟であるCさんや母親であるDさんから遺産分割協議は無効であり、Aさんは株式を有効に取得したものではないと主張される可能性がないわけではありません。もし、Bさんの相続において遺産分割協議が無効だった場合や遺産分割協議自体がなされていなかった場合には、Aさんによる株式の取得は無効であり、Aさんから株式を譲り受けた譲受人も有効に株式を取得しえないという結論になってしまいます。株式の譲受人としては、Aさんに対して既に支払った売買代金を返せと請求するしかないことになりますが、その時点でAさんが無資力であった場合やAさんと連絡が取れなくなっているような場合には、譲渡代金の返還も受けられないことになってしまいます。

株式の発行手続きの有効性
同様のことは、会社の設立時の株式の引受や、第三者割当による新株発行が適切だったかどうかもかかわってくることになります。従って、株式の譲受人としては、その時点における株主名簿の記載事項を信用するだけでは足りず、株式の発行時点から、転々売買された個々の売買自体も有効であったかどうかを全て確認しなければならないことになります。

例えば甲会社の設立時にXが株式の引受を行い、Xの有する株式をYが相続し、ZがYから株式を取得している場合、Xによる株式の引受は有効であったか、Xによる引受価格の払込はなされていたか、Yによる相続は有効で、全ての相続人の了解のもとに遺産分割協議がなされ、Yが単独で株式を相続したものであるかどうか、YからZへの株式の譲渡については、有効な株式譲渡契約書が作成されているかどうか、ZからYへの株式譲渡代金の支払はなされているか、Zへの名義書き換えは法律および定款に従って適切になされているかどうかを確認する必要があることになります。

もちろん新株の発行手続きの有効性を争う場合には、時間的な制限がありますので、その期間を経過している場合には、仮に新株発行手続きにおいて手続き上の瑕疵があった場合でも、将来その瑕疵を第三者に対して主張できないこともありますし、株券の交付によってYからZへの株式譲渡がなされている場合には、Zが当該株式を善意取得している可能性もありますが、そのような可能性を含めて、発行時から譲渡人に至るまでの全ての経過について確認が必要であることには変わりがありません。

譲渡人による保証表明
一方で数十年前の取引の全てについて権利移転を証する証拠がそろっているかどうか疑わしい場合もあり、実務的には、一定の範囲の調査に留めざるを得ないこともあります。例えばZによる株式の所有関係について10年間にわたって誰からもクレームがなされていないとすれば、万一Zによる株式の取得について問題がある場合も既に時効取得が成立しているとして、Zによる株式の所有を前提として取引を行わざるを得ない場合もあり得ます。従って、株式の調査については、会社設立後間もないような場合を除き、どうしても調査の範囲について妥協せざるを得ない可能性があり、場合によっては本当の株主であるかどうかについて必ずしも明確とはなっていないが、譲渡人により保証表明を行ってもらうことで、万一の場合には譲渡人に対して損害賠償請求をできる余地を残しておかざるを得ないという場合もあります。

私達が扱った事例でも、譲渡人が遺産分割で取得した株式について、他の相続人から遺産分割の有効性について争われているという事例において、そのような状況を理解したうえで、買主が株式の取得を行ったという事例もあります。

定款及び基本規程
法務デューデリを行う場合に、最初に確認するのは、商業登記簿謄本、定款、取締役会規則、株主総会規則などですが、中小企業の多くでは、定款の内容が古く、現在の会社法の内容に対応していない場合や、取締役会規則や株主総会規則など会社の基本的な事項に関する規定が存在しない場合も多くあります。

会社の譲渡を行う場合には、これらの規定をきちんと整備し、法律上問題のない形にして譲渡することが多いと思いますが、支配権が完全に移転する場合には、譲受人において定款の変更や規定の整備を行うという前提で、規定が不十分なまま売買がなされることも多くあります。

取締役会議事録、株主総会議事録
多くの中小企業ではオーナー経営のため、全ての事項がオーナーの一存で決定されており、取締役会や株主総会が開催されたことがないということも多くあります。もちろん、役員の選任や解任については、商業登記を行う必要があり、登記の申請に際しては、定款や株主総会議事録の添付が求められることから、会社の代表者が知り合いの司法書士などに依頼して、実際には開催していないにも関わらず、取締役会議事録や株主総会議事録を作成するということも多くあります。

会社法では、会社は3月に1回以上の割合で取締役会を開催する必要がありますし、少なくとも年1回は定時株主総会を開催し、決算の承認などを行う必要があるとされています。

通常の場合、株主総会議事録や取締役会議事録の整備がなされていない場合であっても、特に問題とはされないと思われますが、例えば新株や新株予約権を発行した取締役会が実は開催されていなかったという場合には、将来新株の発行や新株予約権の発行について問題とされないとは言えません。同様に経営支配権を争う紛争が勃発した場合には、過去における役員の選任及び解任の手続が本当に適切に行われていたかどうかが争われる可能性がないとは言えません。

従って、会社についてのM&Aがなされる可能性がある場合には、少なくとも最低限度の取締役会や株主総会をきちんと開催し、それを議事録に残しておく必要があります。法務デューデリにおいては、取締役会については各取締役に対して招集通知が適切になされていたかどうか(仮に招集通知がなされていない場合には、招集通知を受けるべきであった取締役から招集通知を行わないことについての同意がなされているかどうか)、株主総会については、定款に定められた総会前の一定の期間までに、全ての株主に対して有効な招集通知がなされていた事実があったかどうかなどを確認することになります。

一方、過去における株主総会や取締役会が有効適切に行われていなかったとしても、当該会社に対するM&Aが直ちにできなくなるというわけではありません。その株主総会や取締役会で決議されたであろう事項を推測し、将来第三者や会社内部の人から手続き上の瑕疵が主張される可能性があるかどうかを、決議の内容に照らして検討し、リスクの大きさを評価するリスクアセスメントを行うことになると思われます。

その他の契約書
契約書の有無及び内容についても法務監査の重要な対象となります。契約書については、取引先との取引基本契約書、個別売買契約書の他、不動産の賃貸借契約書、ライセンス契約書等、様々な契約書が考えられます。契約書の監査においては、まず、契約書が存在するかどうかが重要です。例えば、重要な取引先との契約書が存在せず、これまで注文書と注文請書だけで取引をしていたという事例も多くあります。

もちろんすべての契約書が存在しなければならないわけではなく、ここでもその存在しないことが将来紛争を惹起する可能性を含んでいるかどうかを判断することになります。私どもの過去の事例では、駐車場に関する契約書(月間賃料10万円)が存在しなかったところ、買主の弁護士からの指摘があり、M&Aのクロージングの前に賃貸人との契約書を締結するよう要求されたことがあります。

また、契約書の内容も重要な監査事項です。例えば店舗の賃貸借契約書があり、契約期間が10年とされており、テナントの側から途中解約した場合には残存期間全ての賃料を一括して支払えという内容になっている場合、途中解約によって数千万円から数億円の負担が生じてしまう可能性があります。もちろん、本店に関する賃貸借契約書であり、途中解約の可能性がないような場合には問題も少ないと思われますが、店舗の賃貸借契約などでは、営業成績の悪い店舗を閉鎖するリストラクチャリングが予定されていたところ、解約による違約金の額が極めて大きくなってしまい、店舗の閉鎖が出来ないという事態も考えられます。

また、あるM&Aの事例では、150件くらいの取引先との契約書を全てチェックし、相手先からの途中解約があるのかどうか、契約が継続する場合には支払われる料金がいくらかを計算し、買収後の最低限の売上を予測するという作業を行ったこともあります。このケースは契約書の内容から将来収益を予測するという手法をとったものです。

上記の他、契約書のチェックにおいては、チェンジ・オブ・コントロール条項の確認が必要となります。例えば、不動産の賃貸借契約書において、支配株主の変動その他M&Aがなされた場合には、賃貸人への報告や同意を要するというような条項(チェンジ・オブ・コントロール条項といいます)が入っている場合、契約書に基づき報告や同意を取り付けるなどの作業が必要になります。

投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office

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