事務所ブログ

2016年9月15日 木曜日

企業法務弁護士によるM&A  法務デューデリジェンス その2

前回に引き続き法務デューデリジェンスについて説明を行いたいと思います。

会社に関する紛争
会社に対して裁判が提起されている場合や、会社が当事者として第三者に対して訴訟を提起している場合には、裁判関係の全ての資料を検討し、その訴訟の波及する効果の範囲について判断する必要があります。裁判には、通常の訴訟だけでなく、仮差押えや仮処分、審判手続き、抗告手続、その他の法的紛争の全てが含まれます。また、会社が被告となる場合だけでなく、原告となっている場合であっても、その紛争の原因が何であり、将来同様の問題が再燃する可能性がないかどうかを検討する必要がありますので、当事者となっている全ての訴訟についての検討が必要です。

また、裁判になっていない場合であっても、取引先から代金の支払いを求める内容証明郵便が来ていたり、取引契約の解除の通知が来ていて、会社としてはその解除を認めたくないというような場合も広い意味での紛争に該当することになります。例えば、労働者から、未払残業代の支払がないので、しかるべき時期までに未払残業代の計算を行って、未払い分については至急支払ってほしいという内容証明郵便が来ている場合、その人についての未払残業代が仮に30万円と少額であったとしても、会社において時間管理がきちんとされておらず、残業代を支払っている実態も存しないという場合、将来同様の請求が他の従業員からもなされる可能性があります。

未払残業代支払請求
また、従業員の一人が労働基準監督署に申し立てを行い、労働基準監督署から調査及び是正勧告がなされた場合には、会社としては労働基準監督署の指示に従い、未払残業代2年分(消滅時効の関係で2年分の残業代が支払われるのが通常です)を支払うとともに、今後も残業代をきちんと支払う旨の誓約書の提出を求められることもあります。例えば現在の管理費が5億円で、営業利益が5000万円の会社において、3000万円の残業代が加算され、管理費が5億3000万円、営業利益が2000万円になったとすれば、企業価値は全然変わってくることになります。

上記のケースにおいては、現在請求している人の未払残業代は30万円だけだとしても、会社全体としては、年間3000万円の管理費増となる可能性があることになりますので、企業価値を営業利益の7倍と計算すると、3億5000万円の企業価値を有していた会社が、1億4000万円の企業価値しかなかったということになる可能性もあります。

このように紛争が存在することは、その背後に大きな経営上の問題があることがあり得ますので、紛争の存在は、その紛争だけでなく、その紛争の背後にある経営上の問題点を明らかにし、その経営的なリスクを適切に評価することが重要となります。

システム上の問題
例えば、金融機関において、紛失したクレジットカードの所持人から、クレジットカードの拾得者が勝手にお金を引出し、200万円の損失を被ったとの請求がなされていたとします。この裁判自体は金融機関にとっては200万円のリスクにとどまることになりますが、万一訴訟で敗訴し、クレジットカードの暗証番号の秘密保持に関する金融機関側の対応が不十分であるとの判決がなされた場合には、場合によっては金融機関においてシステム全体の改修が必要になるという事態も考えられないわけではありません。この場合、システム改修に数億円の費用を要する事態も考えられるわけですので、上記訴訟は問題点の一端を明らかにしたに過ぎないということになります。もちろん、金融機関は顧客の秘密情報を適切に管理しており、金融機関に過失はない(クレジットカードを紛失し、暗証番号が分かってしまったんは顧客の個人的責任によるものである)との判断がなされる場合には、上記のようなリスクはないことになりますので、法務監査の過程においては、法令や社会的常識に基づき、当該請求が会社に対するリスク要因となり得るのかどうかを適切に判断するという態度が必要になってきます。

これに類似する問題として、システム開発会社のシステム開発上のクレームもよく問題とされます。例えば、開発されたシステムに問題があり、債務不履行にあたるとして、損害賠償請求がなされていたとします。その裁判自体については、2億円での和解が成立していたとしても、実はその会社の営業や経営陣は自社の開発者の能力についての理解をきちんとしておらず、もともとその会社には難しいシステムの開発を行う能力がないという事態も考えられます。この場合、上記の裁判は既に終結しているとしても、将来同様の問題が発生する可能性は十分に考えられるわけですので、現在進行中の開発契約の内容を確認し、現在のスタッフでそれに対する開発能力が十分であるのかどうかを判断しなければならないという問題も生じてきます。

過払金返還請求訴訟
同様の問題は金銭の支払請求訴訟にも関連してきます。例えば一時期、消費者金融会社の過払い金支払い請求訴訟が多く提起されていました。利息制限法では、貸金業者が請求できる利息の利率が一定範囲(例えば15%など)に制限されていたにもかかわらず、貸金業法では金利についての明確な規制がなく、出資法においては禁止される金利が40%に設定されるなど、法律相互の間においても食い違いがあり、どの法律が強制的に適用になるのかがはっきりしていませんでした。

そこで、数十年も前から、消費者金融会社の取り立ての方法に問題があるとの指摘が多くなされ、消費者金融会社からの貸金返還訴訟において顧客の側から利息制限法違反の主張が多くなされていました。当時この点については裁判所でも明確な判断指針がなく、できる限り和解を勧める形を取っていましたが、当事者間での合意がなされない場合には、契約に記載があるとの理由で、消費者金融会社の主張を認める判決がなされていたように思われます。

一方で、十年前くらいからは、金融緩和により消費者金融の需要が著しく増大したことに伴い、消費者金融会社の取り立て方法の問題が社会的にもクローズアップしてくることになりました。消費者金融の会社を相手方とする弁護士のグループにおいても情報交換が進み、理論が精緻化され、徐々に消費者金融会社の貸付け利息は高すぎるという社会的な合意が形成されてくるようになりました。その後、最高裁判所において利息制限法違反の貸付けは無効である旨の判決がなされ、また、過去に支払った利息制限法違反の金利については顧客の側から返還請求できるとの判決がなされたことから、消費者の側から消費者金融会社に対する過払い金返還請求訴訟が全国で多数提起される状況になっています。

最高裁判所の判決が出た段階では、消費者金融会社において過払い金の返還請求が起こることは当然に予測されますので、消費者金融会社の法務監査においても、この点は指摘し、そのリスクの範囲(将来起こる過払い金返還請求訴訟による請求額が何千億円くらいになるかを計算する)を明確にする必要が生じてくることになります。当然訴訟における弁護士費用や、過払金請求を管理する管理費用も無視しえない金額となってきますので、法務デューデリの中ではそのリスクの範囲についても触れておく必要があります。

このように会社にまつわる紛争はその結果がどうなったかだけでなく、その紛争が生じた背景となる事由についても検討を行い、その問題が含有する潜在的リスクについても適切に評価することが求められます。多くの場合法令上の問題が含まれていると考えられますが、社会的な意識の変化や、その会社が有する技術に内在する問題もありますので、その評価については複雑な様相を呈してくることになります。法務監査を行う弁護士としては、弁護士自身において判断しえない問題点については、当該分野の専門家の意見を徴するなどの必要も生じてくることになります。

投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office

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