代表弁護士ブログ

2017年5月18日 木曜日

企業法務弁護士による遺産相続 可分債権の扱い

平成28年12月19日の最高裁決定は、預金債権については、当然に分割されるのではなく、遺産分割の対象となるというものですが、この意味について確認したいと思います。

民法896条では、「相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継する」としていますので、現金や不動産のほか、債権や預金も相続人が承継することになります。また、民法898条では、「相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する。」とし、民法899条では、「各共同相続人は、その相続分に応じて被相続人の権利義務を承継する。」とされています。

従って、現金、預金、不動産、債権については、いずれも相続財産であり、本来であれば共同相続人間で共有状態になると思われます。この共有については、民法の共有と性質的には同じですが、共有関係の解消については、民法に定める共有物分割手続き(民法256条)ではなく、遺産分割手続きによるべきとされています。遺産分割手続きとしては、共同相続人間の合意により遺産分割協議書を作成する方法と、共同相続人間で合意ができない場合には、家庭裁判所に申し立てをして遺産分割調停を行う必要があります。また、遺産分割調停の手続において協議が整わない場合や、協議が適切でないと思われる場合には、家庭裁判所が審判を行い、誰がどの財産を取得するかについては、最終的には家庭裁判所がその裁量に基づいて判断するということになります。

一方民法第三編第一章第三節では、「多数当事者の債権及び債務」について規定しており、第一款「総則」では、「数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。」と規定しています。すなわち債権を複数人が有する場合は、総則の規定が適用になり、各権利者は、等しい割合で権利を有することになります。この点から、可分債権(分割可能な債権)については、当然に分割がなされ、各債権者は分割された権利のみを取得するという結論が導かれることになります。

このことから、相続財産の中に含まれている可分債権については当然に分割され、各相続人は、遺産分割手続きを経ることなく、法定相続分に従った権利を取得するという結論になります。例えば、遺産の中に損害賠償請求権や、相続発生時よりも前に発生した債権(保険金支払請求権や家賃債権など)がある場合には、当然に分割されて各相続人がその権利を取得することになります。例えば、XがYに対して1000万円の損害賠償請求権を有していたところ、Xが死亡し、Xの長男Aと次男Bが法定相続をしたとします。この場合、AとBは、遺産分割手続きを経ることなく、Yに対してそれぞれ500万円の損害賠償請求権を取得することになります。

家賃債権についても同様の考えになりますので、Xが所有する建物をYに賃貸しており、Yが賃料(例えば1000万円)の支払いを怠っている場合には、AとBは500万円ずつ債権を承継することになりますので、例えばAがYに対して賃料支払請求訴訟を起こそうと考えた場合には、1000万円全額の請求をするのではなく、自己が取得した500万円分しか裁判を起こせないことになります。

もちろん、AがBからの委任を受け、Bの取得した債権についても一緒に権利行使することは可能ですが、AとBが遺産分割などで争っているような場合には、Bからの委任を受けることもできないため、裁判においては自己の権利部分しか権利行使できないことになります。

上記平成28年12月19日の最高裁決定は、可分債権についての上記の性質について変更をもたらすものではありませんから、遺産に含まれていた可分債権が当然に分割され、共同相続人が法定相続分に基づいて当然承継する(当然承継説)という前提自体は異なることはありません。

 会社の経営者が亡くなった場合によく問題となるのは、会社の経営者が会社(特に非上場の会社)に対して多額の貸付債権を有している場合です。会社の経営者が長年にわたり会社の経営を行ってきている場合には、時には資金不足で役員の報酬の支払もできないような事態に陥ることもよく考えられ、その場合、会社の代表者は自らの役員報酬を実際には受領せず、一旦支払われた報酬部分を会社に対して貸し付けたという形を取ることが多くあります。また、会社が多額の設備投資を検討している場合や、会社の資金繰りが困難になった状態で、会社自身が信用不足などの理由で金融機関からの借入を行うことができないような場合には、経営者が自ら金銭の借入を行い、その資金を会社に対して貸し付けたり、手持ち資金を会社に対して貸し付けたりすることは多くあります。また、経営者が会社に対して本社ビルや工場敷地を賃貸しているにも関わらず、会社に十分な資金がないことから、家賃を実際には受け取っていないという場合も考えられます。

 このような場合には、損益計算上は経営者から会社への貸付けとして認識され、会社の貸借対照表にも経営者からの借入債務として計上されることになります。このような貸借は、何十年にもわたって継続して行われており、返済と貸付が繰り返されていることから、会社の経営者についての遺産相続が発生した段階で、債権の発生原因となる証書が残っていないということも多くあります。また、数十年前から発生した債権であることなどの理由で、発生原因自体よく分からないということも多くあるのではないかと思われます。

 私どもで相談を受ける事案でも、会社の経営者が亡くなったあと、会社の貸借対照表を確認したところ、会社に対して1億円の債権があるが、このような債権は請求できるのかという相談を受けることがよくあります。実際には、債権の存在を会社が認めるかどうかや、会計帳簿がきちんと作成されていたかどうか、債権の発生原因としてどのようなことが考えられるのかを事案ごとに検討しなければなりませんが、原因証書が存在しない場合であっても、会社が貸借対照表に記載することで債務の存在を確認していることから、原則としては、会社に対する債権は存在するということになります。

 そこで、可分債権は相続開始時において当然分割され、法定相続分に基づいて各相続人が取得するという上記の原則が問題となってきます。例えば相続人であるAとBが会社に対する債権1億円を相続するとすると、各相続人は5000万円ずつの債権を取得し、会社に対してそのお金を返せと請求できることになることになります。例えば被相続人の長男のAが会社を承継した場合に、遺産分割が進まないことに腹を立てたB(次男)が会社に対して債権を行使し、5000万円の支払請求訴訟を起こすことが可能となるということになります。

 また、同様に、1000万円の未払家賃の請求を起こす場合であっても、他の共同相続人が了解しない場合(協力しない場合)には、法定相続分である500万円しか裁判を起こせないことになります。

一方、相続税との関係では、1億円の債権全額を相続財産に加算しなければならないのかが問題となります。相続税との関係では、債権の評価を行い、その評価額での申告ということになると思われます。

 上記のように、当然分割される可分債権については、遺産分割の対象とならないことになりますが、例えば相続人の一人が特別受益を受けていたような場合には、相続人間で不公平が生じてきます。これが、上記の最高裁決定で問題とされた点ですが、特別受益の問題については、別途詳細に述べたいと思います。

投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office

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