代表弁護士ブログ

2017年8月29日 火曜日

Independent Contractors Agreement(請負契約書)の活用

中小企業が海外展開を行う場合、まず最初に海外の拠点をどのように作るかが問題となります。支店(branch office)の設立や子会社(subsidiary)の設立が最初に思われますが、その前に現地の市場調査や、簡単な活動を開始し、事業の採算性が見込まれることが明らかになった段階で子会社の設立に進みたいと思われることが多いと思われます。

現地での活動を開始する場合には、最初に人を雇う必要があります。現地に子会社が存在する場合には、その子会社を雇主として契約を締結することになります。すなわち子会社と現地の従業員との間の雇用契約となります。また、現地に子会社が設立されていない場合には、日本の会社が雇主になり、現地の従業員を雇用するという形態をとることになるかもしれません。

しかしながら雇用契約(employment agreement)については、それぞれの国で労働者の保護が図られていますので、仮に雇用契約書の中で日本法を準拠法と定めたとしても、労働者の保護については、現地の労働法制が強制的に適用になることが多いと思われます(労働法の強行法規性)。雇用契約書の内容が現地の労働法制に違反する場合には、雇用契約書の内容ではなく、現地の労働法制が優先的に適用になり、現地の労働法制に違反する範囲において雇用契約の内容は無効と判断されることになります。仮に日本の法人が雇主になり、現地の従業員を雇用する場合であっても、実際に労務を提供している場所の労働法制が優先適用になりますので、当該雇用関係については、日本法ではなく、現地の労働法制が適用になることになります。

また、雇用契約の場合、社会保険料の支払や雇用保険への加入など、従業員を保護するための制度が適用になりますので、会社はこれらの保険への加入も強制されることになります。さらに、雇用契約の場合、仮に事業がうまくいかず、現地の事業を閉鎖しようとしても、従業員の解雇が認められるのかどうかが重要となってきます。

そこで、上記のような雇用契約における制約を回避するためには、現地の人を従業員として採用するのではなく、独立の請負人として採用することができるかどうかが問題となります。請負契約(independent contractor agreement)が一定の業務に対して対価を支払うことを約束する契約ですから、それぞれが独立した当事者間の契約であり、雇用とは異なりますので、労働法規の適用もないことになります。

もちろん、実体が雇用契約であるにも関わらず請負契約の形を取ったからと言って、労働法制の適用を免れることができるわけではありません。従って、請負契約を行う場合には、実際の契約関係が雇用ではなく、請負であることを明確にする必要がありますし、実際の業務の遂行においても、雇用契約とみなされないよう注意をしておく必要があります。もし、請負契約ではなく、雇用契約であると判断されることになると、現地の行政機関の介入を招き、年金や社会保険料の未払を理由として行政機関による科料の制裁を科されたり、税務署から源泉徴収税について課税されたりするリスクも存在することになります。現地の人が業務の遂行中にけがをした場合には、労災保険への未加入を理由として科料の制裁を科される可能性もありますし、当該業務提供者との間において裁判に発展する可能性も考えられます。

そこで、どのような場合が雇用契約に該当し、どのような場合が請負契約に該当するかを慎重に判断する必要があります。また、このような判断基準に十分に注意することで、雇用契約とみなされるリスクをできる限り回避することも重要になってきます。

雇用契約か請負契約かの判断に際しては、業務の遂行に対する管理監督が行われているかどうかが最も重要なファクターとなります。雇用契約の場合、業務の遂行に際して使用者の管理監督権限が及ぶことになりますし、反対に請負契約の場合には、業務の遂行について使用者の管理監督権限は及ばず、業務遂行者の裁量に任されていることになります。実際の判断に際しては、当該業務遂行者の能力、権限、時間管理、業務遂行場所、法的権限等を中心に判断されることになります。

例えば、弁護士を雇う場合には、(社内弁護士などを除く)通常の場合弁護士は、職務上の能力が高く、業務の遂行について裁量権を有していますので、当該弁護士は労働者ではなく、(委任か請負かは別として)外部の契約関係者と判断されることになると思われます。また、請負契約においても労務提供時間について1日あたり8時間をめどとするということを定めることは可能ですが、勤務時間を厳格に定め、朝9時から夕方6時まで就労するということを具体的に指示している場合には労働契約と判断される可能性が高くなってくることになります。請負人は、一定の業務の遂行を約束するものですので、依頼された業務が完成できる限り、いつ、どれだけ業務を行うかについては、当該業務提供者の裁量に任せられることになります。

このように請負契約であると評価されるためには、当該業務提供者の専門的能力を評価して対価を支払うことを定めること、業務提供者に業務遂行に関する裁量権限を与えること、業務提供に関する時間管理をあまり厳格にしすぎないようにし、業務提供者に対して業務提供時間についての裁量を与えること、業務遂行場所もできるだけ自由とすることなどに注意することが必要になります。しかしながら、これらについては、評価的要素も多く含まれますので、請負契約とするために、絶対にこうしなければいけないという基準があるわけではありません。仮に、一つのめどとして1日の業務提供時間を8時間とすることを定めたとしても、そのことが直ちに雇用契約であると判断されることにつながるわけではありません。

なお、現地での販路の拡大をめざし、顧客の勧誘などを委託し、成果に応じて報酬を支払う形態としてagent agreement(エージェント契約)やdistributor agreement(販売代理店契約)を作成することも考えられます。エージェント契約や販売代理店契約の区別としては、契約締結についての法的な代理権限を有しているかどうか、単なる顧客の紹介にとどまるのか、サービスや商品を自らのリスクにより販売するか、中継ぎに止まるかなどによって区別されますが、いずれもIndependent agreementにおける請負人よりもより独立性が高い形態と考えられます。

雇用契約と判断された場合の会社の負担をまとめれば次のようになります。
・準拠法の定め如何に拘わらず、現地の労働法制(法律)が強制適用される
・管轄合意にかかわらず、労働者から裁判を起こされた場合の裁判管轄は、労働者の労務の提供場所となる
・労働者の解雇について制約がある(正当事由がないと解雇できなかったり、解雇に際して一定の金銭の給付が求められることがある)
・社会保険(social insurance)への強制加入が要求され、会社が一定の負担を求められる
・雇用保険への加入が強制される
・労災保険への加入が強制される
・残業代の支払が強制される
・給与の支払について源泉徴収が必要

反対に請負契約の場合には、次のように言えます。
・準拠法(どこの国の法律が適用になるか)を当事者の合意によって定めることができる
・裁判管轄について当事者の合意で定めることができる(例えば、裁判については日本の裁判所で行わなければならないと定めることができる)
・社会保険、雇用保険、労災保険などへの加入が必要ない
・残業代の支払が必要ない(労務管理が不要)
・源泉徴収義務が必ずあるわけではない

このように使用者からすれば、請負契約は圧倒的に有利と言えます。従って、中小企業が海外展開を行うに際して現地の人を採用するには、independent contractor agreementの採用の可否について検討することは重要と思われます。なお、コンサルタント契約書(consultant agreement)も雇用契約ではなく、独立した第三者との契約と言う意味では、independent contractor agreementの一つと考えられます。コンサルタント契約書と請負契約書の違いは必ずしも明確ではありませんが、請負契約書では特定の成果が求められることがより明確にされている場合(行われた成果に対して対価を払うという関係がより明瞭)と考えることができます。

投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office

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