代表弁護士ブログ

2017年11月10日 金曜日

企業法務弁護士による不祥事調査 ホワイトカラークライム

ホワイトカラークライムとは
犯罪という言葉で通常思いうかべるのは、殺人、窃盗、強盗、強姦などがあると思います。ホワイトカラークライムと言うのは、これらの暴力的犯罪ではなく、どちらかと言うと知能犯に近い犯罪です。クライムは犯罪を意味する言葉です。ホワイトカラーは文字通り会社の本社で働くホワイトカラーを指しています。ホワイトカラークライムとは、会社で働く従業員のうち、現場で働く人ではなく、デスクワークに従事している社員(例えば会社の部長や課長)が会社の業務に関連しておこす犯罪の事を言います。具体的には、横領、背任などです。

横領は、会社のお金やその他の財産の占有を自己の元に移して支配権を移転させることで実行されます。法律用語では領得といいます。例えば取引先に集金に行った際に受け取った10万円を会社にこっそり自分のものにしてしまう(自分の財布に入れる)が典型例だと思います。実際には大金が現金で移動させられることは少ないですので、多くの犯罪行為は銀行預金の移動によって行われます。

通常銀行預金を移動すれば、その記録が通帳に残りますので、すぐに会社にばれてしまい犯罪はできないのではないかと思われます。しかし、例えば、本来取引先に対して100万円請求すべきところを120万円の請求書を発行し、会社の名前の架空口座で取引先から120万円のお金の振り込みを受けた後、取引先の名前で100万円を会社の正当な口座に振り込んだ場合には、会社は本来請求すべき100万円が入金になっているので、横領されたという意識はないままになる可能性があります。取引先としても、会社から120万円の請求書が来て、120万円を振り込んだだけですので、まさかその金額が偽物だったと気づくことがないこともあります。このような例はかなり古典的なもので、税務署による税務調査などが行われた際に発覚したりします。

横領の他に多いホワイトカラークライムとしては背任罪があります。背任罪は、会社の利益を犠牲にして自己または第三者の利益を図る行為とされています。横領との違いは、金銭についての占有の移転がないことです。例えば、会社の営業部長が取引先から過度の接待を受け、本来100万円で購入すべき資材を130万円で購入したとします。この場合、会社は本来支払うべき金額よりも30万円多く支払ったことになりますので、30万円の損をしたことになります。

背任罪については、立証がかなり困難な点があります。上記の例で言えば、会社が購入した資材がなぜ130万円ではなく100万円なのかを立証しなければいけません。会社が資材の購入をする場合に、複数の業者にコンペを行わせる場合であっても、納入先の決定は必ずしも価格の多寡だけではなく、信頼性や経験、品質など様々な事情を総合判断して決定する必要がありますので、他社よりも金額的に高い資材を購入したからといって、そのことが直ちに背任罪とみなされるわけではありません。しかしながら、極めて過度の接待を受けたり、B社から資材を購入する見返りにB社から金銭を受け取っていたりした場合には、その取引は不正であるとみなされる可能性が高く、このような取引について放置しておくのは適切ではないと考えらえます。

また、背任罪において多い事例としては、架空取引があります。循環取引を含む架空取引については、担当者からのヒアリングでは皆さん一律に売り上げを伸ばさなければならないプレッシャーからついつい架空の取引を繰り返してしまいましたというような説明がなされることも多いですが、当該取引の過程で取引先に利益を流したり、担当者が個人的な利益を得ていることもありますので、そのような事実が本当に存在しないのかをしっかり確認することも必要となってきます。

なお、公務員が金銭の提供を受けて業者を恣意的に選んだような場合には、当該公務員について収賄罪が成立しますし、金銭を送った業者については贈賄罪が成立します。公務員の場合には、贈収賄がホワイトカラークライムの典型例と考えられます。この贈収賄は刑法上身分犯とされていますので、犯罪の成立には、金銭を受け取った人に公務員という身分があることが要件とされています。従って、民間企業の社員が取引先の業者から接待を受けたり、金銭をこっそりもらったりした場合であっても、上記の背任罪が成立することはあっても、贈収賄は成立しません。但し、郵便局の職員やNTTの社員については、一定の範囲で公務員とみなされることになっていますので、会社が民営化されたからといって取引先から金銭の受領を行う場合には贈収賄に該当することになります。弁護士や会計士が官庁の職務を行う場合などにも、その職務との関連では公務員とみなされることがあります。

ホワイトカラークライムへの対処
上記のとおり、民間企業におけるホワイトカラークライムの典型例としては横領と背任がありますし、公務員の場合には、贈収賄があります。そこで、もし会社においてこのような犯罪行為を認知した場合にどのように対処すべきかが問題となります。この点については、事実関係の確認、労働法による処罰、民事上の責任追及、刑事上の責任追及などを検討する必要があります。会社の総務や人事の担当が独自に行うこともあり得ますが、彼らは捜査の専門家ではありませんし、民間企業の立場としてどこまで調査を行っていいのかはっきりしないこともありえます。そこで、ホワイトカラークライムの認知をした場合には、外部の専門家(弁護士・会計士)により第三者調査委員会等を設置し、調査にあたってもらったり、外部の弁護士に報告書の作成を依頼したりすることになります。

企業法務弁護士による調査
犯罪の捜査は本来警察や検察官が行う仕事であり、通常の社員の場合、民間企業で従業員から任意に聞き取りを行う場合のノウハウは持ち合わせていないと思われます。また、会社の社員同士であれば人間関係もありますので、どこまで真実を明らかにすべきかについて躊躇を覚えることもあるかと思います。従って、ホワイトカラークライムの調査については外部の専門家に依頼するのが最も適切と考えられます。

そこで、どのような弁護士を雇うべきかが問題となります。新聞紙上などで取り上げられる大企業の不祥事の場合には、調査委員会が設立されることも多く、その場合に調査委員会のメンバーに就任する弁護士は検察官上がりの人であることが多いと思われます。しかし、通常の弁護士の場合であっても、研修所自体の研修においてヒアリングの訓練は受けていますし、毎日の業務自体がヒアリングによる事実の確認になりますので、ヒアリングによる調査の能力については問題ないと思われます。

弁護士は、犯罪行為の調査を依頼された場合は、関係する資料を読み込み、どこに問題があるのかを確認し、刑事法における構成要件事実の観点からどのような事実関係を確認すべきかを想定します。そして関係者からのヒアリングを行い、その結果をヒアリングメモというノートにまとめていきます。小さな事件であれば3名から5名程度のヒアリングで済むかと思いますが、複雑な案件や重大な案件については、10人、20人から話を聞かなければならない事態も想定されます。

報告書の作成を行うには、事実の確認と、原因、今後の対策を明確にする必要があります。特に重要なのは事実の確認で、関係者の記憶違いや、責任追及されることを免れるための偽証の可能性もありますので、客観証拠との比較を行いながら、どの証言が正しいかを判断していく必要があります。

最近の事例では、多くの客観証拠はプリントアウトされたハードコピーとしてではなく、パソコンの中にデータとして残されていることが多いと思います。従って、パソコンのデータの調査については、膨大な情報の中から必要な情報をどのようにして適切に抽出するかの問題と、既に抹消されたデータについてどのようにして復元するかの問題があります。いわゆるデジタルフォレンジックの手法です。

アメリカの裁判の場合、関係する証拠を隠滅すると、法廷侮辱罪として極めて高額の罰金の支払いが強制されたり、懲罰賠償により数十億円の支払義務が認定されたりすることもありますので、証拠の隠ぺいについては特に注意が必要になります。もちろん、証拠の隠ぺいと言っても特別なものではなく、eメールのデータをゴミ箱に捨て、その後ゴミ箱を空にするようなことです。このようなこともディスカバリーの妨害とみなされることになりますし、隠ぺいの意図がなくても法廷侮辱と認定される可能性もありますので、訴訟が開始されたことを知った場合には、幅広く関係部署に対してデータの抹消を行わないよう指示しておく必要があります。いわゆるリティゲーションホールドといいます。

労働法制上により責任の追及
上記の捜査によって犯罪事実があった事が明らかになれば、労働法上どのような処置をする必要があるかを検討する必要があります。この場合、手続面と実体面の両方を検討します。手続きの面としては、就業規則に基づく調査や処置をする必要がありますので、自己の会社の社員であるからと言って、自由に証言を強制したり、個人的なプライバシーに関与したりすることはできません。また、就業規則においては、処置を決定する場合に、当該従業員に告知・聴聞の機会を与えるべきことが定められていることも多いと思いますので、その規定に従う必要があります。また、諮問委員会や賞罰委員会の規定がある場合には、当該規程に従って委員会を開催し、当該委員会の手順によって処置を定める必要があります。

実体面としては、どのような懲戒手続きを取るべきかの選択が重要になります。戒告、休業命令、減給、諭旨退職、懲戒解雇等のうち、どの処置を選ぶかという問題です。比例原則が働きますので、行為の悪質さに応じた処置が必要です。例えば極めて軽微な違反に対し懲戒解雇をしたり、3箇月の休職を命じたりした場合、処置が厳しすぎるとして会社が訴えられる可能性もあります。昔と違い、従業員の側から会社が訴えられる機会も多くなりましたし、会社が敗訴する事例も多くありますので、注意が必要です。また、昔は保全処分か損賠賠償請求訴訟などに限られていましたが、最近では仲裁の手続やADR(選択的紛争解決手段)としての労働審判手続きなども充実していますので、公的な場所において処分の妥当性が判断される可能性が高いことについては、注意が必要です。

なお、懲戒解雇によって退職金を払わないなど、従業員に対する重大な不利益を与える場合には、労働基準監督署の事前の許可を要することもありますので、労働基準法や労使協定などの確認が必要になります。

民事上の責任追及
会社の金銭を横領した社員がいれば、会社としては当然その人から横領された金銭の回収を図らなければなりません。上記の通り、会社は犯罪捜査機関ではありませんので、事実認定は任意にされるものでしかすぎず、当然犯罪は成り立つであろうと思われるような場合であっても、犯罪が成立したと判断できるかどうか微妙な場合もありますし、従業員の側から反撃をされる可能性もありますので、注意しながら行う必要があります。意見の相違から紛争になる可能性が高いことを前提とすれば、できるだけ裁判所を利用して、事実の有無について公的な判断を求めるのが適切と思われます。一方最初から裁判を申し立てるのが適切でない場合もありますので、そのような場合には、まず当該従業員からヒアリングを行い、犯罪事実を認める書面への署名を求めるということもあり得ます。また、通常従業員が高額の資産を有していないことも考えれば、自宅の差押なども検討が必要かもしれません。

民事訴訟を通じて賠償金の請求を求めるのは極めて通常です。犯罪行為が認知しえる場合であっても、当該従業員の家族(例えば妻や両親)に対して、連帯保証を求めるのはやり過ぎとみなされる可能性も高く、場合によっては署名に押印するよう恐喝されたなどと従業員の家族から反撃を受けることも想定されます。

刑事上の責任追及
犯罪行為が明らかな場合には、刑事処罰を求めることも考えなければなりません。その場合、警察に対して被害届や告訴状を提出するということになります。被害届については、警察がそのような事実を知ったというだけですので、警察において応対義務はありませんが、刑事告訴の場合には、警察は放置しておくことはできず、必ず事実の捜査を行い、その結果を検察官に送付し、検察官による処分を求めなければならないことになります。最近は犯罪の通知をしたにも拘わらず、警察が動いてきれなかったとして問題視されるケースも多くありますので(特にDVの場合など)、警察としても処理に最新の注意が必要となってきます。これまでは、民事不介入の原則により、民事事件について警察が関与することはしないと言って逃げを打つことが出来ましたが、最近の傾向からすれば警察も真剣に扱わざるを得ない事件も多くなっているのではないかと思われます。

会社への影響
循環取引による架空売り上げなどは、粉飾決算を導くものですので、特に上場企業の場合、会社の存亡にかかわる問題となってきます。それほど金額が大きくない場合や、非上場の会社であっても、最近のコンプライアンスの経営が求められる時代背景からすれば、後日誰から聞かれても問題とならないようなきちんとした処置を取ることは極めて重要と言えます。




投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office

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