事務所ブログ

2019年2月 7日 木曜日

相続法の改正 遺産分割前に処分された財産

相続法の改正 遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲

平成30年7月6日、国会で、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が成立し、相続法が多岐にわたって、改正されることになりました。
 今回のブログでは、相続開始後に共同相続人により相続財産が処分された場合の処理について、ご説明いたします。

【事案】Aが亡くなり、相続人は子Bと子Cであった。相続開始時に相続財産として銀行預金2000万円があったが、BはAが亡くなる前、Aから2000万円の生前贈与を受けていた。Aが亡くなり相続が開始した後、BはATMを急いで回り、合計で1000万円を引き出して自分のものにした。 
 この場合、BCはその後の遺産分割においてそれぞれのどれだけ相続することになるだろうか。Cには、不都合が生じないのだろうか。
(事例は、法務省民事局民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)より引用)

1 まず、事案を考える前に、遺産分割に関する前提となることをご説明します。
(1)被相続人が死亡すると相続が開始しますが、相続人が複数いる場合、被相続人が残した相続財産は民法の規定により相続人間で共有になります(民法898条)。いったん共有になった遺産を相続人に分配することを遺産分割といいます。
(2)
①被相続人が遺言を残している場合には、原則遺言にしたがって分配されます。この場合の相続分のことを「指定相続分」といいます(民法902条)。
②一方遺言を残していない場合には、民法が定める相続のルールである法定相続分に従って相続することになります(民法900条)。法定相続分は、相続人の組み合わせによって定められており、たとえば夫が亡くなって相続人が妻だけである場合には、妻がすべて相続し、相続人が妻Aと子Bと子Cの場合には、妻Aが2分の1、子Bが2分の1、子Cが2分の1相続すると定められています。具体的に相続財産として銀行預金1500万円と不動産が1つあった場合には、妻Aが銀行預金500万円と不動産の持分を2分の1、子Bが500万円と不動産の持分4分の1、子Cが500万円の不動産の持分4分の1を相続することになります
③しかし、被相続人が生前一部の相続人に生前贈与していた場合(これを特別受益と呼んでいます)や、一部の相続人が被相続人と同居してつきっきりで看病していた場合(こちらは特別の寄与と呼ばれます)など特別な貢献があった場合には、その部分を評価して相続分を確定しなければ、不公平が生じます。このように相続開始時に現存する財産の価額で計算すると相続人間で不公平が生じる場合、相続人間の公平を図るために特別受益や特別の寄与を考慮して相続分を確定することになります。このようにして決められた相続分のことを「具体的相続分」(民法903条)と呼んでいます。
 
一部の相続人に生前贈与があった場合の具体的相続分の計算方法は、以下の通りです。
ア 相続開始時の相続財産価額に特別受益額を加えた額を、みなし相続財産とします。
イ 次に、みなし相続財産に法定相続分または指定相続分をかけて、各相続人の本来の相続分を確定します。
ウ 最後に、イで出した本来の相続分から特別受益額を引いたものが、各相続人の具体的相続分となります。

計算式で書くと、このようになります。

ア 相続財産開始時の相続財産価額 + 特別受益額 = みなし相続財産
イ みなし相続財産 × (法定 or 指定相続分)=各相続人の本来の相続分
ウ 各相続人の本来の相続分 - 特別受益額 = 各相続人の具体的相続分

このように、一部の相続人が生前贈与を受けるなどして結果的に他の相続人より多く相続財産を受けることが公平といえない場合には、特別受益を相続財産に持ち戻して、相続分を確定するのです。

(3)また、遺産分割の対象となる財産の確定のため、その基準時をいつにするかということが問題となります。相続開始時(被相続人が死亡したとき)なのか、それとも遺産分割時(協議が始まるとき)かで見解が分かれるところですが、実務では、遺産分割時を基準にしています。

 以上の前提のもとで、今回の事案について考えてみます。
(1)まず、Bによる1000万円の引き出しがなかった場合について検討します。
Bが受けた生前贈与は、特別受益に当たります。そこで、本ケースの具体的相続分を式に当てはめて計算すると、下記のようになります。

ア 2000万円(相続財産開始時の相続財産価額)+2000万円(特別受益額) 
=4000万円(みなし相続財産)
イ Bの本来の相続分=4000万円(みなし相続財産)× 1/2(法定相続分)=2000万円
  Cの本来の相続分=4000万円(みなし相続財産)× 1/2(法定相続分)=2000万円
ウ Bの具体的相続分=2000万円(Bの本来の相続分)-2000万円(特別受益)=0万円
  Cの具体的相続分=2000万円(Cの本来の相続分のまま)
このように計算すると、BとCの具体的相続分の割合は、B:C=0:2000万円になるので、遺産分割時の残余財産2000万円の分配は、次のようになります。
B=2000万円 × 0/(0+2000万円)  =0円

C=2000万円 × 2000万円/(0+2000万円) =2000万円

Bはすでに2000万円の生前贈与を受けていますので、実質的にはBもCも2000万円ずつ受け取ったことになるわけです。

(2)では次に、事案のようにBがATMで合計1000万円を引き出していた場合はどうなるでしょうか。この場合、遺産分割時の遺産は2000万円から1000万円に減っています。遺産分割の対象財産は遺産分割時を基準に定められるため、1000万円を具体的相続分に応じて分配することになります。BCそれぞれ下記のようになります。

B=1000万円 ×0/(0+2000万円) =0円

C=1000万円 ×2000万円/(0+2000万円) =1000万円
このように計算すると、Bは、生前贈与の2000万円にATMで引き出した1000万円をくわえた3000万円、Cは1000万円を取得することになり、不公平が生じます。
 現行の制度のもとでこの不都合を解決する方法に明確なものはありませんが、Cは自らの取り分である1000万円について、不法行為や不当利得を理由に民事訴訟を提起することが可能です。費用や時間がかかり、また実際に請求が認められるかも難しいのが現状です。

3 そこで、このような不都合を解消するために、新民法では906条の2が創設され、遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合でも、処分された財産につき遺産に組み戻すことについて処分した相続人以外の同意があれば、処分者の同意を得ることなく、処分された財産を遺産分割の対象に含めることが可能となりました。(新民法906条の2第1項、第2項)
 組戻しが行われると、相続の対象となる財産は、現存する1000万円+引き出された1000万円+特別受益2000万円の合計4000万円となり、BCの法定相続分に応じた取得額としては2000万円ずつになりますが、Bは1000万円多く取得していることになります。そこで、BはCに対して、1000万円の代償金を支払うことになります。
 家庭裁判所で遺産分割審判を行う場合には、家庭裁判所は、BからCに対して代償金1000万円を支払うよう命じる審判を出すことが考えられます。BとCは、最終的には2000万円ずつ取得することになり、公平な遺産分割を実現することができるのです。


投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office

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