• 2024.02.29
  • 一般企業法務

株主による株主総会招集許可申立て

株主による株主総会招集が必要な場合

会社法では、株式会社は少なくとも1年に1回は株主総会(定時株主総会)を開催しなければならないとされています。ところが、同族企業などにおいて会社の支配権をめぐる争いが生じている場合、代表取締役が過半数の株式を有していないことがあります。このような場合、株主総会を開催することで現在の代表取締役が解任されてしまう可能性があります。そこで、定時株主総会の期日が過ぎているにもかかわらず、代表取締役が株主総会を開催しない場合があります。このような場合、株主としては、会社に対して総会の開催を請求し、会社が総会を開催しない場合は、裁判所による決定を得て、自ら株主総会を開催することができます。

株主総会の招集権者

取締役会設置会社の場合、株主総会は、取締役会が招集を決定し、取締役が招集することになります(会社法296条3項)。会社法296条3項の「取締役」は代表取締役に限るのか、その他の取締役も招集を行うことができるかについては議論がありますが、一般的には代表取締役が開催するものと解釈されており、代表権限のない取締役によって招集された株主総会は無効と解釈されています。取締役会非設置会社の場合、取締役が株主総会の招集を決定し、自ら株主総会を招集します。

株主による総会招集請求

上記の通り株主総会は会社の代表取締役が招集するのが原則ですが、会社法では、少数株主も、取締役に対して、株主総会の招集を請求することができるとしています(会社法297条1項、2項)。通常の場合、会社(代表取締役)に対して、内容証明郵便を送付することにより株主総会の招集を請求することになると思われます。

株主による株主総会の招集請求の要件

少数株主が株主総会の招集を請求するための要件については、公開会社(株式の譲渡制限のない会社)と非公開会社(株式の譲渡制限のある会社)で異なっています。公開会社(株式の譲渡制限のない会社)の場合、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主は、株主総会の招集を請求できるとされています。これに対して非公開会社(株式の譲渡制限のある会社)の場合、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主は、総会招集を請求できることとされています(6か月前から引き続きという要件がない)。公開会社(株式の譲渡制限のない会社)の場合、6か月の保有期間を要件とすることで、少数株主の権利行使を濫用する目的のみで株式を取得する可能性があるものを排除することが必要ですが、非公開会社(株式の譲渡制限のある会社)の場合、株主は取締役会の承認がないと株式を取得することができませんので、少数株主権の濫用的行使を目的に株式を取得するものはもともといないと考えられ、6か月の保有期間の要件は付されていません。

株主による株主総会の招集請求の方法

株主総会の招集請求を行う株主は、取締役に対して、株主総会の目的である事項及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求しなければなりません(会社法297条1項)。株主総会の目的である事項とは、「取締役解任の件」、「取締役選任の件」、「定款を変更する件」などが該当します。どのような議題について審議するために総会を開催するのかを示さなければなりません。また、「招集の理由」については、「○○取締役が違法行為を行った。」などと当該議題についての審議を必要とする理由を記載することになります。招集請求の相手方は会社法では「取締役」とされていますが、これは代表取締役に限られるのか、平取締役も含むのかについては意見が分かれています。株主総会の招集請求は、株主総会を招集するよう会社に対して求めるもので、少数株主が直ちに自ら招集できるわけではありません。

株主総会招集許可申し立て

株主による株主総会の招集請求を行ったにもかかわらず、①招集請求の後遅滞なく株主総会の招集手続きが行われない場合、②招集請求を行った日から8週間以内の日を株主総会の日とする株主総会の招集通知が発せられない場合、株主総会の招集を請求した株主は、裁判所の許可を得て、自ら株主総会を開催することができるとされています(297条4項)。このように株主による裁判所に対する招集許可の申し立ては、最初に会社に対して株主総会の招集を求め、会社がそれに応じて総会を開催しない場合に初めて行うことができることになります。株主総会招集許可申立ては、株式会社の本店所在地を管轄する裁判所に対して行う必要があります(会社法868条1項)。申立書には、申立て手数料として1000円の収入印紙を貼って提出する必要があります。予納郵便切手も必要となります。郵便切手の金額と組み合わせについては、裁判所に確認ください。株主総会招集許可申立書には、添付書類として、会社の履歴事項全部証明書、定款、株主名簿、株主総会招集請求書、郵便物配達証明書、申立人の陳述書などを添付します。また、代理人(弁護士)によって提出する場合は、委任状も必要となります。

審尋期日

株主から株主総会の招集請求がなされるということは、当該株主と会社との間において意見の相違が生じているということですので、裁判所としては適正な判断を下すために両方の関係者から意見を聞くことが重要となります。そこでほとんどのケースにおいて、裁判所としては、審尋期日を開催し、会社や申立人(株主)の側から意見を聞くことになります。審尋とは裁判所が関係者から意見を聞くことを意味しています。但し、会社側(取締役)については審尋を行うことは必ずしも法律上の必要要件ではありません。従って、審尋期日を開くかどうかは裁判所の裁量によることになります。審尋期日を開く場合、株主が株主総会招集許可の申立書を裁判所に提出した日から1週間から2週間程度先の日が審尋期日として指定されます。審尋期日においては、会社の代表者が呼び出され、会社代表者が裁判所で意見を述べることになります。会社代表者は弁護士を同伴することができます。審尋は会社非訟事件として行われることになりますので、管轄(会社法868条)、疎明(869条)の規定が適用されます。東京地方裁判所の場合、株主総会招集許可申し立て事件については、地裁民事8部が扱うことになります。

審尋における審理内容

会社法297条による株主総会招集許可の申し立ての要件は形式的要件であり、その存否はかなり明確ですので、まず形式要件(招集請求を行う株主が100分の3以上の議決権を有しているかどうかなど)を確認することになります。招集請求を行うものは、株主名簿や、その他の資料から自分が100分の3以上の株式を有していることを疎明しなければなりません。株主総会招集許可請求を行うのは少数株主の側であって会社の側ではありませんので、申立人である株主が疎明資料(株主名簿など)を有しない場合もあります。申立人としては、株主名簿の閲覧謄写請求を行うなどして、申し立て前に必要な書類をそろえておく必要があります。但し、会社が株主名簿の閲覧謄写請求に応じないなど、どうしても必要書類がそろわない場合は、裁判所から会社に対して株主名簿の写しなどを提出するよう指示してくれることもあります。この場合、申し立てに必要な書類については、会社側から資料の提供を受けることができることになります。

権利濫用の主張

株主総会招集許可申し立てに対しては、会社の側からは権利濫用の主張がなされることが多いと思われます。しかしながら形式要件を満たした株主による申し立てが権利濫用に該当する場合は極めて限られると考えられますので、会社側からの権利濫用の主張は認められないことが多いと思われます。しかしながら、会社側から権利濫用の主張がなされた場合は、それに対する反論を行う必要があり、さらに会社側から再反論がなされることもありますので、審尋期日が数回開催されることが多くあります。会社と少数株主の意見が対立するケースでは、株主総会許可申し立てから決定が出されるまでに3か月から半年程度の期間を要するのが通常です。

株主総会招集許可決定

審尋の結果、裁判所が株主総会招集許可申し立ての要件を満たすと判断した場合、裁判所は株主総会招集許可決定を出します。株主総会招集許可請求の要件を満たしていることが明らかな事案については、申立て日から3週間程度で株主総会招集許可決定が出されることがあります。一方、株主総会招集許可の要件の有無について争いがある場合は、株主総会招集許可決定を得るまでの間に3か月から6か月の期間を要することもあります。決定は「告知」の方法で申立人に伝えられますが、通常は裁判所から決定書が郵送で送られてきます。決定書には単に「株主総会を招集することを許可する。」とだけ記載され、理由の記載はありません。株主総会招集許可決定に対しては不服申し立てはできません(会社法874条第4項)。株主総会招集許可申し立てが却下された場合、申立人は即時抗告をすることができます(非訟事件手続法66条2項)。

株主による株主総会の招集手続き

招集許可決定を受けた株主は、全ての株主に対して招集通知を発送することで自ら株主総会を招集することができます。株主総会を開催するためには、株主総会の日時、場所、議題を決定する必要があります。株主総会招集許可決定がなされた場合、裁判所の許可を得た株主がいつまでに株主総会を開催しなければならないかという点について法律上の決まりはありません。但し、裁判所が許可決定の中で株主総会の招集の期限を定めた場合はその期限までに招集する必要があります。

株主総会の議長

招集された株主総会では、招集請求を行った株主が仮議長として議長の選任を行います。定款で取締役が議長となる旨が定められている場合が多くありますが、これは取締役が招集した株主総会について定めるもので、少数株主が招集した株主総会については適用されないと解釈されています。従って、総会の冒頭は株主総会を招集した株主が仮議長となって議長選任の手続きを行わなければなりません。株主が仮議長として議長選任の決議を行った結果、代表取締役や従前の取締役が議長に選任されることは問題ありません。結局、議長については、出席株主の過半数の議決権者の賛同を得たものが選ばれることになります。

株主総会の目的事項

裁判所の許可は、少数株主が招集することができる株主総会の目的事項について行われますので、裁判所が許可した目的事項以外の事項について決議することはできません。裁判所が許可した事項以外の事項について決議された場合、株主総会決議取り消しの訴えの対象となります(会社法831条1項)。

栗林総合法律事務所のサービス内容

栗林総合法律事務所では、株主総会許可申立てを行う少数株主を代理して裁判所に招集許可申立書を提出することが多くあります。栗林総合法律事務所は、株主総会招集許可決定を得るだけでなく、その後に開催される株主総会についても株主の皆様をしっかりとサポートさせていただきます。当事務所の行う業務には、株主総会招集通知の作成、招集通知の発送、株主総会の受付事務、総会の議事進行シナリオの作成、総会当日の立会い、録音テープによる総会の経過の保存、議事録の作成、役員変更登記の申請手続きなどが含まれています。また、当事務所では、少数株主側の代理だけでなく、株主総会招集許可申し立てがなされた会社側を代理し、審尋に出席して答弁を行ったり、株主総会招集許可申立てへの対抗措置として会社の役員主導の株主総会を開催するなど、裁判上及び裁判外での様々なアドバイスを行っています。

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