代表弁護士ブログ

2020年7月 3日 金曜日

M&Aにおける株価の算定(マルチプル法)

企業価値の算定
M&Aを行う際には株価の算定が重要となりますが、M&Aにおいて用いられる算定方法は企業価値を算定し、発行済株式数で企業価値を割って、一株当たりの企業価値(株価)を算定する方法です。上場会社の場合、市場で株式の取引がなされていますので、市場で取引される価格が株価となります。企業価値(株式時価総額)は市場で取引される株価×発行済株式総数によって計算されることになります。これに対して非上場株の株式については、上場株式のような市場価格は存在しません。また、相対での取引がなされることはあるものの、取引数がかなり限定されており、また多くの取引において当事者間の特殊事情が働いていますので、必ずしも取引事例価格が客観的公正な価格を示しているとは言えません。そこで、M&Aにおける非上場会社の株式の評価については、3つのアプローチのうちいずれか(またはその複数)を基に計算されることになります。企業価値の算定については、3つのアプローチがあります。

(1)「マーケットアプローチ」
マーケットから価値を把握するアプローチです。過去の取引価格をもとに価格を算定します。過去の取引事例に基づく価格の算定ですので、「取引事例方式」ということもあります。例えば過去の一定期間に1000円と1500円と2000円の取引が同数ずつ行われていた場合に、その平均値をとって株価を1500円とする方法です。しかし非上場会社の株式の取引事例は極端に数が少なく、様々な特殊事情が働いていますので、過去の取引価格が必ずしも客観的な価格を構成しているわけではありません。マーケットアプローチのもう一つの方法は、類似の上場会社の株価(市場価格)を参考にして非上場会社の株価を算出する方法です。上場会社の株式時価総額が、当該上場会社のEVITDAや純利益の何倍に当たるかを算出し、非上場会社についても、当該非上場会社のEVITDAや純利益に同じ倍率(マルチプル)を乗じて非上場会社の株式時価総額を算出する方法です。個々の株式の株価は、株式時価総額を発行済株式総数で割って算出されることになります。一定の倍率を用いて株式時価総額(企業価値)を算出する方法であることから、マルチプル法(類似企業比較法)とも言われます。マルチプル法は、非上場会社の企業価値(株式時価総額)を非常に簡単に算出できるメリットがありますが、どの上場企業を比較対象とするかによって算出される価格に大きな差異が生じてしまう可能性があります。また、非上場企業は小規模であることが多いため、比較的規模が大きいことが多い上場企業の中から類似している企業を探すことが困難ということもあります。会社の規模や事業内容などから類似の上場企業が存在しない場合、マルチプル法は使えないということになります。同族会社の同族が有する株式の評価額の算定の際に用いられる類似業種比準方式もこれにマーケットアプローチに該当します。

(2)「インカムアプローチ」
企業が生み出す収益をもとに企業価値を算出する方法です。最も一般的なのは、事業が生み出す将来のキャッシュフローを計算し、それを現在価値に割り引いて企業価値を算出するDCF(Discounted Cash Flow)法で、M&Aにおける株価の算定においても非常によく使われます。益還元法は、企業が将来生み出す収益を現在価値に換算して企業価値を算出する方法です。平均収益÷資本還元率で企業価値を算出します。例えば平均収益が1億円で、資本還元率が15%とすると、企業価値は1億円÷15%=6億6666万円ということになります。配当還元法も将来受け取ることができる配当を基に企業価値を算出するものでありインカムアプローチの一つです。同族会社における非同族株主(配当金を受け取る以外の影響力の行使が事実上できない)の有する株式の価格の算定などに用いられます。

(3)「コストアプローチ」
コストアプローチは対象会社の保有している資産を再取得するとしてそれに要するコストをもとに企業価値を算出する方法です。簿価純資産法はコストアプローチの一つで、自己資本を株式価値とみて、自己資本の金額を発行済株式総数で割ることで一株当たりの株価を算出します。コストアプローチのその他の方法としては時価純資産法があります。時価資産合計から営業債務と有利子負債を控除した金額を株式価値として、それを発行済株式総数で割ることで一株当たりの株価を算出します。時価純資産法における時価資産の計算においては、帳簿価格を基準とするのではなく、実際の市場での取引価格をもとに計算します。

マルチプル法(類似企業比較法)
マルチプル法(類似企業比較法)とは、類似した上場企業の評価倍率を元にして、対象となる企業をバリュエーションする方法です。類似した企業の評価倍率が「マルチプル」となります。類似した上場企業の時価総額が、その企業の利益、EBITDA、純資産などの何倍になっているかを計算します。非上場企業についても、企業の利益、EBITDA、純資産の数字に同じ倍率を乗じることで非上場企業の企業価値を算出することになります。上場会社の時価総額がEBITDAの何倍であるか(EBITDA倍率)や純資産の何倍であるか(純資産倍率)は公表されていますので、非上場会社のEBITDAや純資産の価格にこれらの倍率を乗じることで簡単に企業価値を算出することができます。

(1)「EBIT」と「EBITDA」
EBITは、「Earnings Before Interest and Taxes」の略で、利息や税金を支払う前の利益を指します。EBITDAは、「Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization」の略です。利息、税金、さらには減価償却費を差し引く前の利益のことを指します。実際に企業にどれだけキャッシュが残っているのかを示す指標です。マルチプルは、「時価総額÷EBITDA(またはEBIT)」から求められます。例えば、市場における一株の価格が3000円の上場会社があり、この上場会社が100万株を発行していた場合、この会社の時価総額は、3000円/株×100万株=30億円となります。この会社のEBITDA(またはEBIT)が1億5000万円であるとすると、「時価総額÷EBITDA(またはEBIT)=30億円÷1億5000万円=20となり、この企業のマルチプルは20倍となります。すなわちEBITDAの20倍が時価総額ということになります。

(2)PER
PERは、Price Earnings Ratioの略で、株式時価総額÷当期純利益で求められることになります。比較対象となる上場会社の株式時価総額が10億円で、当期利益が2億円だとするとPERは10億円÷2億円=5倍ということになります。ある非上場会社の純利益が5000万円の場合、5000万円×5倍=2億5000万円がこの非上場会社の株式時価総額になることになります。従って、仮にこの非上場会社が1万株の株式を発行している場合、一株当たりの株価は2億5000万円÷1万株=2万5000円ということになります。

(3)PBR
「Price Book-value Ratio」の略で、株式時価総額を純資産の価格で割って算出されます。例えばある上場会社の時価総額が12億円で、純資産が10億円であるとすると、12億円÷10億円=1.2がPBRということになります(株式時価総額は、純資産の1.2倍ということ)。仮に株価を算出しようとする非上場会社の純資産が7億円であるとすると、7億円×1.2倍=8.4億円が当該非上場会社の株式時価総額ということになります。従って、仮にこの非上場会社が1万株の株式を発行している場合、一株当たりの株価は8億4000万円÷1万株=8万4000円ということになります。




投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office

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