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信託を用いた事業承継と財産管理

信託法の改正

2006年12月15日に信託法の大改正が行われ、2007年9月30日から施行されています。改正信託法では、委託者が自ら受託者として信託財産の管理処分を行う自己信託を始めとして様々な新しい制度が設けられています。これによって従前は行えなかった事業信託が可能となったり、後継ぎ遺贈型の受益者連続信託が認められるなど、信託法の活用の範囲が大きく広がっています。近時では、祖父母から孫への教育資金の贈与に関連し、信託法の活用が言われています。そこで、信託とは何かについて概要を説明するとともに、新しい信託法をどのように活用できるのかについて解説していきたいと思います。

信託の基本構造

信託とは、委託者が受託者に対して信託財産の管理・運用・処分を委託し、受託者が信託財産の管理・運用・処分の結果得られた収益を受益者に分配する仕組みです。信託には、委託者、受託者、受益者、信託財産等の概念が用いられます。信託の設定は信託行為という委託者から受託者への委託によって行われます。信託行為によって信託財産の管理処分権限は受託者に移転しますので、以後信託財産の所有者は受託者となります。不動産が信託財産の場合、信託の登記を行うとともに、委託者から受託者への所有権移転登記を行い、信託財産が受託者の財産であることが登記上も明らかとなります。受託者は、委託者からの指示に基づき信託財産の管理・運用・処分を行い、信託財産から得られた利益を受益者に分配します。
このように信託行為によって信託財産の所有権は受託者に移転しますが、その経済的利益については、受益者に帰属するものですので、税務上は、信託の設定によって委託者から受益者に経済的利益の移転があったものとして、原則として受益者に対して贈与税等が課税されることになります(受益者等課税信託)。

信託の設定方法

信託法においては、信託の設定方法として3つの場合が定められています。第1は、信託契約によるもので、最も典型的な信託の設定方法です(信託法3条1号)。信託契約は、委託者と受託者との合意によって行われ、通常の場合信託契約書がされます。信託契約書においては、委託者、受託者、受益者の氏名、信託財産、信託期間、信託財産の運用方法などが定められることになります。上記に定めた信託登記においては、これらの内容が登記されることになります。

第2の方法は、遺言によって信託を設定する方法です(信託法3条2号)。委託者は遺言書の中で、受託者及び受益者の氏名、信託財産、その管理運用方法などを定めます。遺言による信託は遺言信託と言われ、遺言の一種ですので、遺言者(委託者)の死亡によって効力が発生します。遺言は、要式行為とされ、例えば自筆証書遺言の場合、遺言者が全文を自筆で作成し、作成日付を付し、署名押印することが必要とされていますが、遺言信託は遺言の一種ですので、これらの様式性が要求され、様式を欠く遺言(例えば自筆証書遺言において作成日付を欠く場合)については無効とされます。また、遺言信託は遺言者が死亡するまでは、遺言者が何度でも書き直すことができ、遺言者が生存中は、これを取消すことも自由です。

第3の方法は、自己信託と呼ばれる方法で(信託法3条3号)、委託者が自ら信託財産の管理処分を行うことを公正証書等で明らかにする方法によって設定します。自己信託では、委託者は自ら信託財産の管理・運用・処分を行いますので、委託者=受託者の関係に立ちます。但し、信託財産は委託者の財産から独立した財産ですので、当該財産が信託財産であることを対外的にも明確にする必要があることから、公正証書等一定の方式により書面によって行う必要があります。

信託の機能

信託財産は、委託者の財産から独立した財産となりますので、委託者が破産した場合にも、委託者の破産財団には組み込まれませんし、委託者が死亡した場合にも、相続財産とはなりません。また、委託者の債権者は、信託財産に対する差し押さえやその他の強制執行を行うことはできません。同様に、信託財産は、受託者の固有財産とも区別された財産ですので、受託者の債権者は信託財産に対して差し押さえをしたり、強制執行を行うことはできず、受託者が破産した場合も、信託財産は受託者の破産財団を構成するものではありません。このように信託財産を委託者の債権者からも受託者の債権者からも隔離する機能のことを信託の倒産隔離機能といいます。

信託の第2の機能としては、委託者の意思を凍結する機能があります。信託財産は、委託者の指図(信託行為の定め)に従い委託者が運用・管理・処分を行いますので、特別の定めがある場合を除き、委託者が死亡した後も、信託契約は継続し、委託者の定めた目的に従って財産の運用・管理・処分が継続されることになります。このように、委託者が自分の死亡後も自分の意思に従った財産の運用・管理・処分ができることを、信託の意思凍結機能といいます。

第3に、委託者は、信託の設定により、信託財産から得られる収益を受領する権利(収益受益権)と元本の帰属者(元本受益権)を別々に定めることができます。例えば、委託者は信託行為の中で、信託財産の運用によって得られる収益については、自分の子供たちに帰属させるとともに、元本については、自分の兄弟に帰属させるということも可能です。このように信託財産の収益受益権と元本受益権を分割して処分することができることを信託の権利内容分割機能といいます。

第4に、複数の信託行為による信託財産を一括してまとめて運用することが可能となります。例えば、100人の委託者がそれぞれ100万円ずつ信託した財産をまとめて運用する場合には、1億円の財産の運用が可能となりますので、より高額の財産(例えば高層ビル等都心の高額不動産)への投資を行うことが可能となったり、高額の投資をまとめて行うことで、投資の際の交渉力を増すことができ、より有利な条件での投資を可能とすることが考えられます。このように複数の信託財産をまとめて運用することができる機能を信託の集団的管理機能といいます。

詐害信託とその防止方法

上記の通り、信託には倒産隔離機能があり、信託財産は、委託者の財産から分離されることになりますので、支払い能力に窮した債務者が所有する財産を隠匿する方法として信託が用いられる可能性があります。委託者の債権者の立場からすれば、債務者が信託行為によって財産を減少させ、自己の債権の引き当てとなる財産が減少することになりますので、濫用的な信託の設定行為については、これに対する対抗策が必要となります。このような財産隠匿行為については、民法上は詐害行為取消権があり、債権者は裁判所に訴訟を提起して、財産の処分行為を取消し、債務者の財産を回復させることができます。同様に破産法上も、詐害的な財産処分については、破産管財人が否認権を行使し、当該財産処分行為を取消し、処分された財産を破産財団に組み入れることが可能となっています。

そこで、信託法においても、委託者がその債権者を害することを知って信託をした場合には、受託者が債権者を害することを知っていたか否かに拘わらず、裁判所に対し当該信託行為を取消すよう請求することができるとされています(信託法11条1項)。例えば資金繰りに窮した債務者が財産に対して信託を設定し、会社財産を受託者に移転させたうえで事業を継続し収益を得る一方で、旧来の会社を破産させ、債権者に損害を与えるような場合については、詐害的信託行為の取消しを行うことで、当該財産を債権者の債権の引き当てとなる債務者の財産に取り戻すことが可能となります。但し、信託法による詐害信託の取消については、信託の受益者が、信託の設定時において、委託者の債権者を害することを知らなかった場合は、取消ができないとされていますので、委託者としては善意の受益者を介在させることを財産の隠匿を図る余地があります。近時、詐害的会社分割によって財産を隠匿する行為が裁判上もよく問題とされていますが、詐害信託についても同様の判断基準を適用することが考えられます。

信託財産責任負担債務

信託の設定によって委託者から受託者に移転するのは、信託財産であり、委託者が負担している債務については、受託者に移転しない(受託者が責任を負わない)のが原則です。しかしながら、信託法において定められた信託財産責任負担債務については、受託者が支払い義務を負うことになります。信託財産責任負担債務としてどのようなものがあるかについては、信託法21条1項に定めがあります。そのうち、21条1項3号では、「信託前に生じた委託者に対する債権であって、当該債権に係る債務を信託財産責任負担債務とする旨の信託行為に定めのあるもの」を信託財産責任負担債務と定めています。すなわち、信託前に生じた債権であっても、受託者がその内容を了承し、債務引受がなされた債務については、受託者が引き継ぐことになります。債務引き受けの方法としては、免責的債務引受け(委託者は債務の責任を免れ、受託者のみが債務者となる場合)と、重畳的債務引受け(委託者も受託者も連帯して債務を負担する場合)の両方があります。そのうち、重畳的債務引受けは受託者の合意のみによって成立することができますが、免責的債務引受けについては、債権者の利害に大きな影響を与えることから、債権者の同意を得ることが必要となります。なお、信託債権を有する者が同意した場合には、委託者に責任を免れさせる(免責的債務引受け)に加えて、履行の責任を信託財産の範囲に限定することもできます(信託法21条2項4号)。すなわち、免責的債務引受けがなされた場合には、委託者が責任を免れる一方で、受託者は自己の固有財産も含めて責任を負うことになりますが、債権者の同意がある場合には、受託者も信託財産の範囲内でのみ責任を負うと定めることが出来ることになります。従って、信託財産がなくなってしまった場合には、受託者はそれ以上責任を負わない点で債務の範囲が限定され、受託者にとって有利となります。

限定責任信託

限定責任信託とは、信託行為により、その信託財産責任負担債務について受託者が信託財産に属する財産のみをもってその履行の責任を負う旨を定め、その旨の登記を行う信託です。信託財産責任負担債務の債権者は、信託財産からのみ支払いを受けることができるとされていますので、受託者の固有財産に対する差押えその他の強制執行などはできないとされています(217条1項)。従って、信託財産責任負担債務の債権者は、信託財産が債務超過となった場合には、債務の支払が受けられないことになり、損害を被る可能性があります。そこで、信託法では、限定責任信託については、限定責任信託である旨の登記を要求し(232条以下)、その名称中に限定責任信託という文字を用いることを強制し(218条1項)、受託者が取引をする際には、限定責任信託であることを取引の相手方に明示することを要求しています(219条)。限定責任信託は、信託法の改正によって新しく認められた制度ですが、責任の範囲を限定することができるということでは、委託者にとっても受託者にとっても非常に有効な制度と言えます。すなわち、会社法における株式会社は、有限責任とされ、会社の債務について株主は責任を負わないのが原則ですが、このような有限責任の制度によって投資家は投資の範囲を超えて損失を被ることがないことが明らかとなり、安心して投資を行うことができます(株主有限責任)。株主有限責任の制度は、投資家とは別の法人格を作ることで投資家の責任を限定する制度であり、資本主義社会の根幹ともいえる制度ですが、信託法でも、委託者も受託者も信託財産の範囲を超えて責任を負わないとなれば、責任の範囲が明確となり、信託の活用の幅が大きく広がると考えられます。特に、後述の事業信託においては、有限責任の原則は必須となります(限定責任信託の制度を活用することで、事業信託が可能となります)。

事業信託

株式会社が、その一事業部門を本体から切り離して信託譲渡し、受託者が事業を継続するということが考えられます。会社が、ある特定の事業に関する資産と負債を切り離すという点では、会社分割の制度に類似しています。上述のとおり、信託財産については積極財産であることが原則ですが、委託者と受託者が同意した場合には、特定の債務について受託者が債務引き受けを行うことが可能となっています。また、債権者が同意する場合には、委託者の責任を免除するだけでなく(免責的債務引き受け)、責任の範囲を信託財産の範囲に限定することもできますので、受託者についても固有財産からの弁済義務を負わないことができることになりました。同様に、上記の限定責任信託を活用する場合には、その後に生じる債務についても、信託財産の範囲内でのみ責任を負うと定めることも可能となりました。信託財産は、法人格を有してはいませんが、資産と負債を委託者の財産からも、受託者の財産からも切り離すことが出来ることで、一種の法人格類似の状態を創出したことになります。このような信託を事業信託と言います。

事業信託は新しい信託法の下で認められた制度を活用することで創出が可能なものであり、利用件数はそれほどないと思われます。しかし、下記の通り、資金調達の場面などにおいては、有効な制度であり、活用を検討することもあげられます。例えば、ある会社(パチンコのチェーン店X社)が新しい店舗を3店舗出店するにあたり、60億円の資金が必要とします(1店舗当たり20億円)。X社自らが債務者として銀行などからの借入を行うことも考えられますが、X社が倒産した場合、貸主は弁済を受けられなくなってしまう可能性が高いと思われます。もちろん、通常資金の借入を行う場合には、担保の提供を要求されることが通常ですが、X社において既に他の債権者に会社資産を全て担保提供済みであり、十分な担保となる資産がないこともあります。パチンコの台は購入価格に比較し、処分価格が極めて安いことから、十分な担保とならない場合が多く、リースなどが用いられている場合はそもそも担保提供ができません。また仮に担保となる不動産があり、これに対して抵当権等の担保を取得したとしても、X社が会社更生の申立を行った場合には、貸主の有する担保権は、更生担保権となりますので、更生計画によって減額されてしまうことが十分に考えられます。

そもそも、上記のような場合に、最も価値のある事業資産は、パチンコ店の運営によって入ってくる日々の売上であるとも考えられます。貸主の側からすれば、万一仮にX社が倒産したとしても、X社が倒産後も事業を継続し、日々の入金の中から返済を継続してくれるのが最も好ましいと考えられます。また、貸主は、X社が今後出店する3店舗の事業価値に着目して融資を行うものであり、X社のその他の事業価値(多くの場合他の債権者が担保権を設定している)について担保価値を認めているわけではないとも考えられます。以上からすれば、X社が3店舗を特定の受託者に信託譲渡し、X社が取得した信託受益権を貸主への担保として貸主に譲渡するという方法が最も適切ではないかと考えられます。信託の設定により新しく開店される3店舗は信託譲渡されていますので、仮にX社が倒産しても信託の倒産隔離機能により、3店舗の財産はX社の破産財団に取り込まれることなく、3店舗の事業を継続することができます。3店舗の事業が継続している限り貸主は、確実に資金が回収できると思われます(場合によっては、貸主が指定した振込口座の預金通帳を管理することで、日々の入金を自ら管理することも考えられます)。事業の継続中の収益をX社に分配する必要がある場合には、受託者とX社との間で、事業の運営管理委託契約を締結し、管理費をX社に毎月支払うということもあり得ます。そして、60億円の支払が完了した段階で、貸主が信託受益権をX社に移転するか、信託契約を終了させることで、以後の収益はX社に帰属するようにすることも可能です。このように事業信託を有効に活用する場合には、新しい形態のファイナンスも可能となる可能性がありますので、今後の新規事業について十分に検討に値するのではないかと思われます。

遺言代用信託

遺言信託は、遺言の一種ですので、遺言の要式性が要求されるとともに、その効力は委託者の死亡によって発生することになります。一方、遺言代用信託の場合は、委託者が生存中に自らを受益者として信託を設定し(このように委託者=受益者である信託を受益信託と言います)、委託者が死亡した場合にあらかじめ定めていた者に受益権が移る信託です。従って、委託者の死亡後は信託行為の中で定めていた受益者が受益者となります。例えば、委託者が、自分の持家を信託財産とし、自らを受益者として信託を設定し、自分が死んだ後は、自分の妻(ないし自分の子供)を受益者とすると指定することができます。

遺言代用信託は、信託契約により生前中から信託を設定するものですので、委託者による取消しが制限され、受益者の地位の安定が図られます。また、上記の通り、遺言による様式性を回避することができ、様式性の欠如による無効となる恐れを避けることができます。生前中に信託を設定することで、当該財産が遺産の範囲から除外され、相続人による紛争を回避することが出来るメリットも考えられます。但し、遺言代用信託の場合も、遺留分減殺請求の規定は適用になりますので、他の相続人の遺留分を侵害する場合には、遺留分減殺請求の対象となる可能性があることに注意を要します。

後継ぎ遺贈型の受益者連続信託

信託法91条では、受益者の死亡により、当該受益者の有する受益権が消滅し、他の者が新たな受益権を取得する旨の定めのある信託の設定が可能としています。例えば、委託者が、自宅を信託財産とする信託を設定し、自己の生存中は、委託者を受託者とするが(上記の受益信託)、自分の死亡後は、妻を受益者とし、妻の死亡後は自分の子供を受益者とするというような定めをすることが可能となりました。このような信託を後継ぎ遺贈型の受益者連続信託と言います。

上記のように委託者が自分の死亡後の受益権をいつまでも定めることができるとすると、委託者にとっては自分の死亡後も自分の意思で財産の帰属を差配することができ、非常に有益と思われますが、一方、信託が終了するまで、当該信託財産の受益権ないし所有権の最終的な帰属者が定まらないことになりますので、不確定な財産を生み出すことになり、場合によっては取引の安全を害する可能性もあります。そこで、信託法では、上記のような後継ぎ遺贈型受益者連続信託については、当該信託がされた時から、30年を経過した時以後に現に存する受益者が当該定めにより受益権を取得した場合であって、当該受益者が死亡するまで、または当該受益権が消滅するまでその効力を有するとしています(91条)。すなわち、信託の設定後30年経過した後に、新たに信託受益権を取得した者が死亡した時点で信託は終了することになります。例えば30年目の時点でAさんが信託受益権有しており、40年目にAさんが死亡し、Bさんが信託受益権を取得した場合、Bさんが死亡した時点で信託は終了することになります(Bさんが信託受益権取得後50年生存した場合は、信託設定時から90年信託が存続することになります)。

民法の相続による定めでは、相続人が法律によって定められており、遺言書を作成する場合でも、必ずしも委託者の希望通りに財産の承継を行うことが出来ない場合が多くあります。後継ぎ遺贈型受益者連続信託は、アメリカなどではよく利用される制度ですが、今回信託法の改正によって日本でもこれが認められたことの価値は非常に大きいと思われます。

例えば、田中一郎には前妻(死亡)との間に子供である田中二郎がおり、その後、後妻である花子(旧姓高橋)と結婚したとします。法定相続では、田中二郎と後妻の花子が半分ずつ財産を相続することになりますが、田中一郎としては、後妻の生活が心配であることから少なくとも後妻の生存中は後妻を自宅に住まわせたいと考えています。一方、田中一郎の自宅は田中家から代々承継した財産であるので、後妻の死亡後はその財産を田中二郎に承継してもらいたいと考えていたとします。もし、田中一郎が遺言を書き、後妻である花子に相続させたとすると、花子は生存中にその財産を処分してしまうことが可能となりますし、仮に花子が遺言を書かずに死亡した場合には、当該財産は花子の法定相続人である高橋家のだれか(例えば両親や兄弟)が相続してしまうことになり、田中一郎の望みをかなえることはできなくなります。このような場合に、後継ぎ遺贈型の受益者連続信託により、自宅を信託財産とする信託を設定し、田中一郎の死亡後は花子を受益者とし、花子の死亡後は田中二郎を受益者とすることで、一郎の目的を達することができます。もし花子の死亡によって信託を終了させたいのであれば、花子の死亡を信託の終了事由とし、田中二郎を元本受益者と定めることで、花子の死亡後は田中二郎が当該不動産の所有者となることもできます。

同様の事例は妻に連れ子がいる場合でも生じると思われます。例えば、田中一郎が花子と結婚したところ、田中一郎が子供を設けることなく死亡した場合、法定相続分としては花子が3分の2(花子と一郎の両親が相続人の場合)ないし4分の3(花子と一郎の兄弟が相続人の場合)を取得することになり、花子の死亡後は、花子が相続した財産は花子の親族に相続されてしまうことになります。もし、田中一郎がその財産を田中家から相続したものである場合は、田中一郎としては田中家の出身である自分の兄弟などに相続してもらいたいと考えるかもしれません。このような場合にも、後継ぎ遺贈型受益者連続信託を活用することで、花子の生存中は一郎の財産から生じる利益(例えば賃貸マンションの賃料)を花子に取得させ、花子の生活を保障するとともに、花子の死亡後は、田中一郎の兄弟に承継させることで、最終的に当該財産の所有権を田中家に帰属させることができます。このように、後継ぎ遺贈型の受益者連続信託は、委託者の死亡後における財産の受益者を何代にもわたって定めることが出来る制度ですので、相続について活用することで、従前できなかった新しい財産の承継方法に大きな道を開くと考えられます。