• 2023.03.28
  • 国際相続

国際相続における準拠法

国際相続における問題点

国際相続とは、相続人または被相続人が外国籍の場合や、相続財産が外国に存在する場合のように国境を越えて生じる相続をいいます。被相続人が日本人である場合であっても、例えば、その者が日本に在住している場合もあれば、相続財産のある外国に在住している場合、遺産のある国とは別の外国に在住している場合もあり得ます。さらに、相続財産が外国及び日本にある場合と、外国のみにある場合も考えられます。このような国際相続においては、①適用法の問題(相続人が誰かという問題や、相続財産の範囲についての問題)、②財産を実際に取得するための手続きに関する問題(例えば、預金であれば、金融機関から実際に払い戻しを受けるための手続)、③相続税の問題(どの国に対していつまでにいくらの相続に関わる税金を支払う必要がかるのかということ)が関わってくるため、国際相続の手続きは複雑なものになります。

法適用の問題(準拠法)

相続における準拠法がどの国の法律になるかということが問題となります。日本における国際相続については、法の適用に関する通則法(通則法)第36条において、「相続は、被相続人の本国法による。」と規定しています。よって、国際相続においては、被相続人が国籍を有する国の法律が適用されることになります。例えば、被相続人が日本国籍を有する者であれば、たとえその者が海外に在住している場合や相続人が外国籍を有している場合であっても、その者を被相続人とする相続については日本法が適用され、相続人の範囲や相続財産の範囲についての問題は日本法によって定まることになります。反対に、被相続人が外国籍を有している場合には、被相続人の本国法によることになりますので、日本法は適用されないことになります。

包括承継主義と管理清算主義

相続財産について、外国の現地法が適用になる場合には、プロベイトと呼ばれる手続きの対象となる可能性もあります。日本は包括承継主義を採用しており、被相続人の資産・負債が包括的に相続人に相続されるため、遺産管理人の関与が必要ではないことから、相続人は、直接金融機関などと相続財産である預金の払い戻しのための交渉をすることができます。ドイツ、フランス、イタリア、スイスなどの大陸法系諸国でも包括承継主義を採用しています。これに対して、アメリカやイギリスなどの英米法系の国では、遺産承継について管理清算主義をとっているため、遺言の有無に関わらず、相続財産は、日本などのように直接相続人に承継される(このような制度は包括承継主義と言われます。)のではなく、裁判所の監督下で行われる清算手続(この手続きがプロベイトと呼ばれます。)を経て、残った積極財産のみが相続人に分配されることになります。そのため、日本での遺産分割協議や、遺産分割調停・審判、遺言書の効力がそのままプロベイトで裁判所により承認されるとは必ずしも限りません。

相続統一主義と相続分割主義

日本や韓国、ドイツ、イタリア、スペイン、ポーランド、ハンガリー、ギリシャ、スウェーデンなどにおいては、相続財産が動産であるか不動産であるかに関わらず、上述のとおり、被相続人の本国法や住所地法が相続における準拠法とされます。相続に関する法律関係を被相続人の属人法(本国法や住所地法)によって一体的に処理するものを相続統一主義と言います。これに対して、アメリカなどの英米法圏においては、不動産相続と動産相続とを区別する相続分割主義が採用されています。フランス、ベルギー、ルクセンブルク、中国なども相続分割主義をとっています。相続分割主義の法制のもとにおいては、例えば、不動産については不動産の所在地の法律を適用し、動産や流動資産については、被相続人の住所地法を相続の準拠法とするなどとされており、財産の種類によって適用法が異なることになります。よって、仮に被相続人が日本国籍を有しており、相続の手続きにおいて日本法が適用される場合であるとしても、被相続人の不動産が相続分割主義を採用する外国に所在していれば、不動産の相続についてはその不動産所在地の外国法が適用されます。相続財産が動産や流動資産であっても、被相続人が海外に居住していた場合には、動産や流動資産の相続について、被相続人の住所地法である外国法が適用される可能性があります。

相続財産の管理に関する準拠法

日本のように相続に関する準拠法が包括承継主義をとる場合であっても、相続財産が海外にある場合には、その国の裁判所に対して財産の相続に関する申し立てを行う必要があります。この場合、相続財産の管理に関する準拠法は、動産であるか不動産であるかを問わず、遺産の所在する地の法律が適用になります。従って、アメリカやイギリスなど管理清算主義をとる国に相続財産がある場合、プロベイト手続きが必要かどうかや、プロベイト手続きの中でどのようにして財産の清算を行うのかについては、財産所在地の法律によって決定されることになります。一方、アメリカやイギリスにある相続財産を相続人に分配する過程における準拠法については、手続きが係属している裁判所の国際私法の適用によって決定されることになります。アメリカのように相続分割主義をとる国においては、不動産については、不動産が所在する地の法律を準拠法とし、動産や流動資産などのその他の財産については被相続人の本国法やドミサイルのある国の法律が適用になることになります。日本人がアメリカに不動産と動産を有している場合、不動産と動産の管理については、財産が所在する州の法律が適用になりますが、相続人への分配に際し、相続人が誰であるかという問題や各相続人の相続分の問題については、相続分割主義の適用により、不動産については財産が所在する州の法律が適用になり、動産については被相続人の本国法(日本の法律)が適用になることになります。また、財産が所在する地の国の国際私法でドミサイルのある地の法律が動産や流動資産についての準拠法となる場合は、被相続人が日本国籍を有する場合であっても、死亡時にその国に居住しドミサイルがその国にあると認められる場合は、ドミサイルがある国の法律が準拠法となります。

反致(通則法41条)

X国の国籍を有する人が亡くなり、その遺産相続がなされる場合、日本法によれば被相続人の本国法が準拠法となりますので、その相続についてはX国の法律が適用されることになります。この場合、X国の国際私法で不動産の相続については不動産の所在地の法律によると定められている場合、日本にある不動産については、X国の国際私法の適用により日本法が適用になることになります。このように、一旦外国の法律が適用になった後、その外国の法律によりまた日本の法律が適用になる場合のことを反致と言います。準拠法の決定においては反致が成立するかどうかも検討する必要があります。反到が成立するかどうかはX国(被相続人の本国)における国際私法によって決定されることになります。被相続人の本国における国際私法の調査が必要となります。被相続人の国際私法については日本における通則法のように一つの法律っとなっていることもあれば、実体法や慣習の判例などの集積として国際私法が存在することもあります。問題となっている単位法律関係(例えば相続)については適用される準拠法規定のルールを明らかにする必要があります。

国際私法の適用

結局遺産分割の手続がどこの国の裁判所に申し立てられるかにより、その手続き国の国際私法が適用になり、準拠法が決定されることになります。例えば、日本の裁判所に遺産分割の申立がなされた場合には、日本の国際私法に従って準拠法が決定されることになります。上記の通り、日本の国際私法では、被相続人の本国法が遺産相続についての準拠法とされますので、被相続人が日本人であれば日本法が適用されることになります。従って、相続人が誰かという問題や相続財産の範囲についての大部分の問題は日本法により決定されることになります。但し、海外に所在する財産の相続においては、海外の裁判所に相続手続きの申し立てをせざるを得ないことがあり、また、管理清算主義をとる国においては、裁判所の許可なしに相続財産を勝手に処分することはできないことになります。その場合、その外国に所在する財産に対してどの国の法律が適用になるかは、その外国の国際私法によって決定されることになります。

アメリカにおけるプロベイト手続きの概要

アメリカでのプロベイト手続きにおいては、裁判所から選任された人格代表者(personal representative: 遺言で指定された遺言執行者(executor)または裁判所が選任した遺産管理人(administrator))が、被相続人の財産を集めて財産目録を作成し、遺産の管理をし、被相続人の債権者に対して債務の弁済を行い、税金の申告をし、残余財産を権利者に分配します。権利者である相続人や受遺者の範囲については、裁判所で行われるプロベイト手続きにおいて、有効と判断された遺言及び州法に従って確定されることになります。相続財産である預金が存在する金融機関は、裁判所が発行した証明書(遺言執行者であれば letters testamentary、遺産管理人であれば letter of administration)を有する者に対して預金の払い戻しを行い、その後、裁判所で確定された権利者の範囲に従って分配されることになります。

香港におけるプロベイト手続の概要

香港においても、アメリカなどと同様に管理清算主義が採用されており、相続財産の分配においては裁判所による承認(遺産管理状の授与書:Grant of Letters of Administration)が必要となります。そして、プロベイトを経ないで相続財産が処分された場合には、プロベイト及び遺産管理法(Probate and Administration Ordinance)違反として処罰される可能性があります。なお、相続における適用法の選択(準拠法選択)においては、動産や流動資産と不動産とを区別せず、相続財産の所在地法が適用されることになります。香港におけるプロベイトの手続きについては、非争訟的プロベイト実務ガイド(Guide to Non-Contentious Probate Practice)が実務上の問題点について説明しています。

遺言の方式の準拠法

日本における相続では、国際相続の場合においてどの国の法律で遺言の有効性を判断するかということについて、遺言の方式の準拠法に関する法律が定めています。そして、法第2条は、遺言者が国籍を有していた国の法のみならず、行為地法、住所地法、不動産の所在地法などの方式に従った遺言であっても有効であるとしています。ただし、外国法に従った遺言が有効であるとしても、その遺言のみによって、法務局での被相続人の不動産登記の変更や銀行預金口座の解約が認めてもらえるとは限りません。この場合には、日本の弁護士によって作成された遺言の有効性に関する現地法に基づく意見書の提出が求められることが多くあります。また、外国法による遺言書が現地の公証を得たものではない場合には、家庭裁判所での検認手続きを得ることを求められることもあります。そのため、日本での遺言の執行を想定しているのであれば、日本の方式で遺言書を作成しておくことで遺言書の執行が容易になるということはあります。

遺言の方式の準拠法に関する法律

遺言の方式の準拠法に関する法律第2条では、「遺言は、その方式が次に掲げる法のいずれかに適合するときは、方式に関し有効とする。」として、次の場合を挙げています。
① 行為地法
② 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時国籍を有した国の法
③ 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時住所を有した地の法
④ 遺言者が遺言の成立又は死亡の当時常居所を有した地の法
⑤ 不動産に関する遺言について、その不動産の所在地法

遺言書の海外での執行

上述のとおり、日本法のもとで有効に成立した遺言であっても、外国の裁判所がその遺言の有効性を認めない可能性もあります。そのため、特に、相続の準拠法が外国法となることが想定されるような場合には、財産の所在地ごとにその国の方式に従った遺言書を作成しておくことも検討すべきです。

日本人の財産が海外にある場合の手続上の問題

被相続人が日本人であっても、日本人の財産が海外にある場合には、日本にある日本人の財産を相続する場合とは異なる注意すべき点があります。例えば、相続財産が外国の銀行にある預金の場合には、その預金の払戻金を遺産分割の対象とすることになりますから、まずは預金の払い戻しを受けることが必要になります。払戻を受けるに当たり具体的にどのような相続を証明する書類が必要であるかについては、銀行支店所在地の法と実務によることになりますので、具体的な払い戻しの手続きを知るためには、その預金のある外国の法と銀行実務の調査が必要となります。

弁護士意見書が求められる場合

外国の現地の銀行から預金の払い戻しを受けようとした場合に、現地の金融機関から、相続人の範囲及びその根拠を求められることがあります。また、被相続人の遺言執行者が預金の支払いを求めた場合は、遺言執行者の選任の事実についての証明を求められることもあります。さらに遺言書が存在する場合には、遺言書の有効性について、日本法を根拠として証明することが必要となることもあります。これらの場合には、金融機関としては、日本の弁護士によって作成された意見書の提出を想定していることが多く、弁護士の意見書を提出することによって、払い戻しの手続きを進めることができます。

預金口座がアメリカの支店にある場合の払い戻し手続き

アメリカの預金の払い戻しを受ける場合には、死亡診断書、遺言書、遺産分割協議書、住民票、戸籍謄本などの原本及びその英訳が必要となります。さらに、それらの書類について、公証人の面前で書類の作成者が署名すること(公証)を金融機関から求められる場合が多くあります。公証は、日本では、公証人役場で受けることができますが、アメリカとは異なり、必ずしもすべての書類について容易に公証を受けることができるとは限りません。例えば、死亡診断書に公証を受けようとすれば、公証人の面前で、死亡診断書を作成した医師に署名をしてもらう必要がありますが、そのような対応をする医師を見つけることは容易ではありません。そのため、海外の金融機関から公証を受けることを求められた書類が、公証を得ることが困難なものであるような場合には、金融機関に対してその事情を説明し、代わりとなる証明書などを弁護士により作成することが必要となることもあります。

香港の預金解約の例

被相続人(日本人)は、会社からの派遣により香港の子会社に出向し、家族と一緒に香港で生活していましたが、突然の脳梗塞により倒れ、そのままお亡くなりになりました。家族は日本に帰国しましたが、香港に在住中に香港上海銀行の口座に預金を有しており、その解約が問題となりました。栗林総合法律事務所は、亡くなられた方の奥様からの依頼により香港の協力事務所を通じてプロベイトの申立を行い、香港の弁護士が財産管理人となって裁判所の管理下で銀行預金の解約を行い、無事に預金を日本に送金することが出来ました。亡くなられた方の奥様としては、ご主人が亡くなるという失意の中で、複雑な手続きを取ることが難しく、また預金の解約のためだけに現地に赴くことも難しかったことから、現地に出向くことなく預金の払い出しを受けることができ非常に感謝いただきました。

ニューヨークの裁判所でのプロベイト手続

日本人のご主人がニューヨークの銀行に預金を残したまま亡くなられるケースがありました。日本の財産は法定相続人間の遺産分割協議により分割が完了しましたが、アメリカの銀行から預金残高明細証が送られてきて、アメリカの銀行にも預金があることが分かりました。相続人からアメリカの銀行に対して預金の払い戻し請求を行おうとしましたが、たらいまわしにされて、確たる返事をもらえないまま時間が経過することになりました。その後、日本の相続人から当事務所に問い合わせがなされ、銀行預金の払い戻し手続きを依頼されることになりました。当事務所でも最初は銀行との連絡を取ろうとしたのですが、結局ニューヨーク州の弁護士などとも協議をしたうえで、銀行からの任意の払い戻しを受けることは難しいことが分かり、ニューヨーク州でのプロベイトの手続を取ることで預金の払い戻しを行うことにしました。このケースでも、ニューヨーク州の弁護士にプロベイト選任申立手続きを行ってもらい、裁判所の管理下で預金の払い戻しを受け、無事預金の解約を行うことができました。

栗林総合法律事務所のサービス

栗林総合法律事務所では、海外預金の解約に関するご相談を多く受けております。アメリカ、イギリス、香港、シンガポール、オーストラリア等の国においては、日本の相続法とは異なる遺産相続手続きがなされることになりますので、現地の法律に従った相続手続きを取ることが必要になります。また、海外に相続財産が有る場合には、その土地の相続税が課せられることがありますので、日本における相続税の申告とは別に現地における相続税の申告手続きをとることも必要になります。栗林総合法律事務所では、プロベイト手続や相続税に詳しい現地の法律事務所と連絡を取りながら、適切な法律手続きを確定し、預金の払い戻しや相続税の申告手続きをサポートいたします。もし、海外預金の解約や相続についてのご相談がございましたら、当事務所までご連絡ください。

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