代表弁護士ブログ

2020年6月 4日 木曜日

会社の社員からセクハラ被害の申し出があった場合の対処法

会社による対処の重要性
当事務所にもセクハラ被害についての相談を受けることが多くあります。内容としては女性の体を触ったというものや、女性社員を呼び捨てにするなどの不適切発言というものもあり、セクハラ行為に該当するかどうかの判断はかなり難しいケースもあります。会社の内部で内部通報制度や、目安箱制度等正式な通報制度があり、当該通報制度に基づく申告がなされた場合は、それらの規定に基づく対処が求められます。セクハラ被害の申出があるにもかかわらず、適切な対処をせずに放置していた場合、当該社員から会社の管理体制に問題があったとして損害賠償を求めて会社が訴えられることもあります。一方で、十分な事実の調査を行わずに、就業規則に基づく懲戒処分を行った場合には、反対にその男性社員から損害賠償請求訴訟や、懲戒手続きの無効確認請求訴訟を提起されることもあります。セクハラ被害の申出は、労務管理上の重要な事項ですので、そのまま放置しておくのは好ましくありません。関係者からの事情を聴取し、セクハラ被害の有無を確認し、就業規則や労働基準法等に基づく適切な対処を行う必要があります。

外部の専門家からの意見書の取得
当事務所では、事実関係についての説明を受けた上で、セクハラに該当するかどうか、セクハラの調査の方法として気を付けるべき点はないか、仮にセクハラに該当するとしてどのような処分が適切であるか、関係者に対する説明をどのように行うかなどについてのアドバイスを行います。弁護士によるアドバイスを口頭又は書面で受けることで、処分の妥当性・相当性を補強することができます。万一将来訴訟などになった場合にも、当事務所からの意見書や経過報告書を証拠として提出することで、会社の主張を補強することができます。

事実調査
セクハラの調査は極めて微妙な人間関係にも拘わってきますし、調査をする担当者自身の公平性が問題とされたり、調査担当者が不公平であるとして加害者や被害者からの不満の対象に置き換えられることも生じます。当事務所では会社からの依頼により、客観的記録の精査、関係者からのヒアリング等により事実関係の調査を行い、セクハラ被害の有無、適切な処分の内容等についての報告書を作成し、会社に提出することがあります。第三者からの調査を受けることで、調査結果についての客観性と公平性を確保することができます。また、セクハラがあったとの申し出自体が社内の軋轢を生じさせる微妙な問題ですので、限定させた少人数の口の堅い担当者のみで対処し、情報が外部に拡散することのないよう注意する必要があります。

処分の相当性・妥当性の判断
① 関係者への説明
ヒアリングなどの事実調査の結果、セクハラに相当する事実がないと判断された場合、事実関係についての争いがあるが、積極的にセクハラの事実を認定するまでには至らないと判断されたような場合、申出人に対して調査結果を報告し、当該女性社員の納得を得るよう努める必要があります。説明は人事担当役員や総務部長などから行いますが、プライバシーの観点からは余り多数で行うのは好ましくありません。また反対に説明の経過について客観性を持たせ、将来、「言った、言わない」の争いになった場合にも対処できるよう、複数(2名か3名)で対応する必要があります。事実調査や説明の経過を含めた経過報告書を作成し、外部への漏洩のない方法で管理します。

② 注意・戒告
セクハラに該当する事実が認められると判断される場合、就業規則に基づく加害者への懲戒処分が検討されることになります。懲戒処分を行う場合には、就業規則のどの規定に該当するか、懲戒処分を行う手続きを踏んでいるかなどを確認します。当事務所では、就業規則や関係規則から、懲戒処分の妥当性、手続きの適正性についてのアドバイスを行います。比較的軽微な場合は、業務上の指揮命令権の範囲内での注意処分にとどめることもありますし、就業規則に基づく注意・戒告処分(懲戒処分)がなされることもあります。しかし、適切な説明ができない場合には、加害者であるとされる社員に不満が生じたり、加害者である社員の退職などにつながることになりかねません。場合によっては、退職後に会社に対する損害賠償請求がなされることもあり得ます。加害者側からの反駁も十分に聞き、本人の納得のいく説明・処分を行う必要があります。

③ 減給、出勤停止、降格、懲戒解雇
悪質なセクハラに該当すると判断される場合は、就業規則の規定に基づく、減給、出勤停止、降格、懲戒解雇等の処分を行うこともあり得ます。加害男性にとっては極めて重大な影響がありますので、処分については極めて慎重に行わなければなりません。懲戒解雇については、退職金の支給を行うかどうかも判断しなければなりません。処分の内容について加害者本人の納得が得られない場合、加害男性から退職の申出がなされたり、退職後に損害賠償訴訟が提起されたりする可能性もあります。また、懲戒解雇については、懲戒解雇が不当であるとして地位確認の訴訟・損害賠償請求訴訟などが提起される可能性もあります。

④ 訴訟への対応
当事務所ではこれまでも懲戒解雇の相当性を争う労働審判や地位確認請求訴訟で会社を代理してきたことが多くあります。訴訟においては事実関係の他、処分の妥当性や懲戒手続きの相当性が争われることが多くあります。例えば、懲戒解雇の通知に記載のない懲戒解雇事由は認められるかなどが問題とされることもあります。会社の側としては、被害申出がなされた時点からの時系列に基づく詳細な経過報告書を作成し、保管しておく必要があります。また、関係者へのヒアリング結果については、訴訟になった場合であっても陳述者の秘密を守る必要から裁判所に対する証拠提出を行っていいかどうかを慎重に判断する必要があります。

⑤会社の責任
会社は使用者責任として従業員の管理監督責任がありますので、会社の中でセクハラやパワハラ行為が行われた場合、これにより被害を被った人に対して会社自身が損害賠償義務を負っている可能性があります。セクハラやパワハラの事実確認ができた場合には、会社についても被害者への賠償や示談について検討しなければなりません。

社内規則の整備、コンプライアンス体制(CSR)について
セクハラ被害の申出があった場合には、就業規則の内容を見直し、セクシャルハラスメント防止規則の制定や、セクハラガイドラインの作成・社員への周知など、職場環境の改善に向けた取り組みを行っていく必要があります。仮に訴訟になって会社が訴えられた場合であっても、このような取り組みを行っていることは訴訟においても会社側にとっての有利な事情と判断されます。当事務所では、セクシャルハラスメント防止規則の作成や内容のチェックを含め、これらの取り組みについてのアドバイスも行います。

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2020年6月 4日 木曜日

私生活の非行(痴漢行為・暴行)を理由とする懲戒解雇

私生活上の非行を理由とする懲戒処分の可能性
私生活上の非行行為であっても、会社の評判を害したり、会社の業務が遅延するなどとして、会社の業務に影響を与える場合には、懲戒事由とすることができます。但し、実際にどのような行為について懲戒をすることができるかは微妙な判断を要することになります。

労働契約法15条による懲戒解雇の有効性の判断
民間企業における懲戒解雇が有効とされるためには、就業規則の懲戒解雇事由に該当すること、適正な手続きが取られていることのほか、その懲戒解雇が客観的に合理的で、社会通念上相当であることが必要とされています。懲戒解雇の合理性・相当性を判断する基準については、色々な裁判例の蓄積がありますが、平成19年に労働契約法が施行されて以降は、労働契約法の規定に従って判断されることになります(労働契約法の規定は従前の判例の立場を明文化したものとされています)。労働契約法15条の規定は次の通りです。

「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を乱用したものとして、当該懲戒は無効とする。」
 
従って、被告としては、原告の行為が就業規則上の懲戒解雇事由に該当することに加え、当該懲戒解雇の処分が客観的に合理的であり、かつ社会通念上相当であることの主張立証が必要ということになります。

私生活上の非行を理由とする懲戒解雇についての学説
私企業における懲戒権の根拠については、学説上、集団的組織体としての企業が本質的に有するという固有権説と、懲戒権の根拠は労働者との契約により発生するものである(就業規則は労働者との契約を集約したもの)という契約権説の両方がありますが、裁判所は、企業には秩序を維持する必要があることから、従業員には企業秩序の維持に協力すべき義務があり、企業には企業秩序維持に必要な範囲で懲戒権の行使を行うことはできるとの立場をとっています。そこで、企業秩序維持に直接関係のない私生活上の非行を理由とする懲戒権の行使が可能であるか、可能であるとしてどのような場合に懲戒権の行使ができるのかが問題となりますがこの点は過去の裁判例をもとに判断されることになります。

関西電力事件(勤務時間外のビラ貼行為)
関西電力事件で最高裁判所は、「職場外でされた職務遂行に関係のない労働者の行為であっても、企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなど企業秩序に関係を有するものであるから、使用者は企業秩序維持確保のために、そのような行為をも規制の対象とし、これを理由として労働者に懲戒を課することも許されるのであり、右のような場合を除き、労働者は、その職場外における職務遂行に関係のない行為について、使用者による規制を受けるべきいわれはないものと解するのが相当である。」(関西電力事件:最判昭和58年9月8日労判415号29頁、労働判例百選第8版58事件)と述べています。この判例は、勤務時間外に職場の外で会社を誹謗中傷するビラを配布した行為に対する譴責処分を有効と判断したものですが、ビラの内容が会社を誹謗中傷するものであったことから、会社としては企業秩序維持のため、これに対して懲戒権を行使する必要があったとの判断があると思われます。

小田急電鉄事件(電車内での痴漢)
小田急電鉄事件の原審(東京高裁平成15年12月11日)では、「会社の社会的評価に重大な影響を与えるような従業員の行為については、それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであっても、これに対して会社の規制を及ぼしうることは当然認められる」としたうえで、電鉄会社の社員が電車内での痴漢を繰り返し、懲役4か月、執行猶予3年の有罪判決を受けた事件について、「控訴人の行為が被控訴人の名誉、信用その他の社会的評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められる」として、本件懲戒解雇は懲戒権者の裁量権の範囲を超えるものではないと結論付けています。小田急電鉄事件は、勤務時間外における電車内(小田急以外の私鉄)での痴漢ですから、会社の活動とは直接関係しませんが、私鉄会社として痴漢の撲滅運動に取り組んでいる最中に、鉄道会社の社員が痴漢を行ったことで、会社の信用を害することになったとの判断があると思われます。

横浜ゴム事件(のぞき見)
覗き見目的で他人の住居に侵入し、罰金2500円に処せられた原告に対し、就業規則上「会社の対面を著しく汚した者」に該当するとして懲戒解雇処分にした会社の処分の有効性が争われた横浜ゴム事件において、最高裁判所は、「問題となるXの右行為は、会社の組織、業務等に関係のないいわば私生活の範囲内で行われたものであること、Xの受けた刑罰が罰金2500円の程度に止まったこと、Y会社におけるXの職務上の地位も蒸熱作業担当の工員ということで指導的なものでないことなど原判示の諸事情を勘案すれば、Xの右行為が、Y会社の対面を著しく汚したとまで評価するのは、当たらないというのほかない」として、懲戒処分を無効としています(最高裁判所昭和45年7月28日)。大企業の会社の一従業員が覗き見目的で住居侵入行為を行い刑事罰が科されたとしても、会社の信用性を害したり、業務に支障を生じたりというような、企業秩序維持に直接の影響は存在しないとの判断があったものと思われます。

私生活上の非行を理由とする懲戒処分の判断基準
これらの判例からすれば、私生活上の非行についての懲戒処分の相当性を主張する場合には、会社の側としては、従業員の行為が次の何れかにあたることの主張立証が必要と言うことになります。
① 会社の円滑な運営に支障を来す恐れがあること(会社の誹謗中傷ビラ配布)
② 職務遂行と直接の関係のある行為であること
③ 会社の社会的評価に重大な影響を与えること(鉄道会社社員の痴漢)

栗林総合法律事務所のサポート内容
私生活上の理由を理由とする懲戒解雇が一切認められないわけではないですが、当該行為が会社の円滑な運営に支障を生じさせるかなど、上記の判例の基準に基づいて判断されることになります。痴漢行為や電車内での暴行などを理由として逮捕されたことを理由とする懲戒解雇が許されるかどうかはケースバイケースと言うことになります。事実関係をもとにアドバイスを行いますので、当事務所までお問い合わせください。

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2020年6月 4日 木曜日

団体交渉への対応

団体交渉の種類
団体交渉は、労働者の代表が会社の経営者と労働者の地位や待遇について交渉することです。労働法により認められた従業員の権利ですので会社は協議交渉することを拒否することはできません。団体交渉を行う労働組合としては、会社内部の労働組合の場合と、会社外部の合同労組やユニオンと言われる団体の場合があります。会社に労働組合がない場合、労働者の側では労使交渉ができませんが、従業員の一人であっても、外部のユニオンに話を持ち込むことで団体交渉を行うことが可能となります。

団体交渉の申し込みがあった場合
団体交渉の申し込みがあった場合、会社の側では、協議交渉を行う義務はありますが、話が妥結しない限り、労使協定書の締結などまでが必要となるわけではありません。労使協議が妥結しないまま協議が終了ということもあります。

労使協定書の締結についての注意点
労使協定書や労使協約を締結するかどうか、どのような内容の労使協定書を作成するかは、会社の経営の根幹にかかわるほど重要な問題です。労使協定書と労使協約はほとんど同じ意味になります。会社の経営者としては労使協定書や労使協約を締結する意味合いを十分に認識して労使協定書を締結するかどうかを判断する必要があります。すなわち、労使協定書を締結した場合は、その後の会社経営においても常に労使協定書の内容に拘束されるということです。会社においては、労働者との協力関係のもとに円滑な事業運営を行うことが重要と考えて、経営の中に従業員代表の意見が反映されるようになっている会社もあります。このような会社は民主的事業運営がなされており、従業員と経営者との一体感の中で、従業員の信頼を獲得しながら経営がなされているとも言えます。しかしながら、経営が困難に至った状況下では、労使協定書の存在が事業運営に対する大きな制約となることもあります。オーナーの独断先決で経営を引っ張っていくオーナー企業においては、企業風土にそぐわない可能性もあります。

就業規則の改定、待遇改善の申し込み
労使協議がなされる場合であっても、例えばアルバイトなど非正規従業員の地位改善のために就業規則の改定を行ってほしいという提案がなされることがあります。また、法律の改正により労働者代表者の意見を聴取する必要があるような場合もあります。このような場合には、労働者代表の意見も参考にしながら、就業規則の改定や労働者の待遇改善について協議を図ればいいわけですので、上記の労使協定書や労働協約の締結とは意味合いを大きく異にします。会社側の弁護士としては、このような申し入れの性質を個別に判断し、会社として協議交渉に応じていいものと、協定書や協約の締結を行うことがリスクを伴う可能性があるものを正確に区別して扱う必要があります。

解雇の撤回を求める申し入れ
ユニオンを通じて従業員の解雇の撤回の申し入れがある場合があります。これは会社を解雇された従業員がインターネットなどで相談場所を探し、ユニオンに相談に行ったことから、ユニオンから会社への協議の申し入れがあったものと思われます。本来であれば解雇無効の確認については、団体交渉とは性質を異にし、当該個別の労働者の個別的事案の問題であって、労働専門の弁護士を通じて労働審判や労働関係訴訟で解決すべきであったのではないかとも思われます。ただし、労働審判や労働関係訴訟は時間や費用・労力を要しますので、ユニオンとの協議により、例えば3か月分の給料相当額を支払うので、解雇無効は撤回し示談するということも行えますので、より迅速な解決が図れる可能性があるとも言えます。会社側の弁護士としても、このような個別の事案についてはその背景を理解し、うまく解決に持っていけるよう協議交渉の場を活用するという考え方もあると思います。

労働法制についての理解の重要性
最近は労働関係の法律が毎年のように変更になっており、新しい法令や規則が次々と成立しています。このようなものには、同一労働同一賃金、セクハラ・パワハラ規定、育児休業・介護休業、非正規社員の扱い、派遣業法の改正等様々なものがあります。労使協議は昔のように一方的に賃金の引き上げを求めるものだけではなく、法令の改正に応じて会社としてできるだけ法令に合わせた体制をとるよう求めてくるものも多くあります。会社の側の弁護士としては、これらの法律や規則の改正内容を理解し、従業員の求めるものの合理性や妥当性を判断し、会社の運営に生かしていくという考えで臨む必要があると思われます。その一方で、会社の運営に大きな制約となる労使協定などについては、そのリスクを十分に理解し、その意味合いについて経営者に正しく伝える役割があると思われます。

栗林総合法律事務所の役割
栗林総合法律事務所は団体交渉の申し入れがあった会社を代理して、団体交渉に臨みます。また、会社の代表者が団体交渉に出席する際に、法律の専門家として代表者に同席することもあります。従業員からの話をよく聞き、経営に活かしていけるものについては、会社代表者と協議しながら会社の経営に反映していけるようにします。一方、会社の経営の支障になり、会社にとって不利益となる可能性のある提案については、その意味合いを十分に理解し、経営者にアドバイスしていきます。

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2020年6月 4日 木曜日

労働審判の申し立てがなされた時の対応

労働審判とは
労働審判手続きとは平成18年4月から始まった労働事件専門の紛争解決手続きです。裁判に比べて労使間の紛争を迅速に解決します。対象となる事件は労務に関する事件に限定されますので、ほとんどの事件が未払残業代支払請求事件か解雇無効確認の請求になります。労働審判委員会は、労働審判官(裁判官)のほか、労働者代表の労働審判員、会社代表の労働審判員の3名で構成されます。審判手続きは裁判所の中で行われますが、通常の法廷とは異なる会議室のような場所で行われます。手続き的には、調停に近く、双方の主張を聞きながら労働審判官が妥当な解決案を提示し、当事者の了解を得る方向で審理が進められます。労働審判について異議のある当事者は異議申し立てを行うことができ、事件は通常訴訟に移行することになります。

迅速な紛争解決手続き
労働審判の特色は迅速に紛争を解決するところにあります。労働審判の申し立てがあった場合、通常40日以内に第1回の審判期日が指定され、申し立ての相手方である会社側は第1回期日前までに答弁書と証拠を提出することが求められます。40日と言っても実際には第1回期日の1週間前くらいまでに答弁書と証拠を提出するよう求められますので、準備の期間は最大でも30日程度に限られます。実際には極めて限られた時間ですので、会社側の弁護士としては、迅速に事案の概要を把握し、関係者からのヒアリングや証拠の検討、事件に関係する関係者の陳述書の作成などを行っていかなければなりません。第1回の期日において如何に説得力のある主張や説明ができるかが結果に対して大きな影響を与えることになります。事件の全体像を把握し、証拠による肉付けをしながら、しっかりとしたストーリーを示せるかどうかが重要となります。

第1回期日
第1回期日では、審判委員から双方の代理人に対して色々な質問がなされることが多く、通常の訴訟の場合と異なり、代理人はできるだけその場で回答することが求められます。この点で、第1回の期日には会社の代表者や事案の内容をよく把握している担当者も同席するのが好ましいと思われます。第1回期日では、双方に対して追加でどのような資料や証拠を提出するかについての指示がなされます。またあらかたの和解案の方向性が示されることもあります。弁護士としては、事前に事案の内容を把握し、労働審判官(裁判官)からの質問に適切に回答できるよう準備しておく必要があります。審判官(裁判官)からの質問内容はほとんどが事実に関連する質問ですので、事前にどれだけ事実経過を整理して理解し記憶しておくことができるかが重要となります。

第2回期日
第2回期日では、追加で提出された証拠の確認を行うとともに、審判委員から双方の当事者(代理人)に対して和解案が示されることになります。審判委員からはよく検討するようにということで示されますが、実際には強制に近く、和解案に合意するかどうかの判断を迫られるのに近いと考えられます。但し、ほとんどの事件では、一方当事者の意見のみに基づく一方的な和解案が出されることは少なく、双方の立場に配慮した和解案が出されることが多いと思われます。例えば解雇無効確認の事案では、解雇の無効は認められないが、会社は従業員に対して3か月から1年の給与に相当する和解金を支払うよう言われることがあります。当職らの経験では、和解金の金額としては給与の3月から6月の額に相当する場合が多く、12か月に近い和解金が提示された場合は、かなり申立人側に有利な和解提案であると考えています。その後に起こる訴訟を考えた場合、3月から6月の給料に相当する和解金の場合は会社側としては和解に応じたほうが好ましいと思われます。

第3回期日
第3回期日は双方が労働審判委員会の提示した和解案に同意することを確認するだけの手続きとなります。実際には、全体の8割近くが和解により解決しています。労働審判手続きが導入されたことで紛争の迅速な解決が図られるようになり、弁護士を含めた関係者の評価は極めて高くなっています。但し、全国的に見た場合、まだ労働審判の手続きが導入されていない裁判所のほうが多く、今後私法予算も検討しながら、地方での労働審判の定着が図られていくことになると思われます。

審判
3回までの労働審判期日に和解が成立しない場合は、労働審判という審判(決定)がなされることになります。審判に対して双方の当事者から不服がなければそのまま審判内容が確定し、当事者は審判の内容に従って金銭の支払いなどを行うことになります。審判に対して不服のある当事者がいる場合は、労働審判に対する異議申し立てを行い、事件は通常訴訟に移行します。当事務所で扱った事件の中でも当事者からの異議申し立てにより1件だけ通常訴訟に移行した事件があります。未払賃金支払請求訴訟に関するものですが、訴訟費用(弁護士費用を含む)を考えた場合、訴訟への移行が適切だったか疑念があります。当事者の思い入れが強い場合は訴訟による解決にならざるを得ないことになります。

労働審判における弁護士費用
労働審判は申し立てから70日程度で終了するのに対し、訴訟の場合1年から1年半以上の期間を要し、その間証拠の提出、検証、反論などに多くの時間を取られることになります。
弁護士の立場からしても手続きの準備に要する時間や負担は労働審判の3倍から5倍程度になることが多くあります。弁護士費用についても労働審判は着手金と成功報酬を合わせて80万円から100万円程度になることが多いのに対し、労働関係訴訟については着手金と成功報酬を合わせて100万円から300万円程度の報酬を要することになります。この点からしても、労働審判は費用的にも安く、労働事件の処理には向いていると考えられます。

労働審判における弁護士の活用
労働審判においては極めて限られた時間内で証拠を検討し、主張の方向性を定めて答弁書を作成していかなければなりません。会社の担当者だけで対応するのは極めて困難ですので、どうしても弁護士によるサポートが重要になると考えられます。会社の担当者としては、労働審判の申立書を受領した後、できるだけ早く法律事務所に相談することが重要です。事件を担当する法律事務所としては、着手が遅くなるほど準備の時間が少なくなり、準備に制約が課されてしまうからです。栗林総合法律事務所は、解雇無効や未払残業代支払い請求事件において労働審判や労働訴訟を多く扱った経験がありますので、労働審判についての代理が必要な場合はご連絡ください。

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2020年6月 4日 木曜日

従業員の解雇・退職勧奨

従業員の解雇を行う際の注意点
会社としては、従業員のモチベーションを高め、職務に専念してもらうことで、会社の業績への貢献を期待していると思われます。しかしながら、実際には多くの問題があり、従業員の解雇を検討せざるを得ない場合もあります。

・従業員の能力が著しく劣る場合
・会社の現金を横領するなど不正行為を行った場合
・協調性が著しく欠ける場合
・ギャンブルなどで私生活に問題がある場合
・上司の指示命令に従わない場合
・秘密情報をライバル企業に開示するなど会社に損害を与えた場合

解雇を検討する場合は、まずその事実があったのかどうか、仮にその事実があったと思われる場合でも、それを立証する証拠があるのかどうかを確認する必要があります。当該従業員本人がその事実を認めている場合は、違法行為の存在を自白したということ自体が大きな証拠となります(自白した内容は客観的証拠とするために書面に記載し、本人に署名押印してもらう必要があります。)。また、かかる事実が存在するとして、それが普通解雇や懲戒解雇の事由に該当するのかどうかの検討も必要です。普通解雇や懲戒解雇に該当する事由については、就業規則に定めがなされていますので、就業規則のどの条文のどの事由に該当するかを確認することになります。就業規則に記載がない場合、解雇ができないわけではありませんが、会社としては、法令違反など解雇の客観性・相当性を立証しなければならないことになります。

解雇の種類
労働法における解雇にはいくつかの種類があります。解雇が認められる要件や手続きも解雇の種類に応じて異なります。

普通解雇
普通解雇については、労働契約法16条に規定があり、①客観的に合理的な理由を欠き、②社会通念上相当であると認められない場合は、無効とするとされています。例えば、従業員が怪我により労働能力を喪失し、仕事を行うことができない状態になれば労務提供義務を果たせなくなったわけですので、解雇については客観的に合理的であり、社会通念上相当と判断される可能性が高いと思われます。もちろん従業員の傷病については労働基準法により様々な制約(解雇制限)がありますので、そちらも検討する必要はあります。仕事の能力が著しく劣る場合は、就業規則の定めによっては懲戒解雇に当たる場合がありますが、就業規則に定めがなければ普通解雇によることになると思われます。仕事の能力が著しく劣る場合はどの程度かは過去の判例をもとに判断されることになります。例えばタクシードライバーで平均的売り上げが長期にわたって一般の社員の5分の1程度しかない場合などに解雇が有効と認められた判例があります。会社の経営を行う上では、インターネットのセキュリティの技術者として採用したが、インターネットのセキュリティに関する知識や経験がほとんどなかったというような場合など、解雇を検討される場合は多いのではないかと思われます。

整理解雇
整理解雇は会社が経営上の困難に直面し、従業員の解雇を行わなければ会社の存続を図れないような場合に行われるものです。整理解雇については最高裁判所からいわゆる整理解雇の4要件が示されており、現在でもこの4要件が判断基準となっています。

① 人員削減の必要性
② 解雇回避努力義務
③ 人員選定の合理性
④ 手続きの相当性

①の人員削減の必要性は、会社が経済的苦境にあり、整理解雇を行わなければ会社の存続を図れないことを客観的数字で示す必要があります。②の解雇回避努力義務では、配転・出向・希望退職者の募集などを行い、解雇を回避する最大限の努力を行ってもなお解雇が必要であることが必要です。③の人員選定の合理性は、解雇する人の選定が恣意的でなく客観的に合理的であるかどうかが判断されます。④の手続きの相当性は、労働組合や労働者に対する丁寧な説明や協議交渉がなされたかどうかが判断基準とされます。最近では割増退職金を提示することで、退職希望者が殺到し、整理解雇を行わない場合もあります。しかし、これは割増退職金を支払える余裕のある企業であるとも言えます。

懲戒解雇
懲戒解雇は、従業員が就業規則に規定する懲戒解雇事由に当たるような行為を行い、会社に損害を与えた場合に認められます。懲戒解雇を行う場合、当該従業員に与える影響が極めて大きく訴訟に発展する可能性も高いですので、会社は、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、①客観的に合理的であるかどうか、②社会通念上相当であるかどうかを慎重に検討する必要があります(労働契約法15条)。すなわち、会社としては、懲戒解雇事由に該当する行為が行われたかどうかという事実認定を客観的証拠に基づき行う(事実認定)とともに、その行為が懲戒解雇に相当すると判断することが客観的に合理的で社会通念上相当であると言えるかどうかについての判断も求められます(法的評価)。また、懲戒解雇を行う場合は、就業規則に定められた手続きを履行する必要がありますので(適正手続き・デュープロセスの問題)、例えば賞罰委員会についての規定がある場合は賞罰委員会を開催して懲戒解雇の決定を行う必要があります(なお、賞罰委員会を開催する場合、当該委員会が諮問機関か決定機関かを確認しておく必要があります)。懲戒解雇を言い渡す場合、解雇通知を交付して行う必要があります。解雇通知には解雇事由を記載しておく必要があり、解雇通知に記載のない解雇理由を後日追加することはできません。但し、懲戒解雇は何度でも行うことができますので、当初行った解雇が無効とされる可能性がある場合は、別の事由による解雇を予備的に言い渡しておく(予備的解雇)ということも考えられます。懲戒解雇が無効とされる場合であっても、別の懲戒事由がある場合には、別の懲戒事由に基づき別途懲戒解雇を行うこともできます。

合意による退職
懲戒解雇の場合、退職金が支給されないことが多いと思われます。従業員にとっては懲戒解雇に当たるかどうかで退職金がもらえるかどうかの大きな違いが生じてきます。会社としては、懲戒解雇とすることで裁判などの紛争になる可能性があることを考慮すれば、退職金を支払う代わりに従業員の側が自発的に退職してくれることに同意してもらうのが好ましいとも考えられます。また、実際上も解雇の有効性が争われる労働審判や労働訴訟において
退職金を支給する代わりに、退職に応じるという内容の和解が成立することも多くあります。会社としては、懲戒事由がある場合にも、直ちに懲戒解雇を行うのではなく、当事者と話し合いを行う余地がある場合には、自発的退職の可能性について協議することもあり得ると思われます。なお、合意による退職の際に、退職合意書の中に競業避止義務や秘密保持義務を追加しておき、違反した場合の損害賠償の予約についても規定することもあります。

退職勧奨
退職勧奨は、会社から従業員に対して自発的退職について検討するよう勧奨を行うものです。強圧的な内容の場合、退職処分と同じになりますので、あくまで従業員の側からの自発的退職を勧めるものでなければなりません。従業員の側からも退職金の満額支給が受けられることを条件に退職勧奨に応じる可能性も高いと思われます。

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