代表弁護士ブログ

2020年6月 4日 木曜日

未払残業代支払請求への対応

未払残業代の支払請求
現在の従業員や退職した従業員から未払残業代の支払請求がなされた場合、会社としては、未払残業代の有無について調査し、未払残業代がある場合はその金額を支払わなければなりません。しかしながら、会社の側が考える未払残業代と、従業員の側が考える未払残業代の額について食い違いが生じることが多くあります。

未払残業代の支払請求は労働者の権利になりますので、会社の側で支払いたくないとか支払うお金がないという理由だけでは支払いを拒むことはできません。しかしながら、本当に未払残業代の支払義務はあるのかどうか、あるとしていくらの金額があるのかはしっかり確認しておく必要があります。

例えば、雇用契約書の中で、月20時間までの労働時間については、賃金の中に含まれていると合意されている場合、月20時間までの残業代の支払請求はできないことになります。また、未払残業代の金額についても、就業準備の時間や、仕事が終わったのちの片づけや着替えの時間も残業代に含まれるのかどうかを争う余地はあります。また、通勤時間を残業代として請求するケースがありますが、通勤時間については残業代の対象となりません。

就業規則・雇用契約書での確認
未払残業代の支払請求はどこの会社でも起こりうる問題です。そこで、未払残業代の支払請求がなされたときはもちろん、そうでない場合でも就業規則や雇用契約書の見直しを行い、未払残業代支払請求に備えておく必要があります。例えば、月20時間までの超過勤務時間が給与の中に含まれるとしている場合であっても、本来の給与部分と超過時間の給与部分がきちんと分けて計算されていない場合は、そのような規定は無効とされる可能性があります(裁判例ではこのように解釈されています)。

残業代を基本給に含む規定(定額残業手当)の問題
未払残業代の支払請求を回避するために、月20時間までの超過勤務時間の給料(割増残業代)に含まれると規定している会社が多くあります。その場合でも基本給部分がいくらで、割増残業代部分がいくらであるかを雇用契約書や給与明細書の中で明らかにしていなければ無効と解釈される可能性があります。例えば、ある社員の給与が月額40万円とし、月の勤務時間が160時間だったとします。20時間の超過勤務時間が含まれていない場合の時間単価は、40万円÷160時間=2500円となります。従って割増賃金は、2500円×1.25=3125円となります。もし毎月20時間の残業をさせており、これが給料の中に含まれないとするとこの社員の月間の未払残業代は3125円×20時間=6万2500円となります(2年間では150万円)。雇用契約書や給与明細の中で、残業時間分を分けて記載しているかどうかだけでこれだけ大きな差が生じてくることになります。未払残業代の支払請求への対処方法(現在の扱いで本当に問題がないのかどうか)について一度検討されておくことをお勧めいたします。また、いくらの時間でも無制限に給与に含まれると規定できるわけではなく、判例などを基にすれば、おおむね月40時間を超えて基本給に組み入れると規定している場合はその規定自体が無効と判断される可能性が強くなります。従って、月40時間を超える残業代についてはやはり支払わなければならないことになります。

業務日報に残業代を記載させる方式の問題
残業については上司の許可が必要としつつ、従業員に毎日業務日報を提出させ、慣習上ほとんど毎日定時に退社している旨の日報を書かせている場合があります。この会社からすれば、上司の許可のない残業は認められず、実際に上司の許可はなされていないのであるから、
残業は生じていないと考えていることがあります。また、業務日報や出退管理簿で出社時刻と退社時刻が毎日記載されており、残業の記載はないのであるから、証拠上も未払残業代はないとの考えを持っている会社があります。しかしながら、このような規定と運用を行っていたとしても、実際の業務時間が8時間を超えている場合は、やはり未払残業代を請求されるリスクは高いと考えられます。特に大勢の社員が勤務していながら、誰も残業が一時間もないということのほうが不自然です。上司の許可がない点については、会社の慣習上許可のない残業が常態化していたと解釈される可能性があり、また、残業時間については請求する社員がパソコンや携帯などに記録を残している可能性もあります。従って、このような規則や運用をしている会社こそ未払残業代支払請求がなされるリスクが高いと考えられます。

労働基準監督署からの改善命令
退職した社員については直ちに法律事務所に相談に行き、直ちに未払残業代の支払請求訴訟を提起してくることがあります。これに対して現役の従業員の場合は、労働基準監督署に相談に行き、労働基準監督署から会社に対する立入調査や是正勧告がなされることがあります。この場合、全ての従業員に対する未払残業代の有無を確認し、未払部分については全従業員に対して支払いを行い、その結果を労働基準監督署に報告しなければならないことになります。労働基準監督者の調査はある程度疑いがある場合に行われるものであり、会社としては無視することは極めて危険と考えられます。労働基準監督署からの問い合わせについては毅然とした態度で対応しつつも、事実関係をしっかり説明する必要があります。しかしながら、労働基準監督署に説明する事実が持つ法的意味合いを理解しないまま説明した場合は会社が思わぬ不利益(ちょっとした説明の差により数千万円の差が出てくる)を被ってしまう可能性があります。当事務所が関与した事例でも、労働基準監督署も会社(社会保険労務士)の側も、各事実の持つ意味合い(会社にとって有利な事実なのか不利な事実なのか)を全く理解しないままに議論していたことが多くありました。また、労働基準監督署の介入がなされている場合は、ある程度の落としどころを考えて、法令順守体制の構築についての説明も必要となります。栗林総合法律事務所は、顧問先企業に対して労働基準監督署からの調査があった場合、顧問先企業を代理して労働基準監督署と協議し、問題解決を支援いたします。

証拠保全申し立てへの対応
弁護士が代理して未払残業代の支払請求をしてくる場合は、タイムカードや出勤簿、日報などについての証拠保全の申し立てがなされてくることが多くあります。証拠保全は裁判所の手続きですので、裁判官が同席して検証や書面の開示請求が行われます。証拠保全には密行性の原則がありますので、相手方である会社に対して事前に反論の機会は与えられないまま証拠保全を行うかどうかの決定がなされます。証拠保全については相手方による証拠の隠ぺいを回避するため、通常送達がなされた当日などに検証がなされます。検証の中では、各書類について写真撮影が行われ、その記録は後日裁判の中で証拠として提出されることになります。証拠保全の場合も、当日裁判官に説明することで、会社の秘密情報などは開示の対象外とすることは可能ですし、十分に準備ができない書類については後日提出するということで了解されることもあります。通常の会社の場合、証拠保全はあまり経験がないと思いますので、裁判所から証拠保全の連絡がきた場合には当事務所にお問合せください。当事務所では、証拠保全への立会いや裁判官との協議交渉を行います。

付加金の請求(労働基準法114条)
労働基準法114条では、裁判所は、未払賃金の支払請求がある場合、未払賃金と同一額の付加金の支払いを命ずることができるとされています。すなわち、未払残業代も未払賃金の一部ですので、付加金の請求が可能です。但し、付加金が認められるかどうかは、裁判所の裁量によることになっています。未払いに至った事情や交渉の経過を踏まえ、会社の側の違法性が強いとみられる場合に始めて付加金が認められることになります。また、賦課金は違反のあったとき(未払いが生じたとき)から2年以内に請求しなければならないとされています。支払い請求が遅くなった場合は、その分だけ付加金の金額も少なくなります。

未払残業代の時効期間
労働基準法115条では、賃金の時効期間は2年間とされ、退職金の時効期間は5年間とされていました。これは未払賃金の有無については、時間の経過とともに判定が難しくなってしまいますので、民法174条1項1号において通常の場合よりも短い短期時効(1年)を定めていたところ、労働者保護を図るため労働基準法で2年の時効期間としたものです。2年間の時効期間の開始時期は、本来の賃金の支払い時期になります。従って、2020年1月分の給料(2020年1月末に給与の支払い請求ができる)については、2022年1月末までに請求しなければならないことになっていました。これに対し労働基準法115条が改正されたことにより、2020年4月からは、残業代請求権の時効期間は3年となりました。従って、2020年4月分からの未払い残業代については、3年の時効期間になりましたので、その間に裁判所に請求する必要があります。会社の側からすれば、未払残業代の支払請求が認められた場合の支払額が大きくなってしまいますので、より慎重に対応していくことが必要になります。

時効の中断
未払残業代の支払請求を弁護士に委任した場合、弁護士から会社に対して未払残業代の支払いを求める内容証明郵便が出されることになります。これは、法律上は支払残業代の支払請求を行う催告という効果があり、時効の中断事由にあたることになります。従って、従業員の側は、訴訟提起の時から過去に遡って2年(2020年4月からは3年)前までの残業代の支払い請求ができるのではなく、内容証明郵便が会社に届いた時から過去に遡って2年(又は3年)前までの残業代の支払い請求ができることになります。従業員の立場からは、弁護士に依頼して早めに内容証明郵便を出してもらうことはその分だけ多く未払残業代の支払いを受けることができるということになります。但し、実際の裁判になった場合は、時効中断の効果が生じていたかどうかが争われることも多くあります。

協議交渉による解決
未払残業代の請求があった場合、裁判外での話し合いによる解決ができる場合は、お互いにとって費用的にも最も好ましいと考えられます。栗林総合法律事務所は、会社を代理して未払残業代の支払請求に対応いたします。

労働審判・訴訟
従業員の側から労働審判や未払残業代支払請求訴訟が提起された場合は、訴訟への対応を行わざるを得ません。通常原告はできるだけ大きな金額の請求を行ってきますので、原告の請求のうち明らかに根拠のないものは外していき、最後に本当の残業代に該当するものはどれでいくらの時間になるのかを証拠と照らし合わせながらしっかり確認していく作業が必要となります。特に労働審判については、1回目の審判期日までに証拠をできるだけ多く提出する必要がありますので、迅速にかつ集中的に審理の対応の準備を進めていく必要があります。

残業代が給料に含まれている場合(定額残業手当)の未払残業代の有無
雇用契約書や就業規則により一定時間の残業代が給料に含まれている場合、その時間についての残業代の支払い請求を行うことができないのが原則です。しかしながら、給与に含まれているというためには、基本給に当たる部分と残業代に当たる部分を明確に区別し、給与明細にもその旨を規定しておく必要があります。また、一定の時間を給料に含めているといってもその時間を超えた部分についてはやはり残業代の支払いが必要となりますので、労働時間管理をしっかり行っておく必要があります。また、給与に含めることのできる残業時間は、おおむね月40時間までですので、これを超える時間を給与に含めているとの契約は無効とされる可能性があります。

管理監督者についての適用除外
労働基準法41条では、管理監督者の地位にある者については、労働時間、休憩、休日に関する規定は適用にならないと定めており、管理監督者の地位にある者は未払残業代の支払請求を行うことができません。そこで、実際の裁判においては管理監督者に該当するかどうかが争われることが多くあります。管理監督者に当たるためには、①管理監督者にふさわしい重要な職務と権限が与えられていること、②出退勤など時間管理についての管理を受けていないこと、③その地位にふさわしい賃金が与えられていること、が必要とされています。管理監督者と言えるためには、経営者と一体となって会社の運営に関与し、労務命令上の指揮監督権限を有していることが必要と考えられます。また、労働時間については自由裁量があることが必要です。マクドナルドのようなチェーン店の店長については、管理監督者にあたる場合とあたらない場合があると言えます。通常の会社における部長職の者については、管理監督者と言えることが多いと思いますが、課長職については管理監督者と考えられることが多いものの、そうでないとの判断もあり得ると思われます。

個人事業主(外部受託者)による未払残業代支払い請求
会社の業務を受託して請け負っている個人事業主は、会社の従業員には該当しませんので、未払残業代の支払請求もできないことになります。毎日会社に来ており、他の社員と同様の業務を行っている場合であっても、個人事業主としての契約を有している限り残業代の支払い請求は難しいと考えられます。デザイナーや税理士などでこのような立場の人は多くいると思われます。車両持ち込みのトラック運転手(一人親方)の場合も、業務委託による自営業者となります。これに対して、車両の持ち込みを行っていない運転手については、契約の形態如何に拘わらず(契約書のタイトルが雇用契約書ではなく業務委託契約書となっている場合であっても)、自営業者ではなく従業員であると判断されることも多いと思われます。トラック運転手の一人親方が個人事業種に当たるか従業員に当たるかについては、最高裁判所の判例がありますので、参考にしてください。

裁量労働制の場合
労働基準法では、一定の専門業務については、裁量労働制を適用することができ、実際にどれだけ労働したかに拘わらず、労使間で合意した時間分を勤務したものとみなすことができるとされています。この専門業務型裁量労働制については、対象となる業務、職務遂行の手段や方法、みなし労働時間などを労使で協議し合意の上労働基準監督署に届け出ておくことが必要となります。この職種に含まれる者については、みなし労働時間の範囲内とみなされる時間について残業代の支払請求を行うことができません。

出来高払制の場合の未払残業代支払い請求
出来高払いの労働者については、実際に行われた労働時間に拘わらず、出来高に応じて一日当たり何万円という形で給料が支給されることになります。この場合、時間当たりの報酬は、実際に働いた時間で報酬を割ることで算出されることになり、労働者は未払い残業代の支払い請求権は有しないことになります。但し、割増賃金の部分(8時間を超えた部分の時間単価の1.25ではなく、0.25の部分)については、未払いであるとして請求できる可能性もあります。

会社が有する不法行為損害賠償請求権
会社が労働者に対して不法行為損害賠償請求権や貸付金債権を有する場合、会社の側から未払残業代(受働債権)と不法行為損害賠償請求権や貸付債権(自働債権)を相殺することはできませんが、会社の側としては訴訟において反訴を提起し、未払残業代支払請求訴訟と損害賠償支払請求訴訟を併合して審理してもらうことは可能です。

未払残業代計算ソフト
未払残業代支払い請求がなされた場合、本当に未払残業代があるのかどうか、仮に未払残業代があるとしていくらになるかをきちんと計算することが重要になります。原告(従業員の代理人)からは、未払残業代計算ソフトを使った様式による請求がなされることが多いと思われますが、会社の側では未払残業代の有無を含めてその請求を争うのであれば、未払残業代計算ソフトを使わずに、エクセルなどにより独自に計算するのが相当と考えられます。会社側と従業員側では、労働時間の考え方などについても立場が異なるからです。

未払残業代支払請求への対応
上記のように未払残業支払請求がなされた場合には、労働基準法のあらゆる条文の解釈が必要となり、会社の実態に応じて様々な除外事由があることを説明する必要がありますので、労務に習熟した弁護士でないと対応が難しい面があります。栗林総合法律事務所は労働審判や労務関連訴訟を多く扱った経験がありますので、貴社にとってどのような対応が考えられるのかを幅広くご提案させていただきます。また、未払残業代の支払請求を防ぐためには普段から制度上も事実上も未払い残業代が生じない仕組みをしっかり作っておく必要があります。未払残業代支払請求訴訟への対応については栗林総合法律事務所にお問合せください。

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2020年6月 4日 木曜日

退職した従業員がライバル企業に就職した場合の対応

退職した従業員のライバル企業への就職の問題
会社を退職する従業員については、退職後は職業選択の自由が認められますので、従前の会社が退職後の従業員の就業を制約することができないのが原則です。退職後の従業員等に競業避止義務を負わせるためには、就業規則や誓約書等によって、従業員等との間で競業禁止特約を締結しておくことが必要となります。競業避止義務契約の有効性については、企業側に守るべき利益があることを前提として、競業避止義務契約が過度に職業選択の自由を制約しないための配慮を行い、企業側の守るべき利益を保全するために必要最小限度の制約を従業員等に課すものであれば、当該競業避止義務契約の有効性自体は認められるとされています。

入社時の競業避止の確認書
会社に就職する際には、従業員から誓約書を取得し、不正な行為があった場合に損害賠償を行うことを確認してもらっていると思われます。また、その際に、①秘密保持義務、②競業行為の禁止、③知的財産権を会社に譲渡することなどについても確認してもらっていることが多いと思われます。しかしながら、入社から長期の時間が経過していたり、退職時の具体的職務の内容にそぐわないこともありますので、退職時において新たに競業避止禁止の確認をしてもらうのが好ましいと考えられます。

退職時の競業避止確認書
従業員が退職する際には、会社との関係が切れてしまうことになりますので、退職後の関係を誓約する秘密保持合意書や競業避止の合意書にサインしてもらうことが難しいこともあります。会社としては退職金の支払時などに合わせてサインを取得するのが好ましいと考えられます。また、どうしても個別の合意書へのサインがなされない場合を考慮し、事前に就業規則の内容を改定し、退職後も会社の秘密情報を用いて競合することは禁止されることを明示しておく必要があります。

競業避止特約の有効性の判断基準
競業避止特約も全て有効ではなく、一定の要件を満たさなければならないとされています。判例上、競業禁止特約の有効性を具体的に判断するにあたっては、次の要素が考慮されます。具体的には、競業避止の業務分野が限定されていること、地域の限定があること、制約期間は2年以内であること、制約の代わりに一定の金額の支払いがあることなどが重要になります。
①競業行為を規制する会社(使用者)の正当な利益(企業秘密の保護等)があること
②競業禁止義務を課される役員・従業員の地位や職務内容
③競業行為を禁止される期間・地域・対象業種が従業員の活動を不当に制限しないこと
④代償措置が設けられていること等の要素が総合考慮されることになります。

賠償額の予定の禁止
就業規則等に競業避止義務を規定する場合、競業行為を行った場合に会社に対して損害賠償請責任を負うとの規定を設けることが見られます。このような規定を設ける場合に注意すべきことは、競業避止義務違反行為を行った場合に、具体的な金額を明示しつつ、その金額の責任を負うと規定した場合は、その規定は労働者との間での賠償額の予定を定めたものであるとして、労働基準法第16条に違反し無効となり、刑事罰の対象となる(法119条第1号)可能性があることです。競合を行っている従業員の側から反対に攻撃されることもあり得ます。これに対して、従業員の競合行為によって既に発生した損害について賠償金額を定め、その支払い方法について合意することは問題ありません。この境界線は難しいですので、弁護士などの意見を参考にしながら決定する必要があります。

注意処分
従業員の競業避止義務が判明した場合は、第一次的には本人を呼び出して注意を行うことになります。注意は、業務上の指揮命令としてなされることもありますし、懲戒処分の一つとして注意処分(戒告)がなされることがあります。注意処分(戒告)を行う場合は、懲戒事由を書面に記載し、本人を呼び出して文書を読み上げることが必要になります。

仮処分による違法行為の差止め
従業員等が、競業避止義務違反行為を現に行っているような場合など、著しい損害又は急迫の危険を避けるため必要なときは、競業行為の禁止を求めて、競業避止義務に基づく競業行為差止め請求権を被保全権利として、競業禁止仮処分の申立てを裁判所に行うことができます。この処分が得られた場合の執行方法としては、間接強制(違反について金銭の支払いを要求することにより間接的に強制執行を行う)によることになります。例えば、会社の役員が退職後、会社を自ら設立して競業を開始する場合や従業員等が競業会社の役員に就任するような場合などには、それらの競業行為や就任の差し止めを申し立てることになります。仮処分の申立てが認められるためには、競業禁止特約が有効であること(被保全権利の存在)、放置しておくと回復しがたい損害を生じるという事情(保全の必要性)が必要です。この点、特約の有効性に関する判断要素のうち、特に競業行為を規制する会社(使用者)の正当な利益があることが認められ、現に競業を行っていることが疎明できれば、保全の必要性についての疎明は充足していることとなる場合が多いとされています。

不正競争防止法(法2 条第 1 項第 4 号乃至10号)
役員及び従業員が、競業避止義務に違反し、会社の秘密情報を利用して、自ら又は第三者をして競業行為を行ったようなときには、例えば以下のような場合に、当該秘密情報の利用行為についての差止めや、秘密情報の利用によって生じた損害の賠償請求を行うことができる場合があります。なお、不正競争防止法上の上記秘密保持義務は、労働契約の存続中だけでなく退職後にも及びます。まず、営業秘密の保有者が役員や従業者に対して営業秘密を示した場合に、その従業者が不正の利益を得る目的又は保有者に損害を加える目的で、その営業秘密を使用又は開示する行為(第 2 条第 1 項第 7 号)を行った場合には、不正競争に該当することになります。競業避止義務違反については、会社と従業員との間において競業行為を行わないことについての合意があることが必要ですが、不正競争防止法違反については、そのような特別の合意がない場合であっても不正競争防止法違反を主張することができます。会社の役員や従業員との間において競業避止義務についての合意がない場合は、不正競争防止法違反に当たるかどうかを検討することになります。

不正競争防止法違反の事例としては次のようなものがあります。

・学習器具並びに出版物の製作及び販売等を営業目的とする株式会社の代表取締役が、在職中に、従業者に依頼して顧客情報をフロッピーディスクにコピーさせた上、従業者からそれを受け取って自宅に持ち帰り、退職後に、不正の利益を得る目的等で当該顧客情報を用いて転職先企業において販売を開始する行為

・製造委託契約に基づいて示された婦人靴の設計情報(木型)を、自らの企業として存続等するために許されないことを認識しつつ、委託元の競業者となろうとしている第三者に開示する行為

また、第三者が、不正取得行為が介在したことを知って(悪意)、若しくは重大な過失により知らないで(重過失)営業秘密を取得する行為、及びその後の使用行為又は開示行為を行った場合には、当該第三者の行為は不正競争に該当することになります(第 2 条第 1 項第 5 号)。例えば、「会社の機密文書を窃取した従業者から、それが営業秘密であると知って、産業スパイが当該機密文書を受け取る行為等」がこれに当たることになります。

これらの場合、会社としては、当該役員及び従業員や第三者に対して、営業秘密の使用・開示行為について損害賠償請求(法4条)や差止め請求(法3条)を行うことができます。不正競争防止法では、損害額に関する推定規定が設けられており(法第5条)、損害額の立証困難への救済が一定の程度においてなされています。

内容証明郵便による催告
役員及び従業員が競業避止義務違反行為を行う恐れが現実に存在する場合には、当該役員等に対して、弁護士などから内容証明郵便等によって警告書を送付することにより、事実上の抑止効果により、競業行為の防止を図ることが可能です。また、前述の不正競争防止法の適用がある場合においては、営業秘密を取得した第三者(貴社から秘密情報を剽窃しようとしている貴社のライバル会社)に対しても警告書を送付することによって、営業秘密を用いた競業行為への抑止効果を期待できる場合があります。内容証明郵便の送付により、相手方に警告を発し、自発的に競業避止行為を中止してもらうことができれば、最も安価でかつ迅速な解決方法であると思われますので、競業避止行為が認められる場合の最初の対応方法として検討できると思います。但し、上記に記載した保全処分を検討する場合において、貴社が保全処分の申し立てをしようとしている事実が相手方当事者に知られてしまうと、パソコンのデータを廃棄するなど証拠の隠蔽を図られてしまう可能性があります。保全処分の申し立てを行う場合には、保全処分の申し立てを行おうとしていることが相手方に知られないように準備をしていく必要があります(「保全処分の密行性の原則」といいます)。直ちに内容証明郵便を出す方がいいのかどうかは、その後に取りうる手段の有無を含めて慎重に検討する必要があります。

損害賠償請求訴訟の提起
従業員等の競業避止義務違反行為によって、会社に現実に損害が生じた場合には、会社は、その生じた損害について、従業員等に請求をすることになります。例えば、労働者の競業避止義務違反行為によって、取引先を失ったような場合などには、その損害額を立証することができれば、その損害を請求することができます。そのような損害賠償請求に備えて収集すべき証拠としては、取引先や会社の担当者などの関係者による陳述書、経過報告書、会社又は第三者委員会による調査報告書なども有用です。

懲戒処分等
従業員の競業避止義務違反行為が、就業規則上の懲戒事由に該当する場合には、懲戒解雇、譴責処分等の就業規則による懲戒処分を行うことも検討しなければいけません。また、就業規則に退職金の定めがあり、競業避止義務違反の場合に退職金の不支給や減額をなしうることを就業規則で定めているのであれば、その規定に基づいて退職金を減額することも考えられます。従業員から退職届出が出され、退職を認めてしまえば懲戒処分等の手続を取ることは難しくなりますので、懲戒処分の可能性があるのであれば、従業員からの退職申出があっても退職を認めず、退職通知期間(2週間)の時間的制約の中で懲戒手続その他の処分を行う必要があるかどうかを判断する必要があります。

栗林総合法律事務所のサポート内容
栗林総合法律事務所では、従業員による競業避止行為を行わせることのないよう、事実関係の調査、本人からのヒアリング(聞き取り調査)、第三者委員会の開催、懲戒処分なの手続きについて会社を代理して行います。また、損害賠償請求訴訟や保全処分により競業避止行為を禁止させたケースも取り扱っています。

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2020年6月 4日 木曜日

従業員が会社の秘密情報を利用して副業を行っている場合の対応

副業の可否
従業員については職務専念義務がありますので、会社の就業時間中に副業を行うことは就業規則により禁止されていることが多いと思われます。しかしながら、従業員が会社の就業時間外に行う行為についてまで規制することができないのが原則です。

競業行為の問題
一方で、会社の従業員が副業として会社の業務と重複する行為を行う場合があります。例えば、宝石の販売会社で営業担当として勤務していた従業員がインターネットで宝石を販売するサイトを開設し、自分で事業として宝石を販売するような場合があります。また、より悪質な場合としては、不動産の仲介会社の営業担当が会社で得た情報をライバル会社に横流しし、リベートをもらったり、接待を受けたりすることも考えられます。このような行為は会社の利益を害することは明らかですので、通常就業規則の懲戒事由に該当し、その悪質性に応じて懲戒処分を行う必要があります。

懲戒処分を行うための情報収集(デジタルフォレンジック)
従業員が、会社の情報を利用して競業行為を行い、会社に損害を与えたとして就業規則違反を理由に懲戒処分を行う場合、当該従業員からのクレームや法的対応にも耐えられるだけの十分な資料を収集する必要があります。情報収集の方法としてはデジタルフォレンジックが重要となり、当該従業員のパソコンでどのようなやり取りがなされていたかをまず確認することになります。パソコンは会社からの貸与物ですので、会社はその内容をチェックすることができます。当該従業員が過去のメールなどを抹消している可能性がありますので、専門の業者に頼みデータの復元をしてもらうことが必要になります。パソコンの他にも、インターネットのホームページや、会社の私物などから副業の内容が分かる資料が出てくることもあります。当該従業員と親しい社員からのヒアリングにより情報収集の端緒が得られる可能性もあります。

本人からのヒアリング
情報収集を行うに際して、本人からのヒアリングは最も重要になります。しかしながら、本人からヒアリングを行うに際してはいくつかの重要な注意点があります。

(1) 事前に十分な情報収集を行っておくこと
本人からヒアリングを行う前に十分な情報収集をしておくことは重要です。プライバシーの侵害にならない範囲で本人のパソコンのメールを確認したり、関係者からヒアリングを行ったり、インターネットその他からの情報収集をするなどが必要になります。また、ヒアリングの前に質問事項書を書面で作成し、何度か検証をしながら、聞くべき事項が十分にカバーされているかどうか、不当な圧力を加えたと言われるような内容になっていないかを事前に確認しておく必要があります。ヒアリングの成否は事前準備にあると考えられます。

(2) 客観性の担保、パワハラの回避
会社の上司が直接にヒアリングを行う場合、後日になって、上司からの不当な圧力により、事実と異なることを強制的に認めさせられたとか、上司によるパワハラがあった等とクレームがなされる可能性があります。近時では、労働基準監督署やマスコミなどにリークされる恐れもあります。従業員が隠しテープにより録音をしている可能性が高いことは認識しておく必要があります。感情的な質問は避ける必要があります。また、1人で対応する場合、その時の状況が分からなくなりますので、できるだけ客観性を持たすため、複数で対応する必要があります。

(3) 書面による確認
ヒアリングの結果については、書面にまとめ、当該従業員にもサインしてもらうなどとして客観的な証拠化をしておく必要があります。事実については、5W1Hに注意しながら、できるだけ詳細に記載していきます。後日の裁判資料としての効力を考えた場合、弁護士の協力が得られるのであれば文書の内容については弁護士にチェックしてもらう方が好ましいと思われます。

(4) 脅迫や恐喝と言われないために
ヒアリング結果をまとめた書面の中で、就業規則や雇用契約に違反する事実があった事を確認し、その違反行為によって会社に生じた損害を賠償することを確認することがありますが、後日になって会社から恐喝されたとか、脅迫行為があったなどとして警察などに訴えられる可能性も考慮しておく必要があります。損害賠償義務について規定する場合には、任意の意思による賠償であることが必要ですし、その金額も違反行為に見合った内容であることが必要で、あまりに高額な賠償金を認めさせることは、会社にとってもリスクがあることを認識しておく必要があります。

(5) 第三者委員会
従業員からのヒアリングに際して第三者委員会を立ち上げ、第三者委員会にヒアリングと報告書の作成、事実の認定、法的問題点と対応策等についてレポートを出してもらうことも有効です。第三者委員会による客観性が担保されます。最近では第三者委員会の公平性・客観性が問題視されることもありますので、委員の選定及びヒアリングの手法については、公平性・客観性が保たれるよう工夫が必要になります。正式な第三者委員会にいたらない場合でも、外部の弁護士や公認会計士を調査委員に入れることで報告書の客観性を担保することができます。

競業を理由とする懲戒処分
会社の就労時間中または就業時間後において副業として行う場合であっても、上記のように会社の利益を害する内容の行為を行う場合には、就業規則に違反して懲戒処分の対象となります。懲戒処分を行う場合には、実体と手続きの両方について間違いがないようにする必要があります。まず、実体については、
(1)当該従業員が本当にそのような行為を行ったのかどうか
(2)その行為を行ったことを裏付ける証拠はあるか
(3)その行為が就業規則のどの条文に違反するのか
(4)違反行為と処罰の内容が不均衡でないかどうか                
などを確認することになります。
手続きについては、多くのケースで就業規則に規定があると思われますので、その規定に従う必要があります。例えば、(1)懲罰委員会を開催し、(2)本人に対して弁明の機会を与え、(3)懲罰委員会の多数決により採決し、(4)その結果を参考に取締役会ないし代表取締役が処罰の内容を定めるなどの規定があると思いますので、かかる規定に従うことになります。懲戒手続きについての規定が十分に整っていない場合、かかる規定の整備も必要です。

懲戒処分通知書
懲戒処分通知書には、非違行為の具体的内容(懲戒理由)を記載することが必要です。懲戒理由の記載のない懲戒通知は無効と判断される可能性があります。また、懲戒通知書に記載のない事由を懲戒事由に追加することはできません。

栗林総合法律事務所のサポート内容
栗林総合法律事務所では、事実関係の調査や、処分の妥当性についてのアドバイス、適正手続きについてのアドバイスを行います。また、第三者委員会を開催して調査委員として活動することもあります。

投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office | 記事URL

2020年6月 4日 木曜日

従業員の不正行為と調査

従業員による不正行為
犯罪という言葉で通常思いうかべるのは、殺人、窃盗、強盗、強姦などがあると思いますが、これらの暴力的犯罪ではなく、どちらかと言うと知能犯に近い犯罪をホワイトカラークライムといいます。クライムは犯罪を意味する言葉です。ホワイトカラーは文字通り会社の本社で働くホワイトカラーを指しています。ホワイトカラークライムとは、会社で働く従業員のうち、現場で働く人ではなく、デスクワークに従事している社員(例えば会社の部長や課長)が会社の業務に関連しておこす犯罪の事を言います。具体的には、横領、背任などです。
 
横領
横領は、会社のお金やその他の財産の占有を自己の元に移して支配権を移転させることで実行されます。法律用語では領得といいます。例えば取引先に集金に行った際に受け取った10万円を会社にこっそり自分のものにしてしまう(自分の財布に入れる)が典型例だと思います。実際には大金が現金で移動させられることは少ないですので、多くの犯罪行為は銀行預金の移動によって行われます。通常銀行預金を移動すれば、その記録が通帳に残りますので、すぐに会社にばれてしまい犯罪はできないのではないかと思われます。しかし、例えば、本来取引先に対して100万円請求すべきところを120万円の請求書を発行し、会社の名前の架空口座で取引先から120万円のお金の振り込みを受けた後、取引先の名前で100万円を会社の正当な口座に振り込んだ場合には、会社は本来請求すべき100万円が入金になっているので、横領されたという意識はないままになる可能性があります。取引先としても、会社から120万円の請求書が来て、120万円を振り込んだだけですので、まさかその金額が偽物だったと気づくことがないこともあります。このような例はかなり古典的なもので、税務署による税務調査などが行われた際に発覚したりします。

背任
横領の他に多いホワイトカラークライムとしては背任罪があります。背任罪は、会社の利益を犠牲にして自己または第三者の利益を図る行為とされています。横領との違いは、金銭についての占有の移転がないことです。例えば、会社の営業部長が取引先から過度の接待を受け、本来100万円で購入すべき資材を130万円で購入したとします。この場合、会社は本来支払うべき金額よりも30万円多く支払ったことになりますので、30万円の損をしたことになります。背任罪については、立証がかなり困難な点があります。上記の例で言えば、会社が購入した資材がなぜ130万円ではなく100万円なのかを立証しなければいけません。会社が資材の購入をする場合に、複数の業者にコンペを行わせる場合であっても、納入先の決定は必ずしも価格の多寡だけではなく、信頼性や経験、品質など様々な事情を総合判断して決定する必要がありますので、他社よりも金額的に高い資材を購入したからといって、そのことが直ちに背任罪とみなされるわけではありません。しかしながら、極めて過度の接待を受けたり、B社から資材を購入する見返りにB社から金銭を受け取っていたりした場合には、その取引は不正であるとみなされる可能性が高く、このような取引について放置しておくのは適切ではないと考えらえます。

循環取引
また、背任罪において多い事例としては、架空取引があります。架空取引とは、取引の実態がないにもかかわらず取引したようにみせかけるもので、売り上げの架空計上、経費の過大計上、架空契約、循環取引などがありますが、近年循環取引が大きな問題になりました。循環取引は、実際には商品を動かさず、伝票上だけで売買して複数の企業で転売していき、最終的には最初の企業に商品が戻ってくる取引の形態のことを呼んでいます。循環取引を含む架空取引については、担当者からのヒアリングでは一律に売り上げを伸ばさなければならないプレッシャーからついつい架空の取引を繰り返してしまいましたというような説明がなされることも多いですが、当該取引の過程で取引先に利益を流したり、担当者が個人的な利益を得ていることもありますので、そのような事実が本当に存在しないのかをしっかり確認することも必要となってきます。

贈収賄
公務員が金銭の提供を受けて業者を恣意的に選んだような場合には、当該公務員について収賄罪が成立しますし、金銭を送った業者については贈賄罪が成立します。公務員の場合には、贈収賄がホワイトカラークライムの典型例と考えられます。この贈収賄は刑法上身分犯とされていますので、犯罪の成立には、金銭を受け取った人に公務員という身分があることが要件とされています。従って、民間企業の社員が取引先の業者から接待を受けたり、金銭をこっそりもらったりした場合であっても、上記の背任罪が成立することはあっても、刑法上の贈収賄は成立しないのが原則です。但し、会社の取締役、会計参与、監査役、執行役が、その職務に関して不正の請託を受けて、財産上の利益を収受し、その要求又は約束を行ったときは会社法による取締役等の贈収賄罪に該当することになります(会社法967条1項)。また、郵便局の職員やNTTの社員については、一定の範囲で公務員とみなされることになっていますので、会社が民営化されたからといって取引先から金銭の受領を行う場合には刑法上の贈収賄に該当することになります。弁護士や会計士が官庁の職務を行う場合などにも、その職務との関連では公務員とみなされることがあります。

従業員による犯罪の調査
上記のとおり、民間企業におけるホワイトカラークライムの典型例としては横領と背任がありますし、公務員の場合には、贈収賄があります。そこで、もし会社においてこのような犯罪行為を認知した場合にどのように対処すべきかが問題となります。

第三者委員会の設置
この点については、事実関係の確認、労働法による処罰、民事上の責任追及、刑事上の責任追及などを検討する必要があります。会社の総務や人事の担当が独自に行うこともあり得ますが、彼らは捜査の専門家ではありませんし、民間企業の立場としてどこまで調査を行っていいのかはっきりしないこともありえます。そこで、ホワイトカラークライムの認知をした場合には、外部の専門家(弁護士・会計士)により第三者調査委員会等を設置し、調査にあたってもらったり、外部の弁護士に報告書の作成を依頼したりすることになります。企業法務弁護士がいる場合には、彼らが調査することもあり得ますが、犯罪の捜査は本来警察や検察官が行う仕事であり、通常の社員の場合、民間企業で従業員から任意に聞き取りを行う場合のノウハウは持ち合わせていないと思われます。また、会社の社員同士であれば人間関係もありますので、どこまで真実を明らかにすべきかについて躊躇を覚えることもあるかと思います。従って、ホワイトカラークライムの調査については外部の専門家に依頼するのが最も適切と考えられます。新聞紙上などで取り上げられる大企業の不祥事の場合には、調査委員会が設立されることも多く、その場合に調査委員会のメンバーに就任する弁護士は検察官上がりの人であることが多いと思われます。しかし、通常の弁護士の場合であっても、研修所自体の研修においてヒアリングの訓練は受けていますし、毎日の業務自体がヒアリングによる事実の確認になりますので、ヒアリングによる調査の能力については問題ないと思われます。弁護士は、犯罪行為の調査を依頼された場合は、関係する資料を読み込み、どこに問題があるのかを確認し、刑事法における構成要件事実の観点からどのような事実関係を確認すべきかを想定します。そして関係者からのヒアリングを行い、その結果をヒアリングメモというノートにまとめていきます。小さな事件であれば3名から5名程度のヒアリングで済むかと思いますが、複雑な案件や重大な案件については、10人、20人から話を聞かなければならない事態も想定されます。

当事務所で取り扱った事例
会社における不適切な経理処理が問題となった事例で、会社からの依頼により事実関係の調査を行い、調査報告書を会社に提出しました。これ事例では、正式の第三者委員会は開催されませんでしたが、2人の弁護士と1人の会計士による調査チームを構成し、関係者からのヒアリングや、会計帳簿の確認を行い、当該取引内容の問題点を適示することになりました。その後会社では、当職らの作成した報告書をもとに関係者の処分(戒告処分及び減給処分)を行うことになりました。

従業員からの聞き取りとデジタルフォレンジック
報告書の作成を行うには、事実の確認と、原因、今後の対策を明確にする必要があります。特に重要なのは事実の確認で、関係者の記憶違いや、責任追及されることを免れるための偽証の可能性もありますので、客観証拠との比較を行いながら、どの証言が正しいかを判断していく必要があります。最近の事例では、多くの客観証拠はプリントアウトされたハードコピーとしてではなく、パソコンの中にデータとして残されていることが多いと思います。従って、パソコンのデータの調査については、膨大な情報の中から必要な情報をどのようにして適切に抽出するかの問題と、既に抹消されたデータについてどのようにして復元するかの問題があります。いわゆるデジタルフォレンジックの手法です。最近多い事例は経理や総務の担当者が会社の金銭を盗む行為です。横領罪か窃盗罪かは判断が難しいですが、業務上その金銭を管理する責任者としての立場にあるかどうかで区別されると思われます。但し、責任の重さにおいては横領も窃盗も同じですので、実際上どちらであるかを明確に区別する必要性はないようにも思われます。窃盗の場合は、その社員は犯罪事実自体を否定することが多いと思います。会社の側でも、周りの証拠からしてその人が盗んだことは間違いないと思っていても、確たる証拠がない以上、その人の犯罪であると追求することはできないことになります。このような場合には、弁護士による聞き取り調査が有効です。私どもの事務所でも、絶対に窃盗を行っていないと主張していた社員に1時間くらい時間をかけてゆっくりと話を聞き、矛盾する点をついて質問を繰り返していくと、本人の方から犯罪事実を認める旨の証言がなされることが多いです。会社の方で犯罪事実を認めさせることが難しいと考える場合には、是非当事務所にご相談ください。
  
当事務所で扱った事例
会社の経理の社員が会社の金銭を横領した事件がありました。会社の調査の中で、ある社員が盗んだであろうことはかなりの確率で明確になったものの、本人は断固として事実を否定していました。そこで会社の代表者からの依頼により当職が当該社員のヒアリングを行うことになりました。当職は、ヒアリングを開始する前に、事実関係や関係資料の読み込みを行い、ある程度の想定問答を確認しておきました。実際のヒアリングの際には、本人の説目にかなりの矛盾がありましたので、その点を確認することで、本人も自分の説明に矛盾があることを認識し、その矛盾を合理的に説明しようとしていました。当職は、もし自白をする場合は、損害金の分割払いを行ってもらうことでそれ以上問題を大きくすることはないが、事実を認めない場合には、警察に介入してもらい、大規模な調査を行うことになること、そこで犯罪行為が明らかになると刑事処罰を受けなければならなくなることを説明したところ、本人から横領を認める供述を得ることができました。


リティゲーションホールド
アメリカの裁判の場合、関係する証拠を隠滅すると、法廷侮辱罪として極めて高額の罰金の支払いが強制されたり、懲罰賠償により数十億円の支払義務が認定されたりすることもありますので、証拠の隠ぺいについては特に注意が必要になります。もちろん、証拠の隠ぺいと言っても特別なものではなく、eメールのデータをゴミ箱に捨て、その後ゴミ箱を空にするようなことです。このようなこともディスカバリーの妨害とみなされることになりますし、隠ぺいの意図がなくても法廷侮辱と認定される可能性もありますので、訴訟が開始されたことを知った場合には、幅広く関係部署に対してデータの抹消を行わないよう指示しておく必要があります。いわゆるリティゲーションホールドといいます。

労働法制上により責任の追及
上記の捜査によって犯罪事実があった事が明らかになれば、労働法上どのような処置をする必要があるかを検討する必要があります。この場合、手続面と実体面の両方を検討します。手続きの面としては、就業規則に基づく調査や処置をする必要がありますので、自己の会社の社員であるからと言って、自由に証言を強制したり、個人的なプライバシーに関与したりすることはできません。また、就業規則においては、処置を決定する場合に、当該従業員に告知・聴聞の機会を与えるべきことが定められていることも多いと思いますので、その規定に従う必要があります。また、諮問委員会や賞罰委員会の規定がある場合には、当該規程に従って委員会を開催し、当該委員会の手順によって処置を定める必要があります。実体面としては、どのような懲戒手続きを取るべきかの選択が重要になります。戒告、休業命令、減給、諭旨退職、懲戒解雇等のうち、どの処置を選ぶかという問題です。比例原則が働きますので、行為の悪質さに応じた処置が必要です。例えば極めて軽微な違反に対し懲戒解雇をしたり、3箇月の休職を命じたりした場合、処置が厳しすぎるとして会社が訴えられる可能性もあります。昔と違い、従業員の側から会社が訴えられる機会も多くなりましたし、会社が敗訴する事例も多くありますので、注意が必要です。また、昔は保全処分か損賠賠償請求訴訟などに限られていましたが、最近では仲裁の手続やADR(選択的紛争解決手段)としての労働審判手続きなども充実していますので、公的な場所において処分の妥当性が判断される可能性が高いことについては、注意が必要です。なお、懲戒解雇によって退職金を払わないなど、従業員に対する重大な不利益を与える場合には、労働基準監督署の事前の許可を要することもありますので、労働基準法や労使協定などの確認が必要になります。労働基準監督署との事前相談は有効です。

民事上の責任追及
会社の金銭を横領した社員がいれば、会社としては当然その人から横領された金銭の回収を図らなければなりません。上記の通り、会社は犯罪捜査機関ではありませんので、事実認定は任意にされるものでしかすぎず、当然犯罪は成り立つであろうと思われるような場合であっても、犯罪が成立したと判断できるかどうか微妙な場合もありますし、従業員の側から反撃をされる可能性もありますので、注意しながら行う必要があります。意見の相違から紛争になる可能性が高いことを前提とすれば、できるだけ裁判所を利用して、事実の有無について公的な判断を求めるのが適切と思われます。一方最初から裁判を申し立てるのが適切でない場合もありますので、そのような場合には、まず当該従業員からヒアリングを行い、犯罪事実を認める書面への署名を求めるということもあり得ます。また、通常従業員が高額の資産を有していないことも考えれば、自宅の差押なども検討が必要かもしれません。民事訴訟を通じて賠償金の請求を求めるのはそれほど多くはないかもしれません。しかし、経営者からすれば会社の金銭を奪われたわけですからそれを放置しておくことは会社に対する背任や善管注意義務違反とみなされるおそれがないとも言えません。代表訴訟の可能性を考える場合、賠償請求をきちんと行っておく必要があるとも考えられます。一方、犯罪行為が認知しえる場合であっても、当該従業員の家族(例えば妻や両親)に対して、連帯保証を求めるのはやり過ぎとみなされる可能性も高く、場合によっては署名に押印するよう強要・恐喝されたなどと従業員の家族から反撃を受けることも想定されます。

刑事上の責任追及
犯罪行為が明らかな場合には、刑事処罰を求めることも考えなければなりません。そ  の場合、警察に対して被害届や告訴状を提出するということになります。被害届については、警察がそのような事実を知ったというだけですので、警察において応対義務はありませんが、刑事告訴の場合には、警察は放置しておくことはできず、必ず事実の捜査を行い、その結果を検察官に送付し、検察官による処分を求めなければならないことになります。最近は犯罪の通知をしたにも拘わらず、警察が動いてきれなかったとして問題視されるケースも多くありますので(特にDVの場合など)、警察としても処理に最新の注意が必要となってきます。これまでは、民事不介入の原則により、民事事件について警察が関与することはしないと言って逃げを打つことが出来ましたが、最近の傾向からすれば警察も真剣に扱わざるを得ない事件も多くなっているのではないかと思われます。

危機管理としての対応
循環取引による架空売り上げなどは、粉飾決算を導くものですので、特に上場企業の場合、証券取引所への報告や適時開示(ディスクロージャー)を含め、会社の存亡にかかわる問題となってきます。それほど金額が大きくない場合や、非上場の会社であっても、最近のコンプライアンスの経営が求められる時代背景からすれば、後日誰から聞かれても問題とならないようなきちんとした処置を取ることは極めて重要と言えます。当事務所は、企業統治の再構築や証券取引所への改善報告書の作成なども含め、役員・従業員の犯罪行為が生じた場合の危機管理についてのアドバイスを行っております。

投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office | 記事URL

2020年6月 4日 木曜日

従業員の不正行為と調査

従業員による不正行為
犯罪という言葉で通常思いうかべるのは、殺人、窃盗、強盗、強姦などがあると思いますが、これらの暴力的犯罪ではなく、どちらかと言うと知能犯に近い犯罪をホワイトカラークライムといいます。クライムは犯罪を意味する言葉です。ホワイトカラーは文字通り会社の本社で働くホワイトカラーを指しています。ホワイトカラークライムとは、会社で働く従業員のうち、現場で働く人ではなく、デスクワークに従事している社員(例えば会社の部長や課長)が会社の業務に関連しておこす犯罪の事を言います。具体的には、横領、背任などです。
 
横領
横領は、会社のお金やその他の財産の占有を自己の元に移して支配権を移転させることで実行されます。法律用語では領得といいます。例えば取引先に集金に行った際に受け取った10万円を会社にこっそり自分のものにしてしまう(自分の財布に入れる)が典型例だと思います。実際には大金が現金で移動させられることは少ないですので、多くの犯罪行為は銀行預金の移動によって行われます。通常銀行預金を移動すれば、その記録が通帳に残りますので、すぐに会社にばれてしまい犯罪はできないのではないかと思われます。しかし、例えば、本来取引先に対して100万円請求すべきところを120万円の請求書を発行し、会社の名前の架空口座で取引先から120万円のお金の振り込みを受けた後、取引先の名前で100万円を会社の正当な口座に振り込んだ場合には、会社は本来請求すべき100万円が入金になっているので、横領されたという意識はないままになる可能性があります。取引先としても、会社から120万円の請求書が来て、120万円を振り込んだだけですので、まさかその金額が偽物だったと気づくことがないこともあります。このような例はかなり古典的なもので、税務署による税務調査などが行われた際に発覚したりします。

背任
横領の他に多いホワイトカラークライムとしては背任罪があります。背任罪は、会社の利益を犠牲にして自己または第三者の利益を図る行為とされています。横領との違いは、金銭についての占有の移転がないことです。例えば、会社の営業部長が取引先から過度の接待を受け、本来100万円で購入すべき資材を130万円で購入したとします。この場合、会社は本来支払うべき金額よりも30万円多く支払ったことになりますので、30万円の損をしたことになります。背任罪については、立証がかなり困難な点があります。上記の例で言えば、会社が購入した資材がなぜ130万円ではなく100万円なのかを立証しなければいけません。会社が資材の購入をする場合に、複数の業者にコンペを行わせる場合であっても、納入先の決定は必ずしも価格の多寡だけではなく、信頼性や経験、品質など様々な事情を総合判断して決定する必要がありますので、他社よりも金額的に高い資材を購入したからといって、そのことが直ちに背任罪とみなされるわけではありません。しかしながら、極めて過度の接待を受けたり、B社から資材を購入する見返りにB社から金銭を受け取っていたりした場合には、その取引は不正であるとみなされる可能性が高く、このような取引について放置しておくのは適切ではないと考えらえます。

循環取引
また、背任罪において多い事例としては、架空取引があります。架空取引とは、取引の実態がないにもかかわらず取引したようにみせかけるもので、売り上げの架空計上、経費の過大計上、架空契約、循環取引などがありますが、近年循環取引が大きな問題になりました。循環取引は、実際には商品を動かさず、伝票上だけで売買して複数の企業で転売していき、最終的には最初の企業に商品が戻ってくる取引の形態のことを呼んでいます。循環取引を含む架空取引については、担当者からのヒアリングでは一律に売り上げを伸ばさなければならないプレッシャーからついつい架空の取引を繰り返してしまいましたというような説明がなされることも多いですが、当該取引の過程で取引先に利益を流したり、担当者が個人的な利益を得ていることもありますので、そのような事実が本当に存在しないのかをしっかり確認することも必要となってきます。

贈収賄
公務員が金銭の提供を受けて業者を恣意的に選んだような場合には、当該公務員について収賄罪が成立しますし、金銭を送った業者については贈賄罪が成立します。公務員の場合には、贈収賄がホワイトカラークライムの典型例と考えられます。この贈収賄は刑法上身分犯とされていますので、犯罪の成立には、金銭を受け取った人に公務員という身分があることが要件とされています。従って、民間企業の社員が取引先の業者から接待を受けたり、金銭をこっそりもらったりした場合であっても、上記の背任罪が成立することはあっても、刑法上の贈収賄は成立しないのが原則です。但し、会社の取締役、会計参与、監査役、執行役が、その職務に関して不正の請託を受けて、財産上の利益を収受し、その要求又は約束を行ったときは会社法による取締役等の贈収賄罪に該当することになります(会社法967条1項)。また、郵便局の職員やNTTの社員については、一定の範囲で公務員とみなされることになっていますので、会社が民営化されたからといって取引先から金銭の受領を行う場合には刑法上の贈収賄に該当することになります。弁護士や会計士が官庁の職務を行う場合などにも、その職務との関連では公務員とみなされることがあります。

従業員による犯罪の調査
上記のとおり、民間企業におけるホワイトカラークライムの典型例としては横領と背任がありますし、公務員の場合には、贈収賄があります。そこで、もし会社においてこのような犯罪行為を認知した場合にどのように対処すべきかが問題となります。

第三者委員会の設置
この点については、事実関係の確認、労働法による処罰、民事上の責任追及、刑事上の責任追及などを検討する必要があります。会社の総務や人事の担当が独自に行うこともあり得ますが、彼らは捜査の専門家ではありませんし、民間企業の立場としてどこまで調査を行っていいのかはっきりしないこともありえます。そこで、ホワイトカラークライムの認知をした場合には、外部の専門家(弁護士・会計士)により第三者調査委員会等を設置し、調査にあたってもらったり、外部の弁護士に報告書の作成を依頼したりすることになります。企業法務弁護士がいる場合には、彼らが調査することもあり得ますが、犯罪の捜査は本来警察や検察官が行う仕事であり、通常の社員の場合、民間企業で従業員から任意に聞き取りを行う場合のノウハウは持ち合わせていないと思われます。また、会社の社員同士であれば人間関係もありますので、どこまで真実を明らかにすべきかについて躊躇を覚えることもあるかと思います。従って、ホワイトカラークライムの調査については外部の専門家に依頼するのが最も適切と考えられます。新聞紙上などで取り上げられる大企業の不祥事の場合には、調査委員会が設立されることも多く、その場合に調査委員会のメンバーに就任する弁護士は検察官上がりの人であることが多いと思われます。しかし、通常の弁護士の場合であっても、研修所自体の研修においてヒアリングの訓練は受けていますし、毎日の業務自体がヒアリングによる事実の確認になりますので、ヒアリングによる調査の能力については問題ないと思われます。弁護士は、犯罪行為の調査を依頼された場合は、関係する資料を読み込み、どこに問題があるのかを確認し、刑事法における構成要件事実の観点からどのような事実関係を確認すべきかを想定します。そして関係者からのヒアリングを行い、その結果をヒアリングメモというノートにまとめていきます。小さな事件であれば3名から5名程度のヒアリングで済むかと思いますが、複雑な案件や重大な案件については、10人、20人から話を聞かなければならない事態も想定されます。

当事務所で取り扱った事例
会社における不適切な経理処理が問題となった事例で、会社からの依頼により事実関係の調査を行い、調査報告書を会社に提出しました。これ事例では、正式の第三者委員会は開催されませんでしたが、2人の弁護士と1人の会計士による調査チームを構成し、関係者からのヒアリングや、会計帳簿の確認を行い、当該取引内容の問題点を適示することになりました。その後会社では、当職らの作成した報告書をもとに関係者の処分(戒告処分及び減給処分)を行うことになりました。

従業員からの聞き取りとデジタルフォレンジック
報告書の作成を行うには、事実の確認と、原因、今後の対策を明確にする必要があります。特に重要なのは事実の確認で、関係者の記憶違いや、責任追及されることを免れるための偽証の可能性もありますので、客観証拠との比較を行いながら、どの証言が正しいかを判断していく必要があります。最近の事例では、多くの客観証拠はプリントアウトされたハードコピーとしてではなく、パソコンの中にデータとして残されていることが多いと思います。従って、パソコンのデータの調査については、膨大な情報の中から必要な情報をどのようにして適切に抽出するかの問題と、既に抹消されたデータについてどのようにして復元するかの問題があります。いわゆるデジタルフォレンジックの手法です。最近多い事例は経理や総務の担当者が会社の金銭を盗む行為です。横領罪か窃盗罪かは判断が難しいですが、業務上その金銭を管理する責任者としての立場にあるかどうかで区別されると思われます。但し、責任の重さにおいては横領も窃盗も同じですので、実際上どちらであるかを明確に区別する必要性はないようにも思われます。窃盗の場合は、その社員は犯罪事実自体を否定することが多いと思います。会社の側でも、周りの証拠からしてその人が盗んだことは間違いないと思っていても、確たる証拠がない以上、その人の犯罪であると追求することはできないことになります。このような場合には、弁護士による聞き取り調査が有効です。私どもの事務所でも、絶対に窃盗を行っていないと主張していた社員に1時間くらい時間をかけてゆっくりと話を聞き、矛盾する点をついて質問を繰り返していくと、本人の方から犯罪事実を認める旨の証言がなされることが多いです。会社の方で犯罪事実を認めさせることが難しいと考える場合には、是非当事務所にご相談ください。
  
当事務所で扱った事例
会社の経理の社員が会社の金銭を横領した事件がありました。会社の調査の中で、ある社員が盗んだであろうことはかなりの確率で明確になったものの、本人は断固として事実を否定していました。そこで会社の代表者からの依頼により当職が当該社員のヒアリングを行うことになりました。当職は、ヒアリングを開始する前に、事実関係や関係資料の読み込みを行い、ある程度の想定問答を確認しておきました。実際のヒアリングの際には、本人の説目にかなりの矛盾がありましたので、その点を確認することで、本人も自分の説明に矛盾があることを認識し、その矛盾を合理的に説明しようとしていました。当職は、もし自白をする場合は、損害金の分割払いを行ってもらうことでそれ以上問題を大きくすることはないが、事実を認めない場合には、警察に介入してもらい、大規模な調査を行うことになること、そこで犯罪行為が明らかになると刑事処罰を受けなければならなくなることを説明したところ、本人から横領を認める供述を得ることができました。


リティゲーションホールド
アメリカの裁判の場合、関係する証拠を隠滅すると、法廷侮辱罪として極めて高額の罰金の支払いが強制されたり、懲罰賠償により数十億円の支払義務が認定されたりすることもありますので、証拠の隠ぺいについては特に注意が必要になります。もちろん、証拠の隠ぺいと言っても特別なものではなく、eメールのデータをゴミ箱に捨て、その後ゴミ箱を空にするようなことです。このようなこともディスカバリーの妨害とみなされることになりますし、隠ぺいの意図がなくても法廷侮辱と認定される可能性もありますので、訴訟が開始されたことを知った場合には、幅広く関係部署に対してデータの抹消を行わないよう指示しておく必要があります。いわゆるリティゲーションホールドといいます。

労働法制上により責任の追及
上記の捜査によって犯罪事実があった事が明らかになれば、労働法上どのような処置をする必要があるかを検討する必要があります。この場合、手続面と実体面の両方を検討します。手続きの面としては、就業規則に基づく調査や処置をする必要がありますので、自己の会社の社員であるからと言って、自由に証言を強制したり、個人的なプライバシーに関与したりすることはできません。また、就業規則においては、処置を決定する場合に、当該従業員に告知・聴聞の機会を与えるべきことが定められていることも多いと思いますので、その規定に従う必要があります。また、諮問委員会や賞罰委員会の規定がある場合には、当該規程に従って委員会を開催し、当該委員会の手順によって処置を定める必要があります。実体面としては、どのような懲戒手続きを取るべきかの選択が重要になります。戒告、休業命令、減給、諭旨退職、懲戒解雇等のうち、どの処置を選ぶかという問題です。比例原則が働きますので、行為の悪質さに応じた処置が必要です。例えば極めて軽微な違反に対し懲戒解雇をしたり、3箇月の休職を命じたりした場合、処置が厳しすぎるとして会社が訴えられる可能性もあります。昔と違い、従業員の側から会社が訴えられる機会も多くなりましたし、会社が敗訴する事例も多くありますので、注意が必要です。また、昔は保全処分か損賠賠償請求訴訟などに限られていましたが、最近では仲裁の手続やADR(選択的紛争解決手段)としての労働審判手続きなども充実していますので、公的な場所において処分の妥当性が判断される可能性が高いことについては、注意が必要です。なお、懲戒解雇によって退職金を払わないなど、従業員に対する重大な不利益を与える場合には、労働基準監督署の事前の許可を要することもありますので、労働基準法や労使協定などの確認が必要になります。労働基準監督署との事前相談は有効です。

民事上の責任追及
会社の金銭を横領した社員がいれば、会社としては当然その人から横領された金銭の回収を図らなければなりません。上記の通り、会社は犯罪捜査機関ではありませんので、事実認定は任意にされるものでしかすぎず、当然犯罪は成り立つであろうと思われるような場合であっても、犯罪が成立したと判断できるかどうか微妙な場合もありますし、従業員の側から反撃をされる可能性もありますので、注意しながら行う必要があります。意見の相違から紛争になる可能性が高いことを前提とすれば、できるだけ裁判所を利用して、事実の有無について公的な判断を求めるのが適切と思われます。一方最初から裁判を申し立てるのが適切でない場合もありますので、そのような場合には、まず当該従業員からヒアリングを行い、犯罪事実を認める書面への署名を求めるということもあり得ます。また、通常従業員が高額の資産を有していないことも考えれば、自宅の差押なども検討が必要かもしれません。民事訴訟を通じて賠償金の請求を求めるのはそれほど多くはないかもしれません。しかし、経営者からすれば会社の金銭を奪われたわけですからそれを放置しておくことは会社に対する背任や善管注意義務違反とみなされるおそれがないとも言えません。代表訴訟の可能性を考える場合、賠償請求をきちんと行っておく必要があるとも考えられます。一方、犯罪行為が認知しえる場合であっても、当該従業員の家族(例えば妻や両親)に対して、連帯保証を求めるのはやり過ぎとみなされる可能性も高く、場合によっては署名に押印するよう強要・恐喝されたなどと従業員の家族から反撃を受けることも想定されます。

刑事上の責任追及
犯罪行為が明らかな場合には、刑事処罰を求めることも考えなければなりません。そ  の場合、警察に対して被害届や告訴状を提出するということになります。被害届については、警察がそのような事実を知ったというだけですので、警察において応対義務はありませんが、刑事告訴の場合には、警察は放置しておくことはできず、必ず事実の捜査を行い、その結果を検察官に送付し、検察官による処分を求めなければならないことになります。最近は犯罪の通知をしたにも拘わらず、警察が動いてきれなかったとして問題視されるケースも多くありますので(特にDVの場合など)、警察としても処理に最新の注意が必要となってきます。これまでは、民事不介入の原則により、民事事件について警察が関与することはしないと言って逃げを打つことが出来ましたが、最近の傾向からすれば警察も真剣に扱わざるを得ない事件も多くなっているのではないかと思われます。

危機管理としての対応
循環取引による架空売り上げなどは、粉飾決算を導くものですので、特に上場企業の場合、証券取引所への報告や適時開示(ディスクロージャー)を含め、会社の存亡にかかわる問題となってきます。それほど金額が大きくない場合や、非上場の会社であっても、最近のコンプライアンスの経営が求められる時代背景からすれば、後日誰から聞かれても問題とならないようなきちんとした処置を取ることは極めて重要と言えます。当事務所は、企業統治の再構築や証券取引所への改善報告書の作成なども含め、役員・従業員の犯罪行為が生じた場合の危機管理についてのアドバイスを行っております。

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