事務所ブログ

2019年3月27日 水曜日

桜を見る会

3月25日月曜日に、お花見人気スポットと名高い神楽坂のCANAL CAFÉにて、桜を見る会が開かれました。3月21日に靖国神社にあるソメイヨシノが開花したと発表され、その翌週明けのことです。週末に寒さが戻ったせいか、満開とはなりませんでしたが、お堀の脇に春の彩を感じることができました。


CANAL CAFÉはJR飯田橋駅のすぐそばという都内の真ん中に位置しておりながら、ゆったりと優雅な時間を過ごすことができる人気のカフェです。神楽坂で唯一水辺のテラスがあるカフェでもあり、「神楽坂のリゾート」と呼ばれることもあります。
今回の桜を見る会は夜に行われましたが、夜になると水辺のテラスも昼間とはまた違った一層美しい佇まいを見せてくれました。



総武線の車窓からこちらのボートデッキを見つけた方もいらっしゃるかと思います。写真左上に櫂の旗が写っているのが見えますが、ここCANAL CAFÉは、もともと、東京水上倶楽部により作られたボート場だったそうです。現在もボートが用意されており、お堀をボートでまわるサービスもしています。ボートに乗りながらカフェのメニューを楽しむこともできますし、ウェディングでカフェを利用する際にはボート入場もできるそうです。

CANAL CAFÉは、料理も絶品です。現地で修業を積んだシェフが、イタリアンをベースにしたオリジナルな料理がふるまわれます。中でも、本場ナポリのピッツァ専用小麦粉を使い、石釜で焼き上げたこだわりのピッツァは文句のつけどころがありません。定番の「マルゲリータ」(下画像左側)はもちろん、数種のチーズにはちみつ、レモン、バジリコをちりばめた「ソレンティーナ」(下画像右側)も、さっぱりとしながらもほんのりと甘い香り漂う最高の一枚でした。
また、オリジナルワインも、ピッツァやパスタなど数々の絶品料理に合い、非常に口当たりの良いものでした。




今回の桜を見る会では、社会保険労務士の大脇ひとみ先生に「働き方改革」についてお話をしていただきました。今年の4月より改正法が適用される「働き方改革」については、企業法務にとって極めて重要な改革となりますので、そのお話しを聞けるのは極めて重要な機会となりました。


働き方改革としては、残業時間の上限規制や、勤務間インターバル制度の努力義務など合計8つの項目がありますが、その中からまず話題となったのは、4月より始まる5日間の有給休暇取得を義務付ける決まりです。

労働基準法39条により、事業主は「雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、」「十労働日の有給休暇」を与える必要があるとされていました。

しかし、現在、有給制度はあるものの、実際に有給をとる従業員は非常に少なくなっています。諸外国と比べても、日本は有給取得率や有給取得数が特に低い国といわれています。以前は従業員が自ら申し出なければ休みを取得できず、その自らの申告がしづらいという理由で有給をとらない従業員が多数いました。そのため、政府は有給休暇を義務化し、会社は年5日分については、従業員の希望を聞いた上で、有給をとる日を指定しそれをとらせなければならないとしたのです。仮にこの規定を破ったとすれば、労働基準法違反になり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則がくわえられます。

これら有給を会社が言わなければならなくなってしまったことにより、有給がきちんと年5日とれているかの管理をすることも重要となりました。もちろん従業員の法から有給申請をして、5日間とれていれば問題はありません。したがって、今回の有給義務化について、会社が規定を破らないための方法として考えられるのが、従業員ごとに消化日数を確認し、5日未満となりそうな従業員について会社が有給休暇取得日を指定する方法、そして、各従業員に対してあらかじめ有給休暇の日にちを決める方法です。

前者は個別従業員の管理が必要となりますが、少人数の企業であれば、会社と従業員との話し合いで日にちを指定でき、柔軟な対応が可能ですが、中~大企業であればこのような対応は困難となるでしょう。後者では、個別従業員の管理が不必要となり、その作業が減りますが、日にちの決定に労働協定を締結することが必要となり、さらに業務の都合によって日にちを変更することができません。

どちらもメリット・デメリットがあり、それぞれ会社によって、よりよい方法を選択するべきといえます。

また、昔話題となった失恋休暇のように会社が独自に作成した休暇は上記5日の有給には含まれないという点、パートタイム労働者にも年5日有給休暇義務がある可能性がある点、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間の保存をしなければならない点、就業規則への記載が必要な場合がある点にも注意が必要です。

多くの作業を伴う働き方改革の1項目で、罰則もあるので、4月からの施行には各企業十分注意しながら進める必要がありそうです。

さらに、もう一つ話題になったのが、「同一労働・同一賃金の原則」です。
この点について、平成30年6月1日に最高裁から出されたハマキョウレックス事件(判タ1453号58頁)と長澤運輸事件(判タ1453号47頁)の2つも話題にあがりました。

ハマキョウレックス事件は、定年退職ののち、株式会社ハマキョウレックスにて有期契約労働者として勤務していた原告らが、正社員との間で不合理な労働条件の相違があるため、労働契約法20条により、このような不合理な労働条件は無効であると主張した事件です。具体的には、無事故手当、作業手当、住宅手当、家族手当、賞与、退職金などが正社員にはありましたが、有期契約労働者として勤務する原告らには認められていませんでした。

そして、長澤運輸事件は、定年退職ののち、有期労働契約を締結した原告らが、正社員であった時から賃金がおよそ3割程度引き下げられたため、労働契約法20条違反で無効であると主張した事件です。

労働契約法20条は、同一の使用者と労働契約を締結している有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることにより労働条件を相違させることを禁止するもので、その相違は、労働者の業務内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務内容及び配置の変更範囲その他の事情を考慮して、不合理なものであってはならないことが規定されています。

労働契約法20条は、相違が「不合理と認められるものであってはならない」と規定していることから、その趣旨は有期契約労働者の公正な処遇を図ることにあることがわかります。そのため、この規定は私法上の効力を有するものと解するのが相当で、この規定に違反する労働条件の相違を設ける部分は無効となります。ただし、同条は有期契約労働者と無期契約労働者との均衡を目指すものであって、必ずしも条件を同一にしなければならないとは規定していません。すなわち、たとえ相違があり無効となったとしても、有期契約労働者の労働条件が無期契約労働者の労働条件と同一となるわけではないのです。

ハマキョウレックス事件では、正社員に適用される就業規則と、有期契約労働者に適用される就業規則は別個独立のものと作成されていたため、両者の労働条件の相違が同条に違反するからといって、有期契約労働者に正社員の就業規則が適用されるということはできないと認められました。

すなわち、正社員にのみ認められている上記手当等は有期契約労働者にも当然に支払わなければならないわけではないと判断されたのです。

たとえば、住宅手当について、正社員は全国異動があるのでその費用援助のため必要とされ、有期契約労働者は異動がないため不要ですから、住宅手当を有期契約労働者に認めずとも不合理とはいえません。一方で、皆勤手当については、両者の職務内容の間に差があるものではなく、皆勤を推奨する趣旨で支払われているので、有期契約労働者にも支払われなければ、不合理であると認められます。同様に、無事故手当や特定の作業を行った際に支払われる作業手当、旧職手当、通勤手当なども支払われなければ不合理であるとされました。

本件手当が「不合理」であるかどうかは、その手当の性質、正社員と有期契約労働者どちらにも当てはまる性質のものであるか、そして、どちらにも当てはまるならばどちらも同じ扱いをしなければならず、どちらかにのみ当てはまるとしても両者の均衡が不可欠であるという考え方であるといえます。

長澤運輸事件では、有期契約労働者が定年退職後に再雇用されていることは労働契約法20条「その他の事情」として考慮される事情であるとし、両者の賃金の相違が不合理かどうかについては、ハマキョウレックス事件と同様に、その趣旨を考慮すべきと判断しました。

正社員には、基本給、能率給及び職務給が支給されており、有期契約労働者には、基本賃金及び歩合給を支給し、能率給や職務給を支給していませんでした。しかし、歩合給にしている趣旨が収入の安定に配慮し、歩合給に係る係数を能率給よりも高く設定して労務の成果がより賃金に反映されやすくなるよう工夫していたため、このような相違は不合理とはいえないと判断されました。この事件でも、住宅手当や、皆勤手当に相当する精勤手当に差があることは、ハマキョウレックス事件同様、不合理であると判断されています。

上記2つの最高裁は、定年後再雇用という社会的注目のある事案において、労働契約法20条の解釈とその適用に関する判断をはじめて(正確にはハマキョウレックス事件が「はじめて」です)最高裁が示したもので、実務上非常に重要な意義を持つといえます。事案に即して個別具体的な判断がなされているため、「同一労働・同一賃金の原則」について、これからの道しるべをいち早く最高裁が示したものといえます。


さて、会はたいへん盛り上がり、店は神楽坂の老舗、Bar港にうつりました。CANAL CAFÉから少し坂をあがったところにある落ち着いたオーセンティックバーで、神楽坂店が1号店、飯田橋の住宅街に2号店もあるそうです。



バーテンダー歴が長く、世界大会にも出場したことがあるという港さんが作るカクテルは、飲みやすいものでした。500種以上のウイスキーや100種以上のワイン、フレッシュフルーツを存分に使った季節のカクテルなど幅広いメニューで目移りしてしまいます。落ち着きのある店内で、再びゆったりと会話を楽しみ、解散となりました。春の和やかな空気の中、あと数日で始まる大きな改革を前に、依頼者の方々と非常に意義のある交流ができたのではないかと思います。

投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office | 記事URL

2019年2月 7日 木曜日

民法改正 売主の担保責任に関する改正

民法改正 売主の担保責任に関する改正

 平成29年5月26日、民法の一部を改正する法律が成立しました。明治時代に民法が制定されてから、実に120年ぶりの大改正になります。改正部分は多岐にわたりますが、今回の記事では、売買契約における売主の担保責任について検討したいと思います。
 なお、改正民法は、一部を除いて2020年4月1日から施行されます。
 
1 現行法
(1)瑕疵担保責任
 一般に、担保責任とは、瑕疵(「目的物が通常保有すべき 品質・性能を兼ね備えていないこと」)ある目的物を給付した者(売主)が取得した者に対して負担する責任です。
現行法では、売買に関して、権利の一部が他人の物である目的物を売買した場合の担保責任として560条、数量が不足または一部滅失している目的物を売買した場合の担保責任として565条、物の瑕疵があった場合についての担保責任として570条が規定されています。
現行法570条では「売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する」と規定されています。「隠れた」とは、通常人が通常の注意をしても発見できないことをいいます。準用された566条によれば、①買主が、瑕疵があることを知らず、かつ瑕疵のために契約をした目的を達することができないとき、買主は契約を解除することができ(1項)、②解除ができないときは損害賠償請求することができ (1項)、③契約の解除や損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない (3項)、と規定されています。

(2)瑕疵担保責任の法的性質
一方で、売買の目的物が他人物だったり、数量不足だったり、隠れた欠陥がある場合というのは、本来の契約をきちんと履行していないという意味で債務不履行がある場合ともいえます。債務不履行があった場合、民法では、債権者は、解除(現民法契約総則540条以下)、損害賠償請求(現民法債権総則415条)、履行の強制(現民法債権総則414条)をすることができると規定されています。そこで、売買において給付された目的物に瑕疵がある場合、債務不履行と瑕疵担保責任との関係をどう考えればよいかについてながらく議論がされてきました。
この点については、瑕疵担保責任の性質を法定責任とする考え方と契約責任とする考え方で争いがあり、これまでは、法定責任説が通説であるとされてきました。法定責任説は、まず売買を当事者が物の個性に着目して取引する特定物売買と、物の個性に着目しない不特定物売買に分けて考えます。特定物売買では、当事者が個性に着目し、当事者が選択したその物が売買の目的物となるのだから、給付さえすれば目的物に隠れた瑕疵があっても売主に債務不履行責任は生じないことになります(このような考え方を特定物ドグマといいます)が、有償契約(相互に対価的な経済的支出をする)の性質を持つ売買契約では、目的物に瑕疵があると、その分対価的均衡が保たれないので、買主に対して責任追及ができないとすれば、瑕疵がないと信頼して目的物を購入した買主が不利益を被ることになります。これを是正するために法律が特に認めた責任が瑕疵担保責任であるとする考え方が、法定責任説です。法定責任説では、570条は特定物について適用され、不特定物については一般の債務不履行責任を規定した415条が適用されることになります。
 
2 改正法の考え方
(1)担保責任の考え方について
しかし、法定責任説に対しては、特定物か不特定物かで分けるのはあまり意味がなく、救済方法について差がありすぎるといった批判や、両当事者が一定の品質や性能を有する目的物の給付をすることを合意している場合に債務不履行が生じないのは常識に反するといった批判がありました。近年では、瑕疵担保責任も債務不履行責任の特則の一つであると考える契約責任説が有力となっていました。
そこで、今回の民法改正では、売主の担保責任に関して、契約責任説を前提に改正されています。改正法では、瑕疵という用語ではなく「契約の内容に適合しないもの」(新民法562条参照)という用語を用いて、目的物が特定物か不特定物かに関わらず、売主は買主に対して、種類、品質、数量に関して契約の内容に適合する目的物を引き渡す(新民法562条)、または権利を移転する(新民法565条)義務を負い、当該契約内容に適合しない目的物を引き渡したり、権利を移転したりした場合には、売主は担保責任を負うという建付けになっています。

3 現行法と改正法の比較~担保責任の効果
 担保責任の効果に着目して、現行法と改正法を比較してみたいと思います。全体としては、現行法と比較して、買主の保護が図られています。
(1)損害賠償請求権
 損害賠償請求は、現行法から認められていた救済手段ですが、瑕疵担保責任を法定責任と考える立場からは、損害賠償の対象は、信頼利益の損害(その契約が有効であると信じたために発生した損害)に限られるとされてきました。
 改正法では、瑕疵担保責任は債務不履行責任と考えられることになりますので、415条以下の債務不履行と同様に、契約が完全に履行されていれば発生したであろう利益である履行利益に対する損害も損害賠償請求の対象とされます。
 さらに、債務不履行責任を問うための債務者の帰責事由は、伝統的に債務者の故意過失と理解されてきましたが、415条も改正され、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断されることになりました(改正民法第415条但し書)。

(2)解除権
現行法でも、「契約をした目的が達せられないとき」に買主は契約を解除することができました。
改正法においては、債務不履行に基づく一般的な解除と同様に(新民法第564条)、契約をした目的を達せられないときという条件がなくても、契約を解除することができます(新民法541条)。ただし、「債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」には、解除は認められません(新民法第541条)。

(3)完全履行請求・代金減額請求権
法定責任説の立場からは、目的物に瑕疵があっても、瑕疵のない「この目的物」を観念することが理論上できないため、追完請求(修補請求・代替物引渡請求・不足分引渡請求)は認められていませんでした。
新民法では、売主の担保責任の性質は債務不履行責任であるとされたため、引き渡された目的物が種類・品質・数量の点で契約の内容に適合しないものであるときは、買主は売主に対し、債務不履行責任の一環として、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完請求をすることができるようになりました(新民法562条1項本文)。
ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができるとされています(新民法562条1項但し書)

(4)代金減額請求権 
現行法にはなかった規定として、562条に関連して563条が新設され、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主はその不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができると規定されました。

(5)担保責任の追及期間
現行法では、瑕疵担保責任の追及は、事実を知ったときから1年以内に契約の解除又は損害賠償の請求をしなければならないとされていました。
新民法では、品質又は種類に関しての契約不適合があった場合、買主は、契約不適合を知った日から1年以内に、契約不適合である旨を相手方に通知をしなければ、解除や損害賠償請求をすることができないとされました(新民法第566条)。

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2019年2月 7日 木曜日

相続法の改正 遺産分割前に処分された財産

相続法の改正 遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲

平成30年7月6日、国会で、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が成立し、相続法が多岐にわたって、改正されることになりました。
 今回のブログでは、相続開始後に共同相続人により相続財産が処分された場合の処理について、ご説明いたします。

【事案】Aが亡くなり、相続人は子Bと子Cであった。相続開始時に相続財産として銀行預金2000万円があったが、BはAが亡くなる前、Aから2000万円の生前贈与を受けていた。Aが亡くなり相続が開始した後、BはATMを急いで回り、合計で1000万円を引き出して自分のものにした。 
 この場合、BCはその後の遺産分割においてそれぞれのどれだけ相続することになるだろうか。Cには、不都合が生じないのだろうか。
(事例は、法務省民事局民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)より引用)

1 まず、事案を考える前に、遺産分割に関する前提となることをご説明します。
(1)被相続人が死亡すると相続が開始しますが、相続人が複数いる場合、被相続人が残した相続財産は民法の規定により相続人間で共有になります(民法898条)。いったん共有になった遺産を相続人に分配することを遺産分割といいます。
(2)
①被相続人が遺言を残している場合には、原則遺言にしたがって分配されます。この場合の相続分のことを「指定相続分」といいます(民法902条)。
②一方遺言を残していない場合には、民法が定める相続のルールである法定相続分に従って相続することになります(民法900条)。法定相続分は、相続人の組み合わせによって定められており、たとえば夫が亡くなって相続人が妻だけである場合には、妻がすべて相続し、相続人が妻Aと子Bと子Cの場合には、妻Aが2分の1、子Bが2分の1、子Cが2分の1相続すると定められています。具体的に相続財産として銀行預金1500万円と不動産が1つあった場合には、妻Aが銀行預金500万円と不動産の持分を2分の1、子Bが500万円と不動産の持分4分の1、子Cが500万円の不動産の持分4分の1を相続することになります
③しかし、被相続人が生前一部の相続人に生前贈与していた場合(これを特別受益と呼んでいます)や、一部の相続人が被相続人と同居してつきっきりで看病していた場合(こちらは特別の寄与と呼ばれます)など特別な貢献があった場合には、その部分を評価して相続分を確定しなければ、不公平が生じます。このように相続開始時に現存する財産の価額で計算すると相続人間で不公平が生じる場合、相続人間の公平を図るために特別受益や特別の寄与を考慮して相続分を確定することになります。このようにして決められた相続分のことを「具体的相続分」(民法903条)と呼んでいます。
 
一部の相続人に生前贈与があった場合の具体的相続分の計算方法は、以下の通りです。
ア 相続開始時の相続財産価額に特別受益額を加えた額を、みなし相続財産とします。
イ 次に、みなし相続財産に法定相続分または指定相続分をかけて、各相続人の本来の相続分を確定します。
ウ 最後に、イで出した本来の相続分から特別受益額を引いたものが、各相続人の具体的相続分となります。

計算式で書くと、このようになります。

ア 相続財産開始時の相続財産価額 + 特別受益額 = みなし相続財産
イ みなし相続財産 × (法定 or 指定相続分)=各相続人の本来の相続分
ウ 各相続人の本来の相続分 - 特別受益額 = 各相続人の具体的相続分

このように、一部の相続人が生前贈与を受けるなどして結果的に他の相続人より多く相続財産を受けることが公平といえない場合には、特別受益を相続財産に持ち戻して、相続分を確定するのです。

(3)また、遺産分割の対象となる財産の確定のため、その基準時をいつにするかということが問題となります。相続開始時(被相続人が死亡したとき)なのか、それとも遺産分割時(協議が始まるとき)かで見解が分かれるところですが、実務では、遺産分割時を基準にしています。

 以上の前提のもとで、今回の事案について考えてみます。
(1)まず、Bによる1000万円の引き出しがなかった場合について検討します。
Bが受けた生前贈与は、特別受益に当たります。そこで、本ケースの具体的相続分を式に当てはめて計算すると、下記のようになります。

ア 2000万円(相続財産開始時の相続財産価額)+2000万円(特別受益額) 
=4000万円(みなし相続財産)
イ Bの本来の相続分=4000万円(みなし相続財産)× 1/2(法定相続分)=2000万円
  Cの本来の相続分=4000万円(みなし相続財産)× 1/2(法定相続分)=2000万円
ウ Bの具体的相続分=2000万円(Bの本来の相続分)-2000万円(特別受益)=0万円
  Cの具体的相続分=2000万円(Cの本来の相続分のまま)
このように計算すると、BとCの具体的相続分の割合は、B:C=0:2000万円になるので、遺産分割時の残余財産2000万円の分配は、次のようになります。
B=2000万円 × 0/(0+2000万円)  =0円

C=2000万円 × 2000万円/(0+2000万円) =2000万円

Bはすでに2000万円の生前贈与を受けていますので、実質的にはBもCも2000万円ずつ受け取ったことになるわけです。

(2)では次に、事案のようにBがATMで合計1000万円を引き出していた場合はどうなるでしょうか。この場合、遺産分割時の遺産は2000万円から1000万円に減っています。遺産分割の対象財産は遺産分割時を基準に定められるため、1000万円を具体的相続分に応じて分配することになります。BCそれぞれ下記のようになります。

B=1000万円 ×0/(0+2000万円) =0円

C=1000万円 ×2000万円/(0+2000万円) =1000万円
このように計算すると、Bは、生前贈与の2000万円にATMで引き出した1000万円をくわえた3000万円、Cは1000万円を取得することになり、不公平が生じます。
 現行の制度のもとでこの不都合を解決する方法に明確なものはありませんが、Cは自らの取り分である1000万円について、不法行為や不当利得を理由に民事訴訟を提起することが可能です。費用や時間がかかり、また実際に請求が認められるかも難しいのが現状です。

3 そこで、このような不都合を解消するために、新民法では906条の2が創設され、遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合でも、処分された財産につき遺産に組み戻すことについて処分した相続人以外の同意があれば、処分者の同意を得ることなく、処分された財産を遺産分割の対象に含めることが可能となりました。(新民法906条の2第1項、第2項)
 組戻しが行われると、相続の対象となる財産は、現存する1000万円+引き出された1000万円+特別受益2000万円の合計4000万円となり、BCの法定相続分に応じた取得額としては2000万円ずつになりますが、Bは1000万円多く取得していることになります。そこで、BはCに対して、1000万円の代償金を支払うことになります。
 家庭裁判所で遺産分割審判を行う場合には、家庭裁判所は、BからCに対して代償金1000万円を支払うよう命じる審判を出すことが考えられます。BとCは、最終的には2000万円ずつ取得することになり、公平な遺産分割を実現することができるのです。

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2019年1月24日 木曜日

消費者の利益を一方的に害する条項について

消費者と事業者との間の契約においては、消費者契約法上、消費者の利益を一方的に害する条項は無効となること。

1 事業者が顧客に対して負う損害賠償責任を免除する条項の無効(消費者契約法8条)
 (1) 債務不履行責任の全部免除(同1項1号)
本号に該当する条項の例としては、
「いかなる理由があっても一切損害賠償責任を負わない」
「事業者に責に帰すべき事由があっても一切責任を負わない」
「事業者に故意又は重過失があっても一切責任を負わない」
といった、事業者の債務不履行による損害賠償責任を全て免除する旨の条項が、本号に該当し無効となる。

 (2) 故意・重過失による債務不履行責任の一部免除(同2号)
無効となる条項の例としては、
「事業者の損害賠償責任は○○円を限度とする」
といった条項がある。このような条項は、事業者の損害賠償責任を一定の限度に制限し、一部のみの責任を負わせるものであるため、債務不履行が事業者等の故意又は重過失によるものである場合には、その限りにおいて無効となる。

 (3) 債務の履行に関してされた不法行為責任の免除(同3号)
   無効となる条項の例としては(1)と同様である。
ここでの不法行為責任とは、民法第709条(不法行為による損害賠償)、第715条(使用者等の責任)、第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)及び第718条(動物の占有者等の責任)のほか、代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害に関する法人の損害賠償責任の規定(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第78条等)、商法第690条(船舶所有者の船長等に関する賠償責任)、製造物責任法第3条(製造物責任)等が考えられる。

 (4) 債務の履行に関してされた故意・重過失による不法行為責任の一部免除(同4号)
   「故意又は重大な過失」という損害を発生させた加害行為の行為者の主観的態様の程度を要件としている。したがって、第3号に掲げたもののうち、人の加害行為によらない不法行為の類型については本号の適用はない。よって、第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)及び第718条(動物の占有者等の責任)、製造物責任法第3条の場合には本号の適用はないと考えられる。

 (5) 瑕疵担保責任の全部免除(同5号)
   本号は、消費者契約において、事業者が民法第570条及び第634条に規定する瑕疵担保責任を負う場合で、瑕疵による損害賠償責任の全部を免除する条項をその限りにおいて無効とするものである

2 顧客が事業者に対して負う損害賠償責任を加重する条項の無効(消費者契約法9条)
 (1) 契約解除時の過大な違約金の定め(同1号)
本号の規定は、契約の解除に伴う損害賠償額の予定等の定めがある場合において契約が解除されたときに、当該事業者に生ずべき平均的損害の額を超える額の支払を消費者に請求することができず、その超過部分を無効とするものである。

 (2) 年14.6%を超える遅延損害金の定め(同2号)
   本号は、事業者は消費者契約においては、消費者が契約に基づく金銭の支払が遅延     した場合の損害賠償額の予定等を定めたときは、年14.6%を超える損害賠償を消費者に請求することができないこととしている。

3 消費者の解除権を放棄させる条項の無効(第8条の2)
(1)  債務不履行に基づく解除権を放棄させる条項(同1号)
本号は、事業者の債務不履行によって生じた消費者の解除権を放棄させる条項をその限りにおいて無効とするものである。

(2)  瑕疵担保責任に基づく解除権を放棄させる条項(同2号)
本号は、事業者から引き渡された消費者契約の目的物や仕事の目的物に瑕疵があったことによって生じた消費者の解除権を放棄させる条項をその限りにおいて無効とするものである。消費者は、民法第570条等の規定に従い、契約の解除をすることができることになる。

4 その他消費者の利益を一方的に害する条項が無効となる例(消費者契約法10条)
(1)  事業者からの解除・解約の要件を緩和する条項
例えば、民法第541 条により、相当の期間を定めた履行の催告をした上で解除をすることとされている場面について、特に正当な理由もなく、消費者の債務不履行の場合に事業者が相当の期間を定めた催告なしに解除することができるとする条項については、無効とすべきものと考えられる。

(2)  第8条の2に定めのない消費者の解除権を放棄させる条項
例えば、委任契約については、各当事者がいつでもその解除をすることができることとされている(民法第651条第1項)。このように、債務不履行や瑕疵担保責任に基づくもの以外の消費者の解除権を放棄させる条項は、第8条の2の適用によっては無効とならない。もっとも、そのような条項が、第10条の要件を満たす場合には、同条が適用されることにより無効となる。

(3)  事業者の証明責任を軽減し、又は消費者の証明責任を過重する条項
証明責任を法定の場合よりも消費者に不利に定める条項(例えば、債務不履行に基づく損害賠償責任(民法第415 条)に関し、事業者の「責めに帰すべき事由」を消費者に証明させる条項)は、無効となりうる。

(4)  消費者の権利の行使期間を制限する条項
瑕疵担保責任の権利の行使期間については、当該契約内容の特性等により任意規定と異なる定めをすることは許容されるべきであるが、正当な理由なく行使期間を法定の場合よりも不当に短く設定する条項は、民法第566 条第3項(権利の行使期間は事実を知ったときから1年以内)に比べ、消費者の義務を加重するものとして、無効となりうる。

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2019年1月24日 木曜日

ウェブサイトの利用規約の契約への組入れと有効性について

サイト利用規約の記載が当該取引についての契約の一部になる場合。

1 サイト利用規約の組入れ可否について
インターネット通販、インターネット・オークション、インターネット上での取引仲介・情報提供サービスなど様々なインターネット取引を行うウェブサイトには、利用規約、利用条件、利用契約等の取引条件を記載した文書(以下総称して「サイト利用規約」という)が掲載されていることが一般的であるが、サイト利用規約は利用者との間の取引についての契約にその一部として組み入れられるか。

2 ウェブサイトの利用規約の契約への組入れと有効性
物品の販売やサービスの提供などの取引を目的とするウェブサイトについては、利用者がサイト利用規約に同意の上で取引を申し込んだのであれば、サイト利用規約の内容は利用者とサイト運営者との間の当該取引についての契約の内容に組み入れられる(サイト利用規約の記載が当該取引についての契約の一部になる)。
(1) 取引その他の契約関係の存在
サイト利用規約が契約内容に組み入れられるためには、まず利用者とサイト運営者の間にそもそも何らかの契約関係が認められることが必要である。契約関係の基礎となる取引としては売買取引(インターネット通販など)が最も典型的であるが、インターネットを通じた有償の情報サービスやインターネット・オークションなど各種のサービス提供取引も契約関係を発生させると考えられる。
なお、利用者とサイト運営者の間に契約関係が存在しない場合にはサイト利用規約の記載は契約としての効力を持ち得ないが、その場合であっても、サイト運営者の不法行為責任の有無及び範囲を判断する上で、サイト利用規約の記載内容が斟酌される場合もあろう。

(2)サイト利用規約が適切に開示され、且つ利用者がサイト利用規約に同意の上で取引の申込みを行っていると認定できること
サイト利用規約が契約内容に組み入れられるためには、次に、①利用者がサイト利用規約の内容を事前に容易に確認できるように適切にサイト利用規約をウェブサイトに掲載して開示されていること、及び②利用者が開示されているサイト利用規約に従い契約を締結することに同意していると認定できることが必要である(「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」経済産業省i.21頁)。

3 サイト利用規約の変更とその効力
サイト利用規約は、単発の取引であるか継続的な取引であるかに関わらず、利用者とサイト運営者との間の取引契約の内容に組み入れられることで契約の一部となるものと考えられる。そして、いったん成立した契約は当事者の合意によらない限り変更できないのが原則である。よって、事業者が既存のサイト利用者に変更後のサイト利用規約を適用するためには、サイト利用者に対してサイト利用規約の変更箇所を分かりやすく告知した上で、利用条件の変更に対するサイト利用者側の同意(又は変更後のサイト利用規約に基づき取引を行うことへの同意)を得ることが必要である。

4 消費者契約法等による内容規制
サイト利用規約が契約条件に組み入れられる場合であっても、その中の強行法規に違反する条項や公序良俗に反する条項は無効とされる。
例えば、事業者の責任を制限する条項(消費者契約法第8条)、消費者に対する過大な損害賠償額の予定(消費者契約法第9条第1号)、その他消費者の利益を一方的に害する条項(消費者契約法第10条)は無効となる。

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