事務所ブログ

2020年4月29日 水曜日

コロナウィルスの影響による契約の変更、解除

コロナウィルスの影響により契約への解釈の大幅な変更が求められます。賃料の減額請求や契約内容の変更や契約の解除が必要となる場面もありますが、これまで経験したことにない事態ですので、不可抗力条項や事情変更の原則などの考え方を用いる必要があります。また、契約変更に応じてもらえない場合は、調停や訴訟などの司法的調整機能を活用する必要があります。資金流出は待ったなしの状態ですので、当面最低限の状態で企業存続を図りながら、契約の解除の可否や変更の可能性について時間をかけて検討していくことになります。

新型コロナウイルス対応~取引関係~

※改正民法が令和2年4月1日に施行されましたが、基本的に、同日より前に締結された契約には改正前の民法が、同日以降に締結された契約には改正後の民法が適用されます。
以下、民法の改正前後で違いがある場合にのみ違いを明記します。

Q1 緊急事態宣言について教えてください。

A  新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、「特措法」といいます。※)第32条に基づいて出されるものです。
        新型インフルエンザ等が国内で多く発生し、全国的な急速なまん延により、国民生活や国民経済に甚大な影響を及ぼす場合に、内閣総理大臣が、①緊急措置を実施すべき期間、②緊急措置を実施すべき区域、③緊急事態の概要、を特定して宣言するものです。

※新型インフルエンザ及び全国的かつ急速なまん延のおそれのある新感染症に対する対策の強化を図り、国民の生命及び健康を保護し、国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるようにすることを目的として制定され、平成24年5月に公布されました。また、暫定措置として、令和2年3月に新型コロナウイルス感染症をこの特措法の適用対象とする改正が行われました。

Q2 緊急事態宣言に基づいて都道府県知事はどのような要請や指示ができるのでしょうか。

A  緊急事態宣言が出されると、実施区域として指定された都道府県知事は、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、以下の要請又は指示を行うことができます(特措法第45条第1項から第3項)。なお、これらの要請や指示に従わなくても罰則はありません。
   ①外出自粛等の要請(生活の維持に必要な場合を除きみだりに居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力の要請)
   ②施設の使用制限等の要請(学校、社会福祉施設、興行場その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずることの要請)
   ③施設の使用制限等の指示(正当な理由がないのに施設の使用制限等の要請に応じないときは、当該要請に係る措置を講ずべきことの指示)
Q3 都道府県知事が強制的にできる措置はありますか。

A  都道府県知事は、以下の措置などを行うことができます。
        ①臨時の医療施設を開設するため必要がある場合に、土地、家屋又は物資を使用する必要があると認めるときは、土地等の所有者及び占有者の同意を得て、土地等を使用することができ、正当な理由がないのに同意しないときなどは同意を得ないで、使用できる(特措法第49条第1項及び第2項)。
        ②医薬品や食品など必要な物資(特定物資)について、売り渡しを要請し、正当な理由なく要請に応じない場合には特定物資を収用する(特措法第55条第1項及び第2項)。
        ③特定物資を確保するため緊急の必要があると認められるときは、特定物資の生産、集荷、販売、配給、保管又は輸送を業とする者に対し、その取扱う特定物資の保管を命ずる(特措法第55条第3項)。
なお、本命令に従わない場合には、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます。

Q4 令和2年4月10日付けで東京都が出した緊急事態措置について教えてください。

A  東京都は、都民向けと事業者向けに以下の要請を出しました。
   ①都民向け:徹底した外出自粛要請(令和2年4月7日~5月6日)
         特措法第45条第1項に基づき、医療機関への通院、食料の買い出し、職場への出勤など、生活の維持に必要な場合を除き、原則として外出しないこと等を要請
        ②事業者向け:施設の使用停止及び催物の開催の停止要請(令和2年4月11日~5月6日)
       ・特措法第24条第9項に基づき、施設者もしくはイベント主催者に対し、施設の使用停止もしくは催物の開催の停止を要請。これに当てはまらない施設についても、特措法によらない施設の使用停止の協力を依頼。
       ・屋外問わず、複数の者が参加し、密集状態等が発生する恐れのあるイベント、パーティ等の開催についても、自粛を要請。

Q5 新型コロナウイルスの影響で、納期までに顧客(買主)に対して売買の目的物を引き渡すことができません。この場合、何か売主として責任を負うことになります。

A 【民法改正前】
  売主は、買主に対して、納期までに目的物を引き渡す義務を負っているため、納期までに目的物を引き渡せないことによって買主に損害が発生した場合には、損害賠償責任を負う可能性があります(民法第415条)。また、その場合、買主から、相当の期間を定めて引渡しの催告がなされたにもかかわらず、引渡しができない場合には、売買契約を解除される可能性があります(民法第541条)。
  もっとも、新型コロナウイルスの影響が原因で目的物を引き渡せなかった場合、その影響が契約書に定める「不可抗力」に該当するか、または債務者の「責めに帰すべき事由」が認められないといえるときは、売主は、損害賠償責任を免れ、又は買主による解除が認められない可能性があります。

 【民法改正後】
  改正民法では、契約解除の要件として債務者の「責めに帰すべき事由」は不要となりました。そのため、たとえ目的物を引き渡せないことについて債務者の「責めに帰すべき事由」が認められない場合であっても、契約の解除はされる可能性があります。

Q6 売買契約書に不可抗力条項が定めてあります。不可抗力条項があれば、新型コロナウイルスの影響で納期までに顧客(買主)に対して売買の目的物を引き渡すことができなくても責任は追及されませんか。

A  契約書で定められている不可抗力条項の内容によります。たとえ、不可抗力条項という条項があったとしても「不可抗力」の定義のされ方などによって、新型コロナウイルスの影響が当該契約書での「不可抗力」に該当するかどうかが変わってきます。そのため、単に不可抗力条項があれば問題ないということではありません。個別の事案に応じた具体的な検討が必要となります。

Q7 新型コロナウイルスの影響で、市場環境が大きく変わり、当初想定していた発注数を大きく下回る数量しか発注できないことになりました。この場合、何か発注者(買主)として責任を負うことになりますか。

A  基本的には、発注者(買主)は、一定数量の発注義務などが特別に定められていない限り、発注をしなくても責任は負いません。

Q8 Q7に関連して、当社は、発注者として一定数量の発注義務が定められた売買契約を締結しています。しかし、新型コロナウイルスの影響で、契約締結時に想定していた発注量を今後も継続して発注することはおよそ不可能です。この場合、発注数量の変更や契約を解約・解除をすることはできますか。

A  一定数量の発注義務が存在していたとしても、契約締結時の市場環境と現在新型コロナウイルスの影響下での市場環境では大きく変化していますので、当事者の合理的意思解釈に照らして、このような市場環境においては契約締結時に定めた発注数に拘束されるものではないなどとして、発注数量を変更するよう受注者(売主)と交渉するべきと考えます。
また、契約の解約・解除については、基本的に、契約に定められた中途解約条項や契約解除条項に従って判断されますので、本件のような場合に中途解約や契約解除ができる旨の規定が定められている場合には、解約・解除できます。
仮に中途解約条項や契約解除条項に該当しない場合でも、契約締結時に前提としていた事実や条件等が大きく変化したとして「事情変更の法理」に基づいて契約解除の余地がないかどうか検討することも考えられます(過去の裁判例などからは事情変更の法理が認められる場合は極めて限られていますが、政府から緊急事態宣言が出され経済活動が大きく停滞している現状からみると、事情変更の法理や信義則の適用による契約条件の変更、契約解除などが認められる可能性もあると考えられます。)。
そのため、これらを念頭に、受注者(売主)と交渉すべきと考えます。それでも解決できない場合には、調停等の法的手段による解決も検討すべきと考えます。

Q9 当社はトラック運送事業者です。新型コロナウイルスの影響で、トラック運転手が確保できず、期限通りに荷物を配送できそうにありません。何か運送事業者として責任を負うことになりますか。

A  標準貨物自動車運送約款では、運送事業者の免責事由を定めています。新型コロナウイルスの影響が約款で定められている免責事由に該当する場合には、貨物の延着について責任を負いません。
   なお、認可された独自約款を使用している場合には、当該独自約款に定められた免責事由に従って判断されることになります。

Q10 新型コロナウイルスの影響で、納品の受け入れ体制が整わず、仕入先からの目的物を受領できません。この場合、何か買主として責任を負うことになりますか。

A  判例は、一般的に、債権者であることのみを理由に受領義務が認められるものではないとの立場をとっていると解されています(受領できなくても債務不履行にならず、受領遅滞を理由とした損害賠償請求や契約の解除はできないことになります)。
もっとも、契約の内容等や信義則に基づいて個別に受領義務が認められる場合もあり得ます。そのため、個別具体的な事情から、買主に受領義務が認められる場合には、目的物を受領できないことによって売主に損害が発生したときは、買主は損害賠償責任を負うことになります。
   また、買主が損害賠償責任を負わないとしても、受領遅滞となった場合には、目的物の保存義務の軽減、増加した保存費用等の買主負担、受領遅滞中の履行不能の危険が買主負担となる、などの効果が生じます。

Q11 新型コロナウイルスの影響で経営が悪化し、支払期限までに売買代金を支払うことができません。新型コロナウイルスの影響がなければ通常通り支払うことはできました。この場合にも遅延損害金などを支払う必要はありますか。

A  金銭債権については、たとえ不可抗力があってもその支払いは免除されません(民法第419条第3項)。そのため、支払期限までに売買代金を支払うことができない場合には、債務不履行となり、契約書に定めがある場合には契約書に従って、仮に契約書に定めがない場合には民法に従って遅延損害金を支払う必要があります。
   よって、日本政策金融公庫等の「新型コロナウイルス感染症特別貸付」などを利用して資金調達を行うか、債権者と協議して支払期限の延長を認めてもらうなどする必要があります。

Q12 当社は会員から毎月会費を支払ってもらい、会員に対して継続的にサービスを提供していますが、政府や自治体からの休業要請に従い休業することにしました、サービスを提供できなくなった期間の会費についてはどうすればよいでしょうか。

A  政府等の休業要請に従って休業する場合は、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなった」(民法第536条第1項)といえる可能性が高いです。この場合、原則として、会費の支払いを受けることはできません。そのため、会費の返還や営業再開後の会費に充当するなどの対応が必要になると考えられます(月の半分のみサービスを提供する場合には、会費を半額にするなどの対応が考えられます。)
   なお、改正民法ではQ1の通り、契約解除に債務者の「責めに帰すべき事由」は不要ですので、契約の解除を求められる可能性はあります。

Q13 新型コロナウイルスの影響で経営が悪化し、店舗の家賃を支払うことができません。
  この場合でも家賃の支払いを猶予してもらうことはできますか。

A Q6の通り、金銭債権については、たとえ不可抗力があってもその支払いは免除されません(民法第419条第3項)。そのため、賃貸借契約書の中に、賃料の支払猶予に関する特別な条項がない限り、支払の猶予は認められません。
  もっとも、賃貸人との任意の交渉により、賃貸人が賃料の支払猶予に応じた場合には、猶予が認められますので、一度任意で交渉してみる価値はあると考えられます。

Q14 新型コロナウイルスの影響で経営が悪化し、今後、今までと同じ額の店舗家賃を支払うことができません。この場合、家賃の減額をしてもらうことはできますか。

A 賃貸借契約の中で、賃料の減額について定めた規定がある場合には、それに従って賃料の減額請求や交渉ができるか可能性もあります。また、賃貸借契約の中に、そのような賃料減額について定めた規定がない場合には、賃貸人との任意の交渉により、賃貸人が賃料の減額に応じた場合には、減額が認められます。

  他方、法律上の請求として賃料減額請求が考えられます。改正民法第611条第1項では、「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由よるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される」と定められています。
新型コロナウイルスの影響で単に売り上げが落ちたことを理由とする場合には、本条には該当せず、賃料減額は認められないと考えられます。もっとも、特措法に基づく休業要請などに従い、事実上店舗を閉鎖せざるを得ず、店舗の使用及び収益ができないような場合には、本条に該当し、賃料減額が認められる余地はあると考えます(この点、あくまで要請のため、店舗を「使用及び収益」できるとの主張もあり得ますが、社会的に新型コロナウイルスの感染拡大防止のため人との接触8割減が強く求められている現在の状況では、要請とは言いつつ店舗の閉鎖が事実上強制に近い状態にあると考えられ、「使用及び収益」できないといえる余地はあると考えます。)。

  そのため、賃貸人との任意の交渉においても、法律上の請求として賃料減額請求が認められる可能性があることを念頭において交渉することが重要と思われます。仮に任意の交渉で解決できない場合には、調停等の法的手段による解決も検討すべきと考えます。

※改正前民法第611条第1項では、条文上「滅失」のみ挙げられ、「使用及び収益」については規定されていないため、改正民法により、滅失に限らずより広く賃料減額請求が認められることが明らかになったといえます。
※現在、国や自治体によって、事業者支援として賃料の支払い猶予や賃料の減免などが検討されていますので、今後の動向によっては、賃料減額交渉が円滑に進む可能性があります。

以上


投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office | 記事URL

2020年3月31日 火曜日

未払賃金の消滅時効について

未払賃金の消滅時効~2年から3年へ延長~

1.これまでの制度

残業代等の未払賃金請求の消滅時効は、2年とされていました。そのため、仮に、企業が従業員に対して残業代などを支払っておらず、未払賃金が発生していた場合、従業員は、企業に対して過去2年分の未払賃金を請求することが認められていました。


2.民法及び労働基準法の改正

2020年4月1日から改正民法が施行され、債権の消滅時効が5年に統一されることになりました。従来、債権の消滅時効は原則10年であるとしつつ、例外的に、職業別のより短期の消滅時効期間(弁護士報酬は2年、医師の診療報酬は3年など)を設けていましたが、5年に統一されたことにより、合理的で分かりやすい制度となりました。

この民法改正に合わせて、残業代等の未払賃金請求の消滅時効についても5年に延長することが検討されました。しかし、労使間の意見の違いもあり、最終的には、消滅時効を現行の2年から「5年」に延長するが、経過措置として、当面の間は「3年」に延長されることとなりました。そのため、今後、未払賃金が発生した場合、従業員は、企業に対して過去3年分の未払賃金を請求することができるようになります。この改正労働基準法は、改正民法と合わせて2020年4月1日に施行されます。
なお、施行後5年で見直しが行われる予定となっているため、将来的には「5年」となる可能性があります。

3.いつから過去3年分の未払賃金を請求できるのか

消滅時効が3年となるのは、改正労働基準法の施行日である2020年4月1日以降に支払われる賃金に限られます。2020年3月31日までの未払賃金についての消滅時効は、従前通り2年となります。
そのため、実際に2年を超えて遡って請求できるのは、2022年4月以降に支払われる賃金となります。

4.付加金

付加金とは、未払賃金やそれに対する遅延損害金、遅延利息とともに請求することができるもので、企業が賃金や残業代を支払わなかったことに対する制裁金としての意味合いを持つものです。付加金の額は、請求額と同一額とされています(ただし、裁判所の裁量により付加金の支払いが認められない場合もあれば、一部のみ認められる場合もあります。)。
この付加金の請求期間についても、当分の間「3年」に延長されることとなりました。


5.具体例

では、未払賃金の消滅時効が3年に延長された場合、これまでと比べて企業が支払うべき未払賃金の金額はどの程度変わるのでしょうか。

以下の従業員Aさんに対して、残業代が全く支払われていなかった場合、企業が支払うことになる未払賃金は次の通りとなります。

【Aさんの労働条件、勤務時間等】
①給与月額30万円
②月額勤務日数20日
③1ヶ月平均所定労働時間160時間
④法定時間外労働1日2時間(1ヶ月40時間)

【Aさんに対して本来支払うべき1ヶ月あたりの残業代】
残業時間(40時間)×1時間当たりの賃金1875円(30万円÷160時間)×割増率(1.25)=9万3750円

【消滅時効2年の場合に企業がAさんに対して支払う残業代】
9万3750円×24カ月=225万円

【消滅時効3年の場合に企業がAさんに対して支払う残業代】
9万3750円×36カ月=337万5000円

以上より、消滅時効の延長により企業がAさんに対して支払うべき金額は、1.5倍の増加となります(期間が1.5倍となったため当然ではありますが)。

また、万が一、企業に対して付加金(満額)の支払いが命じられた場合、付加金の額は未払残業代と同額となるため、企業はAさんに対して合計675万円(337万5000円×2)を支払うことになります。
※これに遅延損害金、遅延利息が加算される場合もあります。

6.今後の対応

既に適切な労務管理が行われており、残業代等に関して未払賃金が発生していない企業においては、従前通り適切な労務管理を行って頂ければ問題ありません。
しかし、例えば、勤怠管理システムが整っておらず、賃金算定の基礎となっている労働時間の記録と実態にずれが生じているような場合には、未払賃金が発生している可能性があります。このような企業では、労働時間の記録と実態にずれが生じないよう速やかに労務管理の方法等を改善していく必要があります。

以上

投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office | 記事URL

2019年3月27日 水曜日

桜を見る会

3月25日月曜日に、お花見人気スポットと名高い神楽坂のCANAL CAFÉにて、桜を見る会が開かれました。3月21日に靖国神社にあるソメイヨシノが開花したと発表され、その翌週明けのことです。週末に寒さが戻ったせいか、満開とはなりませんでしたが、お堀の脇に春の彩を感じることができました。


CANAL CAFÉはJR飯田橋駅のすぐそばという都内の真ん中に位置しておりながら、ゆったりと優雅な時間を過ごすことができる人気のカフェです。神楽坂で唯一水辺のテラスがあるカフェでもあり、「神楽坂のリゾート」と呼ばれることもあります。
今回の桜を見る会は夜に行われましたが、夜になると水辺のテラスも昼間とはまた違った一層美しい佇まいを見せてくれました。



総武線の車窓からこちらのボートデッキを見つけた方もいらっしゃるかと思います。写真左上に櫂の旗が写っているのが見えますが、ここCANAL CAFÉは、もともと、東京水上倶楽部により作られたボート場だったそうです。現在もボートが用意されており、お堀をボートでまわるサービスもしています。ボートに乗りながらカフェのメニューを楽しむこともできますし、ウェディングでカフェを利用する際にはボート入場もできるそうです。

CANAL CAFÉは、料理も絶品です。現地で修業を積んだシェフが、イタリアンをベースにしたオリジナルな料理がふるまわれます。中でも、本場ナポリのピッツァ専用小麦粉を使い、石釜で焼き上げたこだわりのピッツァは文句のつけどころがありません。定番の「マルゲリータ」(下画像左側)はもちろん、数種のチーズにはちみつ、レモン、バジリコをちりばめた「ソレンティーナ」(下画像右側)も、さっぱりとしながらもほんのりと甘い香り漂う最高の一枚でした。
また、オリジナルワインも、ピッツァやパスタなど数々の絶品料理に合い、非常に口当たりの良いものでした。




今回の桜を見る会では、社会保険労務士の大脇ひとみ先生に「働き方改革」についてお話をしていただきました。今年の4月より改正法が適用される「働き方改革」については、企業法務にとって極めて重要な改革となりますので、そのお話しを聞けるのは極めて重要な機会となりました。


働き方改革としては、残業時間の上限規制や、勤務間インターバル制度の努力義務など合計8つの項目がありますが、その中からまず話題となったのは、4月より始まる5日間の有給休暇取得を義務付ける決まりです。

労働基準法39条により、事業主は「雇入れの日から起算して六箇月間継続勤務し全労働日の八割以上出勤した労働者に対して、」「十労働日の有給休暇」を与える必要があるとされていました。

しかし、現在、有給制度はあるものの、実際に有給をとる従業員は非常に少なくなっています。諸外国と比べても、日本は有給取得率や有給取得数が特に低い国といわれています。以前は従業員が自ら申し出なければ休みを取得できず、その自らの申告がしづらいという理由で有給をとらない従業員が多数いました。そのため、政府は有給休暇を義務化し、会社は年5日分については、従業員の希望を聞いた上で、有給をとる日を指定しそれをとらせなければならないとしたのです。仮にこの規定を破ったとすれば、労働基準法違反になり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金という罰則がくわえられます。

これら有給を会社が言わなければならなくなってしまったことにより、有給がきちんと年5日とれているかの管理をすることも重要となりました。もちろん従業員の法から有給申請をして、5日間とれていれば問題はありません。したがって、今回の有給義務化について、会社が規定を破らないための方法として考えられるのが、従業員ごとに消化日数を確認し、5日未満となりそうな従業員について会社が有給休暇取得日を指定する方法、そして、各従業員に対してあらかじめ有給休暇の日にちを決める方法です。

前者は個別従業員の管理が必要となりますが、少人数の企業であれば、会社と従業員との話し合いで日にちを指定でき、柔軟な対応が可能ですが、中~大企業であればこのような対応は困難となるでしょう。後者では、個別従業員の管理が不必要となり、その作業が減りますが、日にちの決定に労働協定を締結することが必要となり、さらに業務の都合によって日にちを変更することができません。

どちらもメリット・デメリットがあり、それぞれ会社によって、よりよい方法を選択するべきといえます。

また、昔話題となった失恋休暇のように会社が独自に作成した休暇は上記5日の有給には含まれないという点、パートタイム労働者にも年5日有給休暇義務がある可能性がある点、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間の保存をしなければならない点、就業規則への記載が必要な場合がある点にも注意が必要です。

多くの作業を伴う働き方改革の1項目で、罰則もあるので、4月からの施行には各企業十分注意しながら進める必要がありそうです。

さらに、もう一つ話題になったのが、「同一労働・同一賃金の原則」です。
この点について、平成30年6月1日に最高裁から出されたハマキョウレックス事件(判タ1453号58頁)と長澤運輸事件(判タ1453号47頁)の2つも話題にあがりました。

ハマキョウレックス事件は、定年退職ののち、株式会社ハマキョウレックスにて有期契約労働者として勤務していた原告らが、正社員との間で不合理な労働条件の相違があるため、労働契約法20条により、このような不合理な労働条件は無効であると主張した事件です。具体的には、無事故手当、作業手当、住宅手当、家族手当、賞与、退職金などが正社員にはありましたが、有期契約労働者として勤務する原告らには認められていませんでした。

そして、長澤運輸事件は、定年退職ののち、有期労働契約を締結した原告らが、正社員であった時から賃金がおよそ3割程度引き下げられたため、労働契約法20条違反で無効であると主張した事件です。

労働契約法20条は、同一の使用者と労働契約を締結している有期契約労働者と無期契約労働者との間で、期間の定めがあることにより労働条件を相違させることを禁止するもので、その相違は、労働者の業務内容及び当該業務に伴う責任の程度、当該職務内容及び配置の変更範囲その他の事情を考慮して、不合理なものであってはならないことが規定されています。

労働契約法20条は、相違が「不合理と認められるものであってはならない」と規定していることから、その趣旨は有期契約労働者の公正な処遇を図ることにあることがわかります。そのため、この規定は私法上の効力を有するものと解するのが相当で、この規定に違反する労働条件の相違を設ける部分は無効となります。ただし、同条は有期契約労働者と無期契約労働者との均衡を目指すものであって、必ずしも条件を同一にしなければならないとは規定していません。すなわち、たとえ相違があり無効となったとしても、有期契約労働者の労働条件が無期契約労働者の労働条件と同一となるわけではないのです。

ハマキョウレックス事件では、正社員に適用される就業規則と、有期契約労働者に適用される就業規則は別個独立のものと作成されていたため、両者の労働条件の相違が同条に違反するからといって、有期契約労働者に正社員の就業規則が適用されるということはできないと認められました。

すなわち、正社員にのみ認められている上記手当等は有期契約労働者にも当然に支払わなければならないわけではないと判断されたのです。

たとえば、住宅手当について、正社員は全国異動があるのでその費用援助のため必要とされ、有期契約労働者は異動がないため不要ですから、住宅手当を有期契約労働者に認めずとも不合理とはいえません。一方で、皆勤手当については、両者の職務内容の間に差があるものではなく、皆勤を推奨する趣旨で支払われているので、有期契約労働者にも支払われなければ、不合理であると認められます。同様に、無事故手当や特定の作業を行った際に支払われる作業手当、旧職手当、通勤手当なども支払われなければ不合理であるとされました。

本件手当が「不合理」であるかどうかは、その手当の性質、正社員と有期契約労働者どちらにも当てはまる性質のものであるか、そして、どちらにも当てはまるならばどちらも同じ扱いをしなければならず、どちらかにのみ当てはまるとしても両者の均衡が不可欠であるという考え方であるといえます。

長澤運輸事件では、有期契約労働者が定年退職後に再雇用されていることは労働契約法20条「その他の事情」として考慮される事情であるとし、両者の賃金の相違が不合理かどうかについては、ハマキョウレックス事件と同様に、その趣旨を考慮すべきと判断しました。

正社員には、基本給、能率給及び職務給が支給されており、有期契約労働者には、基本賃金及び歩合給を支給し、能率給や職務給を支給していませんでした。しかし、歩合給にしている趣旨が収入の安定に配慮し、歩合給に係る係数を能率給よりも高く設定して労務の成果がより賃金に反映されやすくなるよう工夫していたため、このような相違は不合理とはいえないと判断されました。この事件でも、住宅手当や、皆勤手当に相当する精勤手当に差があることは、ハマキョウレックス事件同様、不合理であると判断されています。

上記2つの最高裁は、定年後再雇用という社会的注目のある事案において、労働契約法20条の解釈とその適用に関する判断をはじめて(正確にはハマキョウレックス事件が「はじめて」です)最高裁が示したもので、実務上非常に重要な意義を持つといえます。事案に即して個別具体的な判断がなされているため、「同一労働・同一賃金の原則」について、これからの道しるべをいち早く最高裁が示したものといえます。


さて、会はたいへん盛り上がり、店は神楽坂の老舗、Bar港にうつりました。CANAL CAFÉから少し坂をあがったところにある落ち着いたオーセンティックバーで、神楽坂店が1号店、飯田橋の住宅街に2号店もあるそうです。



バーテンダー歴が長く、世界大会にも出場したことがあるという港さんが作るカクテルは、飲みやすいものでした。500種以上のウイスキーや100種以上のワイン、フレッシュフルーツを存分に使った季節のカクテルなど幅広いメニューで目移りしてしまいます。落ち着きのある店内で、再びゆったりと会話を楽しみ、解散となりました。春の和やかな空気の中、あと数日で始まる大きな改革を前に、依頼者の方々と非常に意義のある交流ができたのではないかと思います。

投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office | 記事URL

2019年2月 7日 木曜日

民法改正 売主の担保責任に関する改正

民法改正 売主の担保責任に関する改正

 平成29年5月26日、民法の一部を改正する法律が成立しました。明治時代に民法が制定されてから、実に120年ぶりの大改正になります。改正部分は多岐にわたりますが、今回の記事では、売買契約における売主の担保責任について検討したいと思います。
 なお、改正民法は、一部を除いて2020年4月1日から施行されます。
 
1 現行法
(1)瑕疵担保責任
 一般に、担保責任とは、瑕疵(「目的物が通常保有すべき 品質・性能を兼ね備えていないこと」)ある目的物を給付した者(売主)が取得した者に対して負担する責任です。
現行法では、売買に関して、権利の一部が他人の物である目的物を売買した場合の担保責任として560条、数量が不足または一部滅失している目的物を売買した場合の担保責任として565条、物の瑕疵があった場合についての担保責任として570条が規定されています。
現行法570条では「売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する」と規定されています。「隠れた」とは、通常人が通常の注意をしても発見できないことをいいます。準用された566条によれば、①買主が、瑕疵があることを知らず、かつ瑕疵のために契約をした目的を達することができないとき、買主は契約を解除することができ(1項)、②解除ができないときは損害賠償請求することができ (1項)、③契約の解除や損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない (3項)、と規定されています。

(2)瑕疵担保責任の法的性質
一方で、売買の目的物が他人物だったり、数量不足だったり、隠れた欠陥がある場合というのは、本来の契約をきちんと履行していないという意味で債務不履行がある場合ともいえます。債務不履行があった場合、民法では、債権者は、解除(現民法契約総則540条以下)、損害賠償請求(現民法債権総則415条)、履行の強制(現民法債権総則414条)をすることができると規定されています。そこで、売買において給付された目的物に瑕疵がある場合、債務不履行と瑕疵担保責任との関係をどう考えればよいかについてながらく議論がされてきました。
この点については、瑕疵担保責任の性質を法定責任とする考え方と契約責任とする考え方で争いがあり、これまでは、法定責任説が通説であるとされてきました。法定責任説は、まず売買を当事者が物の個性に着目して取引する特定物売買と、物の個性に着目しない不特定物売買に分けて考えます。特定物売買では、当事者が個性に着目し、当事者が選択したその物が売買の目的物となるのだから、給付さえすれば目的物に隠れた瑕疵があっても売主に債務不履行責任は生じないことになります(このような考え方を特定物ドグマといいます)が、有償契約(相互に対価的な経済的支出をする)の性質を持つ売買契約では、目的物に瑕疵があると、その分対価的均衡が保たれないので、買主に対して責任追及ができないとすれば、瑕疵がないと信頼して目的物を購入した買主が不利益を被ることになります。これを是正するために法律が特に認めた責任が瑕疵担保責任であるとする考え方が、法定責任説です。法定責任説では、570条は特定物について適用され、不特定物については一般の債務不履行責任を規定した415条が適用されることになります。
 
2 改正法の考え方
(1)担保責任の考え方について
しかし、法定責任説に対しては、特定物か不特定物かで分けるのはあまり意味がなく、救済方法について差がありすぎるといった批判や、両当事者が一定の品質や性能を有する目的物の給付をすることを合意している場合に債務不履行が生じないのは常識に反するといった批判がありました。近年では、瑕疵担保責任も債務不履行責任の特則の一つであると考える契約責任説が有力となっていました。
そこで、今回の民法改正では、売主の担保責任に関して、契約責任説を前提に改正されています。改正法では、瑕疵という用語ではなく「契約の内容に適合しないもの」(新民法562条参照)という用語を用いて、目的物が特定物か不特定物かに関わらず、売主は買主に対して、種類、品質、数量に関して契約の内容に適合する目的物を引き渡す(新民法562条)、または権利を移転する(新民法565条)義務を負い、当該契約内容に適合しない目的物を引き渡したり、権利を移転したりした場合には、売主は担保責任を負うという建付けになっています。

3 現行法と改正法の比較~担保責任の効果
 担保責任の効果に着目して、現行法と改正法を比較してみたいと思います。全体としては、現行法と比較して、買主の保護が図られています。
(1)損害賠償請求権
 損害賠償請求は、現行法から認められていた救済手段ですが、瑕疵担保責任を法定責任と考える立場からは、損害賠償の対象は、信頼利益の損害(その契約が有効であると信じたために発生した損害)に限られるとされてきました。
 改正法では、瑕疵担保責任は債務不履行責任と考えられることになりますので、415条以下の債務不履行と同様に、契約が完全に履行されていれば発生したであろう利益である履行利益に対する損害も損害賠償請求の対象とされます。
 さらに、債務不履行責任を問うための債務者の帰責事由は、伝統的に債務者の故意過失と理解されてきましたが、415条も改正され、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断されることになりました(改正民法第415条但し書)。

(2)解除権
現行法でも、「契約をした目的が達せられないとき」に買主は契約を解除することができました。
改正法においては、債務不履行に基づく一般的な解除と同様に(新民法第564条)、契約をした目的を達せられないときという条件がなくても、契約を解除することができます(新民法541条)。ただし、「債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」には、解除は認められません(新民法第541条)。

(3)完全履行請求・代金減額請求権
法定責任説の立場からは、目的物に瑕疵があっても、瑕疵のない「この目的物」を観念することが理論上できないため、追完請求(修補請求・代替物引渡請求・不足分引渡請求)は認められていませんでした。
新民法では、売主の担保責任の性質は債務不履行責任であるとされたため、引き渡された目的物が種類・品質・数量の点で契約の内容に適合しないものであるときは、買主は売主に対し、債務不履行責任の一環として、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完請求をすることができるようになりました(新民法562条1項本文)。
ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができるとされています(新民法562条1項但し書)

(4)代金減額請求権 
現行法にはなかった規定として、562条に関連して563条が新設され、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主はその不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができると規定されました。

(5)担保責任の追及期間
現行法では、瑕疵担保責任の追及は、事実を知ったときから1年以内に契約の解除又は損害賠償の請求をしなければならないとされていました。
新民法では、品質又は種類に関しての契約不適合があった場合、買主は、契約不適合を知った日から1年以内に、契約不適合である旨を相手方に通知をしなければ、解除や損害賠償請求をすることができないとされました(新民法第566条)。

投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office | 記事URL

2019年2月 7日 木曜日

相続法の改正 遺産分割前に処分された財産

相続法の改正 遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲

平成30年7月6日、国会で、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が成立し、相続法が多岐にわたって、改正されることになりました。
 今回のブログでは、相続開始後に共同相続人により相続財産が処分された場合の処理について、ご説明いたします。

【事案】Aが亡くなり、相続人は子Bと子Cであった。相続開始時に相続財産として銀行預金2000万円があったが、BはAが亡くなる前、Aから2000万円の生前贈与を受けていた。Aが亡くなり相続が開始した後、BはATMを急いで回り、合計で1000万円を引き出して自分のものにした。 
 この場合、BCはその後の遺産分割においてそれぞれのどれだけ相続することになるだろうか。Cには、不都合が生じないのだろうか。
(事例は、法務省民事局民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)より引用)

1 まず、事案を考える前に、遺産分割に関する前提となることをご説明します。
(1)被相続人が死亡すると相続が開始しますが、相続人が複数いる場合、被相続人が残した相続財産は民法の規定により相続人間で共有になります(民法898条)。いったん共有になった遺産を相続人に分配することを遺産分割といいます。
(2)
①被相続人が遺言を残している場合には、原則遺言にしたがって分配されます。この場合の相続分のことを「指定相続分」といいます(民法902条)。
②一方遺言を残していない場合には、民法が定める相続のルールである法定相続分に従って相続することになります(民法900条)。法定相続分は、相続人の組み合わせによって定められており、たとえば夫が亡くなって相続人が妻だけである場合には、妻がすべて相続し、相続人が妻Aと子Bと子Cの場合には、妻Aが2分の1、子Bが2分の1、子Cが2分の1相続すると定められています。具体的に相続財産として銀行預金1500万円と不動産が1つあった場合には、妻Aが銀行預金500万円と不動産の持分を2分の1、子Bが500万円と不動産の持分4分の1、子Cが500万円の不動産の持分4分の1を相続することになります
③しかし、被相続人が生前一部の相続人に生前贈与していた場合(これを特別受益と呼んでいます)や、一部の相続人が被相続人と同居してつきっきりで看病していた場合(こちらは特別の寄与と呼ばれます)など特別な貢献があった場合には、その部分を評価して相続分を確定しなければ、不公平が生じます。このように相続開始時に現存する財産の価額で計算すると相続人間で不公平が生じる場合、相続人間の公平を図るために特別受益や特別の寄与を考慮して相続分を確定することになります。このようにして決められた相続分のことを「具体的相続分」(民法903条)と呼んでいます。
 
一部の相続人に生前贈与があった場合の具体的相続分の計算方法は、以下の通りです。
ア 相続開始時の相続財産価額に特別受益額を加えた額を、みなし相続財産とします。
イ 次に、みなし相続財産に法定相続分または指定相続分をかけて、各相続人の本来の相続分を確定します。
ウ 最後に、イで出した本来の相続分から特別受益額を引いたものが、各相続人の具体的相続分となります。

計算式で書くと、このようになります。

ア 相続財産開始時の相続財産価額 + 特別受益額 = みなし相続財産
イ みなし相続財産 × (法定 or 指定相続分)=各相続人の本来の相続分
ウ 各相続人の本来の相続分 - 特別受益額 = 各相続人の具体的相続分

このように、一部の相続人が生前贈与を受けるなどして結果的に他の相続人より多く相続財産を受けることが公平といえない場合には、特別受益を相続財産に持ち戻して、相続分を確定するのです。

(3)また、遺産分割の対象となる財産の確定のため、その基準時をいつにするかということが問題となります。相続開始時(被相続人が死亡したとき)なのか、それとも遺産分割時(協議が始まるとき)かで見解が分かれるところですが、実務では、遺産分割時を基準にしています。

 以上の前提のもとで、今回の事案について考えてみます。
(1)まず、Bによる1000万円の引き出しがなかった場合について検討します。
Bが受けた生前贈与は、特別受益に当たります。そこで、本ケースの具体的相続分を式に当てはめて計算すると、下記のようになります。

ア 2000万円(相続財産開始時の相続財産価額)+2000万円(特別受益額) 
=4000万円(みなし相続財産)
イ Bの本来の相続分=4000万円(みなし相続財産)× 1/2(法定相続分)=2000万円
  Cの本来の相続分=4000万円(みなし相続財産)× 1/2(法定相続分)=2000万円
ウ Bの具体的相続分=2000万円(Bの本来の相続分)-2000万円(特別受益)=0万円
  Cの具体的相続分=2000万円(Cの本来の相続分のまま)
このように計算すると、BとCの具体的相続分の割合は、B:C=0:2000万円になるので、遺産分割時の残余財産2000万円の分配は、次のようになります。
B=2000万円 × 0/(0+2000万円)  =0円

C=2000万円 × 2000万円/(0+2000万円) =2000万円

Bはすでに2000万円の生前贈与を受けていますので、実質的にはBもCも2000万円ずつ受け取ったことになるわけです。

(2)では次に、事案のようにBがATMで合計1000万円を引き出していた場合はどうなるでしょうか。この場合、遺産分割時の遺産は2000万円から1000万円に減っています。遺産分割の対象財産は遺産分割時を基準に定められるため、1000万円を具体的相続分に応じて分配することになります。BCそれぞれ下記のようになります。

B=1000万円 ×0/(0+2000万円) =0円

C=1000万円 ×2000万円/(0+2000万円) =1000万円
このように計算すると、Bは、生前贈与の2000万円にATMで引き出した1000万円をくわえた3000万円、Cは1000万円を取得することになり、不公平が生じます。
 現行の制度のもとでこの不都合を解決する方法に明確なものはありませんが、Cは自らの取り分である1000万円について、不法行為や不当利得を理由に民事訴訟を提起することが可能です。費用や時間がかかり、また実際に請求が認められるかも難しいのが現状です。

3 そこで、このような不都合を解消するために、新民法では906条の2が創設され、遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合でも、処分された財産につき遺産に組み戻すことについて処分した相続人以外の同意があれば、処分者の同意を得ることなく、処分された財産を遺産分割の対象に含めることが可能となりました。(新民法906条の2第1項、第2項)
 組戻しが行われると、相続の対象となる財産は、現存する1000万円+引き出された1000万円+特別受益2000万円の合計4000万円となり、BCの法定相続分に応じた取得額としては2000万円ずつになりますが、Bは1000万円多く取得していることになります。そこで、BはCに対して、1000万円の代償金を支払うことになります。
 家庭裁判所で遺産分割審判を行う場合には、家庭裁判所は、BからCに対して代償金1000万円を支払うよう命じる審判を出すことが考えられます。BとCは、最終的には2000万円ずつ取得することになり、公平な遺産分割を実現することができるのです。

投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office | 記事URL

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