事務所ブログ

2019年1月21日 月曜日

M&AについてのQ&A

Q1. M&Aにおいてどのようなことをやってもらえるのですか
A. M&Aの手続きにおける法律事務所の関与は契約書や関係書類の作成のみに限られることも多いですが、中小企業からの依頼を受ける場合には、契約書や関係書類 の作成に限らず、M&Aの過程で必要となる様々な活動を行います。
 1 M&Aの手続きについての一般的アドバイス
 2 買主候補企業や買収対象会社の探索
 3 買主候補企業や買収対象会社との協議・意向確認
 4 企業価値評価
 5 基本合意書や意向確認書の作成
 6 買収価格や買収条件の交渉
 7 法務DD(デューデリジェンス)
 8 最終契約書の作成・締結支援
 9 クロージング手続きの支援
10 関係機関への通知・届出


Q2. M&Aのスケジュールについて教えてください
A.

(1) 会社の意向確認
M&Aを検討される依頼者の皆さんには、当事務所にお越しいただき、どのようなディールを検討されているかをお聞きします。最初の段階では、このような会社を買いたいのですがとか、私どもの会社を買ってもらえる会社はあるでしょうか、という漠然とした話であることも多くありますが問題ありません。企業の決算書を拝見し、事業内容をお聞きする中でM&Aの手法や可能性について方向性が見えてくることも多くあります。M&Aを前提とせず、重要な取引先や販売店の再生のためにどのような選択肢があるかを自由に討議するブレーンストリーミングを行うこともあります。
(2) 委任契約書の作成
M&Aの手続きについて当事務所がアドバイスを行うために、委任契約書(業務委託契約書)を締結いただきます。委任契約書には、当事務所の報酬も記載されており、委任契約に規定のない報酬をいただくことはありません。弁護士は弁護士法の規定により依頼者の秘密を守る義務がありますので、仮に秘密保持義務を定めなくても、弁護士から秘密が漏れることはありません。当事務所では、委任契約書の中に秘密保持義務について規定するとともに、事務所の全弁護士やスタッフについても秘密を守ることを厳格に要求しております。
(3) 相手方候補者との秘密保持契約書の締結
会社の売却を希望している場合において買手候補者が決まった場合、買手候補者から意向表明書を受領したり、秘密保持契約書に押印いただくことになります。スケジュール表を作成し、概括的スケジュールを確認したり、デューデリジェンスの期間や方法について協議を行います。
(4) インフォーメーションパッケージ
売主は会社の基本的情報をまとめたインフォーメーションパッケージを作成し、買手候補者に交付します。インフォーメーションパッケージは、USBなどのメモリーに保存して交付することもありますが、売主が設定したデータルームで記録の閲覧および謄写をしてもらうということもあります。データルームの設営は、情報の拡散を制御することと、第三者がM&Aの情報に接することを禁止する目的があります。上場会社の場合、インサイダーの規制に触れることがありますので、誰がどの情報に接したかを記録していきます。弁護士、会計士、税理士は、インフォーメーションパッケージの情報と買主の役員へのヒアリングを行いながら、デューデリジェンスを進め、企業価値の算定を行います。
(5) 基本的条件についての協議
株式譲渡にするか事業譲渡にするかなど、取引の基本的スキームについて合意をしたり、トップ会談を行うことで売買価格について合意したりします。トップ会談で合意された事項については、覚書(メモランダム)などを作成し、その内容を確認しておくこともあります。スキームの立案については、弁護士や会計士などのアドバイスを得ながら行うことになります。
(6)基本合意書
基本的事項が確定した場合、基本合意書を締結します。基本合意書には、取引の基本的条件、独占交渉権の有無、各当事者が必要な社内手続きを取ること、財産の価値を維持すべき義務などについて記載します。基本合意書については法的拘束力はないとされていますが、ブレークアップフィーについて定めることもあります。また、基本合意書を作成しながら、他の候補者への売却を進めるなど、基本合意書を不誠実に破棄した場合、契約締結上の過失として信頼利益の賠償責任が生じる可能性があります。上場会社の場合、ディスクロージャーの時期および方法についても定めておく必要があります。
(7) 最終契約の締結
双方の当事者の代理人が交渉しながら、契約内容をつめていきます。保証表明事項を含め、契約内容が確定した段階で最終契約書を締結し、その後各社において株主総会決議や取締役会決議など必要な社内手続きをとります。
(8) クロージング
最終契約書に定められたクロージングの日において代金の支払いと株券その他必要な書類の交付などを行います。代金の支払いと株券の引渡しは同時履行で行います。株式譲渡の場合は株主名簿の変更手続き、事業譲渡の場合は移転する資産の内容に応じた各種の対抗要件の具備などを行います。

投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office | 記事URL

2019年1月18日 金曜日

GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)

GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)

1 GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)の制定
EU域内の個人データ保護を規定する法としてのGDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)が2018年5月25日に施行され、先行法令であるEUデータ保護指令(Data Protection Directive 95)は廃止された。
GDPRは個人データやプライバシーの保護に関して、個人の権利の強化、規則の実効性の確保、個人データの国際移転の簡素化、及びグローバルなデータ保護水準の設定に重点を置いてEUデータ保護指令による保護を強化している。この変更により、人々は個人データをより制御できるようになり、個人データにアクセスしやすくなり、それがEU域外であっても、個人情報が確実に保護されるように設計されているとされる。
また、EUデータ保護指令がEU加盟国による法制化を要するのに対し、GDPRはEU加盟国に同一に直接効力を持つ。これは、先行法令であるEUデータ保護指令では、具体的な個人データの規制はEUの各加盟国法に委ねられていたため、各国間で差異があり、ビジネス上の障害となっていたことから統一的なルールの制定が求められていたことに応えるものである。

2 GDPRの適用対象
(1)GDPRは、EEA(European Economic Area:欧州経済領域)域内で取得した「個人データ」を、「処理」し、またはEEA域外の第三国に「移転」するために満たすべき法的要件を規定している。すなわち、GDPRが適用されるのは「処理」と「移転」の二つの場合である。
(2)ア 個人データ
GDPRの保護対象となる「個人データ」は、EEA域内に所在する個人(国籍や居住地などを問わない)の個人データをいう。例えば、「短期出張や短期旅行でEEA 域内に所在する日本人の個人データや、日本企業からEEA域内に出向した従業員の情報(元は日本からEEA域内に移転した情報)も、処理および第三国への移転の制限を受ける個人データに含まれる。また、日本からEEA 域内に一旦個人データが送付されると、EUの基準に沿ってEEA域内において処理されなければならない。」「さらに、当該個人データを日本へ移転する場合、EUの基準を遵守しなければならない」(「EU一般データ保護規則(GDPR)に関わる実務ハンドブック(入門編)」日本貿易振興機構2016年11月3頁)。
そして「個人データ」とは、識別された、または識別され得る自然人(「データ主体」)に関するすべての情報であり、具体的には、自然人の氏名、識別番号、所在地データ、メールアドレス、オンライン識別子(IP アドレス、クッキー識別子) 、身体的、生理学的、遺伝子的、精神的、経済的、文化的、社会的固有性に関する要因等を含む。
イ 処理
 「処理」とは、自動的な手段であるか否かに関わらず、個人データ、または個人データの集合に対して行われる、あらゆる単一の作業、または一連の作業を意味し、取得、記録、
編集、構造化、保存、修正または変更、復旧、参照、利用、送信による開示、周知またはその他周知を可能にすること、整列または結合、制限、消去または破壊することをいう。具体的には、クレジットカード情報の保存、メールアドレスの収集、顧客の連絡先詳細の変更、顧客の氏名の開示、上司の従業員業務評価の閲覧、データ主体のオンライン識別子の削除、全従業員の氏名や社内での職務、事業所の住所、写真を含むリストの作成等が含まれる。
ウ 移転
 「移転」には、EEA 域外の第三国の第三者に対して個人データを閲覧可能にするためのあらゆる行為が含まれるとされる。例えば、個人データを含んだ電子形式の文書を電子メールで EEA 域外に送付することは「移転」に該当する。
(3)GDPRの適用範囲(第2条、3条)
ア GDPRは、管理者、または処理者がEEA域外で設立されたものである場合であっても、EEAのデータ主体に対して商品またはサービスを提供する場合、及びEEAのデータ主体の行動を監視する場合には適用される。例えば、「EEA 域内所在者向けにインターネット上で、EU 言語(英語、フランス語など)で旅館への宿泊に当たってのサービスという商品・サービスを提供している場合には、日本国内で旅館を営業しているだけであっても、GDPR の適用が問題となる可能性がある」(同「実務ハンドブック」)。その場合、EEA 所在者がインターネット経由で個人データ(住所・氏名・クレジットカード番号など)を登録し、企業が当該個人データを取得することは、EEA の個人データの直接取得、即ちEEA の個人データの処理に当たる可能性がある。「EEAで取得した個人データ(顧客情報、取引先情報、従業員の人事情報、潜在顧客の情報、現地従業員の採用に当たって収集する履歴書など)を処理する場合」(同「実務ハンドブック」)も、GDPRを遵守することが必要になってくる。
イ 管理者・処理者・データ主体(定義)
(ア) 管理者(第4 条7項)
管理者は、単独または共同で個人データの処理の目的と手段を決定するものである。管理者は、個人データの処理の適法性とGDPR 違反に対する責任を負う。
(イ) 処理者(第4 条8項)
処理者は、管理者を代理して、個人データの処理を行う自然人または法人である。
(ウ) データ主体
   データ主体とは、個人データが関連する当該個人のことである。

Article 4 Definitions
第4 条 定義
(7) 'controller' means the natural or legal person, public authority, agency or other body which, alone or jointly with others, determines the purposes and means of the processing of personal data; where the purposes and means of such processing are determined by Union or Member State law, the controller or the specific criteria for its nomination may be provided for by Union or Member State law;
(7) 「管理者」とは、自然人又は法人、公的機関、部局又はその他の組織であって、単独で又は他の者と共同で、個人データの取扱いの目的及び方法を決定する者を意味する。その取扱いの目的及び方法がEU 法又は加盟国の国内法によって決定される場合、管理者又は管理者を指定するための特別の基準は、EU 法又は加盟国の国内法によって定めることができる。
(8) 'processor' means a natural or legal person, public authority, agency or other body which processes personal data on behalf of the controller;
(8) 「処理者」とは、管理者の代わりに個人データを取扱う自然人若しくは法人、公的機関、部局又はその他の組織を意味する。

3 個人データの処理・移転に関する義務・法的要件
(1)EU 代理人を選任する義務(第27 条)
EU域内に拠点を持たない企業は、定期的なデータの処理を行う場合、大規模な個人データの処理を行う場合、データ処理により個人の権利と自由を危険にさらす危険が高い場合などには、代理人を選任しなければならない。その場合、EU代理人を、個人データが処理されるデータ主体が居住する加盟国のうちのひとつに設置する(第27条3項)。代理人は、管理者・処理者に加えて、または、管理者・処理者の代わりにGDPRの遵守に関する一切の問題に取り組むために、管理者・処理者により委任される(第27 条4項)。
(2)個人データの処理の法的要件
ア 個人データを処理する場合においては、以下のような法律上の規定を充足することが求められる。
イ(ア)説明責任(第5 条2項)
個人データを処理するに当たり、以下の6 原則(GDPR 第5 条1 項)を遵守する義務に加えて、管理者は適切な個人データ保護指針の採択、およびその実行を含め、GDPR の要件を確実に遵守し、かつそのことを説明できなければならない(説明責任の原則)。

① 適法性、公平性および透明性の原則
Personal data shall be:
(a) processed lawfully, fairly and in a transparent manner in relation to the data subject ('lawfulness, fairness and transparency');
個人データは:
(a) そのデータ主体との関係において、適法であり、公正であり、かつ、透明性のある態様で処理されなければならない。(「適法性、公正性及び透明性」)

② 目的の限定の原則
(b) collected for specified, explicit and legitimate purposes and not further processed in a manner that is incompatible with those purposes; further processing for archiving purposes in the public interest, scientific or historical research purposes or statistical purposes shall, in accordance with Article 89(1), not be considered to be incompatible with the initial purposes ('purpose limitation');
(b) (個人データは)、特定され、明確であり、かつ、正当な目的のために収集されるものとし、かつ、その目的に適合しない態様で追加的処理をしてはならない。公共の利益における保管の目的、科学的研究若しくは歴史的研究の目的又は統計の目的のために行われる追加的処理は、第89 条第1 項に従い、当初の目的と適合しないものとはみなされない。(「目的の限定」)

③ 人データの最小化の原則
(c) adequate, relevant and limited to what is necessary in relation to the purposes for which they are processed ('data minimisation');
(c) (個人データは)その個人データが処理される目的との関係において必要のあるものに、適切であり、関連性があり、かつ限定されなければならない。(「データの最小化」)

④ 正確性の原則
(d) accurate and, where necessary, kept up to date; every reasonable step must be taken to ensure that personal data that are inaccurate, having regard to the purposes for which they are processed, are erased or rectified without delay ('accuracy');
(d) (個人データは)正確であり、かつ、それが必要な場合、最新の状態に維持されなければならない。その個人データが処理される目的を考慮した上で、遅滞なく、不正確な個人データが消去又は訂正されることを確保するための全ての手立てが講じられなければならない。(「正確性」)

⑤ 保管の制限の原則
(e) kept in a form which permits identification of data subjects for no longer than is necessary for the purposes for which the personal data are processed; personal data may be stored for longer periods insofar as the personal data will be processed solely for archiving purposes in the public interest, scientific or historical research purposes or statistical purposes in accordance with Article 89(1) subject to implementation of the appropriate technical and organizational measures required by this Regulation in order to safeguard the rights and freedoms of the data subject ('storage limitation');
(e) (個人データは)その個人データが処理される目的のために必要な期間だけ、データ主体の識別を許容する形態で維持されるべきである。データ主体の権利及び自由を確保するために本規則によって求められる適切な技術上及び組織上の措置の実装の下で、第89 条第1 項に従い、公共の利益における保管目的、科学的研究若しくは歴史的研究目的又は統計の目的のみのために取扱われる個人データである限り、その個人データをより長い期間記録保存できる。(「記録保存の制限」)

⑥ 完全性および機密性の原則
(f) processed in a manner that ensures appropriate security of the personal data, including protection against unauthorized or unlawful processing and against accidental loss, destruction or damage, using appropriate technical or organizational measures ('integrity and confidentiality').
(f) 無権限による取扱い若しくは違法な取扱いに対して、並びに、偶発的な喪失、破壊又は損壊に対して、適切な技術上又は組織上の措置を用いて行われる保護を含め、個人データの適切な安全性を確保する態様により、処理される。(「完全性及び機密性」)

Article 5 Principles relating to processing of personal data
第5 条 個人データの取扱いと関連する基本原則
2. The controller shall be responsible for, and be able to demonstrate compliance with, paragraph 1 ('accountability').
2. 管理者は、第1 項について責任を負い、かつ、同項遵守を証明できるようにしなければならないものとする。(「アカウンタビリティ」)

(イ)説明責任の実施(第24-30; 37-39条)
本規則に従って処理が遂行されることを確保し、かつ、そのことを説明できるようにするために必要な事項は上記以外に以下のようなものがある。
① 内部記録
管理者および処理者は、個人データの処理行為の内部記録を保持しなければならない。
②  データ保護責任者(Data Protection Officer:DPO)の選任(義務がある場合)
③ 設計によるまたは初期設定によるデータ保護
管理者は、処理システムの設計、および当該システムの運用において、データ主体の権利を保護し、GDPR を確実に遵守するために、適切な技術的および組織的な措置を実行しなければならない。また、個人データは、処理の目的の必要性に照らして、適切であり、関連性があり、最小限に限られていなければならない。
④ 影響評価および事前相談
新技術の使用や処理の性質、対象、目的などに鑑みて、自然人の権利と自由が脅かされる高いリスクが予想される場合は、データ保護影響評価を実施し、当該影響評価の結果、管理者がリスクを軽減する対策を採らなければ「処理」が自然人の権利や自由に高いリスクを生じさせる可能性がある場合は、当該処理の前に監督機関と事前相談を行う。
(エ) 個人データのセキュリティに関する義務(第4 条12項、第32-36 条)
①  適切なセキュリティ措置の実施が必要である。
②  個人データの侵害通知
個人データの侵害があった場合には、一定の場合に監督機関およびデータ主体に通知しなければならないとされている。
個人データの侵害とは、移転、保存またはその他の取り扱いがなされた個人データに対する偶発的な、または違法な破壊や滅失、変更、許可されていない開示、アクセスをもたらすセキュリティ侵害のことをいう。「個人データの侵害の例としては、サイバー攻撃により自社サーバに保管されたEEA所在者の個人データが漏洩した場合などが考えられる」(同「実務ハンドブック」30頁)。
(i) 個人データの侵害の監督機関への通知(GDPR 第33 条1 項)
「管理者は、個人データの侵害が発生した場合、自然人の権利および自由に対してリスクが生じ得る侵害を、不当な遅滞なく、可能であれば侵害を認識してから72 時間以内に監督機関に通知しなければな」らない(処理者は、個人データの侵害を認識した後、不当な遅滞なしに管理者に通知しなければならない)(同「実務ハンドブック」30頁)。また、監督機関への通知が72 時間以内になされない場合には、遅滞に関する理由も通知する必要がある。
なお、本条の通知に含めなければならない事項については、GDPR 第33 条3項に規定がある。

【第33 条第3項】
(a) describe the nature of the personal data breach including where possible, the categories and approximate number of data subjects concerned and the categories and approximate number of personal data records concerned;
(a) 可能な場合、関係するデータ主体の類型及び概数、並びに、関係する個人データ記録の種類及び概数を含め、個人データ侵害の性質を記述する

(b) communicate the name and contact details of the data protection officer or other contact point where more information can be obtained;
(b) データ保護オフィサーの名前及び連絡先、又は、より多くの情報を入手することのできる他の連絡先を連絡する

(c) describe the likely consequences of the personal data breach;
(c) その個人データ侵害の結果として発生する可能性のある事態を記述する

(d) describe the measures taken or proposed to be taken by the controller to address the personal data breach, including, where appropriate, measures to mitigate its possible adverse effects.
(d) 適切な場合、起こりうる悪影響を低減させるための措置を含め、その個人データ侵害に対処するために管理者によって講じられた措置又は講ずるように提案された措置を記述する。

(ii) 個人データの侵害のデータ主体への通知(GDRR 第34 条1 項)
「管理者は、個人データの侵害が自然人の権利および自由に対して高いリスクを引き起こし得る場合、不当な遅滞なしにデータ主体に個人データの侵害について通知しなければな」らない(同「実務ハンドブック」31頁)。
なお、GDRR 第34条3項は、上記通知を行う必要がない場合について規定している。

【第34条第3項】
(a) the controller has implemented appropriate technical and organisational protection measures, and those measures were applied to the personal data affected by the personal data breach, in particular those that render the personal data unintelligible to any person who is not authorised to access it, such as encryption;
(a) 管理者が適切な技術上及び組織上の保護措置を実装しており、かつ、当該措置、特に、暗号化のような、データに対するアクセスが承認されていない者にはその個人データを識別できないようにする措置が、個人データ侵害によって害を受けた個人データに対して適用されていた場合

(b) the controller has taken subsequent measures which ensure that the high risk to the rights and freedoms of data subjects referred to in paragraph 1 is no longer likely to materialise;
(b) 管理者が、第1 項で定めるデータ主体の権利及び自由に対する高いリスクが具体化しないようにすることを確保する事後的な措置を講じた場合

(c) it would involve disproportionate effort. In such a case, there shall instead be a public communication or similar measure whereby the data subjects are informed in an equally effective manner.
(c) それが過大な負担を要するような場合。そのような場合、データ主体が平等に効果的な態様で通知されるような公的な通信又はそれに類する方法によらなければならない。

(エ)データ主体の権利の尊重(第12~22 条)
管理者はデータ主体の権利(情報権、アクセス権、訂正権、削除権(忘れられる権利)、制限権、データポータビリティの権利、異議権、および自動的な個人の意思決定に関する権利。)を尊重しその行使を円滑にする必要がある。
(オ)情報権(第13条、第14 条)
管理者がデータ主体から個人データを収集する場合、個人データ入手時に、データ主体に一定の情報を提供することを要求するものである。
(カ)アクセス権(第15 条)
管理者は、データ主体から、処理が行われている個人データへのアクセスの請求があればそのコピーを提供しなければならない。
(キ)訂正の権利 (第16 条)
データ主体は、不正確な自己の個人データに関する訂正を管理者に求める権利を有する。

Article 16 Right to rectification
第16 条 訂正の権利
The data subject shall have the right to obtain from the controller without undue delay the rectification of inaccurate personal data concerning him or her. Taking into account the purposes of the processing, the data subject shall have the right to have incomplete personal data completed, including by means of providing a supplementary statement.
データ主体は、管理者から、不当に遅滞することなく、自己と関係する不正確な個人データの訂正を得る権利を有する。取扱いの目的を考慮に入れた上で、データ主体は、補足の陳述を提供する方法による場合を含め、不完全な個人データを完全なものとさせる権利を有する。

(ク)削除権(第17 条1項)
一定の場合、データ主体は、自己に関する個人データの削除を管理者に求める権利を有する。
(ケ)制限権(第18条)
データ主体は、管理者に対して、一定の場合に個人データの処理を制限する権利を有する。
(コ)データポータビリティの権利(第20 条)
データ主体は自己に係わる個人データを、構造化され、一般的に使用され、機械によって読み取り可能な形式で受け取る権利を有する。
(サ)異議権(第21条)
データ主体は自己に関する個人データの取り扱いに対し、異議を述べる権利を有する。
(シ)自動化された個人の判断に関する権利(第22 条)
データ主体は、自分に対する法的影響を生じ得るような、プロファイリングを含む自動処理のみに基づいた判断の対象にならない権利を有する(例、人が介入しないオンライン上での借入申込やインターネットでの採用活動-前文第71項)。
ウ 適法な処理の要件(同意等)
また、管理者または処理者は、GDPR第6 条1項が定める項目のいずれかに該当しない場合には、個人データの処理を適法に行うことができない。すなわち、管理者または処理者は、次の適法な処理の要件を満たした場合にのみ、処理を行うことが許される。

【第6 条1項】
(a) the data subject has given consent to the processing of his or her personal data for one or more specific purposes;
(a) データ主体が、一つ又は複数の特定の目的のための自己の個人データの処理に関し、同意を与えた場合。

(b) processing is necessary for the performance of a contract to which the data subject is party or in order to take steps at the request of the data subject prior to entering into a contract;
(b)データ主体が当事者となっている契約の履行のために処理が必要な場合、または契約の締結前のデータ主体の求めに応じて手続きを履践するために処理が必要な場合

(c) processing is necessary for compliance with a legal obligation to which the controller is subject;
(c) 管理者が従うべき法的義務を遵守するために処理が必要な場合

(d) processing is necessary in order to protect the vital interests of the data subject or of another natural person;
(d) データ主体、または他の自然人の重大な利益を保護するために処理が必要な場合

(e) processing is necessary for the performance of a task carried out in the public interest or in the exercise of official authority vested in the controller;
(e) 公共の利益、または管理者に与えられた公的権限の行使のために行われる業務の遂行において処理が必要な場合

(f) processing is necessary for the purposes of the legitimate interests pursued by the controller or by a third party, except where such interests are overridden by the interests or fundamental rights and freedoms of the data subject which require protection of personal data, in particular where the data subject is a child.
管理者または第三者によって追求される正当な利益のために処理が必要な場合。ただし、データ主体の、特に子どもがデータ主体である場合の個人データの保護を求める基本的権利および自由が、当該利益に優先する場合を除く

(3)個人データの移転の法的要件
EEA域外への個人データの移転は原則として違法であるが、移転先の国・地域に「十分性」(法整備などに基づき、十分に個人データ保護を講じていること)が認められた場合(第45条)(アンドラ、アルゼンチン、カナダ(民間部門)、フェロー諸島、ガンジー、イスラエル、マン島、ジャージー、ニュージーランド、スイス、ウルグアイ、米国プライバシーシールド)、または適切な保護措置を取った場合(適切な保護措置として、行為規範、認証制度、標準契約条項(Standard Contractual Clauses: SCC)、または拘束的企業準則(Binding Corporate Rules: BCR)などがある。)などには、例外的に適法となる。
ア 標準契約条項(SCC)
「SCC とは、欧州委員会によって決定された契約書の雛形であり、当事者間でこの雛形を使ってデータ移転契約を締結することで適切な保護措置を提供し、適法なデータ移転を行うもので」ある(同「ハンドブック」33頁)。
イ 拘束的企業準則(BCR)
  拘束的企業準則は監督機関による承認が必要であり、その取得までに比較的長い期間と多額の費用が掛かるが、最も安全な手段であるとされる。「BCRは、事業体グループまたは共同経済活動に従事する事業体グループ内で、一カ国または複数の第三国における管理者または処理者に対して個人データの移転または一連の個人データの移転のため加盟国の領域上にある管理者、または処理者によって遵守される個人データ保護方針を指」す(同「ハンドブック」37頁)。「EEA域内の企業グループ内の拠点からEEA域外の企業グループ外へのデータ移転はSCCを締結するのが一般的で」ある(同「ハンドブック」37頁)。

4 制裁金
(1)GDPRは「EU基本権憲章」というEU法体系の根幹をなす法において保障されている、個人データの保護に対する権利という基本的人権の保護を目的とした法律であるため、違反に対して厳しい行政罰を定めている。
なお、GDPR 違反の場合の監督機関による対応としては、行政制裁金の賦課のみならず、開示や監査といった調査、作為または不作為に関する遵守命令、処理の禁止、データ主体に周知させる命令、認証の撤回、および警告がある。
(2)GDPR違反の場合の制裁金の上限額には、①1,000 万ユーロ、または、企業の場合には前会計年度の全世界年間売上高の2%のいずれか高い方(この場合としては、第8条、25条及び28条、27条、30条、31条、32条、33条、34条、35条、36条、37条~39条に規定する場合がある。)、②2,000 万ユーロ、または、企業の場合には前会計年度の全世界年間売上高の4%のいずれか高い方(この場合としては、同意の条件を遵守しなかった場合など、第5条、6条、7条、9条、12条~22条、44条~49条、58条1項及び2項に規定する場合がある。)の2 とおりの類型がある。




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2019年1月16日 水曜日

販売代理店契約における契約解除合意書・解除通知

販売代理店契約における契約解除合意書(Termination Agreement)・解除通知(Termination Notice)

1 契約解除合意書(Termination Agreement)
(1)販売代理店契約の解除を行う場合には、当事者間で契約の解除について合意し、その内容を確認するための契約解除合意書(Termination Agreement)を締結することがあります。当事者が継続的な契約関係にあった場合には、販売店が高額の先行投資を行っていたり、ブランドや販路を開拓していたような場合には、契約当事者は契約解消の条件について強い関心を有していることがあります。また契約解消にあたって、それまでの注文済みの商品や在庫についてどのように処理するかについてあらためて合意することが必要になるかもしれません。そのような事情から、契約期間の定めがある場合であっても、通常は、契約終了にあたり契約解除合意書を作成することになります。
(2)契約解除合意書には、例えば次のような解除規定が設けられます。

The Parties hereby shall confirm that the Distribution Agreement between the parties has been terminated as of June 30, 2017.(本契約の当事者は、本合意書により、2017年6月30日をもって、当事者間の販売代理店契約が解除されたことを確認する)

2 契約解除合意書においては主に以下のような点を規定することになります
(1) 解除する契約の特定、及び解除契約の発行日
契約を合意解除する場合には、締結日、契約当事者、修正契約・追加契約、関連文書などを明確にすることによって、解除対象となる契約を特定することが必要になります。
また、いつから原契約が無効となるのかについて明確に規定することも必要です。
(2)解除の条件、解除にともなう在庫処理、商標の使用など必要な事項についての規定
 ア 販売代理店契約は当事者間の継続的な契約ですので、単に契約が終了したことを確認するだけではなく、在庫の処理や、引継ぎ、競業避止、メンテナンス、商標の使用、ドメインの使用、著作権その他の工業所有権の帰属など、様々な事項について確認しておく必要があります。
 イ 在庫の処理
例えば、販売代理店が購入した在庫については、在庫が亡くなるまでは市場で継続して販売するとか、メーカーが一定の割引価格により買い戻すことが定められるかもしれません。新しい代理店が継続して販売する場合には、新規の代理店に買い取ってもらうことになる可能性もあります。また、注文済みの商品がある場合、その商品について契約を履行し、日本に商品を引き渡すべきか、既に契約終了について合意されたのであるから、新規の注文でまだ履行が完了していないものについては、販売代理店契約の記載に拘わらず、当事者間の新規合意に基づき、解除できるとすることになるかもしれません。
ウ 暫定解除契約書(Interim Termination Agreement)
長期の契約の場合、契約の解除通知がなされてから実際に契約が終了するまでに3か月とか6か月の余裕があることが多いと思われますが、この間の契約関係を明確にするために、暫定的な地位について取り決める場合も多くあります。例えば暫定解除契約書(Interim Termination Agreement)を締結し、契約の終了通知は6月末で、契約の終了は12月末とし、その間の6か月における双方の当事者の法的地位についての取り決めなどです。販売代理店はこの6か月の期間中に日本にある在庫を売り切れるよう誠実に努力するものとし、12月末の段階で売れ残った商品在庫については、メーカーが通常卸価格の8かげで購入すると定めるなどの例もあります。
エ 商標の使用、販売代理店に対する補償
上記の他、商標の扱いについて問題とされることも多くあります。メーカーが、日本国内で商標の出願をし、商標を有している場合は特に問題となりませんが、販売代理店が商標やドメインを有している場合には、販売代理店が有している商標やドメインをメーカーや新しい販売代理店にどのようにして引き継ぐかについて定めておく必要もあります。販売代理店側は,自らの投資によって確立したブランド(Goodwill)などをメーカー側に引き渡す代わりに、その補償をするようにメーカーに求めることがあります。もちろん無償で権利の移転がなされ、その手続きについて当事者の了解がある場合には、その手続のみを定めればいいわけですが、例えば株式の買取などその他の条件が決まっていない場合には、商標権の移転がこれらの条件との交換条件とされることもあります。結局、メーカーと販売代理店は、契約の終了に関して包括的な合意を行う他なく、その中には、上記のような在庫の扱い、商標やドメインの扱い、競業避止、株式の買取、損害賠償など、当事者の契約関係を終了させるために必要な全ての事項について定められることになります。
 オ その他の注意すべき点
販売代理店契約を解除する場合には、先方から上記のような取扱いの一部についてのみ提案がある場合であっても、それぞれの条件が互いに影響し合っていること、これらの関係を全部考慮した上で調整的な趣旨で金銭の支払いが合意されることなどを考慮の上、起こり得る全ての問題点について包括的に合意する必要があります。

3 解除通知(Termination Notice)
以上に述べたような解除の際の合意に基づく解除とは異なり、自動更新条項の規定に従い更新拒絶を通知する場合、契約違反を理由として解除を通知する場合には、例えば次のような解除通知(Termination Notice)を相手方に対して送付することになります。このような一方的な解除通知では、解除の根拠となる規定を明確に示すことが重要です。

Pursuant to the provisions of Article__ (Term and Renewal) of the Franchise Agreement dated April 1, 20 __ with you, we, ABC Corporation, hereby give you a notice that we do not have the intention to extend the Franchise Agreement with you after the expiry date set forth in the Franchise Agreement.
Accordingly, you are kindly reminded that the Franchise Agreement will become null and void after the midnight of March 31, 20__.
(貴社と締結した20_年4月1日付けフランチャイズ契約第_条(期間及び更新)の規定に従い、当社ABCコーポレーションはここに貴社に対し、フランチャイズ契約に定める満了日以後は両者間のフランチャイズ契約を更新する意思がないことを通知いたします。
 従いまして、フランチャイズ契約は20_年3月31日(深夜)午後12時以降は無効になることをご承知おきください。)(「英文ビジネス契約書大辞典」山本孝夫1058頁)

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2019年1月 9日 水曜日

相続法の改正 自筆証書遺言の方式の緩和と保管制度の創設


1 平成30年7月6日、国会で、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が成立し、相続法が多岐にわたって、改正されることになりました。
改正法は、原則として2019年7月1日から施行されますが、自筆証書遺言の方式を緩和する法律については2019年1月31日から、配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等については2020年4月1日からというように、段階的に施行されることになっています。 
今回のブログでは、今月末から施行される「自筆証書遺言の方式を緩和する法律」について、ご説明したいと思います。

2 そもそも「遺言」とは、人が、自分の死後法律上の効果を発生させる目的でする最終の意思表示のことをいいます。遺言をすることによって、自分が築いてきた財産を死後どのように処分するかについて、自分の意思を反映させることができます。
ただし、民法には第967条以降に、遺言の種類(方式)や書き方についてルールが定められており、このルールにしたがって書かれた遺言でなければ、死後、法律上の効果を発生させることができません。
(1) まず、民法で定められた遺言の種類についてご説明します。
遺言の方式について、民法960条は、「遺言はこの法律(民法のこと)に定める方式に従わなければこれをすることができない」と規定しています。どんな方式があるのかというと、大きく分けて、普通方式の遺言と特別方式の遺言とがあります。
(2) 普通方式の遺言には、①自筆証書遺言(民法第968条)、②公正証書遺言(民法第969条)、③秘密証書遺言(民法第970条)の3種類があります。
①の自筆証書遺言は、遺言者が遺言書の全文、日付、氏名を自筆で書面にし、押印することで作成する方式の遺言です。遺言書の本文中に相続財産のすべてを列記する形もあれば、添付資料である財産目録と本文が区別されている場合もあります。
この方式は、後述の公正証書遺言や秘密証書遺言と異なって公証役場に行ったり、証人を用意したりする必要がなく、自分だけで遺言書を作成できるため、簡便というメリットがあります。一方で、法律で定められた要件を欠いて遺言の効果が認められなかったり、多くの場合は遺言書を自分で保管することになり、途中で遺言書が改ざんされたり、遺言書を紛失してしまったりする危険性があります。
②の公正証書遺言は、公証人が法律で定められた方式にしたがって作成する遺言書です。「法律で定められた」とは、証人2人以上の立会いのもとで、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口述し、公証人が遺言者の口述を筆記し、これを遺言者と証人に読み聞かせて内容を確認して承認し、各自が署名、押印するという流れのことをいいます。公正証書遺言は、自分の住所に関わらず、全国どこの公証役場でも作成することができます。
当事務所の弁護士は、何度も公正証書遺言作成の証人を務めたことがあります。実際には、まず自分の財産の内容と相続人の有無を確認し、誰にどの財産を残したいか、相続人以外に財産を残したいかなど遺言の内容を決めます。その内容を公証人に事前に伝え、公証人と何度か打ち合わせをして、公正証書遺言書の中身を確定していく作業を行います。作成の際には、一般的に遺言者の印鑑登録証明書、遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本、相続財産に不動産がある場合には、その登記事項証明書や固定資産評価証明書などが必要になりますが、このほか遺言の内容によって必要となってくる書類は違いますので、公証役場に事前の確認する必要があります(公証役場で教えてくれます)。このように、公証人が事前に遺言書の内容をまとめてくれていますので、作成当日にはその書面の内容の最終確認をし、書面が完成したら、公証人がこれを読み上げ、遺言者と証人らが内容を確認し、それぞれが公正証書遺言の原本に署名押印することになります。
公正証書遺言は、原本、正本及び謄本が作成されます。原本は、1通のみ作成され作成した公証役場で保管されます。遺言者には、正本と謄本が交付されるので、遺言者自身がこれを保管し、いつでも遺言の内容を確認することができます。
公証人は、裁判官、検察官、弁護士など長く務め、法律実務経験が十分な者の中から法務大臣が任命する専門家であるため、公証人の元で作成された遺言書が無効とされることはなく、作成された遺言書は公証役場で保管されるので、紛失や遺言内容の改ざんのおそれはないといえます。
③の秘密証書遺言とは、まず遺言者が遺言書を作成し、それに署名・押印をして封書をし、遺言書に押したのと同じ印章で封印し、その封書を公証人及び2人以上の証人の前に提出し、封筒の中身が自分の遺言書であることと氏名・住所を申し述べ、公証人が、封紙に封書がされた日付と遺言者が申し述べた内容を封紙に記載した後、公証人・証人・遺言者がともに署名・押印するという流れで作成されます。つまり、自分で作成したら封印し公証人のところに持っていくということになります。
なお、公正証書遺言以外の遺言については、相続開始後(遺言者が亡くなった後)に家庭裁判所において、検認という手続を受ける必要があります。検認については、後述します。
(3) 参考までに、特別方式の遺言には、病気やケガなど、もしくは船舶の遭難等で死亡の危急に迫っている者が、普通の遺言ができない場合に作成が認められている危急時遺言(民法976条)と、伝染病で隔離されていたり海中の船舶にいたりして一般社会や陸地から離れたところにいるために普通の遺言ができない場合に行う隔絶地遺言とがあります。

3 次に、1月31日から施行される相続法では、どのような改正がされているのかをご説明します。大きく3点の改正がありました。
(1) 既に述べた通り、自筆証書遺言は、遺言者の最終意思の確実性を担保するため、日付、氏名、遺言書本文を自筆することが要求されています。
改正前の民法では、本文とは別に財産目録を作成する場合の目録も含め、すべて自筆でなければなりませんでした。
しかし、財産が多くある場合には、全文の自筆をすることは相当な負担になることから改正が行われ、遺言事項と財産目録とを区別したうえで、遺言事項については従前どおり自筆しなければなりませんが、自筆した遺言書にパソコン等で作成した目録を添付したり、銀行通帳のコピーや不動産の登記事項証明書を目録として添付したりして、遺言を作成することができるようになりました(法務省民事局ホームページ民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)より引用)。ただし、財産目録が複数ページにわたる場合には、偽造防止のために財産目録の各ページに遺言者の署名及び捺印することが必要となります。(民法第968条2項)
(2) 次に、改正前は、作成した遺言書の保管方法については、法律上特に規定はありませんでした。前述した通り、公証役場で保管されることから改ざんや紛失の恐れがない公正証書遺言と異なり、自筆証書遺言は自分で保管することが多く、公正証書遺言と比べて改ざんや紛失のリスクが大きいとされてきました。このようなリスクから派生する相続問題を回避する目的で、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案」とともに「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(以下、「遺言書保管法」といいます)が成立し、法務局において自筆証書遺言書の保管を行う制度が、新設されました。 
この制度は、遺言者本人が、遺言者の住所地もしくは本籍地又は遺言者所有の不動産の所在地を管轄する法務局に出頭し、申請書、遺言書、その他添付書類等を提出したうえで、自筆証書遺言の保管を申請するものです。郵送申請や、代理人による申請は認められておらず、保管対象も自筆証書遺言に限られ、公正証書遺言の正本や秘密証書遺言については認められていません。
 保管事務は、法務大臣が指定する法務局が遺言書保管所として行い、遺言書管理官が申請に係る審査をすることになります。
ただし、この法律の施行は2020年7月20日ですので、それまでは保管の申請ができないことに注意が必要です。
(3)最後に、遺言書の保管者や、遺言書を発見した相続人は、相続開始後(遺言者が亡くなった)遅滞なく遺言書を家庭裁判所(遺言者の最後の住所地の家庭裁判所)に提出して、その「検認」を請求しなければならないことになっています(民法第1004条)。
 検認とは、検認とは,相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに,検認の日における遺言書の内容(遺言書の形状,加除訂正の状態,日付,署名など)を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です(裁判所家事事件ホームページより引用)。保管者や遺言書を発見した相続人が、戸籍謄本などの必要書類を添付して、家庭裁判所に検認を申立てすることになります。
今回の改正で、法務局に保管されている自筆証書遺言書については、保管申請の段階で遺言書保管管理官による審査が行われるという理由で、家庭裁判所の検認が不要とされました。

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2018年11月 9日 金曜日

販売店契約の解除の制限について

販売店契約の解除の制限について(契約期間満了に伴う更新拒絶及び約定解約権に基づく契約解消の場面において)

1 継続的契約の解消の制限
契約当事者が販売店契約等の継続的な取引関係にある場合において、約定解約権又は更新拒絶ができることを定めていた場合においては、契約当事者が定めたところに従い契約関係の解消をなしうるものであることを前提としつつも、信義則等を理由として、契約の解消が制限されうる場合がある。この点に関しては、いくつもの裁判例が、契約の解消に際して「やむを得ない事由」等を要求すること、又は信義誠実の原則等の一般条項を理由として、継続的契約の解消に対して制限を加えようとしている。以下、それらのうちの2つの裁判例について概観したい。
2 東京高判平成6年9月14日(判時1507号43頁)(やむを得ない事由を必要とするもの)
 「本件は、化粧品特約店契約に関する事案である。被告の特約店である原告が、特約店契約上の対面販売を行う義務に違反し、カタログ販売を始めた。被告の再三の是正勧告にも従わなかったため、被告は中途解約条項に従い特約店契約を解除し、出荷を停止した。そこで原告は商品引渡を受ける地位確認及び商品の引渡しを請求した」事案である(判タ1406号31頁)。
同判決は以下のとおり判示し、単に継続的契約であることのみを理由とするのではなく、個別事情を考慮したうえで、継続的供給契約上の信頼関係が著しく破壊されたことを理由として、本件契約の解約にはやむを得ない事由が認められるとしている。
「本件特約店契約はいわゆる継続的供給契約と解されるところ、このような契約についても約定によって解除権を留保できることはいうまでもない。しかし...本件特約店契約は、一年という期限の定めのある契約であるとはいえ、自動更新条項があり、通常、相当の期間に渡って存続することが予定されているうえ...(被控訴人との契約も二八年という長期間に達している。)、各小売店の側も、そのような長期間の継続的取引を前提に事業計画を立てていると考えられること、...商品の供給を受ける側において、ある程度の資本投下と、取引態勢の整備が必要とされるものであり、短期間での取引打ち切りや、恣意的な契約の解消は、小売店の側に予期せぬ多大な損害を及ぼすおそれがあること...などからすれば...約定解除権の行使が全く自由であるとは解しがたく、右解除権の行使には、取引関係を継続しがたいような不信行為の存在等やむを得ない事由が必要であると解するのが相当である。」「対面販売等の販売方法の不履行は、本件特約店契約上の債務不履行となる。」「その他、本件特約店契約の解除に至る経緯をみても、控訴人はまず、被控訴人の行っていた販売方法の改善勧告をし、その後、双方とも代理人である弁護士を通じて折衝を重ね、一旦は被控訴人も控訴人との本件特約店契約に沿う販売方法をとることを約束しながら、依然としてそれに反する販売方法を継続し、控訴人の再三にわたる右約束の実行の要求を拒否し、...従前の販売方法を変える意思を持たなかったものであることからすれば、控訴人の本件特約店契約に定められた販売方法の不履行は決して軽微なものとはいえず、継続的供給契約上の信頼関係を著しく破壊するものであり、本件では、右契約を解除するにつきやむを得ない事由があるというべきである。」
3 東京地判平成23年3月15日(平成21年(ワ)第6917号、平成21年(ワ)第39399号)判例秘書登載(信義誠実の原則等の一般条項を理由とするもの)
 本件は、被供給者の業績不振の場合には、供給者は本契約を終了することができるとの定めのある自動車特約販売契約の供給者が被供給者の業績不振を理由に新契約締結を拒絶した事件において、新契約締結拒絶の有効性が争われた事案である。
同判決は以下のとおり判示し、継続的契約関係であることや、販売店の契約への依存度が大きいこと等の事情から、何らの合理的理由なく新契約の締結を拒絶することは信義則に反するとしたうえで、本件における当事者間の個別事情に基づいて、新契約締結に応じなかったことには合理的理由があり、信義則には反しないとしている。
 「原告と被告は、毎年契約期間を1年間とする特約販売契約を締結して取引を続けてきたものであり、本件契約...は、本件契約が平成19年12月31日に終了し、自動延長するものではない旨を明記している。しかしながら、他方、一般に、自動車ディーラーは、初期に多額の投資をして何年もかけて投下資本を回収していくもので、営業実績を積み重ねて固定客を獲得する側面もあり、そのことは被告においても当然に理解して原告との契約を締結していたと推認される上、契約の一方当事者が当事者間の合意の下に取引の継続を前提とした投資を行っているような場合には、他方当事者は、契約期間の定めにかかわらず、取引の継続に向けて協力すべき信義則上の注意義務を一定の限度で負うと解されることからすれば、何らの合理的理由もないのに被告が新たな契約の締結を拒絶して原告との特約販売契約関係を終了させることは信義則に反して許されないというべきである。」「原告の協定台数達成率の全国平均との差は、平成16年が約48%、平成17年が約30%、平成18年が約42%、平成19年が約40%であったというのであるから、原告の営業実績は看過し難いほどに不良であったといわざるを得ない。」
他方で、「①本件ショールームの設計プラン及び場所は原告側で選択・決定したものであり、その転用は可能であって、現実にも既に中古車センターとして転用されていること」、「②...原告は、被告との取引の外、I車の正規ディーラー店及び××車の協力店を務め、それぞれ専用ショールームを有し、各ブランド車のほか、○×車や△△○車の販売、中古車販売や車検業務等を手掛けており、平成16年から平成18年までの原告の新車・中古車・整備・手数料・保険の売上合計のうち」被告の扱う「△△車関係の割合は20%前後にすぎなかったこと」、「③△△車の日本国内における市場シェアは高いものではないこと」、「④原告は、実際の契約関係の終了の数年前から再三にわたり書面等により業績不振と契約終了の可能性について警告されていたし、口頭による正式の申入れからでも終了までには半年程度の期間があったこと、「⑤被告においては平成20年もサービス・部品取引の契約の継続を申し入れており、原告の意向にかかわらずすべての取引を直ちに打ち切るというものではなかったこと」「等の事実を合わせて総合考慮すれば、本件において被告が平成20年以降の新契約の締結に応じなかったことには合理的な理由があり、これが信義則上許されないものとはいえないというべきである。」
4 裁判例上考慮されている個別事情
 継続的契約の解消に関して上記のものを含めて裁判例上現れた事案においては、その判断の要素として様々な要素が考慮されている。
具体的には、①自動更新条項の存在や、現実に自動更新が繰り返されていたなど、実際には契約が長期間継続することが期待されていたこと、②被解消者が当該取引のための設備投資や販売体制の整備などに多額の投資をしていたことや被解消者の相手方への経済的依存度などに基づいた契約関係の解消が被解消者に与える影響の度合い、③被解消者が固定客を獲得していたことなどの被解消者の取引への貢献、④被解消者の契約違反行為や背信行為、又は信用不安や財政状態の悪化、組織体制の変更などの事情の変更、⑤解約告知期間や損失補償の存在などの事情である。

投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office | 記事URL

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