事務所ブログ

2016年1月27日 水曜日

法務航海日誌〈5〉-商法(運送・海商関係)改正

弁護士 山原 英治

2016年1月27日
東京 晴れ 南 2.8m/s

商法(運送・海商関係)改正

本日午後1時半から行われていた商法(運送・海商関係)改正法制審議会(山下友信部会長)から事務所に戻りました。運送法制全般と海商法制について約100年ぶりの商法改正を目指して2年間議論がなされ、私も法制審委員の一人のサポートのためオブザーバー参加を続けてきましたが、本日要綱案(案)について法制審委員・幹事の意見の一致を見ました。この後2月12日に法制審総会を経て法務大臣に報告(答申)、その後要綱案が公表されるとのことです。

「商法(運送・海商関係)等の改正に関する要綱案」(平成28年1月27日決定)

約100年ぶりの改正というのですから、まずは恐らく「最後の漢文調」のカナ混じり文が現代文化されます。また飛行機がなかった時代の法律ですから、やっと我々の商法に飛行機(航空運送)が登場します! 海事法務の関係では、海外では「明文規定がない」と言うと驚かれたり呆れられてきた定期傭船が登場し、海外からよくやってくるマリタイムローヤー(海事弁護士)達と話をするときに漸く恰好がつくことになります。

部会審議の終了に臨み、小川秀樹法務省民事局長から法制審参加者に、また山下部会長の取り纏めへの尽力に謝意が述べられました。続いて山下部会長から法制審参加者に対して謝意が述べられました。

ここまで法制審以前から、海外法制調査や運送法制研究会での議論など長い長い道のりであり、「荷送人の危険物に関する通知義務」を無過失責任とするか否か等、様々な論点に関してそれぞれの立場を反映して厳しい意見の交換もありました。私にとっても大変勉強になりました。改正民法法案を含めて国会では宿題が山積しておりこの改正商法が通過するまでまだまだ「航海」は続きますが、今後とも微力ながらこの大事業に関わり続けることができれば幸甚です。
         航海継続

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2016年1月26日 火曜日

法務航海日誌〈4〉-秘密の花園 - NDA

弁護士 山原 英治

2016年1月26日
東京 晴れ 南南東 3.2m/s

秘密の花園 - NDA

年明け直後の前回、守秘義務契約(Non-Disclosure Agreement: NDA)について検討していくとしてから時間が経ってしまいました。この間弁護士会の仕事で香港に行ったり、あるいは倒産した船主さんの管財人代理となることになったりで、このままでは本航海は「低速航海」です。

低速航海」というのは海事関係では特別な意味を持っています。最近は中国経済の減速、これに伴う鉄鉱石等の輸入激減によって特にばら積み船(バルカー)中心に船の需要が大きく低下してきています(1月24日日経報道によると、鉄鉱石や石炭を運ぶばら積み船の運賃市況を示すバルチック海運指数(1985年=1000)は22日に354まで下落。これは歴史的な低水準です!)。その調整のために低速航海の手法が使われるのです。ゆっくり航海する船が多ければ他船の利用機会も増える...はずなのですが、それだけでは運送量の低下を吸収しきれず、老朽船(結構若い船も、最近は。船は何歳から年取ってるって言われるか知ってますか?)を解撤、要するにスクラップ(!)にして船舶数自体を減少させる手法まで使われています。この法務航海日誌も読んでいる人がいるようですから(最近何度か声かけられました)、低速航海まだともかくスクラップにならないようにしないといけません。

さて「秘密の花園」(The Secret Garden)は、イギリス、ヨークシャーの伯父さんの家に引き取られた孤独な少女メアリーが、ある日、屋敷の庭の一角に伯父さんがカギをかけて秘密にしていた場所を見つけたという話です。メアリーは入り口とカギを見つけてそこに入ります。実は、そこは亡くなった伯母さんが大事にしていた所。メアリーはその後、そこで不思議な体験をするというお話です。我々も情報提供者との間で守秘義務契約を締結して先方から機密情報取得のカギを入手します。前回お話しした通り守秘義務契約締結は迅速に行わなければならないという意味で企業法務にとって非常に重要です。で、漸くカギを渡されてDDルームに入るときなどはまさに情報提供者の「秘密の花園」に立ち入るようなもの。「あれあれ、こんなものまであるんだぁ」と感動したり、ビックリしたり、逆に一般には開示されていない異様な債務の存在を示唆する資料があったりと、「これは困ったな」と立ち入ったことに後悔したりすることも無いではありません(守秘義務契約交渉で揉めるので、よっぽどすごい機密情報があるかと思ったら、情報開示者のデータ整理ができていなくて、まだ何もDDルームに無かったりすることもあり)。

しかし、守秘義務契約を締結してひとたびカギを手渡されれば、1年とか2年、下手をすると5年やら10年以上、長期にわたって情報取得者を縛ります。「おいおい、こんな『機密情報』で縛るのかぁ」と後悔しても後の祭り、約束してしまったから仕方ありません。だから、縛られる『機密情報』とは何か、その定義のチェックがまずは肝心、ということになります。

お手持ちの守秘義務契約をいくつかご覧いただくと、大概『機密情報』(Confidential Information)の定義は第1条か、早い条数に置かれているはずです。例えば英文では次のようなものです(this Agreementとは本守秘義務契約自体のこと):

"For purpose of this Agreement, "Confidential Information" shall mean all confidential or proprietary information of the disclosing party which provides to the receiving party, regardless in the manner in which the information is provided..." 

さて、「いきなりすごい定義だな」と感じる方はいい反応です。そうですね、この定義規定によると情報提供者(the disclosing party)が情報受領者(the receiving party)に開示する全ての機密もしくは専属する情報は「いかなる開示の態様によらず」、この「機密情報」に該当する、と宣言しているのですから。

実務上は「all confidential or proprietary information」の後に「in relation to this Project」(この何々プロジェクトに関する)が挿入されて(Projectの定義は別途明確にされる)、一定の限定が付されることが普通なので、私自身の実務経験では上記の例文ようにここまで広い「機密情報」の定義はちょっと珍しいようにも感じます。しかし、実務上よく見かけるのは、更にこの「...in the manner in which the information is provided.」の後に、こう書いている場合です:

" ... provided, in tangible or intangible form whatsoever, including but not limited to letter, fax, e-mail, oral..."

このwhatsoever(なんでもかんでも)とか including but not limited to (これを含み、且つ制限せず)などという英文契約書のいわゆるキラー単語・フレーズはまずは是非避けたいところですが、まずはこのoral (「口頭」)での開示が含まれてしまう点に注意しましょう。会議で話した内容もうっかり機密情報だ、の扱いになりかねず情報受領者側にとっては予想もしない守秘義務の拘束を受けるリスクが生じてしまうからです。そこで素直な法務部員はこうするかもしれません。

対応その1:情報開示者側に開示態様の制限を求める→「oral」の削除を求める...。

さあ、そう簡単に応じてくれるでしょうか?直接窓口の営業担当者はこう言うんじゃないですか?

営業担当者:「先方は口頭で開示したものでも機密情報が含まれるんだから『oral』の削除はだめだと言っている」

さあ困りました。このoralを削除できないとなると、電子メールなど他の態様のように目で見てその範囲が確認できるものにしないといけません

対応その2: (特に)「oral」で開示されたものについては「All Confidential Information in  oral form shall be designated as confidential at the time of disclosure and confirmed in writing by the disclosing party immediately after the disclosure.」とする。

つまり口頭で開示した情報が機密情報である場合にはその際に機密であることを開示者は通知しなければならず、且つこの機密情報であることを開示後書面で速やかに確認しなければならない(しなければ機密情報扱いにはならない)、とすることです。

私の実務経験では、oralベースで開示された情報について機密情報だからと言って情報開示後に逐一書面で確認する開示者は皆無ではありますので、この「対応その2」が実現できれば口頭開示情報に関して守秘義務負担を懸念するケースはまず無いところです。

さて、では「対応その2」も情報開示者に受け入れられなかった場合はどうするか。

それへの対応、今日は「秘密の花園」の中です。読者、カギを探してみてください。
         航海継続

投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office | 記事URL

2016年1月 7日 木曜日

法務航海日誌〈3〉-秘密の開示

弁護士 山原 英治

2016年1月4日
東京 晴れ  微風 

秘密の開示

明けましておめでとうございます。2016年が皆さんにとって良い年となりますように。

読者の皆さんは年末年始、いかがお過ごしだったでしょうか。故郷に帰省して親戚の方々と歓談した方、あるいはハワイのワイキキビーチであの緩やかな風を感じながら過ごされた方もいらっしゃったことでしょう。

さて昨年末に皆さんと無事出航したところですが、究極の航海といえば果てしない宇宙を冒険すること。私は元旦、話題のSTAR WARS「フォースの覚醒」を観ました。10年振りという新作で世界的に大ヒットしているようですが、ハンソロはじめエピソードIVからVIまで活躍したお馴染みのキャラクターが久々に登場し「お懐かし!」という感慨ありでした。



(映画のパンフレット:さっそくTIEファイターに追いかけられるミレニアム・ファルコン)

今回の新作では早々にある重要登場人物の秘密が開示されていて、この後どうなるのか、続編に大いに期待が高まります(これから観る人達も多いと思いますので、エチケット上、どんな秘密かはここでは内緒)。ところでこの航海法務日誌のテーマの一つに企業法務に関する諸論点を「航海」することがあります。年頭にあたり何を書こうか考えていたのですが、まずは法務部員、特に若手にとって直面しやすい守秘義務契約から行こうかと思います。私は、企業法務の遂行に当たり極めて重要でありながら、多くの法務部員にその重要性が今一つ理解されていない事項だと考えるからです。

守秘義務契約は英語ではNo Disclosure Agreementと表現され、会社内ではNDAと簡単に言われることが多いと思います(あるいはConfidential AgreementからCAとも言われます)。このNDAは取引自体に直接関わる出資契約書などよりかなり前段階で、その投資判断を左右する「秘密の開示」を受けるために、案件組成の入り口で登場します。私の場合、投資銀行などの主として情報取得者側として多数のNDAを処理してきました。

多くの会社、特に日系企業ではNDAを法務部員の中でも比較的経験が浅い若手が担当しているように思います。先輩たちは「もっと重要な契約書」の交渉で忙しいから。しかし、投資案件だろうが融資案件だろうが買収案件だろうが、いかなる案件でもNDAを迅速に締結して対象案件情報を情報提供者側から取得し、速やかなる分析をしなければ商機を失ってしまいます。NDA締結のスピードは情報開示側がこちら側(情報取得者側)の当該案件に対する真剣度を測る、まず第一のチェック・ポイントだからです。実に、営業部担当者はインハウスカウンセルから極めて迅速なコメント、できれば30分以内にNDAに関するファースト・コメントを(しかもできるだけミニマムで!)欲しいと思っています。とにかくNDAを締結して情報開示を得なければ先に進めないからです。この問題は当然のはずなのですがNDAに対する法務部員のコメント出しに時間をかけすぎているのが現実だと思います。これが法務部に対する苦情、評価低迷の大きな要因になっていると思います

NDAの迅速な締結が債権回収に決定的な影響を与える場合もあります。私が信用不安のある会社に対する債権者側担当弁護士となっていた際、当該会社がData Room(資産状態を公平に債権者に開示するための情報部屋)設定したので、そこにアクセスをしようとしたことがありました。当該会社担当の法律事務所がNDAの締結をクライアントに求めてきました。すでに債務者は金融機関主導の事業再生ADRに入っており状況は急を要するものと判断され、私は急ぎNDAを精査し、必要最小限度のコメントとリスクの所在を指摘し、更にその実務経験上のリスクの軽重をアドバイスしました。NDA条件の交渉は認めない、と告知されていたためです。クライアントにおいて了解のうえNDAを迅速に締結、Data Roomへアクセスし資料分析に入ったうえで債務者との間で債権調整交渉に入りました。ところが後で知ったのですが、同じ案件で他の債権者は債務者側担当弁護士とNDAの条項変更交渉に入ってしまい、交渉平行線のままなかなかData Roomへのアクセスができず、その結果、漸くアクセスした直後に当該債務者は法的倒産申立てに入ってしまったのです。その債権者のリーガルカウンセルの指導によったのかもしれませんが、当該債権者は債務者が法的倒産手続に入る直前の、相対的に柔軟・有利に契約条件を調整できるわずかな機会を失ったと推測されます。かように債権回収に決定的な影響をNDAが与えることがあるので、何が最低必要なのか、ポイントを押さえたリスクの現実的な把握が非常に重要です。

この法務航海日誌では、この後いくつかの具体的な条項について観察していこうと思うのですが、予めお断りしておきますが、NDAの処理は適用法令だけでなく当該会社のポリシーや情報管理システムが大きく関わるということです。極端に言えば守秘義務についてあまり重視しない会社であれば、先方の提示する「雛形」にそのままサインすれば足ります。それは早い。しかし、「情報開示者はいかなる時でも情報受領者の営業所に立ち入り『機密情報』の管理状況を検査する権利を有する。」という条項があったりしますが、丸呑みで大丈夫でしょうか? 「契約終了時、情報受領者は直ちに『機密情報』を情報開示者に返還しなければならない。」という条項もありますが、貴社のデータシステムはそのような「返還」が可能でしょうか?

ちょっと考えてみてください。 

今年は今日月曜からいきなり仕事始め。皆さんのフォースは覚醒してきましたか?
航海継続

投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office | 記事URL

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