事務所ブログ

2019年1月24日 木曜日

消費者の利益を一方的に害する条項について

消費者と事業者との間の契約においては、消費者契約法上、消費者の利益を一方的に害する条項は無効となること。

1 事業者が顧客に対して負う損害賠償責任を免除する条項の無効(消費者契約法8条)
 (1) 債務不履行責任の全部免除(同1項1号)
本号に該当する条項の例としては、
「いかなる理由があっても一切損害賠償責任を負わない」
「事業者に責に帰すべき事由があっても一切責任を負わない」
「事業者に故意又は重過失があっても一切責任を負わない」
といった、事業者の債務不履行による損害賠償責任を全て免除する旨の条項が、本号に該当し無効となる。

 (2) 故意・重過失による債務不履行責任の一部免除(同2号)
無効となる条項の例としては、
「事業者の損害賠償責任は○○円を限度とする」
といった条項がある。このような条項は、事業者の損害賠償責任を一定の限度に制限し、一部のみの責任を負わせるものであるため、債務不履行が事業者等の故意又は重過失によるものである場合には、その限りにおいて無効となる。

 (3) 債務の履行に関してされた不法行為責任の免除(同3号)
   無効となる条項の例としては(1)と同様である。
ここでの不法行為責任とは、民法第709条(不法行為による損害賠償)、第715条(使用者等の責任)、第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)及び第718条(動物の占有者等の責任)のほか、代表者がその職務を行うについて第三者に加えた損害に関する法人の損害賠償責任の規定(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第78条等)、商法第690条(船舶所有者の船長等に関する賠償責任)、製造物責任法第3条(製造物責任)等が考えられる。

 (4) 債務の履行に関してされた故意・重過失による不法行為責任の一部免除(同4号)
   「故意又は重大な過失」という損害を発生させた加害行為の行為者の主観的態様の程度を要件としている。したがって、第3号に掲げたもののうち、人の加害行為によらない不法行為の類型については本号の適用はない。よって、第717条(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)及び第718条(動物の占有者等の責任)、製造物責任法第3条の場合には本号の適用はないと考えられる。

 (5) 瑕疵担保責任の全部免除(同5号)
   本号は、消費者契約において、事業者が民法第570条及び第634条に規定する瑕疵担保責任を負う場合で、瑕疵による損害賠償責任の全部を免除する条項をその限りにおいて無効とするものである

2 顧客が事業者に対して負う損害賠償責任を加重する条項の無効(消費者契約法9条)
 (1) 契約解除時の過大な違約金の定め(同1号)
本号の規定は、契約の解除に伴う損害賠償額の予定等の定めがある場合において契約が解除されたときに、当該事業者に生ずべき平均的損害の額を超える額の支払を消費者に請求することができず、その超過部分を無効とするものである。

 (2) 年14.6%を超える遅延損害金の定め(同2号)
   本号は、事業者は消費者契約においては、消費者が契約に基づく金銭の支払が遅延     した場合の損害賠償額の予定等を定めたときは、年14.6%を超える損害賠償を消費者に請求することができないこととしている。

3 消費者の解除権を放棄させる条項の無効(第8条の2)
(1)  債務不履行に基づく解除権を放棄させる条項(同1号)
本号は、事業者の債務不履行によって生じた消費者の解除権を放棄させる条項をその限りにおいて無効とするものである。

(2)  瑕疵担保責任に基づく解除権を放棄させる条項(同2号)
本号は、事業者から引き渡された消費者契約の目的物や仕事の目的物に瑕疵があったことによって生じた消費者の解除権を放棄させる条項をその限りにおいて無効とするものである。消費者は、民法第570条等の規定に従い、契約の解除をすることができることになる。

4 その他消費者の利益を一方的に害する条項が無効となる例(消費者契約法10条)
(1)  事業者からの解除・解約の要件を緩和する条項
例えば、民法第541 条により、相当の期間を定めた履行の催告をした上で解除をすることとされている場面について、特に正当な理由もなく、消費者の債務不履行の場合に事業者が相当の期間を定めた催告なしに解除することができるとする条項については、無効とすべきものと考えられる。

(2)  第8条の2に定めのない消費者の解除権を放棄させる条項
例えば、委任契約については、各当事者がいつでもその解除をすることができることとされている(民法第651条第1項)。このように、債務不履行や瑕疵担保責任に基づくもの以外の消費者の解除権を放棄させる条項は、第8条の2の適用によっては無効とならない。もっとも、そのような条項が、第10条の要件を満たす場合には、同条が適用されることにより無効となる。

(3)  事業者の証明責任を軽減し、又は消費者の証明責任を過重する条項
証明責任を法定の場合よりも消費者に不利に定める条項(例えば、債務不履行に基づく損害賠償責任(民法第415 条)に関し、事業者の「責めに帰すべき事由」を消費者に証明させる条項)は、無効となりうる。

(4)  消費者の権利の行使期間を制限する条項
瑕疵担保責任の権利の行使期間については、当該契約内容の特性等により任意規定と異なる定めをすることは許容されるべきであるが、正当な理由なく行使期間を法定の場合よりも不当に短く設定する条項は、民法第566 条第3項(権利の行使期間は事実を知ったときから1年以内)に比べ、消費者の義務を加重するものとして、無効となりうる。

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2019年1月24日 木曜日

ウェブサイトの利用規約の契約への組入れと有効性について

サイト利用規約の記載が当該取引についての契約の一部になる場合。

1 サイト利用規約の組入れ可否について
インターネット通販、インターネット・オークション、インターネット上での取引仲介・情報提供サービスなど様々なインターネット取引を行うウェブサイトには、利用規約、利用条件、利用契約等の取引条件を記載した文書(以下総称して「サイト利用規約」という)が掲載されていることが一般的であるが、サイト利用規約は利用者との間の取引についての契約にその一部として組み入れられるか。

2 ウェブサイトの利用規約の契約への組入れと有効性
物品の販売やサービスの提供などの取引を目的とするウェブサイトについては、利用者がサイト利用規約に同意の上で取引を申し込んだのであれば、サイト利用規約の内容は利用者とサイト運営者との間の当該取引についての契約の内容に組み入れられる(サイト利用規約の記載が当該取引についての契約の一部になる)。
(1) 取引その他の契約関係の存在
サイト利用規約が契約内容に組み入れられるためには、まず利用者とサイト運営者の間にそもそも何らかの契約関係が認められることが必要である。契約関係の基礎となる取引としては売買取引(インターネット通販など)が最も典型的であるが、インターネットを通じた有償の情報サービスやインターネット・オークションなど各種のサービス提供取引も契約関係を発生させると考えられる。
なお、利用者とサイト運営者の間に契約関係が存在しない場合にはサイト利用規約の記載は契約としての効力を持ち得ないが、その場合であっても、サイト運営者の不法行為責任の有無及び範囲を判断する上で、サイト利用規約の記載内容が斟酌される場合もあろう。

(2)サイト利用規約が適切に開示され、且つ利用者がサイト利用規約に同意の上で取引の申込みを行っていると認定できること
サイト利用規約が契約内容に組み入れられるためには、次に、①利用者がサイト利用規約の内容を事前に容易に確認できるように適切にサイト利用規約をウェブサイトに掲載して開示されていること、及び②利用者が開示されているサイト利用規約に従い契約を締結することに同意していると認定できることが必要である(「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」経済産業省i.21頁)。

3 サイト利用規約の変更とその効力
サイト利用規約は、単発の取引であるか継続的な取引であるかに関わらず、利用者とサイト運営者との間の取引契約の内容に組み入れられることで契約の一部となるものと考えられる。そして、いったん成立した契約は当事者の合意によらない限り変更できないのが原則である。よって、事業者が既存のサイト利用者に変更後のサイト利用規約を適用するためには、サイト利用者に対してサイト利用規約の変更箇所を分かりやすく告知した上で、利用条件の変更に対するサイト利用者側の同意(又は変更後のサイト利用規約に基づき取引を行うことへの同意)を得ることが必要である。

4 消費者契約法等による内容規制
サイト利用規約が契約条件に組み入れられる場合であっても、その中の強行法規に違反する条項や公序良俗に反する条項は無効とされる。
例えば、事業者の責任を制限する条項(消費者契約法第8条)、消費者に対する過大な損害賠償額の予定(消費者契約法第9条第1号)、その他消費者の利益を一方的に害する条項(消費者契約法第10条)は無効となる。

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2019年1月24日 木曜日

契約作成上の注意点について

契約作成上の注意点

1 契約書の作成において注意すべき点(内容の明確化、公平の観点)について
契約書作成の目的は、契約当事者間の権利義務関係を明確にすることによって、後日の紛争を防止することにあります。そのため、契約書作成において重要なことは、契約の成立、存続、終了の各段階における権利義務関係・条件等について、契約当事者間で共通認識が得られているかどうかということになります。契約書中で用いられる用語を統一し、定義を明確にしておくこと、契約当事者を明確にすることなどもこのために必要となるものです。
また、契約は基本的には当事者に公平な内容となるようにするべきであると考えます。一方の当事者に一方的に有利な契約である場合には、法令上無効となる可能性もありますし、不当な扱いを受けた当事者との間で後々紛争となる可能性もあり、そのことで結果的に評判を貶めることにもなりかねません。公平な内容の契約を締結することが、結果的には全体としては、長い目で見た場合に当事者双方にとって利益となるものであると考えています。

2 強行規定に反する条項について
(1)いわゆる強行規定とは、公の秩序に関する規定として、当事者の意思の如何を問わず無条件に適用され、その規定に反する当事者間の特約を無効とするという効力を有する規定です。
  強行規定としては、例えば、民法90条(公序良俗)の他にも、利息制限法、労働基準法、下請法、独占禁止法や消費者契約法における規定などがあり、各分野における特別法において定められています。
  強行規定に反する契約条項がある場合においては、強行規定に反する条項が無効となるというだけに留まらず、もし強行規定に違反する行為を行ったような場合には、その行為に対して行政上の制裁や刑事罰が科される可能性があるために注意が必要です。
(2)公序良俗に反する条項(民法90条)
契約が、公の秩序または善良の風俗に反する事項を目的とする場合は、契約の全部または一部が無効になります。たとえば、犯罪行為を目的とする契約は無効になります。
また、事業者間契約であっても、利用規約を用いて自社にとってあまりに有利な条項を一方的に定めてしまうと、公平の理念に反し、裁判所によって無効と判断される場合があります。

3 契約終了後も契約の効力を存続させる条項を設けることの利点について
当事者間の契約関係が終了すると、その契約上規定されていた権利義務関係は、法律上認められた権利を除いては、契約の終了とともに終了することになります。そこで、法律上の規定の有無を確認する手間を省きつつ、契約終了後も自己に有利な権利義務関係を存続させるために、必要な規定ごとに契約終了後もその効力が存続する旨の特約を契約上定めておくことが有益となります。

4 譲渡制限条項について
特定の相手方と契約を締結する場合、相手方の資力や能力、誠実さなど、誰が契約の相手方であるかということは重要な要素となります。また、相手方の所在地によっては、契約を履行するために負担しなくてはならないコストが変わってくることもあります。それにもかかわらず、相手方が自由に契約上の権利義務を譲渡できるとしてしまうと、契約関係が譲渡された相手方によっては、契約が誠実に履行されないなどの問題が生じる危険性があります。また、契約を譲り受けた者が競合企業であったような場合、意図せず秘密情報が競業企業に漏れてしまうことも考えられます。
  一方、契約期間が長期に及ぶ場合などには、契約を譲渡できる余地を残し、契約当事者の承諾等の一定の条件のもとで、契約当事者の変更を認めておくことが有益である場合も考えられます。

5 不可抗力免責条項について
地震、津波、戦争など、契約当事者が社会通念上要求される注意を尽くしても防止することが不可能な事由によって債務の履行が遅延したような場合に、契約当事者を債務不履行責任から免責する条項が不可抗力条項です。このような事故には、必ずしも当事者の帰責事由によるものか否か明らかではないものもあることから、当事者が責任を免れる不可抗力による場合を明確にするために、不可抗力の範囲を契約書に明示することが必要となります。

6 収入印紙の貼付が必要な契約書かどうかの判断について
(1)課税文書
印紙税が課税されるのは、印紙税法で定められた課税文書に限られています。この課税文書とは、次の三つのすべてに当てはまる文書をいいます。
① 印紙税法別表第一(課税物件表)に掲げられている20種類の文書により証明されるべき事項(課税事項)が記載されていること。
② 当事者の間において課税事項を証明する目的で作成された文書であること。
③ 印紙税法第5条(非課税文書)の規定により印紙税を課税しないこととされている非課税文書でないこと。
  課税文書に該当するかどうかはその文書に記載されている内容に基づいて判断することとなりますが、その文書の内容判断に当たっては、その名称、呼称や記載されている文言により形式的に行うのではなく、その文書に記載されている文言、符号等の実質的な意味を汲み取って行う必要があります。(国税庁ホームページ)
(2)非課税文書、不課税文書
  なお、非課税文書とは、印紙税法別表第一(課税物件表)の何れかに該当するが、除外規定により課税対象とならない文書のことであり、不課税文書とは、課税物件表の何れにも該当せず、課税対象とならない文書のことです。


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2019年1月23日 水曜日

相続法の改正 持戻し免除の意思表示の推定規定

平成30年7月6日、国会で、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が成立し、相続法が多岐にわたって、改正されることになりました。
 今回のブログでは、遺産分割の際の配偶者の保護の規定について、ご説明いたします。

1 持戻し免除の意思表示の推定規定
(1)新民法第903条4項が新たに追加され、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、配偶者に居住用の建物又は敷地を遺贈又は贈与したときは、持戻し免除の意思表示があったと推定するというものです。
(2)この改正を理解するためには、特別受益という言葉を理解する必要があります。
 特別受益とは、相続人が複数いるときに、一部の相続人が被相続人から受けた遺贈、または婚姻、養子縁組、生計の資本として受けた贈与のことを言います(民法903条)。相続が開始して相続人間で相続分を確定させる際には、相続財産にどのようなものがあるのかを調べることになるのですが、たとえば生前贈与などで不動産を受けっていた相続人がいた場合には、この不動産の価額を遺産に組み込んで(持ち戻して)計算することになります。
 たとえば、20年以上の婚姻関係がある夫婦で、夫が亡くなり妻と子1人が夫の遺産を相続したとします。亡くなった時の夫の遺産は、2000万円の銀行預金のみでしたが、生前妻に価額が1000万円の贈与をしていたとします。この場合、1000万円の生前贈与は特別受益になりますので、妻は、1000万円の特別受益があることになります。この1000万円は遺産に組み込んで計算することになりますので、夫の遺産を2000万円+1000万円の合計3000万円として、妻と子の相続割合である1:1で按分すると、妻の相続分は1500万円、子の相続分も1500万円ということになります。しかし、妻は1000万円の生前贈与を受けていますので、すでに1000万円を受け取っていると理解し、1500万円から1000万円を差し引いた500万円の預金を相続することになるわけです。
 このように、特別受益がある場合に、その分を遺産に組みなおして計算することを特別受益の持戻しといって、民法上はこちらが原則という建付けになっています。
(3)しかし、持戻しにも例外あり、民法903条3項に規定があります。つまり、被相続人が「前項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う」と規定されているのです。この前項の規定と異なった意思というのを、「持戻し免除の意思表示」と呼んでいます。
 さきほどの例で、持戻し免除の意思表示がある場合には、1000万円は遺産に持ち戻されませんし、相続分から引かれることもありませんので、2000万円を妻と子の2人で1000万円ずつ分けることになります。よって妻は、生前贈与された1000万円の不動産以外に、1000万円の銀行預金を相続することができます。
 このように、現在の民法では、原則特別受益の持戻しがあり、例外的に持戻し免除の意思表示がある場合には、持戻しはされないことになります。
(4)しかし、生前贈与は、配偶者の老後の生活の保障や、これまでの生活への貢献に報いる意味で、配偶者のためを思ってすることが多いものですが、上記のように計算すると結局、生前贈与を受けていてもいなくても、変わらないことになってしまいます。被相続人が配偶者に対して生前贈与を行った趣旨が、遺産分割の結果に反映されないのです。
(5)そこで、新民法では903条4項が設けられ、婚姻期間が20年以上である配偶者の一報が他方に対して居住用不動産を遺贈又は贈与した場合については、被相続人は、その遺贈または贈与について持戻し免除の意思表示をしたものと推定すると規定されました。つまり、原則として特別受益を受けたものとして取り扱わなくてよいとされたのです。
 上記の例では、生前贈与された1000万円は、相続財産に組み戻す必要がなくなりますので、銀行預金について1000万円ずつ相続することになり、最終的に妻は2000万円(自宅の評価額1000万円と預金1000万円)取得することになり、持ち戻される場合より多くの財産を取得することができます。

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2019年1月23日 水曜日

配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設

平成30年7月6日、国会で、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が成立し、相続法が多岐にわたって、改正されることになりました。
 高齢化社会の進行に伴って、パートナーが死亡した段階で残された配偶者が高齢化しているため、相続開始時における配偶者の保護の必要性が高まっていました。今回の相続法の改正では、このような観点から、配偶者の保護の規定が新設されることになりました。
 配偶者の居住権を保護するための方策は、配偶者の居住権を長期的に保護するための方策と、配偶者の居住権を短期的に保護するための方策とに分かれます。前者を単に、「配偶者居住権」、後者を「配偶者短期居住権」と呼んでいます。
 配偶者居住権とは、おおざっぱにいうと、パートナー(被相続人)の死後、残された配偶者が、相続開始(被相続人の死亡時)前に、居住していた建物に一定期間住むことができるというものですが、これまでの民法では、このような規定がありませんでした。
 今回のブログでは、現行制度、配偶者居住権、配偶者短期居住権の制度が新設された背景なども含めて、制度の概要をご説明いたします。

1 配偶者居住権
(1)配偶者居住権とは、被相続人の配偶者は、被相続人所有であった建物に、相続開始時に居住していた場合、①遺産分割によって配偶者居住権を取得するとされたとき、又は、②配偶者居住権が遺贈の目的とされたとき、その居住建物の全部につき無償で使用収益できる権利をいいます(新民法第1028条)。なお、第1028条に該当しない場合であっても、遺産分割の請求を受けた家庭裁判所の審判によって、配偶者居住権が取得することができる場合もあります(新民法第1029条)
(2)制度新設前
これまでの民法の下では、被相続人の死後、残された配偶者がそれまで居住していた建物に継続して住み続けることを望んだ場合、遺産分割手続を行って、その建物の所有権を取得する方法がありました。
法務省のホームページで紹介されている場合 を例にとります。夫が亡くなり、相続人が妻および子一人で、夫の遺産が2000万円の自宅と3000万円の預貯金だった場合、遺産分割を行って、法定相続分で分割することになったとすると、妻と子の相続分は1:1なので、それぞれの相続分は、妻が2500万円、子が2500万となります。
妻は、夫が亡くなる前から自宅に住んでおり、また高齢のため、自宅を売却して現金化して子と按分するのは非現実的で、自宅にそのまま住み続けることを望んでいます。こうして妻が自宅を相続した場合、妻は自宅(2000万円)と、預貯金500万円、子供が預貯金2500万円を相続することになります。
この場合、妻は夫の死後、継続して住む家はありますが、生活費が足りるだろうかという問題が生じます。
また、一般的に不動産の評価額は高くなるので、自宅不動産以外にめぼしい遺産がない場合で、残された配偶者が居住建物を取得した場合には、相続分に該当する財産を自宅で相続したことになり、他の預貯金等の財産を受け取ることができなくなってしまい、その後の生活に苦労するという問題が生じていたわけです。
(3)新制度
このような問題を解決するため、配偶者が居住建物の所有権を取得せずとも、配偶者が相続開始時に居住していた被相続人の所有建物に対して、遺産分割の終了後にも配偶者にその建物の使用を認める配偶者居住権という使用権が認められることになりました。配偶者は、遺産分割協議、遺産分割調停、遺産分割審判において、終身、又は一定期間長期の居住権を取得できるようになります(新民法第1030条)。
 先の相続の場合を例にとると、自宅を、1000万円の配偶者居住権と、1000万円の負担付き所有権とに分け、妻に配偶者居住権1000万円と現金1500万円、子供が負担付きの所有権1000万円と現金1500万円相続することになります。配偶者は、自宅に住み続けながら、その他の預貯金などの財産も相続できるようになります。
(4)配偶者の義務
配偶者は、以下の義務を負うことになります。
①居住建物に対する善管注意義務(新民法第1032条1項)、増改築する場合、または第三者に使用収益させる場合には、居住建物所有者の承諾を受ける義務(新民法第1032条3項)
②第三者に対する譲渡禁止義務(新民法第1032条2項)
③配偶者居住権が消滅した場合に居住建物の返還義務(新民法第1035条1項)
④居住建物の修繕義務(新民法第1033条1項)、修繕が必要な場合の居住建物の所有者への通知義務(新民法第1033条2項)
⑤居住建物の通常の必要費を負担する義務(新民法第1034条)、必要費以外の費用について費用の償還を受ける権利(新民法第1034条2項、583条2項)
(5)登記制度
配偶者居住権が認められても、それを知らない第三者が居住建物の所有権を取得すると明渡し請求されると意味がないので、居住建物の所有者は、配偶者に対し、配偶者居住権の設定登記を備えさせる義務を負います(新民法第1031条第1項)。
(6)消滅事由
配偶者居住権は、以下の事由によって消滅します。
①審判等によって一定期間を存続期間として定めたときは、その期間が満了したとき(新民法第1036条、597条1項)、配偶者が死亡したとき(新民法第1036条、597条3項)
②配偶者が用法違反をし、居住所有者が配偶者に対し消滅の意思表示をする場合(新民法第1032条4項、)
③居住建物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合(新民法第1036条、616条の2)

2 配偶者短期居住権
(1)次に、配偶者短期所有権とは、配偶者の短期的な居住権を保護することを目的とするものです。新民法第1037条には、次の二つの場合が規定されています。
①居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産の分割をすべき場合(すなわち遺産分割が行われる場合)、配偶者が,相続開始の時(被相続人の死亡時)に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合には,居住建物の帰属が確定する日までの間(ただし、最低6ヶ月間は保障)、引き続きその建物を無償で使用することができます。
②遺贈などにより配偶者以外の第三者が居住建物の所有権を取得した場合や,配偶者が相続放棄をした場合など①以外の場合で、配偶者が,相続開始の時に被相続人所有の建物に無償で居住していた場合には,居住建物の所有権を取得した者は,いつでも配偶者に対し配偶者短期居住権の消滅の申入れをすることができるが,配偶者はその申入れを受けた日から6か月を経過するまでの間,引き続き無償でその建物を使用することができます。
したがって、遺贈や遺産分割協議した結果、「長期」配偶者居住権を取得することができなくても、居住建物に一切住めなくなるのではなく、相続開始後最低6か月間は、居住建物を無償で使用することができるのです。
(2)現行制度は、最高裁平成8年12月17日の判例法理にならった処理をしています。
平成8年判決は、このような事案です。被相続人の死亡後、その遺言によって、建物が原告と被告の共有となりましたが、その後の遺産分割協議が不調に終わり、原告が、被相続人と当該建物に居住して家業を営んでいた被告に対し、共有物の分割と賃料相当金の支払いを求めて訴訟を提起したものです。
 ここでは、共同相続人がいて相続開始とともに遺産が共有状態になった場合に、遺産に含まれる建物にそれまで居住していた相続人が、引き続き居住を続けることができるかどうかが、問題となりました。
最高裁は、「共同相続人の一人が相続開始前から被相続人の許諾を得て遺産である建物において被相続人と同居してきたときは、特段の事情のない限り、被相続人と右の相続人との間において、被相続人と右同居の相続人との間において、被相続人が死亡し相続が開始した後も、遺産分割により右建物に所有関係が最終的に確定するまでの間は、引き続き右同居の相続人にこれを無償で使用させる旨の合意があったものと推認されるのであって、被相続人が死亡した場合には、この時から少なくとも遺産分割終了までの間は、被相続人の地位を承継した他の相続人等が貸主となり、右同居の相続人を借主とする右建物の使用貸借契約関係が存続することになるというべきである。」と判示しました。
この判決は、被相続人と居住していた相続人との間で使用貸借契約の成立が推認されるとの理由から、配偶者の短期的な居住権を認めています。
しかし、このような判例の解釈では、配偶者の保護に欠ける場面がありました。すなわち、平成8年判決によれば、被相続人が同居していた配偶者との間で使用貸借契約を結ぶ意思を有していなかったことが明らかである場合には、同居配偶者の居住権は保護されないのです。
(3)短期配偶者居住権の制度は、このような不都合を是正するため、平成8年判決を法的制度として導入しました。
すなわち、基本的に相続開始時から遺産分割終了時までの短い間、被相続人の建物に居住していた場合には被相続人の意思に関わらず保護され、配偶者がその居住建物に無償で居住することができます。また、被相続人の居住建物を遺贈した場合や、反対の意思を表示した場合であっても、常に最低でも6か月は、配偶者の居住は保護されます。
(4)配偶者の義務
配偶者は、以下の義務を負うことになります。
①居住建物に対する善管注意義務(新民法第1038条)、第三者に使用収益させる場合には、居住建物所有者の承諾を受ける義務(新民法第1038条2項)
②第三者に対する譲渡禁止義務(新民法第1039条)
③配偶者短期居住権が消滅した場合に居住建物の返還義務(新民法第1040条1項)、配偶者短期居住権後に建物に附属させたものがある場合の収去義務(新民法第1040条2項、599条)、配偶者短期居住権消滅後の現状回復義務(新民法第1040条2項、)
④居住建物の修繕義務(新民法第1041条、1033条1項)、修繕が必要な場合の居住建物の所有者への通知義務(新民法第1041条、1033条2項)
⑤居住建物の通常の必要費を負担する義務(新民法第1041条、1034条)、必要費以外の費用について費用の償還を受ける権利(新民法第1041条、1034条2項、583条2項)
(5)登記制度
配偶者短期居住権には、登記制度はありません。
(6)消滅事由
配偶者短期居住権は、以下の事由によって消滅します。
①配偶者短期居住権の有効期間がが満了したとき(新民法第1041条、597条1項)、配偶者が死亡したとき(新民法第1041条、597条3項)
②配偶者が用法違反をし、居住所有者が配偶者に対し消滅の意思表示をする場合(新民法第1038条3項、)
③居住建物の全部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合(新民法第1041条、616条の2)
④配偶者が居住建物に係る配偶者居住権を取得したとき(新民法第1039条)
なお、居住建物取得者は、居住建物について配偶者を含む共同相続人間で遺産分割をすべき場合を除いて、いつでも配偶者短期居住権の消滅を申し入れることができます。

1 法務省民事局民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)http://www.moj.go.jp/content/001263589.pdf

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