事務所ブログ

2019年2月 7日 木曜日

民法改正 売主の担保責任に関する改正

民法改正 売主の担保責任に関する改正

 平成29年5月26日、民法の一部を改正する法律が成立しました。明治時代に民法が制定されてから、実に120年ぶりの大改正になります。改正部分は多岐にわたりますが、今回の記事では、売買契約における売主の担保責任について検討したいと思います。
 なお、改正民法は、一部を除いて2020年4月1日から施行されます。
 
1 現行法
(1)瑕疵担保責任
 一般に、担保責任とは、瑕疵(「目的物が通常保有すべき 品質・性能を兼ね備えていないこと」)ある目的物を給付した者(売主)が取得した者に対して負担する責任です。
現行法では、売買に関して、権利の一部が他人の物である目的物を売買した場合の担保責任として560条、数量が不足または一部滅失している目的物を売買した場合の担保責任として565条、物の瑕疵があった場合についての担保責任として570条が規定されています。
現行法570条では「売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第566条の規定を準用する」と規定されています。「隠れた」とは、通常人が通常の注意をしても発見できないことをいいます。準用された566条によれば、①買主が、瑕疵があることを知らず、かつ瑕疵のために契約をした目的を達することができないとき、買主は契約を解除することができ(1項)、②解除ができないときは損害賠償請求することができ (1項)、③契約の解除や損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から1年以内にしなければならない (3項)、と規定されています。

(2)瑕疵担保責任の法的性質
一方で、売買の目的物が他人物だったり、数量不足だったり、隠れた欠陥がある場合というのは、本来の契約をきちんと履行していないという意味で債務不履行がある場合ともいえます。債務不履行があった場合、民法では、債権者は、解除(現民法契約総則540条以下)、損害賠償請求(現民法債権総則415条)、履行の強制(現民法債権総則414条)をすることができると規定されています。そこで、売買において給付された目的物に瑕疵がある場合、債務不履行と瑕疵担保責任との関係をどう考えればよいかについてながらく議論がされてきました。
この点については、瑕疵担保責任の性質を法定責任とする考え方と契約責任とする考え方で争いがあり、これまでは、法定責任説が通説であるとされてきました。法定責任説は、まず売買を当事者が物の個性に着目して取引する特定物売買と、物の個性に着目しない不特定物売買に分けて考えます。特定物売買では、当事者が個性に着目し、当事者が選択したその物が売買の目的物となるのだから、給付さえすれば目的物に隠れた瑕疵があっても売主に債務不履行責任は生じないことになります(このような考え方を特定物ドグマといいます)が、有償契約(相互に対価的な経済的支出をする)の性質を持つ売買契約では、目的物に瑕疵があると、その分対価的均衡が保たれないので、買主に対して責任追及ができないとすれば、瑕疵がないと信頼して目的物を購入した買主が不利益を被ることになります。これを是正するために法律が特に認めた責任が瑕疵担保責任であるとする考え方が、法定責任説です。法定責任説では、570条は特定物について適用され、不特定物については一般の債務不履行責任を規定した415条が適用されることになります。
 
2 改正法の考え方
(1)担保責任の考え方について
しかし、法定責任説に対しては、特定物か不特定物かで分けるのはあまり意味がなく、救済方法について差がありすぎるといった批判や、両当事者が一定の品質や性能を有する目的物の給付をすることを合意している場合に債務不履行が生じないのは常識に反するといった批判がありました。近年では、瑕疵担保責任も債務不履行責任の特則の一つであると考える契約責任説が有力となっていました。
そこで、今回の民法改正では、売主の担保責任に関して、契約責任説を前提に改正されています。改正法では、瑕疵という用語ではなく「契約の内容に適合しないもの」(新民法562条参照)という用語を用いて、目的物が特定物か不特定物かに関わらず、売主は買主に対して、種類、品質、数量に関して契約の内容に適合する目的物を引き渡す(新民法562条)、または権利を移転する(新民法565条)義務を負い、当該契約内容に適合しない目的物を引き渡したり、権利を移転したりした場合には、売主は担保責任を負うという建付けになっています。

3 現行法と改正法の比較~担保責任の効果
 担保責任の効果に着目して、現行法と改正法を比較してみたいと思います。全体としては、現行法と比較して、買主の保護が図られています。
(1)損害賠償請求権
 損害賠償請求は、現行法から認められていた救済手段ですが、瑕疵担保責任を法定責任と考える立場からは、損害賠償の対象は、信頼利益の損害(その契約が有効であると信じたために発生した損害)に限られるとされてきました。
 改正法では、瑕疵担保責任は債務不履行責任と考えられることになりますので、415条以下の債務不履行と同様に、契約が完全に履行されていれば発生したであろう利益である履行利益に対する損害も損害賠償請求の対象とされます。
 さらに、債務不履行責任を問うための債務者の帰責事由は、伝統的に債務者の故意過失と理解されてきましたが、415条も改正され、「契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして」判断されることになりました(改正民法第415条但し書)。

(2)解除権
現行法でも、「契約をした目的が達せられないとき」に買主は契約を解除することができました。
改正法においては、債務不履行に基づく一般的な解除と同様に(新民法第564条)、契約をした目的を達せられないときという条件がなくても、契約を解除することができます(新民法541条)。ただし、「債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるとき」には、解除は認められません(新民法第541条)。

(3)完全履行請求・代金減額請求権
法定責任説の立場からは、目的物に瑕疵があっても、瑕疵のない「この目的物」を観念することが理論上できないため、追完請求(修補請求・代替物引渡請求・不足分引渡請求)は認められていませんでした。
新民法では、売主の担保責任の性質は債務不履行責任であるとされたため、引き渡された目的物が種類・品質・数量の点で契約の内容に適合しないものであるときは、買主は売主に対し、債務不履行責任の一環として、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完請求をすることができるようになりました(新民法562条1項本文)。
ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができるとされています(新民法562条1項但し書)

(4)代金減額請求権 
現行法にはなかった規定として、562条に関連して563条が新設され、買主が相当の期間を定めて履行の追完の催告をし、その期間内に履行の追完がないときは、買主はその不適合の程度に応じて代金の減額を請求することができると規定されました。

(5)担保責任の追及期間
現行法では、瑕疵担保責任の追及は、事実を知ったときから1年以内に契約の解除又は損害賠償の請求をしなければならないとされていました。
新民法では、品質又は種類に関しての契約不適合があった場合、買主は、契約不適合を知った日から1年以内に、契約不適合である旨を相手方に通知をしなければ、解除や損害賠償請求をすることができないとされました(新民法第566条)。

投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office | 記事URL

2019年2月 7日 木曜日

相続法の改正 遺産分割前に処分された財産

相続法の改正 遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合の遺産の範囲

平成30年7月6日、国会で、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が成立し、相続法が多岐にわたって、改正されることになりました。
 今回のブログでは、相続開始後に共同相続人により相続財産が処分された場合の処理について、ご説明いたします。

【事案】Aが亡くなり、相続人は子Bと子Cであった。相続開始時に相続財産として銀行預金2000万円があったが、BはAが亡くなる前、Aから2000万円の生前贈与を受けていた。Aが亡くなり相続が開始した後、BはATMを急いで回り、合計で1000万円を引き出して自分のものにした。 
 この場合、BCはその後の遺産分割においてそれぞれのどれだけ相続することになるだろうか。Cには、不都合が生じないのだろうか。
(事例は、法務省民事局民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)より引用)

1 まず、事案を考える前に、遺産分割に関する前提となることをご説明します。
(1)被相続人が死亡すると相続が開始しますが、相続人が複数いる場合、被相続人が残した相続財産は民法の規定により相続人間で共有になります(民法898条)。いったん共有になった遺産を相続人に分配することを遺産分割といいます。
(2)
①被相続人が遺言を残している場合には、原則遺言にしたがって分配されます。この場合の相続分のことを「指定相続分」といいます(民法902条)。
②一方遺言を残していない場合には、民法が定める相続のルールである法定相続分に従って相続することになります(民法900条)。法定相続分は、相続人の組み合わせによって定められており、たとえば夫が亡くなって相続人が妻だけである場合には、妻がすべて相続し、相続人が妻Aと子Bと子Cの場合には、妻Aが2分の1、子Bが2分の1、子Cが2分の1相続すると定められています。具体的に相続財産として銀行預金1500万円と不動産が1つあった場合には、妻Aが銀行預金500万円と不動産の持分を2分の1、子Bが500万円と不動産の持分4分の1、子Cが500万円の不動産の持分4分の1を相続することになります
③しかし、被相続人が生前一部の相続人に生前贈与していた場合(これを特別受益と呼んでいます)や、一部の相続人が被相続人と同居してつきっきりで看病していた場合(こちらは特別の寄与と呼ばれます)など特別な貢献があった場合には、その部分を評価して相続分を確定しなければ、不公平が生じます。このように相続開始時に現存する財産の価額で計算すると相続人間で不公平が生じる場合、相続人間の公平を図るために特別受益や特別の寄与を考慮して相続分を確定することになります。このようにして決められた相続分のことを「具体的相続分」(民法903条)と呼んでいます。
 
一部の相続人に生前贈与があった場合の具体的相続分の計算方法は、以下の通りです。
ア 相続開始時の相続財産価額に特別受益額を加えた額を、みなし相続財産とします。
イ 次に、みなし相続財産に法定相続分または指定相続分をかけて、各相続人の本来の相続分を確定します。
ウ 最後に、イで出した本来の相続分から特別受益額を引いたものが、各相続人の具体的相続分となります。

計算式で書くと、このようになります。

ア 相続財産開始時の相続財産価額 + 特別受益額 = みなし相続財産
イ みなし相続財産 × (法定 or 指定相続分)=各相続人の本来の相続分
ウ 各相続人の本来の相続分 - 特別受益額 = 各相続人の具体的相続分

このように、一部の相続人が生前贈与を受けるなどして結果的に他の相続人より多く相続財産を受けることが公平といえない場合には、特別受益を相続財産に持ち戻して、相続分を確定するのです。

(3)また、遺産分割の対象となる財産の確定のため、その基準時をいつにするかということが問題となります。相続開始時(被相続人が死亡したとき)なのか、それとも遺産分割時(協議が始まるとき)かで見解が分かれるところですが、実務では、遺産分割時を基準にしています。

 以上の前提のもとで、今回の事案について考えてみます。
(1)まず、Bによる1000万円の引き出しがなかった場合について検討します。
Bが受けた生前贈与は、特別受益に当たります。そこで、本ケースの具体的相続分を式に当てはめて計算すると、下記のようになります。

ア 2000万円(相続財産開始時の相続財産価額)+2000万円(特別受益額) 
=4000万円(みなし相続財産)
イ Bの本来の相続分=4000万円(みなし相続財産)× 1/2(法定相続分)=2000万円
  Cの本来の相続分=4000万円(みなし相続財産)× 1/2(法定相続分)=2000万円
ウ Bの具体的相続分=2000万円(Bの本来の相続分)-2000万円(特別受益)=0万円
  Cの具体的相続分=2000万円(Cの本来の相続分のまま)
このように計算すると、BとCの具体的相続分の割合は、B:C=0:2000万円になるので、遺産分割時の残余財産2000万円の分配は、次のようになります。
B=2000万円 × 0/(0+2000万円)  =0円

C=2000万円 × 2000万円/(0+2000万円) =2000万円

Bはすでに2000万円の生前贈与を受けていますので、実質的にはBもCも2000万円ずつ受け取ったことになるわけです。

(2)では次に、事案のようにBがATMで合計1000万円を引き出していた場合はどうなるでしょうか。この場合、遺産分割時の遺産は2000万円から1000万円に減っています。遺産分割の対象財産は遺産分割時を基準に定められるため、1000万円を具体的相続分に応じて分配することになります。BCそれぞれ下記のようになります。

B=1000万円 ×0/(0+2000万円) =0円

C=1000万円 ×2000万円/(0+2000万円) =1000万円
このように計算すると、Bは、生前贈与の2000万円にATMで引き出した1000万円をくわえた3000万円、Cは1000万円を取得することになり、不公平が生じます。
 現行の制度のもとでこの不都合を解決する方法に明確なものはありませんが、Cは自らの取り分である1000万円について、不法行為や不当利得を理由に民事訴訟を提起することが可能です。費用や時間がかかり、また実際に請求が認められるかも難しいのが現状です。

3 そこで、このような不都合を解消するために、新民法では906条の2が創設され、遺産分割前に遺産に属する財産が処分された場合でも、処分された財産につき遺産に組み戻すことについて処分した相続人以外の同意があれば、処分者の同意を得ることなく、処分された財産を遺産分割の対象に含めることが可能となりました。(新民法906条の2第1項、第2項)
 組戻しが行われると、相続の対象となる財産は、現存する1000万円+引き出された1000万円+特別受益2000万円の合計4000万円となり、BCの法定相続分に応じた取得額としては2000万円ずつになりますが、Bは1000万円多く取得していることになります。そこで、BはCに対して、1000万円の代償金を支払うことになります。
 家庭裁判所で遺産分割審判を行う場合には、家庭裁判所は、BからCに対して代償金1000万円を支払うよう命じる審判を出すことが考えられます。BとCは、最終的には2000万円ずつ取得することになり、公平な遺産分割を実現することができるのです。

投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office | 記事URL

english
アクセス



〒100-0011
東京都千代田区内幸町1-1-7
日比谷U-1ビル502号

お問い合わせ 詳しくはこちら
  • RSS配信
  • RSSヘルプ