事務所ブログ

2020年4月29日 水曜日

コロナウィルスの影響による契約の変更、解除

コロナウィルスの影響により契約への解釈の大幅な変更が求められます。賃料の減額請求や契約内容の変更や契約の解除が必要となる場面もありますが、これまで経験したことにない事態ですので、不可抗力条項や事情変更の原則などの考え方を用いる必要があります。また、契約変更に応じてもらえない場合は、調停や訴訟などの司法的調整機能を活用する必要があります。資金流出は待ったなしの状態ですので、当面最低限の状態で企業存続を図りながら、契約の解除の可否や変更の可能性について時間をかけて検討していくことになります。

新型コロナウイルス対応~取引関係~

※改正民法が令和2年4月1日に施行されましたが、基本的に、同日より前に締結された契約には改正前の民法が、同日以降に締結された契約には改正後の民法が適用されます。
以下、民法の改正前後で違いがある場合にのみ違いを明記します。

Q1 緊急事態宣言について教えてください。

A  新型インフルエンザ等対策特別措置法(以下、「特措法」といいます。※)第32条に基づいて出されるものです。
        新型インフルエンザ等が国内で多く発生し、全国的な急速なまん延により、国民生活や国民経済に甚大な影響を及ぼす場合に、内閣総理大臣が、①緊急措置を実施すべき期間、②緊急措置を実施すべき区域、③緊急事態の概要、を特定して宣言するものです。

※新型インフルエンザ及び全国的かつ急速なまん延のおそれのある新感染症に対する対策の強化を図り、国民の生命及び健康を保護し、国民生活及び国民経済に及ぼす影響が最小となるようにすることを目的として制定され、平成24年5月に公布されました。また、暫定措置として、令和2年3月に新型コロナウイルス感染症をこの特措法の適用対象とする改正が行われました。

Q2 緊急事態宣言に基づいて都道府県知事はどのような要請や指示ができるのでしょうか。

A  緊急事態宣言が出されると、実施区域として指定された都道府県知事は、新型インフルエンザ等のまん延を防止し、国民の生命及び健康を保護し、並びに国民生活及び国民経済の混乱を回避するため必要があると認めるときは、以下の要請又は指示を行うことができます(特措法第45条第1項から第3項)。なお、これらの要請や指示に従わなくても罰則はありません。
   ①外出自粛等の要請(生活の維持に必要な場合を除きみだりに居宅又はこれに相当する場所から外出しないことその他の新型インフルエンザ等の感染の防止に必要な協力の要請)
   ②施設の使用制限等の要請(学校、社会福祉施設、興行場その他の政令で定める多数の者が利用する施設を管理する者又は当該施設を使用して催物を開催する者に対し、当該施設の使用の制限若しくは停止又は催物の開催の制限若しくは停止その他政令で定める措置を講ずることの要請)
   ③施設の使用制限等の指示(正当な理由がないのに施設の使用制限等の要請に応じないときは、当該要請に係る措置を講ずべきことの指示)
Q3 都道府県知事が強制的にできる措置はありますか。

A  都道府県知事は、以下の措置などを行うことができます。
        ①臨時の医療施設を開設するため必要がある場合に、土地、家屋又は物資を使用する必要があると認めるときは、土地等の所有者及び占有者の同意を得て、土地等を使用することができ、正当な理由がないのに同意しないときなどは同意を得ないで、使用できる(特措法第49条第1項及び第2項)。
        ②医薬品や食品など必要な物資(特定物資)について、売り渡しを要請し、正当な理由なく要請に応じない場合には特定物資を収用する(特措法第55条第1項及び第2項)。
        ③特定物資を確保するため緊急の必要があると認められるときは、特定物資の生産、集荷、販売、配給、保管又は輸送を業とする者に対し、その取扱う特定物資の保管を命ずる(特措法第55条第3項)。
なお、本命令に従わない場合には、6月以下の懲役又は30万円以下の罰金に処せられます。

Q4 令和2年4月10日付けで東京都が出した緊急事態措置について教えてください。

A  東京都は、都民向けと事業者向けに以下の要請を出しました。
   ①都民向け:徹底した外出自粛要請(令和2年4月7日~5月6日)
         特措法第45条第1項に基づき、医療機関への通院、食料の買い出し、職場への出勤など、生活の維持に必要な場合を除き、原則として外出しないこと等を要請
        ②事業者向け:施設の使用停止及び催物の開催の停止要請(令和2年4月11日~5月6日)
       ・特措法第24条第9項に基づき、施設者もしくはイベント主催者に対し、施設の使用停止もしくは催物の開催の停止を要請。これに当てはまらない施設についても、特措法によらない施設の使用停止の協力を依頼。
       ・屋外問わず、複数の者が参加し、密集状態等が発生する恐れのあるイベント、パーティ等の開催についても、自粛を要請。

Q5 新型コロナウイルスの影響で、納期までに顧客(買主)に対して売買の目的物を引き渡すことができません。この場合、何か売主として責任を負うことになります。

A 【民法改正前】
  売主は、買主に対して、納期までに目的物を引き渡す義務を負っているため、納期までに目的物を引き渡せないことによって買主に損害が発生した場合には、損害賠償責任を負う可能性があります(民法第415条)。また、その場合、買主から、相当の期間を定めて引渡しの催告がなされたにもかかわらず、引渡しができない場合には、売買契約を解除される可能性があります(民法第541条)。
  もっとも、新型コロナウイルスの影響が原因で目的物を引き渡せなかった場合、その影響が契約書に定める「不可抗力」に該当するか、または債務者の「責めに帰すべき事由」が認められないといえるときは、売主は、損害賠償責任を免れ、又は買主による解除が認められない可能性があります。

 【民法改正後】
  改正民法では、契約解除の要件として債務者の「責めに帰すべき事由」は不要となりました。そのため、たとえ目的物を引き渡せないことについて債務者の「責めに帰すべき事由」が認められない場合であっても、契約の解除はされる可能性があります。

Q6 売買契約書に不可抗力条項が定めてあります。不可抗力条項があれば、新型コロナウイルスの影響で納期までに顧客(買主)に対して売買の目的物を引き渡すことができなくても責任は追及されませんか。

A  契約書で定められている不可抗力条項の内容によります。たとえ、不可抗力条項という条項があったとしても「不可抗力」の定義のされ方などによって、新型コロナウイルスの影響が当該契約書での「不可抗力」に該当するかどうかが変わってきます。そのため、単に不可抗力条項があれば問題ないということではありません。個別の事案に応じた具体的な検討が必要となります。

Q7 新型コロナウイルスの影響で、市場環境が大きく変わり、当初想定していた発注数を大きく下回る数量しか発注できないことになりました。この場合、何か発注者(買主)として責任を負うことになりますか。

A  基本的には、発注者(買主)は、一定数量の発注義務などが特別に定められていない限り、発注をしなくても責任は負いません。

Q8 Q7に関連して、当社は、発注者として一定数量の発注義務が定められた売買契約を締結しています。しかし、新型コロナウイルスの影響で、契約締結時に想定していた発注量を今後も継続して発注することはおよそ不可能です。この場合、発注数量の変更や契約を解約・解除をすることはできますか。

A  一定数量の発注義務が存在していたとしても、契約締結時の市場環境と現在新型コロナウイルスの影響下での市場環境では大きく変化していますので、当事者の合理的意思解釈に照らして、このような市場環境においては契約締結時に定めた発注数に拘束されるものではないなどとして、発注数量を変更するよう受注者(売主)と交渉するべきと考えます。
また、契約の解約・解除については、基本的に、契約に定められた中途解約条項や契約解除条項に従って判断されますので、本件のような場合に中途解約や契約解除ができる旨の規定が定められている場合には、解約・解除できます。
仮に中途解約条項や契約解除条項に該当しない場合でも、契約締結時に前提としていた事実や条件等が大きく変化したとして「事情変更の法理」に基づいて契約解除の余地がないかどうか検討することも考えられます(過去の裁判例などからは事情変更の法理が認められる場合は極めて限られていますが、政府から緊急事態宣言が出され経済活動が大きく停滞している現状からみると、事情変更の法理や信義則の適用による契約条件の変更、契約解除などが認められる可能性もあると考えられます。)。
そのため、これらを念頭に、受注者(売主)と交渉すべきと考えます。それでも解決できない場合には、調停等の法的手段による解決も検討すべきと考えます。

Q9 当社はトラック運送事業者です。新型コロナウイルスの影響で、トラック運転手が確保できず、期限通りに荷物を配送できそうにありません。何か運送事業者として責任を負うことになりますか。

A  標準貨物自動車運送約款では、運送事業者の免責事由を定めています。新型コロナウイルスの影響が約款で定められている免責事由に該当する場合には、貨物の延着について責任を負いません。
   なお、認可された独自約款を使用している場合には、当該独自約款に定められた免責事由に従って判断されることになります。

Q10 新型コロナウイルスの影響で、納品の受け入れ体制が整わず、仕入先からの目的物を受領できません。この場合、何か買主として責任を負うことになりますか。

A  判例は、一般的に、債権者であることのみを理由に受領義務が認められるものではないとの立場をとっていると解されています(受領できなくても債務不履行にならず、受領遅滞を理由とした損害賠償請求や契約の解除はできないことになります)。
もっとも、契約の内容等や信義則に基づいて個別に受領義務が認められる場合もあり得ます。そのため、個別具体的な事情から、買主に受領義務が認められる場合には、目的物を受領できないことによって売主に損害が発生したときは、買主は損害賠償責任を負うことになります。
   また、買主が損害賠償責任を負わないとしても、受領遅滞となった場合には、目的物の保存義務の軽減、増加した保存費用等の買主負担、受領遅滞中の履行不能の危険が買主負担となる、などの効果が生じます。

Q11 新型コロナウイルスの影響で経営が悪化し、支払期限までに売買代金を支払うことができません。新型コロナウイルスの影響がなければ通常通り支払うことはできました。この場合にも遅延損害金などを支払う必要はありますか。

A  金銭債権については、たとえ不可抗力があってもその支払いは免除されません(民法第419条第3項)。そのため、支払期限までに売買代金を支払うことができない場合には、債務不履行となり、契約書に定めがある場合には契約書に従って、仮に契約書に定めがない場合には民法に従って遅延損害金を支払う必要があります。
   よって、日本政策金融公庫等の「新型コロナウイルス感染症特別貸付」などを利用して資金調達を行うか、債権者と協議して支払期限の延長を認めてもらうなどする必要があります。

Q12 当社は会員から毎月会費を支払ってもらい、会員に対して継続的にサービスを提供していますが、政府や自治体からの休業要請に従い休業することにしました、サービスを提供できなくなった期間の会費についてはどうすればよいでしょうか。

A  政府等の休業要請に従って休業する場合は、「当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなった」(民法第536条第1項)といえる可能性が高いです。この場合、原則として、会費の支払いを受けることはできません。そのため、会費の返還や営業再開後の会費に充当するなどの対応が必要になると考えられます(月の半分のみサービスを提供する場合には、会費を半額にするなどの対応が考えられます。)
   なお、改正民法ではQ1の通り、契約解除に債務者の「責めに帰すべき事由」は不要ですので、契約の解除を求められる可能性はあります。

Q13 新型コロナウイルスの影響で経営が悪化し、店舗の家賃を支払うことができません。
  この場合でも家賃の支払いを猶予してもらうことはできますか。

A Q6の通り、金銭債権については、たとえ不可抗力があってもその支払いは免除されません(民法第419条第3項)。そのため、賃貸借契約書の中に、賃料の支払猶予に関する特別な条項がない限り、支払の猶予は認められません。
  もっとも、賃貸人との任意の交渉により、賃貸人が賃料の支払猶予に応じた場合には、猶予が認められますので、一度任意で交渉してみる価値はあると考えられます。

Q14 新型コロナウイルスの影響で経営が悪化し、今後、今までと同じ額の店舗家賃を支払うことができません。この場合、家賃の減額をしてもらうことはできますか。

A 賃貸借契約の中で、賃料の減額について定めた規定がある場合には、それに従って賃料の減額請求や交渉ができるか可能性もあります。また、賃貸借契約の中に、そのような賃料減額について定めた規定がない場合には、賃貸人との任意の交渉により、賃貸人が賃料の減額に応じた場合には、減額が認められます。

  他方、法律上の請求として賃料減額請求が考えられます。改正民法第611条第1項では、「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由よるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される」と定められています。
新型コロナウイルスの影響で単に売り上げが落ちたことを理由とする場合には、本条には該当せず、賃料減額は認められないと考えられます。もっとも、特措法に基づく休業要請などに従い、事実上店舗を閉鎖せざるを得ず、店舗の使用及び収益ができないような場合には、本条に該当し、賃料減額が認められる余地はあると考えます(この点、あくまで要請のため、店舗を「使用及び収益」できるとの主張もあり得ますが、社会的に新型コロナウイルスの感染拡大防止のため人との接触8割減が強く求められている現在の状況では、要請とは言いつつ店舗の閉鎖が事実上強制に近い状態にあると考えられ、「使用及び収益」できないといえる余地はあると考えます。)。

  そのため、賃貸人との任意の交渉においても、法律上の請求として賃料減額請求が認められる可能性があることを念頭において交渉することが重要と思われます。仮に任意の交渉で解決できない場合には、調停等の法的手段による解決も検討すべきと考えます。

※改正前民法第611条第1項では、条文上「滅失」のみ挙げられ、「使用及び収益」については規定されていないため、改正民法により、滅失に限らずより広く賃料減額請求が認められることが明らかになったといえます。
※現在、国や自治体によって、事業者支援として賃料の支払い猶予や賃料の減免などが検討されていますので、今後の動向によっては、賃料減額交渉が円滑に進む可能性があります。

以上


投稿者 Kuribayashi Sogo Law Office | 記事URL

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