代表弁護士ブログ

国際取引における準拠法と管轄

2011年10月13日

英文契約書のチェック(レビュー)を依頼される場合に、よく問題として聞かれるのが、準拠法と管轄をどのように定めればいいですかという質問です。

準拠法とは、法律の解釈に疑念が生じたり、当事者間で紛争が生じた場合に、どの国の法律をもとにして契約書を解釈するかという問題です。契約書の規定がある場合には、その規定に記載された通りに解釈するというのが大原則ですが、場合によってはそのような記載がある特定の国においては無効と判断されたり、契約書の記載のない場合に、どこの国の法律によって解釈されるべきかは重要になってきます。

例えば、アメリカにおいては、懲罰的賠償の判決がなされる場合がありますが、日本法の下では、懲罰的賠償は日本の公序良俗に反して無効と解釈されています。同様に、利息の約定や遅延損害金の定めについては、国ごとに最高利率が定められていますので、そのような利率を上回る利息や損害金の支払いがある国では有効でありながら、他の国では無効と解釈されることがあります。また、私法上の秩序だけでなく、独占禁止法などの競争政策に関する法令についても国ごとに異なる定めがあり、ある国では有効でありながら別の国では無効と判断されることもよくあることです。例えば、日本の独占禁止法では、優越的地位の濫用となる契約は無効と解釈されていますが、独占禁止法の緩やかな国ではそのような定めも有効と判断される可能性もあります。

このように、国際取引を行うに際してどの国の法令が適用になるか(準拠法をどこの国の法律とするか)は、重要な要素となります。通常、日本とアメリカの取引であれば、準拠法は日本法とするか例えばニューヨーク州法とするかという形で、当事者のいずれかの国の法律が準拠法とされます。日本とアメリカの取引について、中国法を準拠法とするということは通常考えられません。

当然日本の当事者からは、自分たちが一番よく理解している日本法を準拠法とすることを希望しますし、アメリカの当事者においては、自国の法律を準拠法とすることを主張されると思われます。契約書の内容には準拠法以外にも様々な内容が盛り込まれますので、必ずしも準拠法のみに拘泥するのではなく、準拠法をアメリカの法律とする代わりに、別のところで(例えば代金の支払い条件のところで)当方に有利な条件を認めてもらうなどの交渉(バーゲニング)を行うのが適切と考えます。

では、どこの国の準拠法とするのが通常かということですが、通常準拠法は、管轄のある土地の法律とするのが素直であると考えられますし、双方の国に管轄がある場合には、取引の中心となる国の法令を準拠法とするのが素直と考えられます。特に労働関係は、国ごとに労働者の地位を守るために強制法規とされていますので、実際に労働者が労務を提供する国の法令にしておかないと、契約の規定自体に多くの過誤が生じるという事態もあり得るかもしれません。台湾から商品を仕入れて、台湾の国内で引渡しを受ける場合には、取引は台湾国内で完結するわけですので、台湾法を準拠法とすることが素直であるとも考えられます。

裁判管轄とは、どこの国で裁判を行うかについてあらかじめ当事者が合意しておくことです。国際取引においては、裁判管轄についての定めがあるのが通常ですが、裁判管轄をあえて定めないということもあり得ます。もし、裁判管轄についての定めのない場合には、相手方の所在地の裁判所に訴訟を提起するというのが原則です。例えば日本企業がニューヨーク州の法人を訴える場合には、ニューヨーク州の裁判所に訴訟を提起しなければなりませんし、反対にニューヨークの会社が日本企業を訴える場合には、日本の裁判所に訴訟を提起しなければなりません(このような裁判管轄を普通裁判籍といいます)。

ただし、いくつかの例外があり、例えば相手方当事者が日本に支店を有している場合や、相手方当事者が日本国内で不法行為を行ったような場合には、日本企業はニューヨーク州法人を日本において訴えることが可能です(このような裁判管轄を特別裁判籍といいます)。

裁判管轄を日本の東京と定めている場合にも、それが専属的(exclusive)な裁判管轄か、非専属的(non-exclusive)な裁判管轄かが問題となり得ます。専属的裁判管轄は、当事者の合意によってその裁判所のみが管轄を有することになりますので、その他の裁判所に提起された訴訟については、相手方の申立により却下されることになります。一方、非専属的裁判管轄の場合には、他の裁判所の管轄を一切排除するものではありませんので、日本の東京が裁判管轄とされている場合であっても、相手方当事者は、紛争とニューヨーク州の関係性を主張することで(例えば不法行為がニューヨーク州で行われ、日本企業がニューヨーク州で継続して事業活動を営んでいると主張することで)、ニューヨーク州の裁判所に訴訟を提起することも可能になります。

裁判管轄は当事者の何れかの国の裁判所だけでなく、全くの第三国を管轄とすることも可能です。例えば、日本法人とニューヨーク州の法人の売買契約で、フランスのパリを管轄とするというような場合です。第三国を管轄裁判所と定める場合には、当事者双方にとってより中立的で公平であると考えることもできますが、反対にいずれの当事者もよく知らない国で裁判を行わなければならなくなるという負担を負うことになり、当事者双方にとって好ましくないという事態も想定されます。

また、裁判管轄は一つに限定されるわけではありませんので、相手方当事者の所在地の裁判所を管轄裁判所とするということもあります。この場合、日本法人がニューヨーク州法人を訴える場合には、ニューヨーク州の裁判所に訴訟を提起しなければならず、反対に、ニューヨーク州の法人が日本企業を訴える場合には、日本の裁判所に訴訟を提起しなければなりません。

上記のとおり裁判管轄を定めないということも一つの方法ではありますが、裁判管轄を定めていない場合に、どこの裁判所に訴えられるか予測がつかないというデメリットも考えられます。例えば、アメリカのテキサスの裁判所に訴訟を提起された場合に、テキサスの裁判所は原告に有利と言われていますので、日本企業にとっては不利な訴訟を強いられる可能性もあります。このようなフォーラムショッピング(原告当事者が自分に有利な裁判所を探してそこに訴訟を提起すること)を防ぐ意味でも、裁判管轄を定めておくことにメリットがあると言えます。