香港における遺産相続(プロベート)手続き

香港における遺産相続(プロベート)手続き

1 香港における相続手続きの概要

(1) プロベート手続きの概要

香港では、日本の場合と異なり、相続人だけで自由に遺産の分割を行うことはできません。これは、香港に所在する財産について適用されますので、相続人や被相続人が日本人で、日本に居住している場合であっても、香港に相続財産が有る限り異なりません。従って、ご親族が日本、香港、その他の国でお亡くなりになり、その方の遺産相続をする過程で、お亡くなりになられた方が香港に銀行預金を有していたことが分かった場合には、プロベート手続きを取ることが必要になります。

日本に住所を有する日本人が香港に財産(銀行預金等)を残して死亡した場合のプロベート手続は次の表のようになります。なお、NCPRは、香港の法律である非争訟的プロベート規則(Non Contentious Probate Rules (Cap.10A))を指しています。

               被相続人の遺言がある場合  被相続人の遺言がない場合
  プロベートを申立す
  ることができるのは
  遺言で指名された
  21歳以上の遺言執行者
  NCPR第21条が定める順位に従い
  決定される21歳以上の遺産管理人
   関係機関  高等法院遺産承弁署
  (Probate Registry of the High
  Court)
  高等法院遺産承弁署
  (Probate Registry of the High
  Court)
  遺言執行者/
  遺産管理人の権限
 遺言に従った財産の処分につき
 全ての権限を有する
  遺言執行者と相続人は同一人物
  でも可法律に従った財産の処分
  につき全ての権限を有する
  誰が遺言執行者/ 
  遺産管理人になる
  べきかの紛争  
  Caveat Action     Caveat Action
  相続税        2006年2月11日以降に
  死亡した場合課税されない 
  2006年2月11日以降に死亡した
  場合課税されない


 
(2)プロベート手続きの申立人
上記の通り、被相続人(亡くなられた方)の遺言により遺言執行者が定められている場合には、その人がプロベートの申立を行います。被相続人の遺言書がなく、遺言執行者の定めがない場合には、法定相続人が申し立てを行うことになります。通常の場合、奥様やお子様が法定相続人として申立を行うことになります。実際には、香港の弁護士が代理人として申立手続きを行ってくれることになります。

(3)裁判所
プロベート手続きを申し立てる裁判所は、香港の高等法院遺産承弁署(Probate Registry of the High Court)となります。香港の弁護士を代理人にしている場合は、申立人や相続人が自ら香港の裁判所に行く必要はありません。

2 Grant of Letter of Administration(遺産管理状の発行)

香港では、ある人が亡くなった場合、その財産は裁判所の承認、すなわち遺産管理状の授与(Grant of Letters of Administration)がなければ処分することができません。これに違反すれば、プロベート及び遺産管理条例第10章(Probate and Administration Ordinance (Cap10))第13条及び第60条J条に違反する犯罪となります。

また、香港におけるプロベートでは、下記の事項が重要となります。下記の全ての事項について、書式・形式を整えて証拠とともに提出し、確認してもらう必要があります。
(1) 被相続人が誰であるか
(2) 被相続人の住所
(3) 遺言の有無
(4) 遺言執行者/遺産管理人が誰であるか
(5) 相続人が誰であるか
(6) 被相続人の香港における財産が何であるか
(7) 保証人による保証の要否、放棄の有無
(8) 関係書類が適切に準備されているか(認証されているか)

3 具体的手続き
(1) 日本はプロベート及び遺産管理条例第10章別表2(Probate and Administration Ordinance (Cap.10) Schedule 2)により指定されていないため、簡易な手続きは適用されません。

(2) プロベート申立に関する法的根拠:非争訟的プロベート規則第29条(Rule 29 of NCPR)。
まずプロベート申し立て前に、一方的申立により命令を取得することになります。日本人の被相続人が遺言を残さず死亡した場合、規則第29条(b)に基づいて、一方的な申立を行うことになります(Form F3.1)《香港司法機構のサイトより》

(3) 但し、プロベートの前に命令を取得することについては、次の場合には免除されます。
   (a) 被相続人が遺言を残して死亡した場合、英語又は中国語で記載された被相続人の遺言に従って選任された遺言執行者に対し、授与書を発付することができる。
   (b) 被相続人の香港における財産が不動産のみである場合、香港に住所を有する被相続人が死亡した場合と同様に、香港法に基づき(日本法ではない)権限を有する者に対し、財産に限定された授与書を発付することができる。
   *これらの場合は、香港における通常のプロベートの申立と同様に直ちにプロベーとの申立をすることができます。

(4) 被相続人の香港における財産が15万香港ドル未満の場合、略式の手続の対象ではなく、非争訟的プロベート規則第29条(Rule 29 of NCPR)の対象になります。

(5) 申立は全ての添付書類を揃えて行わなければなりません。添付書類として通常想定されるのは下記の書類ですが、場合によっては更に書類が必要となる可能性があります。

   ・死亡証明書
   ・婚姻証明書
   ・出生証明書
   ・被相続人の本人確認書類
   ・申立人の本人確認書類
   ・被相続人の最後の住所地及び職業に関する書類
   ・香港における資産に関する書類(例:銀行預金残高証明書、土地調査記録)
   ・遺言調査記録
   ・(もしあれば)銀行の貸金庫内の物品に関する目録

   *日本の当局または機関が作成した書類はアポスティーユを取得する必要があります。個人・民間団体が作成した書類については、日本の公証役場で認証を受け、外務省で証明書を取得し、駐日中国大使館で認証を受ける必要があります。日本語で記載されているものは、翻訳者が宣誓の上、翻訳しなければなりません。

(6) 日本の弁護士による法律についての宣誓供述書・宣誓書(Affidavit)が必要となります。

(7) 被相続人の財産の遺産管理人が日本に居住する日本人である場合、香港の弁護士(solicitor)に対し、申し立てをすること及び遺産管理人の代理人となることを依頼することが考えられます。
この場合は、遺産承弁署から保証人を求められません。

(8) 外国人の遺産管理人が申し立てをする場合、遺産承弁署から、遺産管理人以外に2名の保証人を求められます。保証人は、それぞれが香港における被相続人の財産の合計又はそれ以上の資産を有していなければなりません。
保証人は裁判所が決定する保証人の責任に関する制限の範囲内において、遺産管理人がその義務に違反することにより、被相続人の財産の遺産管理の利害関係者が被る損害を賠償することを保証しなければなりません(プロベート及び遺産管理条例第10章(Probate and Administration Ordinance (Cap. 10)第46条参照))。

(9) 2名の保証人を確保することは大変困難です。そこで、申請人が下記の二つの事項を示した場合、遺産承弁署に対する申立により、保証人による保証は免除されます。
  
   ① その財産について、現在のものであると潜在的であるとを問わず、知れたる債権者若しくは知れたる債務者がいないこと、又は、全ての債権者が保証の免除について同意しており、同意書を提出すること
   ② 保証されるべき相続人がいないこと、又は当該相続人が保証の免除について同意していること(可能であれば同意書を提出しなければならない)

(10)遺産承弁署は、申し立てを審理する手続き全体において、適宜問合せをする場合があり、これに回答する必要があります。
これらの問合せを経て、遺産承弁署が心象を得られた段階で、プロベートの授与書が発付されます。遺産管理人は、プロベートの授与書に基づき、授与書に記載された被相続人の財産のみを処分します。
授与書に記載のない被相続人の財産が発見された場合、遺産管理人は、遺産承弁署に対し、当該遺産を授与書に追加するよう申し立てることができます。

4 法律意見書
・法律意見書には次の事項を記載する必要があります。

(1) 当該事件にかかわる事実、及び適用される日本法を記載する(関連条文を引用する)

(2) 日本法の下では、だれが優先的に財産の管理又は授与書の申立をする権利を有するのかを記載する

(3) 日本の裁判所が検認した場合を除き、遺言の有効性について記載する。但し、被相続人が無遺言で死亡した場合は不要である。

(4) 日本における財産を管理するために授与書が必要であるかどうか、仮に必要である場合、本件で授与書の申立がない理由を記載する。
但し、日本法において、被相続人の財産を管理するために授与書を得る必要はない(民法896条)

(5) 未成年者(相続人が8歳以下である場合)の利益及び生涯権(信託など)について記載する。弁護士は、結論及び結論に至るまでの過程について詳細かつ明確に記載しなければならない。

  ・法律意見書を作成する権限を有する者について(非争訟的プロベート規則第18条(Rule of Non Contentious Probate Rules))。
   法律意見書を作成する者は、弁護士として5年以上の実務経験を有している必要があり、法律意見書にはそれに関する証拠を添付する必要がある。

  ・未成年者の利益が問題となる場合、遺産管理人が2名以上必要となります。この点については、日本では遺産管理人が2名が必要とされることはありませんが、プロベート及び遺産管理条例第10章第25条(Section 25 of Probate and Administration Ordinance (Cap10))に基づき香港では必要となります。

5 日本と香港(中国)の比較

 ・香港と日本は、プロベートについて異なる法概念と手続きを有しています。
 
 ・香港ではある人が亡くなった場合、プロベートの申立をする権利を有する人は高等法院に対してプロベート(遺言がある場合)または遺産管理状(遺言がない場合)の付与を申し立てなければなりません。
  これに対して日本では、プロベートのような制度はありません(但し、日本における相続の場合であっても「検認」という制度が適用される可能性があります)。

 ・また香港のコモンロー制度は、被相続人の住所(ドミサイル(domicile))に着目し、住所の存する国の法律が被相続人のプロベートに関する事項についての準拠法であり、かつ、管轄権を有すると考えています。
  これに対し、日本においては、相続の準拠法は被相続人の国籍によって判断されることになります(法の適用に関する通則法36条)。

 下記はそれぞれの場合におけるプロベートの基本的事項を示すものです。下記4つの場合全てにおいて、被相続人は遺言を残さずに死亡し、日本と香港の両方に動産及び不動産を有していたものと仮定します。

  (ⅰ)日本国籍で日本に住所を有する場合
     ・日本にある財産  準拠法は日本法
     ・香港にある動産  準拠法は香港法(NCPR第29条(a)又は(b))
     ・香港にある不動産  準拠法は香港法(NCPR第29条但書)

  (ⅱ)日本国籍で香港に住所を有する場合
     ・日本国内は日本法(通則法36条)、香港内部は香港法(コモン・ロー)
     ・日本にある動産、不動産 準拠法は日本法
     ・香港にある動産、不動産 準拠法は香港法(NCPR第29条但書)

  (ⅲ)中国(香港)国籍で日本に住所を有する場合
     ・日本にある動産・不動産 準拠法は日本法
     ・香港にある動産・不動産 準拠法は香港法
 
  (ⅳ)中国(香港)国籍で香港に住所を有する場合
     ・日本にある動産・不動産 準拠法は日本法
     ・香港にある動産・不動産 準拠法は香港法

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