国際相続 ― 在日韓国人の遺産相続

在日韓国人の遺産相続

在日韓国人、在日朝鮮人
朝鮮半島出身で戦前に日本に来て日本に定住した人は在日コリアンと呼ばれることがあります。在日コリアンには、在日韓国人と在日朝鮮人があります。在日コリアンは日本に帰化した人を含めて100万人以上いると言われています。そのうち、日本国籍を持っていない人は約60万人になります。

特別永住者の在留資格
1991年(平成3年)11月1日に施行された「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法(入管特例法)」により、特別永住者証明書の交付申請を行い、法務大臣から許可された人については、特別永住者としての在留資格が与えられています。

在日韓国人の遺産相続の準拠法
日本の裁判所に遺産相続の審判や調停の申し立てがなされた場合、日本の裁判所は日本の国際私法を適用して準拠法を決定します。法の適用に関する通則法36条は、「相続は被相続人の本国法による。」と定めています。本国法とは国籍を有する国の法律を意味します。在日韓国人で日本に帰化していない人は韓国国籍になりますので、日本の国際私法によれば、韓国国籍の在日韓国人については韓国法が準拠法となります。なお、韓国の国際私法49条も、相続の準拠法は被相続人の本国法によるとしています。

包括承継主義
韓国法では、日本と同じく、被相続人の死亡により、被相続人が有していた権利義務が包括的に相続人によって承継されるとされています。また、遺産分割については相続人の協議により遺産の分割を行うことが可能です。

遺産分割審判事件についての国際裁判管轄
相続に関する審判事件の管轄については、家事事件手続法3条の11第1項に規定があり、次の場合に日本の裁判所が管轄権を有するとしています。
1 相続開始の時における被相続人の住所が日本国内にあるとき
2 住所がない場合又は住所が知れない場合には、相続開始の時における被相続人の居所が日本国内にあるとき
3 居所がない場合又は居所が知れない場合には、被相続人が相続開始の前に日本国内に住所を有していたとき(日本国内に最後に住所を有していた後に外国に住所を有していたときを除く)
従って、日本国内に住所を有していた在日韓国人が亡くなった場合、遺産相続の審判事件については、日本の裁判所が管轄を有することになります。

家事調停事件の管轄権
家事調停事件の管轄権については、家事事件手続法第3条の13において次のとおり定められています。
1 当該調停を求める事項についての訴訟事件又は家事審判事件について日本の裁判所が管轄権を有するとき
2 相手方の住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき
3 当事者が日本の裁判所に家事調停の申し立てをすることができる旨の合意をしたとき
相続に関する審判事件の管轄については上記に記載したとおりで、相続の開始の時に被相続人の住所が日本国内にあるときは、日本の裁判所が家事審判事件の管轄を有することになります。その結果、被相続人が日本国内に住所を有する場合には、日本の裁判所が家事調停事件についても管轄権を有することになります。従って、ほとんどの在日韓国人の遺産相続については、韓国法が準拠法となるものの、日本の裁判所において遺産分割調停や遺産分割審判を行うことができます。

相続人の一部が海外にいる場合
在日韓国人の遺産相続においては、相続人が帰化によって日本国籍を有している場合や、韓国籍を有している場合、海外に移住してアメリカ国籍やその他の国の国籍を有している場合も多くあります。しかし、相続の準拠法については被相続人の国籍をもとに判断されますので、相続人の国籍がいろいろな国に分散している場合であっても、被相続人の本国法である韓国法が準拠法となります。また、在日韓国人の相続においては、相続人の一部が韓国やアメリカにいる場合が多くありますが、日本の裁判所に調停事件や審判事件が係属した場合には、日本の裁判所において手続きが取られますので、外国に居住する相続人に対しても日本の裁判所から呼出状が送られることになります。

海外にある財産
韓国法では、日本法と同じく相続統一主義をとっていますので、どこの国にある財産についても韓国の相続法が適用になります。但し、海外に所在する財産について現地の財産管理手続(プロベイトなど)が適用になる可能性がある点については、日本人の相続の場合と異なりません。

韓国民法による相続人と相続分
韓国民法では、配偶者・直系卑属・直系尊属・兄弟姉妹・4親等以内の傍系血族が法定相続人とされています(韓国民法1000条1項)。第1順位の相続人は直系卑属です(同法1000条1項1号)。直系卑属が複数人いる場合は被相続人に最も近い親等の直系卑属が先順位となり、先順位者が複数人いる場合は共同相続になります。子と孫がいる場合は子が先順位、子が複数人いる場合は子の共同相続となります。また、韓国民法1003条1項では、被相続人の配偶者は、被相続人の直系卑属と同順位で共同相続人になると定めています。また、韓国民法1009条1項では、同順位の相続人間では、相続分を均等としていますが、同条2項では、被相続人の配偶者の相続分については、直系卑属の相続人と共同で相続する場合は、直系卑属の相続分の5割を加算するとしています。その結果、配偶者の相続分は直系卑属の相続分の1.5倍となります。例えば相続人が配偶者と子供2人の場合、相続分は、1.5:1:1となりますので、配偶者の相続分は7分の3となり、子供のそれぞれの相続分は7分の2となります。なお、配偶者は直系卑属や直系尊属とは同順位の共同相続となりますが、それらの者がいない場合は単独相続となり、兄弟姉妹と共同相続にはなりません。このように相続人が子ではなく直系卑属とされている点(相続人の範囲に関する問題)や、配偶者の相続分に関する問題(相続人の相続分に関する問題)などにおいて日本の民法と韓国民法は異なる規定となっています。遺産相続に関する日本の民法と韓国民法との間にはその他にも様々な違いが存在します。従って、韓国国籍の方の遺産相続においては韓国民法の解釈を行うことが必要となります。

韓国民法による代襲相続
相続人となる直系卑属または兄弟姉妹が相続開始前に死亡または相続欠格となった場合に、それらのものに直系卑属がいる場合には、その直系卑属が死亡者・欠格者に代わって相続人となります(韓国民法1001条)。また、直系卑属または兄弟姉妹が相続開始前に死亡または相続欠格となった場合、これらの相続人の配偶者も代襲相続人になる(同法1003条)。被代襲者に直系卑属と配偶者、両方がいる場合は、死亡者や相続欠格者の直系卑属と配偶者が同順位で被代襲者に代襲して共同相続人となります。配偶者は、直系卑属がいない場合は被代襲者に代襲して単独相続人となります。(同法1003条2項)。配偶者が被代襲者の死亡より後に再婚していた場合、婚姻関係は消滅し代襲相続はできません(同法775条2項)。直系尊属および4親等以内の傍系血族に代襲相続は認められていないため、被相続人の甥・姪の配偶者、兄弟姉妹の孫の配偶者は代襲相続人にはなりません。

韓国民法による相続放棄
日本民法においては、代襲相続人となるのは死亡者・欠格者の子であると規定されており、相続放棄は代襲原因ではありませんので、被相続人の子が相続放棄すると、その者は初めから相続人とならなかったものとみなされ(日本民法939条)、被相続人の孫が、相続放棄を行った被相続人の子を代襲して相続することはありません。一方、韓国民法においても、相続放棄は代襲原因にならないため、被相続人の子がすべて相続放棄した場合、被相続人の孫は被相続人の子を代襲して相続することはありません。但し、被相続人の子がすべて相続放棄をしている場合、被相続人の孫は、被相続人の直系卑属として、被相続人の第1順位の相続人となります(本位相続)。また韓国民法においては、代襲相続人となるのが直系卑属であると規定されているため、被相続人の子や被相続人の兄弟姉妹が、相続の開始時(被相続人の死亡時)において既に死亡している場合、被相続人の子や被相続人の兄弟姉妹(被代襲者)の子がすべて相続放棄すると、被相続人の子や被相続人の兄弟姉妹(被代襲者)の孫は、被相続人の子や被相続人の兄弟姉妹(被代襲者)の直系卑属として、被相続人の子や被相続人の兄弟姉妹(被代襲者)を代襲して相続することになります。

韓国民法による再代襲相続
日本民法の場合、被相続人の子に代襲相続が発生すれば、被相続人の子の子(被相続人の孫)が代襲相続人となり、その孫に代襲相続が発生すれば、被相続人のひ孫が代襲相続人となります(民法889条2項)。再代襲相続は、被相続人の兄弟姉妹が相続人となる場合には認められていません。一方韓国法においては、兄弟姉妹の直系卑属にも代襲相続が認められていますので(韓国民法1001条)、兄弟姉妹とその子が先に死亡している場合、兄弟姉妹の孫が再代襲相続することがあります。

遺産分割調停の添付書類
在日韓国人の遺産分割調停や遺産分割審判の申し立てにおいては、亡くなられた在日韓国人の住民票と外国人の登録原票を添付する必要があります。相続人についても日本に居住する在日韓国人については、住民票と外国人の登録原票を添付します。日本に帰化した相続人については、戸籍と住民票を添付することになります。韓国に居住する韓国籍の相続人については、韓国の戸籍や住民票を添付することになります。アメリカに在住する韓国籍やアメリカ国籍の相続人については、アメリカの住所を示す書類を添付する必要があります。
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