M&A・事業承継 事例

金融・ファイナンス

M&A・事業承継の事例集 

M&A
4)リストラクチャリングの事例



中小企業がおかれた現状
バブル経済崩壊以降日本経済は長期にわたる不況とデフレによって苦しんでいるといわれますが、長く弁護士の立場から会社の経営に関与してきた私達としては、状況は年々悪化しており、とりわけリーマンショック以降の経営不振の状況は極めてシビヤなものになっていると考えています。もちろん、厳しい経済状況の中でもしっかりと売り上げを作り、内部のリストラクチャリングにより無駄を省くことで毎年利益を出している経営者も多くいますが、業界によっては、外部環境の変化は個人の力ではどうしようもない状態にあり、売上高の減少を食い止めることがおよそ不可能と思われる会社も多くあります。

例えば、地方の駅前商店街については、現在でも経営努力により細々とであっても経営を続けている商店もありますが、シャッター街といわれる町では往来の人がほとんど買い物をすることなく、町全体として商売が成り立たない状況となっています。同様のことはいくつかの業種についても言えることで、その業種における事業自体に将来性を描くことが本当にできるかどうか判明しないものもあります。経営者としては従前の事業を縮小し、あるいは売却清算し、新規事業に望みをかけるなどの大胆な方針転換が求められることもあります。

例えば、昔は町に写真屋があり、写真の現像は写真館でやってもらうのが通常でしたが、デジタルカメラの普及によって写真の現像自体がほとんどされなくなりました。また証明写真も機械で簡単にできるようになりましたので、あえて費用を払って写真を撮ってもらうという人も少なくなっています。七五三や結婚式などの特別の機会に写真をとる写真店(おそらく写真撮影の技術が特に優れている)や、デジカメのネガを機械によりきれいなアルバムにするなどの特殊なサービスを提供する会社でないと従前の形での写真店の運営は難しいのではないでしょうか。

収支の現状把握
現在の多くの中小企業が抱える問題は著しい売上の減少に対して取るべき対策がはっきりしないという点にあると思われます。次の会社はそのような例として考えられるものです。

年間売上3億円
仕入原価2億円
粗利1億円
販売管理費2億円
営業利益▲1億円

この会社の場合、年間売り上げが仮に6億円あれば、仕入原価は4億円ですので、2億円の粗利が確保できることになります。販売管理費が2億円のままだとすれば営業利益をトントンのところまで戻すことができます。国で言えばプライマリーバランスの黒字化というところでしょうか。会社の経営者としても、営業利益の黒字化が達成できるところまでくれば、とりあえずはほっと一息つけるというところかと思います。

しかし売上高を倍増させるのは並大抵ではありません。特にその会社が対象としている市場において本当にそれだけのマーケットが存在するのか疑わしい事例も考えられます。また、万一仮に売上高の倍増を図ることができるとしても、その間にどれだけの販売費用を支出する必要があるのか、売上高の倍増を達するまでの資金調達は可能なのかなども検討の必要があります。

リストラクチャリングの可能性
そこで、売上の増加を図れない場合には、内部のリストラなどで、収益構造を変えることが可能かどうかを検討する必要があります。第一に仕入原価ですが、これについては調達先との協議交渉などは当然必要になると思いますが、第三者のあることですし、相手方も利益を十分に確保できていないとすれば、なかなか仕入れ価格の変更を実現するのは難しいことになります。

販売管理費については、自社内部の費用のことですので、経営者において自発的な調整が可能な項目になります。しかし販売管理費を2億円から1億円まで減少させることはかなり思い切った努力が必要になりますし、実際には粗利の増加と販間費の削減を同時に進めていくことになると思われます。

販間費の内、役員の報酬についてはほとんどの会社(特に赤字を計上している中小企業)が既に可能な限りの削減を実施済みであるか、支払われた報酬を会社への貸付けの形で会社に入れることで、実質上最低限の報酬しか得られていないというのが実情かと思われます。社員の給与手当についても、最近の総務省の統計などでも明らかなように、デフレ経済以降、アベノミクスなど特殊な状況にも拘わらず、十数年にわたり労働者の給料は減少を続けているということですので、1人当たりの給与の支給額は最低額に据え置かれていると思われます。また、会社の経営者からしても、正規社員をパート社員に切り替えるなどして経費削減にいそしんでいるというのが実情ではないでしょうか。

交際費やその他の必要経費については、日常の日々の努力の中で1円単位での節約を行っていると思われますが、それでも削減額はそれほど大きなものとはなりません。地代家賃についても、安い賃料のところに引越しをするとか、大家との交渉で家賃を減額してもらうような努力をされていると思います。

そのような中で粗利が1億円、販間費が2億円の状況だとすると、毎月の売り上げが2500万円、その内1666万円が仕入先への支払になりますので、手元に残るのは834万円となります。そこから社員(15名)の給料・法定福利厚生費700万円、家賃150万円、交通費・交際費・保険料などの諸々の費用400万円、役員報酬200万円、租税公課150万円等を支払っているというのが実情です。経営者からすれば毎月850万円の赤字が出ていくことになります。金融機関からの借入も年々膨らんできて、借入のできる限界に近くなっています。

このような状況で、経営者としては、パート社員との契約を終了させ、人件費の削減を進めるなど努力をしますが、どうしても限界があります。この場合、売上増よりも採算性の悪い事業を止めることを優先し、仮に販売先を最も採算性の高い顧客に絞り込み売上を1億5000万円まで縮小させることになったとしても、経費を5000万まで縮小させることを第一目標として実行するなどの大胆な方策を取ることが重要ではないかと思われます。もちろん年間の経費を5000万円にまで縮小させるわけですので、従業員の解雇やより安い家賃の事務所への引っ越しということも考えなければならないかもしれません。会社にとっては、極めて大胆な方策を講じることになりますので、社員の反乱や顧客の流出などで事業価値がバラバラになってしまう可能性もあります。経営者としては最低限の歩留まりを想定し、最悪の場合への備えを行いながら、どの範囲までのリストラクチャリングを行うのかなど方針決定をしっかりと取っておくことが必要です。

リストラクチャリング後のイメージ
リストラクチャリング後のイメージは次のようになります。

売上高1億5000万円
仕入原価1億円
粗利5000万円
販売管理費5000万円
営業利益0円

年間の販売管理費は5000万円ですので、月間の販売管理費は400万円強ということになります。従って月間の販売管理費については、役員報酬50万円、社員(5名)の給料・法定福利費250万円、家賃50万円、交通費・交際費・保険料など諸々の経費50万円くらいまで減額が必要になります。従業員の解雇については、整理解雇の場合であっても、解雇の手法などについては労働法上の制約がありますので、弁護士などと相談することが必要かもしれません。

会社の経営者としては、上記の姿まで持っていくことが出来れば事業継続を行うことが可能であるという確信を有することは重要です。そしてその計画をしっかり立てた後は、何があってもその計画を実現することを第一に考え行動することが必要です。実際には行動の最中に新規の取引が始まるなどいい方向にいくことも多くありますが、最低限の歩留まりを最初にしっかり押さえておくことが必要です。

また、上記の通り、売上を上げて事業の再生を行うというのは並大抵ではありませんし、多くの場合経営者の夢を追い求めているに過ぎないと思われます(仮に売上アップが期待できるのであればそれまでに実現しているはず)。従って、事業が危殆に瀕した段階では、売上増による事業の再生ではなく、上記のようにリストラクチャリングによる事業の縮小を図る方が、はるかに実現可能性が高いと思われます。
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