労務関係 Q&A その1

一般企業法務

労務関係 Q&A

Q1. 当社の社員が電車内での痴漢行為、酒に酔っての暴行傷害等で逮捕されました。このような私生活上の行為を理由として懲戒解雇することはできますでしょうか?


A1. 私生活上の非行行為であっても、会社の評判を害したり、会社の業務が遅延するなどとして、会社の業務に影響を与える場合には、懲戒事由とすることができます。

1 労働契約法15条による懲戒解雇の有効性の判断
民間企業における懲戒解雇が有効とされるためには、就業規則の懲戒解雇事由に該当すること、適正な手続きが取られていることのほか、その懲戒解雇が客観的に合理的で、社会通念上相当であることが必要とされています。懲戒解雇の合理性・相当性を判断する基準については、色々な裁判例の蓄積がありますが、平成19年に労働契約法が施行されて以降は、労働契約法の規定に従って判断されることになります(労働契約法の規定は従前の判例の立場を明文化したものとされています)。労働契約法15条の規定は次の通りです。

「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を乱用したものとして、当該懲戒は無効とする。」
 
 従って、被告としては、原告の行為が就業規則上の懲戒解雇事由に該当することに加え、当該懲戒解雇の処分が客観的に合理的であり、かつ社会通念上相当であることの主張立証が必要ということになります。

2 私生活上の非行を理由とする懲戒解雇の裁判例
 私企業における懲戒権の根拠については、学説上、集団的組織体としての企業が本質的に有するという固有権説と、懲戒権の根拠は労働者との契約により発生するものである(就業規則は労働者との契約を集約したもの)という契約権説の両方がありますが、裁判所は、企業には秩序を維持する必要があることから、従業員には企業秩序の維持に協力すべき義務があり、企業には企業秩序維持に必要な範囲で懲戒権の行使を行うことはできるとの立場をとっています。そこで、企業秩序維持に直接関係のない私生活上の非行を理由とする懲戒権の行使が可能であるか、可能であるとしてどのような場合に懲戒権の行使ができるのかが問題となります。
 この点関西電力事件で最高裁判所は、「職場外でされた職務遂行に関係のない労働者の行為であっても、企業の円滑な運営に支障を来すおそれがあるなど企業秩序に関係を有するものであるから、使用者は企業秩序維持確保のために、そのような行為をも規制の対象とし、これを理由として労働者に懲戒を課することも許されるのであり、右のような場合を除き、労働者は、その職場外における職務遂行に関係のない行為について、使用者による規制を受けるべきいわれはないものと解するのが相当である。」(関西電力事件:最判昭和58年9月8日労判415号29頁、労働判例百選第8版58事件)と述べています。
この判例は、勤務時間外に職場の外で会社を誹謗中傷するビラを配布した行為に対する譴責処分を有効と判断したものですが、ビラの内容が会社を誹謗中傷するものであったことから、会社としては企業秩序維持のため、これに対して懲戒権を行使する必要があったとの判断があると思われます。
また、小田急電鉄事件の原審(東京高裁平成15年12月11日)では、「会社の社会的評価に重大な影響を与えるような従業員の行為については、それが職務遂行と直接関係のない私生活上で行われたものであっても、これに対して会社の規制を及ぼしうることは当然認められる」としたうえで、電鉄会社の社員が電車内での痴漢を繰り返し、懲役4か月、執行猶予3年の有罪判決を受けた事件について、「控訴人の行為が被控訴人の名誉、信用その他の社会的評価の低下毀損につながるおそれがあると客観的に認められる」として、本件懲戒解雇は懲戒権者の裁量権の範囲を超えるものではないと結論付けています。
小田急電鉄事件は、勤務時間外における電車内(小田急以外の私鉄)での痴漢ですから、会社の活動とは直接関係しませんが、私鉄会社として痴漢の撲滅運動に取り組んでいる最中に、鉄道会社の社員が痴漢を行ったことで、会社の信用を害することになったとの判断があると思われます。
一方、覗き見目的で他人の住居に侵入し、罰金2500円に処せられた原告に対し、就業規則上「会社の対面を著しく汚した者」に該当するとして懲戒解雇処分にした会社の処分の有効性が争われた横浜ゴム事件において、最高裁判所は、「問題となるXの右行為は、会社の組織、業務等に関係のないいわば私生活の範囲内で行われたものであること、Xの受けた刑罰が罰金2500円の程度に止まったこと、Y会社におけるXの職務上の地位も蒸熱作業担当の工員ということで指導的なものでないことなど原判示の諸事情を勘案すれば、Xの右行為が、Y会社の対面を著しく汚したとまで評価するのは、当たらないというのほかない」として、懲戒処分を無効としています(最高裁判所昭和45年7月28日)。
大企業の会社の一従業員が覗き見目的で住居侵入行為を行い刑事罰が科されたとしても、会社の信用性を害したり、業務に支障を生じたりというような、企業秩序維持に直接の影響は存在しないとの判断があったものと思われます。
これらの判例からすれば、私生活上の非行についての懲戒処分の相当性を主張する場合には、会社の側としては、従業員の行為が次の何れかにあたることの主張立証が必要と言うことになります。
① 会社の円滑な運営に支障を来す恐れがあること(会社の誹謗中傷ビラ配布)
② 職務遂行と直接の関係のある行為であること
③ 会社の社会的評価に重大な影響を与えること(鉄道会社社員の痴漢)

3 判断については、当事務所へお問い合わせください
 私生活上の理由を理由とする懲戒解雇が一切認められないわけではないですが、当該行為が会社の円滑な運営に支障を生じさせるかなど、上記の判例の基準に基づいて判断されることになります。痴漢行為や電車内での暴行などを理由として逮捕されたことを理由とする懲戒解雇が許されるかどうかはケースバイケースと言うことになります。事実関係をもとにアドバイスを行いますので、当事務所までお問い合わせください。
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