• 2020.09.01
  • 人事労務

セクハラに関する事実調査を行い、関係者の処分を行った事例

会社による対処の重要性

当事務所にもセクハラ被害についての相談を受けることが多くあります。内容としては女性の体を触ったというものや、女性社員を呼び捨てにするなどの不適切発言というものもあり、セクハラ行為に該当するかどうかの判断はかなり難しいケースもあります。会社の内部で内部通報制度や、目安箱制度等正式な通報制度があり、当該通報制度に基づく申告がなされた場合は、それらの規定に基づく対処が求められます。セクハラ被害の申出があるにもかかわらず、適切な対処をせずに放置していた場合、当該社員から会社の管理体制に問題があったとして損害賠償を求めて会社が訴えられることもあります。一方で、十分な事実の調査を行わずに、就業規則に基づく懲戒処分を行った場合には、反対にその男性社員から損害賠償請求訴訟や、懲戒手続きの無効確認請求訴訟を提起されることもあります。セクハラ被害の申出は、労務管理上の重要な事項ですので、そのまま放置しておくのは好ましくありません。関係者からの事情を聴取し、セクハラ被害の有無を確認し、就業規則や労働基準法等に基づく適切な対処を行う必要があります。

外部の専門家からの意見書の取得

当事務所では、事実関係についての説明を受けた上で、セクハラに該当するかどうか、セクハラの調査の方法として気を付けるべき点はないか、仮にセクハラに該当するとしてどのような処分が適切であるか、関係者に対する説明をどのように行うかなどについてのアドバイスを行います。弁護士によるアドバイスを口頭又は書面で受けることで、処分の妥当性・相当性を補強することができます。万一将来訴訟などになった場合にも、当事務所からの意見書や経過報告書を証拠として提出することで、会社の主張を補強することができます。

事実調査

セクハラの調査は極めて微妙な人間関係にも拘わってきますし、調査をする担当者自身の公平性が問題とされたり、調査担当者が不公平であるとして加害者や被害者からの不満の対象に置き換えられることも生じます。当事務所では会社からの依頼により、客観的記録の精査、関係者からのヒアリング等により事実関係の調査を行い、セクハラ被害の有無、適切な処分の内容等についての報告書を作成し、会社に提出することがあります。第三者からの調査を受けることで、調査結果についての客観性と公平性を確保することができます。また、セクハラがあったとの申し出自体が社内の軋轢を生じさせる微妙な問題ですので、限定させた少人数の口の堅い担当者のみで対処し、情報が外部に拡散することのないよう注意する必要があります。

処分の相当性・妥当性の判断

関係者への説明

ヒアリングなどの事実調査の結果、セクハラに相当する事実がないと判断された場合、事実関係についての争いがあるが、積極的にセクハラの事実を認定するまでには至らないと判断されたような場合、申出人に対して調査結果を報告し、当該女性社員の納得を得るよう努める必要があります。説明は人事担当役員や総務部長などから行いますが、プライバシーの観点からは余り多数で行うのは好ましくありません。また反対に説明の経過について客観性を持たせ、将来、「言った、言わない」の争いになった場合にも対処できるよう、複数(2名か3名)で対応する必要があります。事実調査や説明の経過を含めた経過報告書を作成し、外部への漏洩のない方法で管理します。

注意・戒告

セクハラに該当する事実が認められると判断される場合、就業規則に基づく加害者への懲戒処分が検討されることになります。懲戒処分を行う場合には、就業規則のどの規定に該当するか、懲戒処分を行う手続きを踏んでいるかなどを確認します。当事務所では、就業規則や関係規則から、懲戒処分の妥当性、手続きの適正性についてのアドバイスを行います。比較的軽微な場合は、業務上の指揮命令権の範囲内での注意処分にとどめることもありますし、就業規則に基づく注意・戒告処分(懲戒処分)がなされることもあります。しかし、適切な説明ができない場合には、加害者であるとされる社員に不満が生じたり、加害者である社員の退職などにつながることになりかねません。場合によっては、退職後に会社に対する損害賠償請求がなされることもあり得ます。加害者側からの反駁も十分に聞き、本人の納得のいく説明・処分を行う必要があります。

減給、出勤停止、降格、懲戒解雇

悪質なセクハラに該当すると判断される場合は、就業規則の規定に基づく、減給、出勤停止、降格、懲戒解雇等の処分を行うこともあり得ます。加害男性にとっては極めて重大な影響がありますので、処分については極めて慎重に行わなければなりません。懲戒解雇については、退職金の支給を行うかどうかも判断しなければなりません。処分の内容について加害者本人の納得が得られない場合、加害男性から退職の申出がなされたり、退職後に損害賠償訴訟が提起されたりする可能性もあります。また、懲戒解雇については、懲戒解雇が不当であるとして地位確認の訴訟・損害賠償請求訴訟などが提起される可能性もあります。

訴訟への対応

当事務所ではこれまでも懲戒解雇の相当性を争う労働審判や地位確認請求訴訟で会社を代理してきたことが多くあります。訴訟においては事実関係の他、処分の妥当性や懲戒手続きの相当性が争われることが多くあります。例えば、懲戒解雇の通知に記載のない懲戒解雇事由は認められるかなどが問題とされることもあります。会社の側としては、被害申出がなされた時点からの時系列に基づく詳細な経過報告書を作成し、保管しておく必要があります。また、関係者へのヒアリング結果については、訴訟になった場合であっても陳述者の秘密を守る必要から裁判所に対する証拠提出を行っていいかどうかを慎重に判断する必要があります。

会社の責任

会社は使用者責任として従業員の管理監督責任がありますので、会社の中でセクハラやパワハラ行為が行われた場合、これにより被害を被った人に対して会社自身が損害賠償義務を負っている可能性があります。セクハラやパワハラの事実確認ができた場合には、会社についても被害者への賠償や示談について検討しなければなりません。

社内規則の整備、コンプライアンス体制(CSR)について

セクハラ被害の申出があった場合には、就業規則の内容を見直し、セクシャルハラスメント防止規則の制定や、セクハラガイドラインの作成・社員への周知など、職場環境の改善に向けた取り組みを行っていく必要があります。仮に訴訟になって会社が訴えられた場合であっても、このような取り組みを行っていることは訴訟においても会社側にとっての有利な事情と判断されます。当事務所では、セクシャルハラスメント防止規則の作成や内容のチェックを含め、これらの取り組みについてのアドバイスも行います。

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