相続法の改正 2

個人の法律相談

相続

Q 遺言制度に関して相続法の改正があったと聞きました。どのように変わったのですか。
相続
 平成30年7月6日、国会で、民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律が成立し、相続法が多岐にわたって、改正されることになりました。
改正法は、原則として2019年7月1日から施行されますが、自筆証書遺言の方式を緩和する法律については2019年1月31日から、配偶者居住権及び配偶者短期居住権の新設等については2020年4月1日からというように、段階的に施行されることになっています。 

1 自筆証書遺言の方式に関する改正
 そもそも「遺言」とは、人が、自分の死後法律上の効果を発生させる目的でする最終の意思表示のことをいいます。遺言をすることによって、自分が築いてきた財産を死後どのように処分するかについて、自分の意思を反映させることができます。ただし、民法には第967条以降に、遺言の種類(方式)や書き方についてルールが定められており、このルールにしたがって書かれた遺言でなければ、死後、法律上の効果を発生させることができません。

1-1 遺言の種類
 遺言の方式について、民法960条は、「遺言はこの法律(民法のこと)に定める方式に従わなければこれをすることができない」と規定しています。方式としては、普通方式の遺言と特別方式の遺言とがあります。
  普通方式の遺言には、①自筆証書遺言(民法第968条)②公正証書遺言(民法第969条)③秘密証書遺言(民法第970条)の3種類があります。

 ①の自筆証書遺言は、遺言者が遺言書の全文、日付、氏名を自筆で書面にし、押印することで作成する方式の遺言です。遺言書の本文中に相続財産のすべてを列記する形もあれば、添付資料である財産目録と本文が区別されている場合もあります。
 この方式は、後述の公正証書遺言や秘密証書遺言と異なって公証役場に行ったり、証人を用意したりする必要がなく、自分だけで遺言書を作成できるため、簡便というメリットがあります。一方で、法律で定められた要件を欠いて遺言の効果が認められなかったり、多くの場合は遺言書を自分で保管することになり、途中で遺言書が改ざんされたり、遺言書を紛失してしまったりする危険性があります。  
 ②の公正証書遺言は、公証人が法律で定められた方式にしたがって作成する遺言書です。「法律で定められた」とは、証人2人以上の立会いのもとで、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口述し、公証人が遺言者の口述を筆記し、これを遺言者と証人に読み聞かせて内容を確認して承認し、各自が署名、押印するという流れのことをいいます。公正証書遺言は、自分の住所に関わらず、全国どこの公証役場でも作成することができます。
 当事務所の弁護士は、何度も公正証書遺言作成の証人を務めたことがあります。実際には、まず自分の財産の内容と相続人の有無を確認し、誰にどの財産を残したいか、相続人以外に財産を残したいかなど遺言の内容を決めます。その内容を公証人に事前に伝え、公証人と何度か打ち合わせをして、公正証書遺言書の中身を確定していく作業を行います。作成の際には、一般的に遺言者の印鑑登録証明書、遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本、相続財産に不動産がある場合には、その登記事項証明書や固定資産評価証明書などが必要になりますが、このほか遺言の内容によって必要となってくる書類は違いますので、公証役場に事前の確認する必要があります(公証役場で教えてくれます)。
 このように、公証人が事前に遺言書の内容をまとめてくれていますので、作成当日にはその書面の内容の最終確認をし、書面が完成したら、公証人がこれを読み上げ、遺言者と証人らが内容を確認し、それぞれが公正証書遺言の原本に署名押印することになります。

 公正証書遺言は、原本、正本及び謄本が作成されます。原本は、1通のみ作成され作成した公証役場で保管されます。遺言者には、正本と謄本が交付されるので、遺言者自身がこれを保管し、いつでも遺言の内容を確認することができます。
 公証人は、裁判官、検察官、弁護士など長く務め、法律実務経験が十分な者の中から法務大臣が任命する専門家であるため、公証人の元で作成された遺言書が無効とされることはなく、作成された遺言書は公証役場で保管されるので、紛失や遺言内容の改ざんのおそれはないといえます。

 ③の秘密証書遺言とは、まず遺言者が遺言書を作成し、それに署名・押印をして封書をし、遺言書に押したのと同じ印章で封印し、その封書を公証人及び2人以上の証人の前に提出し、封筒の中身が自分の遺言書であることと氏名・住所を申し述べ、公証人が、封紙に封書がされた日付と遺言者が申し述べた内容を封紙に記載した後、公証人・証人・遺言者がともに署名・押印するという流れで作成されます。つまり、自分で作成したら封印し公証人のところに持っていくということになります。
 なお、公正証書遺言以外の遺言については、相続開始後(遺言者が亡くなった後)に家庭裁判所において、検認という手続を受ける必要があります。検認については、後述します。
 参考までに、特別方式の遺言には、病気やケガなど、もしくは船舶の遭難等で死亡の危急に迫っている者が、普通の遺言ができない場合に作成が認められている危急時遺言(民法976条)と、伝染病で隔離されていたり海中の船舶にいたりして一般社会や陸地から離れたところにいるために普通の遺言ができない場合に行う隔絶地遺言とがあります。

1-2 1月31日から施行された相続法における改正点
(1) 既に述べた通り、自筆証書遺言は、遺言者の最終意思の確実性を担保するため、日付、氏名、遺言書本文を自筆することが要求されています。
改正前の民法では、本文とは別に財産目録を作成する場合の目録も含め、すべて自筆でなければなりませんでした。
しかし、財産が多くある場合には、全文の自筆をすることは相当な負担になることから改正が行われ、遺言事項と財産目録とを区別したうえで、遺言事項については従前どおり自筆しなければなりませんが、自筆した遺言書にパソコン等で作成した目録を添付したり、銀行通帳のコピーや不動産の登記事項証明書を目録として添付したりして、遺言を作成することができるようになりました(法務省民事局ホームページ民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律について(相続法の改正)より引用)。ただし、財産目録が複数ページにわたる場合には、偽造防止のために財産目録の各ページに遺言者の署名及び捺印することが必要となります。(民法第968条2項)

(2) 次に、改正前は、作成した遺言書の保管方法については、法律上特に規定はありませんでした。前述した通り、公証役場で保管されることから改ざんや紛失の恐れがない公正証書遺言と異なり、自筆証書遺言は自分で保管することが多く、公正証書遺言と比べて改ざんや紛失のリスクが大きいとされてきました。このようなリスクから派生する相続問題を回避する目的で、「民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律案」とともに「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(以下、「遺言書保管法」といいます)が成立し、法務局において自筆証書遺言書の保管を行う制度が、新設されました。 
この制度は、遺言者本人が、遺言者の住所地もしくは本籍地又は遺言者所有の不動産の所在地を管轄する法務局に出頭し、申請書、遺言書、その他添付書類等を提出したうえで、自筆証書遺言の保管を申請するものです。郵送申請や、代理人による申請は認められておらず、保管対象も自筆証書遺言に限られ、公正証書遺言の正本や秘密証書遺言については認められていません。
 保管事務は、法務大臣が指定する法務局が遺言書保管所として行い、遺言書管理官が申請に係る審査をすることになります。
ただし、この法律の施行は2020年7月20日ですので、それまでは保管の申請ができないことに注意が必要です。

(3)最後に、遺言書の保管者や、遺言書を発見した相続人は、相続開始後(遺言者が亡くなった)遅滞なく遺言書を家庭裁判所(遺言者の最後の住所地の家庭裁判所)に提出して、その「検認」を請求しなければならないことになっています(民法第1004条)。
 検認とは、検認とは,相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに,検認の日における遺言書の内容(遺言書の形状,加除訂正の状態,日付,署名など)を明確にして遺言書の偽造・変造を防止するための手続です。保管者や遺言書を発見した相続人が、戸籍謄本などの必要書類を添付して、家庭裁判所に検認を申立てすることになります。
今回の改正で、法務局に保管されている自筆証書遺言書については、保管申請の段階で遺言書保管管理官による審査が行われるという理由で、家庭裁判所の検認が不要とされました。

2 遺言執行者の権限の明確化

2-1 遺言執行者とは何か
 遺言執行者 とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人のことをいいます。遺言の内容にしたがって、法務局で登記の名義変更の手続をしたり、金融機関に書類を提出するなどして、各相続人に対する相続の手続を行ったりします。被相続人が遺言執行者を指定ためには、遺言による必要があり、また遺言執行者に順位をつけることができます。ます。たとえば、遺言書の作成を弁護士に依頼していた場合には、その弁護士を遺言執行者に指定することも多く、その場合には遺言書の中に以下のように書かれます。
第X条1項 遺言者は、本遺言の遺言執行者として、次の者を指定する。
住所 YY
氏名 栗林 勉
職業 弁護士 
第X条2項 前項で指定した遺言執行者が死亡しているなど遺言執行を行えない場合には、本遺言の執行者として次の者を指定する。

2-2 改正点
(1)遺言執行者の地位
旧民法1015条では、遺言執行者の地位に関して「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす。」と規定されています。しかし、遺言執行者が遺言の内容を実現する中で、遺言に書かれた内容と相続人の意向との間に齟齬が生じた場合には、一方で遺言の内容を実現するために存在し、一方で条文上相続人の代理人と規定されている遺言執行者と、相続人との間でトラブルになることがありました。また、1012条1項では、「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する」と規定されていますがが、遺言の内容を実現するために存在するはずの遺言執行者の権限の範囲が抽象的すぎて、ともすれば遺産の管理に関するすべての権限を有するように解釈出来てしまうという問題点がありました。
そこで、新民法1015条では、「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示していた行為は、相続人に対して直接にその効力を生じる」と規定し、1012条では、「遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」と規定しました。
これらの条文により、遺言執行者は、あくまでも遺言者の意思を実現する存在であることが明確になりました。
一方で、相続人が遺言の内容や遺言執行者の存在を知ることができるように、遺言執行者は、その任務を開始したときは、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知しなければならないと規定されました(新民法第1007条)

(2)特定遺贈がされたときの遺言執行者の権限
旧法987条では、遺贈があった場合の遺贈義務者を「遺贈の履行をする義務を負う者」と規定していましたが、遺贈があった場合で、かつ遺言執行者がいた場合の、両者の関係について規定がありませんでした。
新民法では、特定遺贈がされた場合において、遺言執行者があるときは、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができると規定されました(新民法第1012条2項)。

(3)特定財産承継遺言(相続させる旨の遺言)がされたときの遺言執行者の権限
実務では、「不動産を〇〇に相続させる」という文面の遺言が多く作成され、「相続させる旨の遺言」と呼ぶことがありましたが、この相続させる旨の遺言が、特定財産承継遺言と呼ばれることになりました。新民法第1014条2項では、特定財産承継遺言は、遺産分割の方法として遺産に属する特定の財産を共同相続人の1人又は数人に承継させる旨の遺言と定義されています。
旧法の下で最高裁平成7年1月24日判例は、相続させる旨の遺言は、遺贈ではなく相続財産の分割方法の指定であるから、相続させる旨の遺言により当該不動産の所有権を取得した者は、単独でその旨の所有権移転登記をすることができ、遺言執行者は。遺言の執行として登記手続をする義務を負わないとされてきました。
しかし、新民法899条の2第1項で、相続による権利の承継は、法定相続分を超える部分については、登記、登録その他の対抗要件を備えなければならないとされたため、それに伴い、遺言者が特定財産承継遺言をした場合において、遺言執行者があるときは、遺言執行者は、その相続人が対抗要件を備えるために必要な行為をすることができると規定されました(新民法1014条2項)。
また、預貯金債権を目的として特定財産承継遺言がされた場合に遺言執行者が有する権限については、解釈にゆだねられていましたが、金融機関とのトラブルを避けるため、同条3項で、2項の財産が預貯金債権であるときは、遺言執行者は、2項に規定する行為のほか、その預金又は貯金の払戻しの請求及びその預金又は貯金に係る契約の解約の申し入れをすることができると、具体的に規定されました。

(4)遺言執行者の復任権
旧法では、遺言施行者はやむを得ない事由がなければ第三者にその任務を行わせることができないとされていましたが、新民法では削除され、1016条1項で、遺言執行者は自己の責任で第三者にその任務を行わせることができるとし、2項で第三者に任務を行わせることについてやむを得ない事由があるときは、遺言執行者は相続人に対してその選任及び監督についての責任のみを負うと規定されました。

(5)妨害行為の禁止
旧民法1013条では、遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をしてはならないと規定されていました。そして、大判昭和5年6月16日判決では、遺言執行者がある場合、相続人が相続財産につきした処分行為は、絶対的無効であると判示していました。
新民法では、2項、3項が追加され、2項では、1項の妨害行為の禁止に反してされた「行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することはできない。」と規定され、3項では、「前2項の規定は、相続人の債権者が相続財産についてその権利を行使することを妨げない」と規定されています。相続人による妨害行為があった場合、善意の第三者との関係では無効を対抗できない相対的無効であり、相続人の債権者との関係では対抗問題として処理されることになります。


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