遺産相続におけるアメリカ銀行預金の払い戻し

遺産相続におけるアメリカ銀行預金の払い戻し

1 アメリカの銀行から預金明細の通知が来たら

ご家族の誰かが亡くなられた後に、アメリカの銀行から預金明細書が送られてきて、故人が海外に財産を有していたことを知ることがあります。海外の銀行から預金明細書が届けられたら、最初に各口座の預金残高にいくらあるかを確認してください。

アメリカの金融機関における代表的な口座の種類としては、チェッキングアカウント(Checking Account)とセービングアカウント(Saving Account)があります。チェッキングアカウントは、給与の振込口座や、家賃や公共料金を小切手で支払う場合の引き落とし口座となりますので、日本の当座預金と普通預金を合わせたような使い方がされます。セービングアカウントは、チェッキングアカウントよりも高い金利のつく口座で、当面の資金的移動がないような場合には、セービングアカウントに預金を持っておくことも考えられます。その他の口座としては、CDと呼ばれるサーティフィケート・オブ・デポジット(Certificate of Deposit)やMMAと呼ばれるマネー・マーケット・アカウント(Money Market Account)があります。

2 預金解約申請

アメリカでは、各州の法律により、相続財産の金額が一定以上となった場合には、プロベートと呼ぶ裁判所主導の相続財産管理手続を取ることが求められることが多いです。一方で、預金の額が一定額以下の場合には、口座の所有者が亡くなったこと、申請者が正当な相続人であり、払い戻しを受ける権限を有していることなどを証明した場合には、プロベート手続きなしで銀行預金の払い戻しを受けることができます。

この場合は、次のような書類(日本語と英語)が必要になります。

① 死亡証明書(Death Certificate)
② 被相続人の戸籍(Residency Registry)
③ 遺産分割協議書(Agreement on Division of Estate)
④ 弁護士の翻訳証明書
⑤ 弁護士の法律意見書
⑥ 相続人のパスポートの写し
⑦ 弁護士への委任状の写し

3 相続人死亡による預金の閉鎖

 銀行口座を有している人が亡くなった場合には、違法な引き出しを防ぐために、預金口座の閉鎖手続きが行われることが多くあります。これは、相続人の一部が、十分な権限がないにもかかわらず、他の相続人の了解なしに預金の払い戻しを受けることによって生じる紛争を防ぐためのものです。

 銀行からは次のような書類が要求されます。

① 死亡証明書(アメリカ大使館・領事館における証明又はアポスティーユ付)
*アポスティーユは日本の外務省で取得することになります。市町村長や公証人の権限を証明するものです。
② Foreign Letter of Administration(外国の相続財産管理人の権限確認書)
③ 弁護士の意見書
④ 裁判所が指名した相続財産管理人の口座閉鎖申請書(公証人の認証付)
⑤ IRS(Internal Revenue System)からの連邦税の証明書

死亡証明書については、なんとかアポスティーユの取得までできると思いますが、②の相続財産管理人の権限確認書は取得が困難です。日本の法制度では、アメリカと異なり、相続財産管理人の選任が必ずしも必要とされていないためです。相続財産管理人の権限確認書が必要なのは、銀行預金の払い戻しを行っている人が本当に権限のある人かどうかを確認するためのものですので、遺産分割協議書と弁護士の意見書により代替可能かどうかを確認することになると思います。

IRSの証明書についても難しい問題があります。銀行からは、US Estate Tax(連邦遺産税)の申告書の写しを求められます。これは、アメリカにおける相続財産を相続する際に課せられる連邦税です。遺言書による場合や、法定相続の場合の両方が含まれます。当該相続については、US Estate Taxが非課税である場合などには、税理士の意見書によって代替することができることがあります。

日本における相続財産管理人制度は、遺産相続に際して相続人がいなかったり、相続人による相続財産の管理が困難な場合に、相続財産を管理する人として裁判所が選任するものですが、アメリカにおける相続財産管理人(Administrator of Estate)とは制度を異にします。遺言執行者は相続財産の管理・分配を行いますので、アメリカの相続財産管理人に近い制度ですが、裁判所が選任するものではないなどの違いがあります。

4 プロベートの手続

 銀行による預金口座の閉鎖及び任意の預金払戻が困難な場合には、アメリカの財産の所在地の遺言検認裁判所(Surrogate Court)に対してプロベート手続きの申し立てを行う必要があります。この申立書はPetition for Letter of Administration(相続財産管理命令申立書)と言われます。

 Surrogate Court(遺言検認裁判所)からAdministrator(財産管理人)の選任決定が出たら、その財産管理人からアメリカの銀行に対して預金口座の閉鎖とチェック(小切手)の発行をお願いすることになります。小切手が発行されたらそのまま日本に送ってきてもらうこともありますが、一旦現金化をして、財産管理人の報酬等を控除した上で、その残高を送金してもらうことが多いかと思います。

5 二重課税の回避

日本に住所を有する日本人は、無制限納税義務者とされますので、相続または移送の開始時に日本にいた限り、日本に所在する財産の他、外国に所在する財産についても相続税の申告が必要になります。一方、アメリカにおいては、被相続人がアメリカ市民でもなく、アメリカ居住者でもない場合には、アメリカに所在する財産についてのみアメリカの遺産税の対象となるとされています。従って、日本に居住する日本人がアメリカに財産を残して亡くなった場合で、日本に相続人がいる場合には、アメリカ国内にある財産について日本とアメリカで二重課税が生じることになります。

二重課税の回避については、日本の相続税法20条の2に規定があります。日本の相続税法20条の2は次のように規定しています。

「相続又は遺贈によりこの法律の施行地外にある財産を取得した場合において、当該財産についてその地の法令により相続税に相当する税が課せられたときは、当該財産を取得した者については、第15条から前条までの規定により算出した金額からその課せられた税額に相当する金額を控除した金額をもって、その納付すべき相続税額とする。」

 従って、アメリカで納付した遺産税については、日本で納付する相続税額から控除されることになります。

6 アメリカにおける相続税申告手続き

 アメリカの市民権や住所(ドミサイル)を有していない外国人がアメリカに相続財産を残して死亡した場合、死亡の日から9か月以内に、IRS(内国歳入庁)に対して、US Federal Estate Tax Return(連邦遺産税申告書)の提出が必要となります。連邦税の申告については、 Form 706-NAというフォームに基づいて作成されることになります。なお、アメリカにおける申告期間については、Form4768という申請書を提出することで6か月間延長することができます。

 連邦遺産税については、相続財産の時価(及び生存中に贈与を受けた財産の額)が6万ドルを超える場合には、6万ドルを超える部分について40%の相続税が課せられることになっています。従って、アメリカにおける相続税の額は極めて高額になる可能性があります。

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